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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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第二五話 馴染みある新鮮さ


 気の抜ける日依が漏らした発言が全ての正体を明らかにしていたが、彼女らのやってきた地はどこをどう見ても水族館と呼ばれる類の場所だ。


 というか、この外観で水族館ではないと言われたらその方が余程驚愕だ。

 まさか意表を突いて動物園なんてことは無いだろうし、植物園だなんて指摘されたら日依は驚きのあまり全力で叫び声を上げる自信さえある。


 しかしそれを否定するかのように、隣に立っていた佳澄からはこちらの漏らした言葉に肯定の返事をくれた。


「そっ、今日連れてきたかったのはここなんだよ。…もしかして、もっと変なところに連れていかれるとか思ってたのかな?」

「いや、変な場所とまでは言わないけど……ま、まぁ。結構普通な場所だったから驚きはしたかも」

「ふふふ、そうだろうね。私も候補としては他の面白おかしい場所をピックアップはしてたんだけど…でも今回は日依とのデートだからさ。あんまり奇抜すぎるのもちょっとね」

「……その判断に、今日ばかりは感謝したくなってきたよ」


 見た目通りの印象のままに、この場は水族館という認識で間違っていないらしい。

 良かった。これで本当は魚などとは無縁の施設だと言われたらかなり高い確率で壮大なドッキリを疑うところだったので余計な疑念を抱かずに済んでホッとした。


 流石の佳澄も、こういった機会に過剰なおふざけ要素を盛り込んでくることはなかったか。

 …頭の片隅に一応は、それらしき案も浮かびはしていたとこっそり呟いていたのも日依は聞き逃さなかったがまぁ良い。


 現実問題として選ばれたのはこの場所だった。その事実が重要なのだから。


「てことは、今日はここを巡るって認識で合ってる? …あぁ、だからお洒落してきてほしいなんて言ってきたんだもんね」

「そういうことだよ。身体を動かせる場所ならそれに近い指定をさせてもらったけど、水族館なら動きに気を遣わなくていいし……根本的には、私が日依の可愛い姿を見たかったからっていうのが一番大きい理由だけど」

「ぶ…っ!! そ、そんなこと恥ずかしげもなく言うのやめてくれます!?」

「え~…どうしてさ? …こんなに可愛い日依を相手に、着飾ってきてほしいと思うのはとても自然な考え方じゃないの?」

「自然じゃないから!! 私相手にそう思うの絶対佳澄さんだけだから!!」

「いくら何でもそれは言い過ぎ──…いいや、でも、それはそれで………うん。そうだね、まぁ私の本心は置いといてさ」

「…置いとくならこっちの羞恥心を掻き乱さないで欲しい」


 が、他愛もない確認作業の合間だというのに佳澄はそんな折にまで恥ずかしげもなく日依への攻撃を仕掛けてくる。

 確かに今日は彼女に言われた通りある程度服装にも注意を払ったが、それをわざわざ再指摘されるのはどうにも気恥ずかしさが湧き上がってきてしまう。


 そんなことを口にして恥ずかしくならないのかと思わなくもないが、こういう時何故か顔を赤くするのは総じて日依の側だったりする。

 ……通常なら歯の浮くようなセリフを吐き出す方が羞恥心に苛まれそうなものなのに、これも佳澄が無駄に整った顔をしているからか…不思議と言葉を受けた方が妙に照れくさく思えてしまう。


 今まで何回、何十回と繰り返されてきた展開だがおそらくまだまだ慣れることはないのだろう。

 ともあれ、今はそれに注意を引っ張られている場合ではなく向こうの話に耳を傾けた方が良い。


「とにかく何を話すにしても、先に入場しちゃわない? チケットはもう取ってあるからそれ使ってくれたらいいよ」

「え、いつの間に?」

「前の日のうちに。今は何でもネットで予約できるから便利だよねぇ…はいこれ。日依の分ね」

「あ、ありがとう…っと、そうだ。お金払うよ。いくらだっ──…っ」

「──だーめ。それは無しだよ?」

「……へ?」


 日依の方も、概ね今ばかりは佳澄の意見に賛成だ。

 このままここで喋っていても無駄に時間を浪費してしまうだけだし、何をするにしてもあそこが目当ての場所ならひとまず入場を済ませてしまった方が良いのは明白。


 なのでいつの間にやら確保してくれていたらしい入場チケットを佳澄から受け取り、当たり前ながらその分の代金を支払おうと鞄から財布を取り出そうとして──あちらから直々にストップがかけられる。


