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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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第一九話 親の心子知らず


 ママが私と接する態度を急変させた時期は、お父さんが亡くなるという出来事を経てからのこと。

 であればそれを契機として私に抱く印象が変化したのだとするなら…色々と納得出来てしまうポイントは浮かび上がってしまう。


 最低限、血の繋がった身内だから果たすべき義務は果たすと言わんばかりに…毎月、私専用として準備された銀行の口座にまとまったお小遣いを振り込むだけ。

 そこに加えて、親としての責任感でも感じているのか毎日家には帰って来るけど…それだって本当に帰るだけの話であって、これといった会話があるわけじゃない。


 交わされる言葉があるとするなら限りなく事務的な内容ばかりで、家族らしい談笑をした記憶などそれこそ一つとして思い出せない。

 だから家に居る時の私とママはお互いに無言のまま、ただただ居心地が悪く……息が詰まりそうになる空間を共にするだけの関係になってしまっている。


 そして、そんな空気に耐えられなくなったからこそ私は夜遅くギリギリまで外をあてもなく彷徨うようになり………。


 …結果的に、今は日依の家で厄介になっているわけだから人生何が起こるか分からないものだけども。


「──そういえば、佳澄。最近お友達の家にお邪魔しているそうだけれど…そちらはどうなの? あまりご迷惑はかけていない?」

「……えっ、あ、うん…そ、それは大丈夫。一応向こうも納得の上で上がらせてもらってるし…」

「…そう」


 ──と、そんなことを考えていた時。


 いつも通り部屋の中では一つの会話もなく重苦しい雰囲気だけが漂っていたリビングで、珍しいことにママの方から話題が振られてきた。

 普段なら何かを話すとしても学校の近況だとか、困っていることはないかであったり…当たり障りのないことしか触れてこないあちらが、だ。


 …一応、私だってこれでも日依の家に逃げ込む様な形で滞在させてもらってるわけだけど流石に何の報告もしていないわけではない。


 向こうは私が何をしようと興味関心なんて湧かせないだろうし、どう言ったところで関与なんてしてこないだろうけどそれでも念のために義務的な報告は済ませてある。

 とはいってもそれは、『しばらく友人の家で放課後は過ごすから帰宅は遅くなる』程度のもの。


 日依の名前も出しはしたけど関係性としてはクラスメイト以上の情報は出していないし、そもそも同級生の話題なんて私は話すほど関わりも無いから詮索なんてされないはず。

 ……だけどその予想に反して、まさかママの口から日依の話題が出てくるとは夢にも思っておらず若干面食らってしまう。


 でも、多分私が一番驚くべきポイントがあるとすれば…さらにそこから一歩進んだところで投げかけられてきた言葉だったんだろう。


「確か、お名前は旗倉さん…だったわね。今日その人に、少し()()()をしてきたわ」

「…………はっ?」


 ──そう言われた瞬間、私は告げられた言葉の意味を理解しきれなかった。


 ママから日依の名前が出されたことも当然そうなのだが…それ以上に、あの子へと挨拶をしてきただなんて想定さえしていなかったことを淡々と報告されたことに脳の処理が追い付かなかったのだ。

 …けれどそんな困惑にあちらが構ってくれるはずもなく、どこまでいっても淡々とした口調を崩すことも無く話は続けられる。


「あ…挨拶!? い、いつ…!?」

「ついさっきよ。事前に連絡も出来なかったから突然の訪問になってしまったけど…それでも丁寧に対応してくれたわ。…随分良い子ね」

「さっきって、そんな急に…」


 どうして日依の家になんて赴いたのか。

 いや、それ以前に私が彼女のことに関して話したのなんて覚えているはずもないママが、日依の名前だけでなく家の場所までしっかり把握していたこと自体が驚愕でしかない。


 詳しく問い詰めようとしてもそこからさらに聞き出せる情報の波はとめどなく私に答えの出ない疑問を湧きあがらせ、あまりにも唐突な動機さえ不明瞭な行動に混乱が抑えきれなくなる。


「……ま、ママ。何で日依の家に行ったの? ううん…それより、どうしてあの子の家に行こうなんて思って──」

「…? 変なことを聞くわね、この子は。曲がりなりにも自分の娘が他所様のお家にお邪魔になっているんだから、親として一言挨拶をしておくのは当然のことでしょう」

「…っ、それは、そうかもしれないけど…」


 …だけど、そこで返ってきた言葉もまた私を納得させるに足りるものではなくて。


 確かに親という立場からするなら、その意見は正しいものなのかもしれない。

 自分の子供が他の家で過ごさせてもらっているとなれば少なからずお礼なりを言っておきたいと思うのが自然なことで、何も間違ってはいない。


 でも……我が家に限っては、それがどうにも不自然なことに思えてならない。

 何しろうちのママは今まで私がしてくることに意見を挟んでくることも、特別止めるような素振りを見せることさえ無かったんだ。


 まさしく放任主義という言葉がこれ以上なくピッタリと当てはまるほどで、会社のお仕事を常に最優先にしているような人だった、はずなのに………。

 …今、この瞬間には何故だか私と日依の関係に踏み込もうとしている。


 どんな意図をもってそうしたのか、そもそもそれは本当のことなのか。

 グルグルと頭の中を答えなど出るはずがない謎だけが巡り続け、目的や狙いが一切掴めないママの感情さえ読み取れない状態では真意など分かり得るはずがない。


 聞きたいことは山ほどある。尋ねたいことだって星の数ほどある。

 それでも…今までの間に構築されてしまった私とママの関係性が。どのような経緯であれ、お互いに深く関わろうとして来なかった過去があるために私から何かを聞こうとするのは少なくない恐怖心を抱いてしまう。


「佳澄から話は聞いていたから問題ないとは思っていたけど、直接会ってみるとまた印象が違うわね。あれだけ良い子はそうそういるものじゃないわ。…これからも、仲良くしてあげなさい」

「……それは、分かってるよ」


 だから私に取れる選択肢は向こうから投げられてくる会話の起点を待つことだけであって、そこでもたらされた言葉に返答するのがやっとだ。

 …しかしそんなうだうだとした態度を取ってしまったからか、ママの方は言いたいことも一通り言い終えてしまったようでそれ以上は何かを口にする気配もない。


 話を聞いていた限り、ママが日依と会ってきたというのは本当なんだろう。

 そしてあの子への印象は決して悪いものではなく、語ることが真実なら悪いイメージは持っていなくて一応私が日依の家で過ごすことも認めてもらえた……って感じだ。


 ──でも、そう言われたからこそ余計に分からないことが増えてしまう。


 何でこのタイミングで…今までは私への興味すら露わにする気配を感じさせなかったというのに。

 今になって日依と私のことに深入りをしてこようとするのは何故なのか。


 無関心や放任を体現したかのような様子で生活を続けてきたこれまでのママとは、あまりにも態度が変わりすぎているからこそ、私も困惑を禁じ得ない。


 常に冷淡で、胸の内に秘められた思考を悟らせない家族だけど。

 この時に関しては、娘である私でさえも……いいや、娘の私だからこそ何を考えて行動しているのか。

 その一点だけがただただ謎なままに、疑問が解消されることはなく…微笑ましい談笑が交わされることも無く一夜は過ぎてしまっていた。


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