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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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第三七話 そして訪れる時


「……さて、これで片付けは終わりかな…っと」


 ──佳澄にまつわるあれこれが無事に解決の兆しを見せ始めてから、一夜が明けた。


 あれからの流れに関して語ることは少ないが、それでもあえて言うとすると特にこれといったトラブルもなく佳澄とは別れた。

 お互いに自分の家に帰宅していく彼女の後ろ姿を見つめながらも……しかし。


 その顔に浮かぶ晴れやかな笑みを目の当たりにすれば、もう日依が心配することは何一つないと確信できる。

 この先佳澄が歩いていく道の果てにあるのは今までに味わってきた分に相当する幸福のみで、余計な苦痛は散々味わって来たのだからこれ以上は必要ない。


 ゆえにこそ、彼女との縁はここで()()()


「大体整理は出来てる、よね…あと少しで今年も終わりだし、今からでも少しずつ整理整頓はしておかないと──にしても、寂しくなるなぁ…」


 今の日依が自宅でゴソゴソと何をしているのかというと、彼女が行っているのはもう少しでやってくる年末に向けた大掃除の下準備だ。

 佳澄と知り合ってから月日が経つのもあっという間だったために気が付くのも遅れてしまいそうになるが、もう少しすれば学校も冬休みに入り年末年始の季節に移っていく。


 多くの人にとっても誰かと共に──より具体的に語るなら家族と過ごす時間も増えるこの時期。

 当然、それは日依としても身近な相手となっていた佳澄も例外ではなく…いや、彼女に関してはようやく取り戻せた母との時間を満喫する良いタイミングだ。


 だから日依も今こうして一人で自宅の片付けを進めながら、内心ではほんの少しの寂寥感を覚えつつも………。


「…佳澄さんも、もう()()()()()()()もんね。…って、駄目駄目! あたしばっかり尾を引いてどうするんだって話だし、早く慣れるようにしないと…!」


 …先日の出来事を契機に、()()()()()()()()()()()()()だろう彼女との別れに対して何とか区切りを付けようとしている真っただ中なのだから。

 他の誰かに聞かれてしまえば、一体何を言っているのかと彼女の正気さえ疑われてしまいそうな今しがたの独り言。


 何故佳澄がここに来ることは無くなるなんて言い出したのかと問いただされかねない発言だったが──その理由はとても簡潔なことに尽きる。


 そもそもの前提として、佳澄が日依の家に滞在するようになった理由は彼女が放課後になっても家には帰りづらいという事情があったから。

 もっと分かりやすく言ってしまうと、母親──菫との仲の件もあって自宅に居心地の悪さを感じており、その打開策としてここで時間を潰すようになっていたのだ。


 しかしつい先日、紆余曲折あったとはいえそれらの問題はほぼほぼ解決したと言っても問題はないはず。

 ……ということは、既に佳澄がこの家に来る理由も同時に無くなったことになる。


 かつては母との離れた距離感ゆえに接し方を忘れてしまった佳澄も、菫の本心を確かめることが出来た今ならそちらの時間を優先するだろうし──そうするのが間違いなく正解だ。

