エピローグ
「いやはや…なんかこうやって過ごすのも久しぶりな感じかな。実際はそんな日にちも経ってないのに、不思議だよねぇ」
「う、うん……あの、佳澄さん。とりあえず一個だけ聞いてもいい?」
「ん、どした?」
まさかの佳澄が訪ねてきたことに動揺を隠しきれなかったが、ひとまず玄関先で話し込むのもアレだと判断したので一旦彼女を家に上がらせることとした。
何で日依の家まで彼女が来ているのか、今頃菫との時間を謳歌しているのではなかったのか。
…そうした事の諸々を問いただしたい思いで日依の思考は満たされていくが、リビングに置かれていたソファに腰を下ろした佳澄を見てしまうとその意欲も何故か削がれそうになる。
しかし、この状況下でそれを尋ねないわけにもいかないため彼女も曖昧な切り込みはせず最初から本題に移っていく。
「…その、こんなこと聞くのも変かと思うんだけど…何で佳澄さんが、ここに?」
「あれ、私日依の家に来たらマズい感じだったっけ?」
「そ、そうじゃなくてね!? …ただ、佳澄さんは……えぇっと、菫さんとまた一緒に気兼ねなく話せるようになったでしょ? なのに何でうちに来てるのかなって…も、もしかしてまたお家でトラブルでも…!」
「……あぁ~、そういうことか。了解了解、日依の言いたいことは何となく分かったよ」
現状に対する疑問は山のように積み重なるばかりだが、何よりも確認しておきたいのは佳澄がここに赴いてきた理由。
既に日依と関わるだけのメリットを持たなくなった彼女が何故この場に、当たり前のような顔をしているのか…聞きたいのはほとんどその一点のみだ。
すると流石の理解力と評価すべきか、日依の発言を聞いて少し考え込むようにふむふむと頷いていた佳澄もとある瞬間を境に納得したようなリアクションを見せてくる。
「ふんふん…多分日依が言いたいこととしては、簡単にまとめると私がママと仲を元通りに出来たのに何でここにまた戻ってきてるのか……みたいな感じじゃない?」
「え……あ、はい。全くもってその通りだし何一つ間違ってないんだけど…今の会話でそこまで正確に理解ってできるものなの?」
「ふふふ、これでも日依とは一か月近くを共にしてきたからね。考えはお見通しだよ」
「嘘ぉ…」
が、そこで佳澄が大まかな過程を理解したと告げて簡潔に要約した内容はほとんど正解と言ってもいい。
…というか、逆に正確すぎて日依が若干恐怖を感じるレベルでこちら側の思考を完璧に読み切られていた。
エスパー的な能力でも備わっていなければ説明がつかない程度には読みの精度が凄まじすぎたので、どうして今の短いやり取りでそれほどまでに解読できたのかと本来の質問も忘れかけて問いかけ直してしまうが…その返事は曖昧そのもの。
……まぁ、そこはいいのだ。
手法や過程がどうあれ、言いたいことが伝わっているのなら日依としても文句はない。
とても楽しそうに笑いながら日依の考えていることなど言うまでもないと告げてくる佳澄には聞きたいことが残っている。
「けどね、私も先に言っていくとママと喧嘩とかしたわけじゃないよ。むしろ日依のおかげで昨日はゆっくりお話も出来て…久しぶりにあんな落ち着いて会話も出来てさ。文句なんて一つもない」
「だ、だったらどうして…ここに来たの!? もう佳澄さんは菫さんと心置きなく過ごせるんだから、無理にこっちまで訪ねてこなくても…!」
「う~ん……そう来たか。…あのね日依、今の私が何言っても受け取りづらいかもだけどさ…少しだけ言わせて?」
「……な、なに?」
それでもより詳しく聞いていけばいくほど、佳澄の近況は何かあったどころか全て上手くいったという円満な報告ばかりがされてくる。
どうやら無事にあの後、彼女の母である菫とももう一度語り合うことが出来たらしく、ひどく満足げな様子で事後報告がされてきた。
──だからこそ、分からなくなってくる。