「いい? 今日はね、私はそもそも日依へのお詫びも兼ねてここに誘ったんだよ? ならチケット代くらいは払わせてくれないとお詫びにならないじゃん」

「えぇ…で、でも。ここに連れてきてくれただけで充分感謝してるし、流石に佳澄さんに奢ってもらうのは……」

「いいのいいの。むしろこういう時は払わせてくれた方が嬉しいものなんだよ。だから日依も、今くらいは私に格好つけさせてよ」

「…う、う~ん……そ、そういうことなら…ありがとうね」

「はい、よろしい。それじゃ行こっ」


 佳澄曰く、本日はデートという名目も掲げられているが大元を辿れば日依へのお詫びという狙いも重なっているのだからお金はいらないとのこと。

 もちろん日依としては自分が払うべき金額は返そうとしたが…格好つけさせて欲しい、なんて洒落た台詞を口にされてしまえば立場も弱くなる。


 確かに佳澄に支払いを負担させてしまったことは申し訳なく思うものの、せっかくの厚意を無碍にしてしまうのもまた違う気がした。

 なのでここは日依の方が引くことにして、ありがたく感謝を伝えて入場券を一枚受け取る。


 そしてそのまま、嬉しそうに笑顔を露わにした佳澄と共に二人は少し薄暗い館内へと足を進めていった。




「うわぁ…! 水族館は久しぶりに来たけど、改めて見ると凄いね…!」

「楽しんでもらえてるみたいで何よりだよ。それにしても日依って…案外水族館好きだったりする? 良いリアクションを見せてくれるね」


 場所は移り、賑やかさを増していた外とはまるで異なるかのように静けさで満たされている水族館内。

 まだ時刻は昼間であるはずなのに、そこかしこに設置されている水槽の存在感を引き立てるためなのか照明も微かに照らされているだけで、辺りの光量は何とも心もとない。


 ──しかし、そんな環境下だからこそ尚更目の前で泳いでいる魚たちの魅力は引き立てられている。


 本当の海とは与えられるイメージが少し違うのかもしれないが、それでも水中を自由気ままに泳ぐ魚の姿からは雄大な印象を与えられる。

 そしてそれを見つめる日依の瞳には、溢れんばかりの充足感が収められていたはずだ。


 ゆえにこそ、彼女のことを見ていた佳澄は微笑ましいものを見るような目で小さく笑いながら言葉を投げかけられた。


「…どうだろう。今まで色んな場所に行ったことはあるけど…水族館はそこまで経験なかったからね。でも…楽しいなって思ってることは確かだよ。連れてきてくれてありがとう、佳澄さん」

「……そっか、それなら何よりだ。さて! ならずっとここに留まるのも悪くないけど、見所はたくさんあるらしいからね。他のエリアにも行ってみない?」

「いいね! だったら…こことかどう? 見るだけでも楽しそうだし!」


 掛けられる言葉の節々は優しいトーンをしていて、わざわざ口にせずとも日依のことを気遣ってくれたことが窺える。

 見せてきた態度にしても、嘘偽りなく目の前の光景を楽しんでいると佇まいで表現出来たことが良かったのだろう。


 表には出さないようにしていたようで分かりづらかったが、ほんの一瞬だけ彼女が安堵するように息を吐いていたのを日依は見過ごさなかった。


 しかしその点を深掘りすることはせず、何となくでもあちらの意図を汲んでしまえば今はそれに乗せられていようと考え、明るいテンションのまま次のエリアに移動するよう促す。


「これまた意外なところだね…うん、いいよ。元々日依の希望なら断る理由もないからさ」

「…そういうの、サラッと言われると調子狂いそうになるな…」

「おっ、何々? もしや日依も私のことを意識してくれるようになったとか…?」

「し・て・な・い!! ほらもう! ふざけたこと言ってないで行くよ!」

「はーい。…ほんと、そんな反応するところが可愛いよねぇ」


 その道中にて、佳澄がまたもや調子づいた発言をしてきたため日依は再度熱くなりかけた顔の熱を無理やり振り払い、ズンズンと前進していく。

 彼女の足跡を追うかのようにしてついてきた佳澄が最後に呟いた一言に関しては……何も聞こえなかったことにしておいた。


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