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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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第一六話 それぞれが見ていた景色


 ──これは、ほんの少しだけ今よりも時間を遡った瞬間のこと。


 当時、高校に入学したてで内心には新しい生活が始まることへの期待と果たして自分は上手くやれるのかという不安が入り乱れていた日依に関することだ。

 あの時の日依は何というか…良くも悪くも、平凡であったと思う。


 クラスの中でも特別大きく目立つような性格と立場ではなく、しかし幸いにも環境に恵まれたからかそこそこ話せるような友人が何人か出来たので孤立するようなことはなかった。

 見た目にもそれなりに気を遣い、周りの空気を読みすぎるとまではいかずとも雰囲気を壊さないように周囲とのコミュニケーションをとる。


 それはどこにでもいる一人の女子高生の姿であって、言ってしまえば平々凡々な人間だっただろう。


 ……だからこそ、日依は()()のことをいつしか目で追っていたのかもしれない。


 その相手は入学式の段階から特定の誰かと絡む様な気配を一切見せず、深くフードを被ってひたすらに一人だけの時間を謳歌する光景しか展開していなかった。

 しかし、見方によっては周りに全く流されることなく自分一人だけの、確固とした世界を持っているとも捉えられる。


 ゆえに日依は、フードの奥に隠されてしまった彼女の──佳澄の時折覗く美しい瞳の輝きにどこか惹かれるものを感じて、ジロジロ見るのは失礼だし不愉快だろうという判断から決してバレない様に細心の注意を払いながら彼女に意識を向けるようになっていた。


 明確な理由なんて持ち合わせていない。どうして佳澄のことを気に掛けるようになったのか、日依自身でさえよく分かってない。

 それでも彼女に自分の意識を奪われたのは紛れもない事実であり…誰にも悟られないようにと、時たま行ってきた日頃の習慣。


 しかし、それらの全ては……向こうにもとっくの昔にバレバレだったとのことだ。




「ば、バレていたんですか……」

「そりゃあもう。最初の頃はなんかどこかから視線感じるなーと思うくらいの違和感だったけどね。でもあれだけ見られてたら分かるに決まってるでしょ」

「…一応、分からないようにやってたつもりではあったんですけども…」


 完璧に隠し通せていた習慣を、まさかの張本人にはとっくに見抜かれていたという事実を叩きつけられてさしもの日依も動揺を隠しきれない。

 だがよくよく考えてみると、佳澄にはお見通しであったこともそれほどおかしい話ではなかった。


 事実として日依は彼女のことを学校生活の中で見つめていた過去があるわけで、それは否定しようとしたところで出来るものではない。

 彼女に視線を向けていたのは確かな真実でしかなく、許可も無しにそんなことをしていれば不愉快に思われるのは必然。


 なれば次に日依がしなければならないことも明白で、たとえ佳澄がそのことを明かして平然としていたとしてもしっかり謝らなければ。


「その、ごめんなさい…佳澄さんに迷惑をかけるつもりは無かったんですけど、勝手にそんなことしたりして……」

「ん? 別に謝らなくてもいいよ。そもそも私、このことに関しては怒ってもないし」

「…え、そうだったの?」


 が、即座に謝罪をした日依の予想と反して佳澄が見せた返答は何とも軽い。


 言葉通り微塵も気にした様子はなく、日依の無遠慮であった行動にも特別怒りの感情を露わにする気配は感じられなかった。

 それどころか日依の目から見た彼女の纏う雰囲気は、こちらを怒る怒らないの次元で語っているものでもないと思わせるものだ。


「そっ。私もね、怒るっていうより()()()()()()の方が言い方としては正しいかな。…自分で言うとアレだけど、クラス内でも一人寂しく過ごしてた私にどうして日依だけが注目してたのかなー…ってね。今聞きたいのはそこなの」

「……そ、それは…黙秘とかってナシ?」

「無し。喋ってくれないと私も悲しいなぁ…」

「うぐ…っ!?」


 佳澄が気にしていたと語るのは、日依が無遠慮に彼女のことを眺めていたこと自体にではなく何故そうしていたのかという理由の方。

 心なしか先ほどよりも口角を上げて彼女の反応を楽しむ様な表情を浮かべているところが気になるものの…しかし、それを聞かれると困ってしまう。


 何せ、その問いへの答えは彼女自身もまだはっきりとはしていない上に言葉にするのは気恥ずかしい類のものなのだから。

 しかしこの状況、いつまでも黙秘を続けていてもきっと佳澄はこちらを解放してくれない。


 ここ最近の付き合いで、こういった場面で彼女がそういった話題を持ち出した際に容易く逃がしてくれる性格はしていないと彼女自身理解させられたことだ。

 よって…これから話すことを思い若干頬を赤く染め、無意識に視線を逸らしてしまうも日依は胸の内に秘めていた事情を語った。


「えぇと…その…何といいますか」

「うんうん」

「…同じクラスになった時から、佳澄さんが自分だけの世界を持っている人に見えて…格好いいと思ってて、時々こっそりどんな人なのか気になって見てました…」

「……へぇ~、そうなんだ? 日依は私のことを格好いいと思ってくれてたんだ~…」

「う、うぅぅ…! そ、そうだよ! 悪かったね!」

「誰も悪いとは言ってないよ。でも、そっか…日依はそう思ってくれてたのか──ほいっと」

「ひぇっ!?」


 はっきりとした理由は日依自身にも分かっていないが、おそらく言葉にして表現するならおおよそはこのような事情になると思う。

 日依にはなかったもの。自分では持ち合わせていなかった確かな彼女だけの世界を満喫する佳澄の姿はいつ何時、どこでも堂々としたもので目立たずとも気が付いた者の視線を奪い去っていく。