そこまで順調に母との関係性が改善の一途を辿っているのなら尚更日依と接点を持ち続ける理由など消失しているはずであって、この家に来る意味なんて皆無なはずなのに。
佳澄自身もそのくらいはとっくに理解していても何らおかしくはなくて…その上で向こうから、静かに瞳を見つめられて語り掛けられてきた。
「日依が言いたいことは分かったよ。実際前に約束したのは私がママとの居心地を悪くしてて限界迎えてたからってのが割合の大半だったし、それが解決した今となってはこの場所にいるのもおかしい…なんてことはさ」
「……じゃあ、やっぱり…」
「──だけど、ね? それって別に、絶対にここへ来ちゃ駄目なんて理由にもならないと思うんだよ」
「……え?」
「これは結構私の我儘でもあるし、かなり日依の意思はスルーしちゃってるかもだけど…私としてはさ、ママとの問題解決したからはいお別れ……だなんて、日依との繋がりを捨てたくはないんだよ。それくらい、私にとって日依はママと同じくらい──大切な相手だから」
「…っ!!」
「…あとはまぁ、他の理由がないわけでも無いけど……」
…だから、日依もまさか佳澄の方からこんなことを言われるなど夢にも思っていなかった。
確かに佳澄の言い分にも一理ある。全ての問題が解決したからといって無理に二人の関係を途絶させる意味はないし、そうするべきだと思っていた日依の思考もそれをすることで彼女が家族との時間に集中できると考えていたのが言い分の大部分だったのだから。
ゆえに、仮にも佳澄の側から日依との縁を途切れさせたくないと伝えられてしまえば…こちらが佳澄を拒絶するのは無意味なこととなる。
…あるいは、佳澄もそれを狙ってこう口にしたのかもしれないが少なくとも日依が大切な相手云々という点に関しては事実なはずだ。
何せ、そう日依本人へと言い聞かせた佳澄が見せた表情はどこまでも目の前の少女に対する思いやりに溢れていて──あまりにも、満ち溢れた愛情が映し出されていたから。
「…ほら、日依もこっち来て?」
「……ん」
「はい、良い子良い子。…だからさ、今は私一人の身勝手な我儘でしかないけど…日依さえよければ、またここでこうやって過ごさせてほしいな」
「………佳澄さんは、それでいいの? せっかく菫さんとまた一緒にいれる時間が減っちゃうよ?」
「その点はへーき。確かにママとの時間は減るかもしれないけど、そもそもママってどちらにせよ夜遅くにならないと帰ってこないし…それまでは退屈だからさ。…ここまで言っても、駄目?」
手招きで誘導されてしまったのでその指示には大人しく従い、ポスンと佳澄の膝に収まる形で日依もソファに座り込む。
そしてそこで語り掛けられてきた言葉の数々は、今の日依をもってしても塗り固めていたはずの決心を揺らがされる類のもので……紛れもない本心から零れ出てきたものだと分かる。
あの佳澄という優しい少女が、ずっと待ち望んでいた家族との時間を削ってまで日依と共に過ごす時間を大切に思ってくれていたのだと知れた。
何より、日依も心のどこかで望んでおきながら、叶うはずがないと諦めていたそれを…彼女もまた望んでくれていたのだと知ることが出来て、不覚にも嬉しくなってしまったのだ。
だから日依も気が付いた時には──こんなことを言ってしまったのかもしれない。
「……………駄目なんかじゃ、ないよ」
「…! じゃあ、これからも…!」
「…うん。佳澄さんが、それでいいって言うなら…あたしの家を、これからも使ってくれたらいいよ。…何の面白味もない場所で申し訳ないけど」
「何言ってるの。…私からすれば、日依と一緒にいられる家ってだけでこれ以上ないくらい価値があるんだから。それなら日依──これからも、またよろしくね?」
「あはは……何だかあたしの方が得しちゃってる気がするよ。…うん、また。よろしくお願いします」
もう、叶う事は無いと思っていた佳澄との共同生活。
彼女の問題が解決した以上、こちらが関わるだけのメリットがあちらにはないのだからと諦観してしまっていた至福の時を……それでも。