 この状況で家族以外の他者を優先することなんて考えられるわけもないし、日依自身も佳澄には菫と二人だけの時間を思う存分楽しんでほしいと思っている。


 よってそうなれば、必然的に日依と佳澄の方の繋がりは薄れていく。

 …それを残念だとは思わない。遅かれ早かれいつかは必ずこうなっていたはずなのだ。


 自分に出来ることは精一杯やってきたし、そこで考え抜いた果てに選んできた選択肢についても一切の後悔はなし。

 日依もこうすることが最善だと心から信じていたからこそ迷わず行動してきたはず、なのに………。


 …どうして、こんなにも胸に穴が開いたような感覚が襲ってきてしまうのか。


「一回気分を切り替えないと…こんな情けない顔じゃ学校で会った時に心配させちゃうし、こっちの都合で佳澄さんを振り回すなんて……そんなのは、駄目だよ」


 自覚してはいけない。この気持ちを認めてはいけない。

 だってそんなことをしてしまえば、せっかく戻ってきた佳澄の時間を日依が邪魔してしまうことになってしまう。


 それだけは彼女がしてはいけないことだから……日依は己の感情に無理やり蓋をするのだ。

 …まさか、ここに来て佳澄との縁が途切れることを()()()()()()()()()思いが湧き上がってくるなど日依自身でさえも想像はしていなかったが。


 しかしまぁ、振り返ってみればそれもさほど不思議なことではないのだろう。

 前にも自分の口で堂々と宣言していたことだ。


 佳澄という少女の存在はいつの間にか、とっくに彼女の中で大切な相手として認識が変化していて──それが遠く離れて行ってしまえばどうなるか、程度のことは。

 本来なら容易に想像できていたはずのそれを……けれども。


 実際にこうして体感するまで思い至ることさえしなかった。

 別に佳澄が来なくなったから何かトラブルが発生するわけでは無い。少し前までの、元の生活にお互いが舞い戻っていくだけのことだ。


 そうなるはずだったのに、どうしてか日依は彼女が自分の傍から離れると身をもって知らされてから…小さな後悔の念が浮かび上がっては消えていく時間を過ごしていた。

 ……いいや、もう誤魔化すのはやめよう。本当は日依も理解していることだ。


 極々単純に、日依は佳澄との繋がりを失ってしまって寂しいのだ。それはもう意識的にでも無意識にでも分かっている。

 仕方ないだろう。たった一か月と少しくらいの付き合いであったとしても、これまでの人生でもあそこまで素の態度で気楽に接することが出来る相手なんていなかったのだ。


 そんな少女との縁を偶然であろうと結ぶことができ、そして心地よい時間を味わって…今、手放してしまった。


 …しかしおそらく、そこに対する解決案が無いわけでも無い。

 というのも取る手段としてはシンプルそのもので、直接佳澄にその情感を伝えてしまえばいい。


 日頃は冗談交じりな言動が目立って、事あるごとに日依を揶揄ってくる動向を見せてくる佳澄であるがその根底にある本質は誰よりも他者の内面を尊重できる優しい人だ。

 そんな彼女に日依の今抱えている想いを伝えれば、彼女は日依に大きな恩義を感じているようでもあったし間違いなくここに戻ってきてくれる──確実にそうなる。


 ()()()、それだけは日依が絶対にしてはいけない。

 何度でも繰り返すが、現在の佳澄はずっと待ちわびていた菫との時間をようやっと堪能できる環境になったのだ。


 このような時に、ようやく家族で過ごせる時間を持つことが出来たあの少女の幸せを日依一人の我儘で台無しにするのか……?

 ……いくら何でもナシに決まっているのは、日依であっても分かり切っていること。


 誰よりもそう理解しているからこそ、この場で余計な我儘は言うことなく…自分一人の身勝手な欲望を振りかざして良いわけがないと己を律して彼女だけの生活に戻る準備を進めているのだ。


「…よしっ! いつまでもうじうじしてたら始まらない! 佳澄さんと離れちゃうのは…そりゃまぁ寂しいし悲しいけど、あたしが落ち込んでたら向こうも安心できないんだから大丈夫ってところ見せないと! さてさて…それじゃあ後片付けの続きを───?」


 自分の頭を勢いよく左右に振り、思考の中に浮かびかけたネガティブな感情を忘れ去るように無理やり喝を入れ直す。

 頬を軽く両手で叩き、自分はこれでも大丈夫だと。また一人になっても問題ないと他でもない彼女へ示すためにも……日依は頭よりも手を動かそうとする。


 ──が、しかし。


 そこで唐突に響いてきた日依宅への来客を知らせる()()()()()()の音。

 誰かが訪ねてきたことの報告を受けて若干固めたばかりの決意を揺さぶられたような気もしたが、来訪者ということなら無視をするわけにもいかず。


「誰だろう…はいはーい! 今開けます!」


 正直なところを述べてしまえば現在の気分で訪問者と対面するのも気は進まないものの、そうも言っていられないので早いところ済ませてしまうに限る。

 どうせ訪ねてきたと言ってもこの時間帯なら宅配便かセールスでもやってきたのだろうし、それならすぐに終わること。


 なので日依も深くは考えず、そこに()()いるのかということに適当な当たりをつけてそのまま玄関先へと出向く。

 わずか数秒後、自分が心底驚かされることになるなど露も知らぬまま……軽率に玄関ドアを開け放った。


「どちら様でしょうか…新聞なら間に合ってますよ──…へ?」

「──やっほー、日依。何だか久しぶりな感じするね」


 …ドアを開けてすぐに目に入ってきた位置。

 そこに立っていたのは、この場所にいるはずもない()()の姿で……同時に無意識であっても日依が求めてしまっていた少女の佇まい。


 もはや彼女の代名詞とも言い換えられるフードは下ろされていて、見る者全ての視線を独占していきそうな麗しさを集約させた素顔も白昼の下に晒されている。

 ただし、そんな優れた容姿さえも今だけは他の箇所に目を奪われてしまいそうで…どれだけ抜きんでた見た目の華やかさよりも、その顔に浮かんだ喜色が全開となった満面の笑みにこそ意識は引っ張られてしまう。


 そんな衆目の下に向かえば辺りの注目を独り占めにするだろう少女の存在。

 身に覚えしかない彼女の姿を目の当たりにして、さしもの日依も呆然となりながら…何とか彼女の名を口にした。


「……()()()()()?」

「そうだよ。日依も…元気そうで何よりだね。お邪魔していい?」


 ──にっこりと口角を上げ、笑顔を浮かべながら現れた相手。


 ここに来るはずもない佳澄の姿を目前にして、日依もどう対応すればよいか分かるはずもなかった。


次回、最終話。

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