 だが、それを直接本人に暴露するというのは…どういう罰ゲームだというのか。


 否応にも羞恥心が刺激されてしまう状況を前に日依も普段の冷静さを保てず、どうにかこの場を逃げ出してしまいたい心境で満たされかけて──その前に、横から引っ張ってきた力のままに強制的に移動させられる。


「な、何で引っ張り寄せるの!? あとこの位置だと逃げられないんですけど!?」

「だって逃がすつもり無いし…放っておくと日依がどこかに行っちゃいそうだったからね。逃げ道は潰しておこうかと」

「だとしてもこの姿勢になる必要ある!? 無いよね!?」


 真横から彼女を引っ張ったのは当然佳澄で、思いの外込められていた力に逆らうことなど出来ず日依はされるがまま……彼女の()()へとすっぽり収められてしまった。

 傍から見ると完全に佳澄の腕の中に抱きしめられる形で、全身もガッチリと固定されているためにこれでは逃げようがない。


 元々そのつもりで拘束してきたなどと抜かしてきた佳澄であるが、日依からすれば冗談ではない。

 今しがた己の恥ずかしい秘密を暴露してきたばかりだというのに、その相手から直々に抱きしめられれば必然的に心臓の鼓動は早まってしまう。


 ……それがどういった感情に基づく動揺なのかは、彼女自身にも分かったものではない。


「あとはまぁ…私も日依に言っておきたいことがあったから? そんな感じだよ」

「…い、言いたいこと?」

「そうそう。…今の日依の話を聞いてね、私の方もこれは日依に伝えておかないとと思ったからさ」


 ほとんど密着するような距離まで近づくと、お互いの体温やら肌の感触やら…とにかく普段ならば意識することも無いような情報まで事細かに意識してしまいそうになる。

 単なる勘違いであれば全く構わないのだが、先ほどから微かに佳澄が両腕に力を込め直しているのでそれも相まって彼女のスタイルの良さを体感させられ、尚更緊張感も高まってしまうというループが成り立っていた。


 がしかし、そんなことを考えていた日依へと言い聞かせるように佳澄は──こんなことを言ってくる。


「…実を言うとね、日依に見られてるなって気が付いた時から私も、日依のことを()()()()()()()()()()()

「……そ、そうなの?」

「うん、だってそうでしょ? こんなクラスでも端っこの方で寂しく過ごしてる私をチラチラ、飽きもせずに見てくる子がいるんだから気にもなるよ。…だけど、それだけじゃないんだ」

「…というと?」


 佳澄が日依を膝上に抱きしめて捕らえながら、ぽつりぽつりと明かしてきたのはある意味で日依と同じこと。

 彼女が佳澄のことを見ていたのと同様に、彼女もまた日依のことを気にしていたということだった。


 そしてそれに加えて──こんなことも。


「ふふっ…こんなこと言われたら笑われるかもだけどね。日依はずっと私の見た目とか、上辺だけじゃなくて──ちゃんと()()()を見てくれていた、でしょ? だからそんな目を向けてくる日依の事は、ずっと良い子なんだろうなって思ってたんだよ」

「………あたし、佳澄さんをそんな風に見てた覚えはないよ?」

「自分じゃ案外分からないものだよ、こういうのは。でも少なくとも私はそう感じたし、だからこそあの時にこの子の提案なら受けてもいいなって思えたんだよ」

「そ、っか……そうだったんだ」


 …二人の間に、明確な接点はなかった。


 クラス内でも性格や立ち位置、態度さえも全てがバラバラで。

 しかしそれぞれのことを心のどこかで気に掛けていたという、たった一つの共通点を持っていたからこそ…あの夜に、運命的な縁は結ばれていたのだ。


 振り返ってみれば数奇な出来事の連続も、その裏では様々な思いが入り乱れていたのだと分かると不思議な気分になってくる。


「とまぁそんなわけで、日依が私のことをそう思っててくれたと知れて嬉しかったわけですよ。…格好いいだなんて、可愛いこと言っちゃてさぁ……私を誘ってるのかな? この悪い子は…んむっ」

「…ぴぃっ!? い、いきなり何を!?」

「うん? あぁ、あんまりにも日依が可愛いこと言ってくるから、今日の『お礼』も兼ねて可愛がってあげようかと」

「人の耳を口で挟むのが『お礼』になるの!? 流石にそれはちょっと変なんじゃ──…ひぃっ!?」

「んっ……はぁむ…どう? 日依から見て格好いい私にこんなことされる感想はさ…」

「ちょ…っ! い、いい加減に……は、はぁ…!」


 ……けれども、その直後。


 この場もしっとりとした雰囲気に覆われたと感じた瞬間、突然日依は自分を襲ったむず痒い感覚に過剰な反応を示してしまう。

 されどその原因を探っていけば簡単に正体は掴めることで、端的に言ってしまえばそれまで至近距離にいた佳澄が日依の耳を唇で舐めたのだ。


 その違和感しかない感覚はあまりにも蠱惑的で…耳という人体の中でも鋭敏な感覚を有する部位ゆえに、舐められた際の唾液が反響する水音をしっかりと聞き取ってしまう。

 …どう考えようと、ただの同級生にするには度が過ぎている行為だが佳澄がそれを止める気配はない。


 結局、それからしばらくの間は彼女の腕から逃れることも出来ず、抵抗するだけの力も残っていなかったので日依はひたすらに己の理性と耐え凌ぐだけの苦行の時間を味わわされたのであった。


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