向こうもまた、同じように継続したいと思ってくれていたのだと知ることが出来た両者の間には、知らず知らずの間に漏れ出てしまった笑みと同時に…言い表しようもないほどに大きな嬉しさが、胸中に溢れ出していた。
「ふうぅ……じゃっ、これで日依の家にまた私が来るようになっても問題はないということで。いやぁ、良かったぁぁぁ…もしこれで断られてたらショック程度じゃ済まなかったよ」
「…大げさじゃない? たかがそれくらいで…」
「全っ然大げさじゃないよ!! …正直、私も重く捉えられたくないから軽く言ってたけどさ…これでも日依との関係が消えるのは心底嫌だと思ってるし」
「ど、どうしてそこまで必死になって……」
…そうすると、まだこの二人だけの関係が続くと日依も了承した直後。
何故だか佳澄の方が心の底から安心したといったように深く溜め息を吐き、現在進行形で抱きかかえられている日依の肩に頭をもたれかからせながら安堵していたようだった。
しかし些かその反応が過剰すぎやしないかと問いを投げかければ、少々不思議な返事が返ってくる。
「うん? ──そうだなぁ、これに関してはまだ言わないつもりだったけど…ふむ、そうだね。今言っちゃっても問題はない、か……」
「佳澄さん…? あの、首元でぼそぼそ喋られるとくすぐったくて…」
「あぁ、ごめんごめん。…それとさ、日依。実はまだ日依に伝えられてないことがあって…それなんだけど、今言っちゃっても大丈夫かな?」
「へ? そ、それは全然問題ないというか良いけど…そんな改まって言う事なんて、一体何が──ひぇっ!?」
「…うっふふふ、日依を捕まえちゃった」
「……きゅ、急に押し倒さないでくれるかな…」
何やらぶつぶつと訳の分からない文言を呟いていた佳澄の独り言はその声量ゆえに日依も聞き逃してしまったが、ギリギリ聞き取れた言葉の端から察するにまだ彼女にも伝えられていない事柄があるらしい。
しかしこの勢い任せで何故だか膝上に乗っかっていた日依を突然持ち上げ、ソファ上に横たわらせて……さらにその上から佳澄が馬乗りになってきた。
位置的にも抵抗できず、引っぺがそうにも素の力では完全に佳澄に負けてしまっている日依ではまともに引き剥がすことすら出来ない。
なので唐突にこのような体勢を強制してきた彼女の動向に少々違和感は覚えつつも、この状況下で妙な真似もしでかさないだろうと軽く流した。
………流してしまった。
もう少し、あと少しでも日依が深く考えることが出来ていたらあんなことにはならなかったはずなのに…ここに至るまでの怒涛の勢いに思わず思考を放棄してしまったのだ。
だからこの後に告げられてきた衝撃の発言に対して、特に身構えることすらせず日依は油断したまま受け止めてしまう。
「まあまあ、気にしない気にしない。それで私の言いたいことに関してなんだけどね…まず先に言っておきたいことがあるんだ」
「…と、いうと?」
「──昨日さ、日依にあれだけのことをしてもらってから色々考えてたんだよ。たっくさん、色々と、ね…」
「……あ、あの、佳澄さん…?」
そうして佳澄から事情もよく分からぬままに語り掛けられてくるわけだが……何というか。
別に彼女が語ることにおかしな点があるわけでは無い。内容も自然そのものだ。
ただ、どう表現したものか…表面的な言葉にこれといった違和感がなくとも、日依は彼女が取ってきた仕草や振る舞いに妙な印象を覚えざるを得ない。
それというのもいつの間にか日依の頬へ回していた手つきがやけに艶めかしく思えたり、彼女を見つめる瞳も直前までは深い愛情を見せていたはずなのだが。
今は気のせいか、獲物を見定めた肉食動物を連想させる鋭さを宿していて──思わず見つめられている日依も気圧されそうになり。
……端的に言ってしまえば、やたらと色気に近い雰囲気を全身から醸し出しているのである。
「…それでね、一つ気が付いたんだ。私にとって日依はママとの仲を取り持ってくれて、最初から最後まで私のことを真剣に考えてくれてたんだな…って」
「……ま、まぁ。それは間違ってないです」
「でしょ? だからさぁ──私も、こんな気持ちを日依に抱いてたことに自分でも気が付けたんだよ」
「ちょ、ちょっと佳澄さん? どうして少しずつこちら側に近づいているのか説明していただいても……!」
頬に手を添えられ、しかし優しい手つきで肌を撫でられる。
先ほどまでの空気とは一変して心なしか日依が徐々に徐々に追い詰められているようにも解釈できるこのシチュエーション。
段々と迫りつつある佳澄の顔もそれに伴って隠し切れなくなった喜びの色を露わにしており、彼我の距離さえも近づいてきている。
元々近すぎた距離感だったことも影響してその隙間は唇同士が接触してしまいかねないほどに急接近していて……まさか、このまま直接触れ合ってしまうのではないか。
そう日依が直感して、流石の佳澄もいきなりそんなことをしでかすわけがないと理性では否定しつつも万が一の事態に備えてグッと全身に力を入れると──ある意味、それ以上の破壊力を兼ね備えた爆弾発言が飛ばされてくる。
「この前から、ずっとずっと考え続けて分かったんだ。私さ───日依のこと、好きになっちゃったんだよね」
「………………………はい?」
……たっぷりと時間をかけてもたらされた、その一言。
けれどその内容はあまりにも信じ難き内容であって…一瞬、日依も自分の耳がおかしくなったのではないかと思いそうになった。
しかしその困惑も当然と言えば当然。
それほどまでに今送られてきた文言──日依の耳が正しければ何だか告白紛いのことをされたような気がするなど容易く信じられることではない。
よってこれも何かしらの冗談か、いつもの揶揄いに近いことなのだろうと希望的観測も含めて確認をしようとして…それら全てが一蹴される未来をすぐさま痛感させられる。
「…あ、あはは。な、何言ってるの佳澄さん…いくら何でもそれは──」
「もちろん冗談なんかじゃないよ? …本当のことを言うとね、前から日依に対しては他とは少し違う気持ちを感じるなとは思ってたんだ。だけどそれも今回のことを通じて分かったの──あぁ、私は日依のことが好きなんだな、って」
「……………ソ、ソウデスカ」
…駄目だった。ちょっとした冗談として流すつもりだったがこれは無理だ。
何しろそう伝えてくる佳澄の顔に浮かべられた表情はいつも見せてくるにやついた笑みでも、冗談めいたものでもなく…まさしく真剣そのものな面持ちだったから。
流石の日依もこれを受けてドッキリか何かだったとは到底思えず、送られてくる言葉の節々からも滲んできた情緒が真っすぐに届けられてしまう。
だが、これを聞いて自分はどうしたら良いのか。
今回の件を通じて日依への想いが高まったというのなら、こちらも何かしらの答えは出さなければいけない。それが筋というもの。
しかし残念ながら、日依は彼女の想いには応えられない。
日依も…確かに佳澄のことは大切な相手だと認識しているし、時折向けられる無邪気な態度を目の当たりにすると心臓の鼓動が早鐘を打つようになることもあるが、それらはあくまでも同級生に向ける感情──のはずなのだ。
あちらが向けてくれた感情とは根本から種類が異なっており、相容れる物ではない。
だからこれは断らなければいけないと思い、心苦しいが決意を固めて返事をしようとして……その一手を他ならぬ佳澄によって止められてしまう。
「…でもね、これはすぐに答えが欲しいわけじゃないの」
「…へっ、そ、そうなの?」
「うん。そもそもこんないきなり言ったところで日依を困惑させるだけだし、了承が貰えるなんて微塵も思ってなかったから」
「そ、そっか…ならどうしてこのタイミングで──」
「…だからさ、私も一つ決めたんだよね」
「──ひゃい?」
曲がりなりにも自分の想いを日依に告げたからなのか、気のせいでなければ…いや、間違いなく今の佳澄は理性のブレーキが取っ払われている。
それは今の彼女の目を見れば一目瞭然であって、抑え込まれた日依の身体をそのまま押し倒しながら…耳元にそっと口を寄せて彼女はこのような宣言をしてきた。
「今はまだ、日依も私のことは単なる同級生としか見てないと思う……でしょ?」
「は、はい。その通りです…」
「ふふ、だろうね。なら私がすることは決まってる──これから先、日依に私のことを好きになってもらえるように全力でアピールしていくことにするよ。もちろん、毎日この家に来させてもらってね」
「…………え?」
「自分で言うのも何だけど、私はこうだって決めたら変わらないからね? 覚悟しててよ、日依。いつか絶対………私の手で堕としてみせるからさ」
「…え? ……え?」
…それは、ある種の意思表明。
耳元で静かに囁きながら、それでいて声色にはこれ以上ない覚悟と熱量を持って呟かれた言葉には──現在の佳澄が抱えている想いの全てが込められていた。
怒涛の展開続きで思考が回らない日依は衝撃的な流れの数々に処理が追い付かず、目を白黒させながら声を漏らすことしかできていないものの…そうこうしている間に状況は刻一刻と進行していく。
「とりあえず今日は……うん、やっぱりこれかな。…日依、大好きだよ。ん…っ」
「え、な、何をしようとして───…ッ!!?? ……ん…~~っ! ふむ…っ!」
気が付いた頃には時すでに遅し。
目まぐるしい状況変化に思考を放棄してしまっていた日依の隙を佳澄は見逃さず、この機をチャンスとでも捉えたのか彼女は一度耳元から離れると、再度日依に近づき──その唇に、自分の唇を重ね合わせた。
「んむ…ふぅ……っ」
「……~~! ひにゃ……!」
加えて、それもただの唇を重ねるだけのキスではなく…佳澄も日依が気を抜く一瞬の時を見定めて、あちらから舌を半ば無理やり捻じ込まれる。
濃密に過ぎる、粘膜同士の接触など経験したこともない日依にとっては…それは刺激が強すぎるもので。
だが、それを認めてしまえばそれこそ抵抗など出来なくなってしまうのだろうが…意識の片隅では、ほんの少しだけ気持ちよさを感じていたりも…した。
すぐにでも終わらせなければいけないのに、そう訴える理性の裏側では終わってほしくないと囁いてくる本心。
どちらの意見も分かるからこそ、どうしてよいのか分からず全ての選択肢を佳澄に委ねてしまい…ようやく彼女が解放してくれるその時まで、濃厚なひと時は継続された。
「………はぁ、どうだった?」
「……な、な、一体何を──…っ!!」
「何って…見た通りだよ。日依と私の…キス、ね。…一応初めてだったから上手くできたかは分からないけど、その反応を見る限り…悪くはなかった感じ?」
「……~~!?」
やっとの思いで佳澄とのキスという衝撃に過ぎるイベントから解き放たれ、濃密であり魅惑的に過ぎた時間が終わったかと思えば、今度は微かに頬を赤く染めた佳澄の方から羞恥心を刺激されてしまう。
言わずもがな、幼少の頃に身内の誰かとする以外キスなどまともに経験してこなかった日依にはインパクトが過剰すぎる代物で…この出来事は記憶から消そうにも強く脳裏に焼き付いてしまった。
もう忘れることなど出来やしない一手を受けて、今度こそ日依は本当に──佳澄が自分のことを恋愛的に好いているのだと、身をもって思い知らされる。
そしてそれと同時に、もはや逃げようもない現実と全ての逃げ道が潰されている事実を強く実感させられてしまう。
──ここまで全部が佳澄の思い通りだったのか、はたまた日依が押しに弱すぎるだけだったのか。
どちらにせよ、ソファ上で押し倒された日依に出来ることなど数える程度にも残されていない。
目の前で気分を昂らせたように瞳を鈍く輝かせている捕食者の手つきからは逃れることなど不可能であって、されるがままに大人しく耐えきるしか選択肢はないのだから。
「楽しみだね、日依。これからいっぱい可愛がってあげるから…逃げたりしたら駄目だよ?」
「……ほ、ほどほどでどうかお願いします…!」
…その顔は、見惚れてしまいそうなほどの魅力をこれでもかと映し出しながら。
さらに奥には日依への溢れんばかりの愛情を滲ませ、突き進むだけの行動力さえも宿してしまった佳澄からは決して逃げられない。
この後に待ち受けているだろう苦難の日々と、彼女と共にまた日々を過ごせるという期待感が複雑に混ざり合った日依の内心は──言葉だけで言い表すのは難しい。
それでも現時点で唯一分かることがあるとするなら、それはきっと……ここから彼女にどんなことをされてしまうのか。
あるいは、どこまで佳澄の色に自分が染め上げられてしまうのか、どれほど堕とされてしまうのかということへの身震いでもあったに違いない。
さて、前話でも予告はしていましたし流れ的にも続きが気になりすぎる区切りにはなってしまいましたが…ひとまずここで日依と佳澄のお話はおしまいです!
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
元々作者の『百合』作品をやりたい! というかなり見切り発車的なところからスタートしたので色々と手探りな箇所も多くはありましたが、一旦自分の中でやりたかったことは一通り出来たので大満足です。
もし読んでくれていた方々の中にも、『もっとくっつけ!』『早く押し倒せ!』という思いを抱えている人がいらしたら是非とも感想で教えてください。
そうしたら作者が共感のメッセージで返そうと思いますので。
あと語りたいこととしては、やっぱりここで活躍してくれていた二人についてでしょうか。
日依と佳澄。この二人が出会ってから様々な出来事を経て、最後にはお互いの内に秘めていた感情が変化した…という展開については書き始めた段階からやろうと決めていたことなのでそのスタイルは崩さずにやり切れたかなと思ってます。
なのでこの先のことについては正直あまり考えていなくて、佳澄の言葉を受けた日依がどうするかは全て彼女次第ですね。
…でも、一つだけこっちから言えることがあるとするならあの後で日依は佳澄に少なくとも一回は押し倒されてます。もっと分かりやすく言うと襲われました。色んな意味で、はい。
そこに至るまでにどんなやり取りがあったのかは…また語れる機会があった時にもでもやってみようかなということで。
何はともあれ無事にこの一区切りまでやってこれましたので、一旦の締めってことで皆さんの記憶にも残るようなものが出来ていたら幸いですね。
…はい、それでなんですが。
なんかここまでちょっとしんみりした終わり方になりそうな雰囲気だったところで非常に恐縮なんですけども、正直なところ──多分皆さんの中には『この後結局どうなったんだ!』『もっと先まで読ませろ!』と思われている方もいるんじゃないですかね?
そんな方々に朗報……朗報かな?
まぁ良い報せということにしておいて、もしもそう思ってくれている人たちがいてくれるのなら良ければこの作品を評価なり感想を言ってくださるなりしてくだされば、ちょっとした番外編として短編的な続きだったり……こっちに関しては本ッ当に万が一くらいですが。
もし、仮に一度終わった後で好評な意見を沢山いただけていたら、ここから先の日依たちの物語も少し書いてみようかなとも思っています。
なのでそんな作者のモチベーションを爆上げさせるための手助けと思って、ほんとに評価だけでもお願いします! この通り!!
これがあるのとないのとで言ったらあれですけどやる気がかなり変わっても来るので、なにとぞ!!
……まぁこれに関してはまだまだ確定でもないので、もしかしたらやるかもくらいの認識でいましょうか。
ともかく! 長々と語ってしまいましたがひとまずこのお話はここで一つおしまいですので、短い間でしたが付き合っていただきありがとうございました!
皆さんに大感謝!!




