第八話
砂煙が晴れる。訓練場の中心で、レオンとガルドは向かい合っていた。
拳と拳、魔力と筋力。ぶつかり合った余波で、床には無数の亀裂が走っている。
五歳児と、歴戦の男。だが、どちらも引かなかった。
彼は拳を握りしめ、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、ガルドさん!」ガルドは豪快に笑う。
「ははっ、よく言った。まさか五歳児に受け止められるとはな。
そんな子供、生まれて初めてだぜ」
しかし―その笑みの奥に、微かな光が宿っていた。
闘志と、評価と、そして興味。
「……だがな、レオン。合格は合格だが…」
「え?まだなにか…」
「まだランクを決めてねぇ。冒険者には、SSSからFまでの等級がある」
「SSSからF……?」レオンが首をかしげると、ガルドは指を立てた。
「Fが見習い、Eが新人、Dでようやく一人前、Cで中堅、Bで上位、
Aで国指定クラス。そしてS以上は――バケモンだ!」
レオンはごくりと息を呑んだ。「ぼ、僕はどのあたりに……?」
「お前のように強い若手をFからスタートさせるのは
他の者の士気にかかわるからな!」
ガルドがにやりと笑う。「それを今から決める、おまけの試験だ!」
そう言って、彼は指を鳴らした。
魔法陣が現れ光り出し、空間に淡い魔力の光が舞う。
「名を教えておこう。俺の武器は《戦斧ガルドブレイカー》。
これは、ドラゴン討伐戦を生き延びた俺の相棒だ」
現れたのは、巨大な戦斧。
黒鉄の柄と刃の境界に、古代文字が刻まれている。
その存在だけで、空気が重くなった。
観覧席からどよめきが起こる。
ギルド長が武器を出すのは滅多にない――それは王都の常識だった。
「カッコいいですね!」
「これのカッコ良さがわかるか!レオンとはいい酒が飲めそうだ!」
ガルドは斧を軽々と持ち上げると、
「ま、心配すんな、本気の半分でいく。死にはしねぇ」
「…半分って……」レオンの背筋に、ぞくりと戦慄が走る。
けれど――それ以上に心の奥で、熱が高まっていた。
(強い……でも、ここで怯んだらダメだ…)
レオンは深く息を吸い、構えを取る。風が足元に集まり、緑の光が走った。
「――行きます!」
号令とともに、戦いが始まった。
開始と同時に、レオンは深く息を吸い、地面を蹴った。
風の流れが脚を包む。足裏に心地よい浮遊感――
「ウィンド・アクセル!」
小柄な体が弾丸のように駆け、ガルドの懐へ飛び込む。
同時に手の中で魔力を圧縮し、短詠唱。
「フレイムエア・ランス!」
炎を纏った風が一点に収束し、槍の形を取る。
それをガルドの胸元へ突き出す。
「遅ぇ!」斧がが空を裂いた。
突風のような斬撃が放たれ、風槍ごと吹き飛ばす。
目に見えぬ衝撃波がレオンを弾き飛ばした。
床を転がりながら体勢を立て直す。
肺に熱い空気が流れ込む――けれど、胸の奥が疼くほど、ワクワクしていた。
(やっぱり……すごい! けど、俺だって!)
「ウォーター・ウォール!」
レオンの足元に透明な輪が描かれ、水が舞う。
ガルドが踏み込むと同時に、水が爆ぜ、視界を覆った。
水壁の中から、レオンは飛び出す。
その手にもう風の魔力はない。今度は土だ。
「アース・バレット!」
掌から放たれる土が弾丸のように連射され、
ガルドは腕を交差して防ぐ。
「おいおい……ガキの魔法じゃねぇな」
だが次の瞬間、ガルドは突進し、
そのまま肩でぶつかるように距離を詰め、斧を振り下ろす。
「くっ……アイス・シールド!」
反射的に詠唱。透明な氷の盾が展開し、
斧を受け止める。しかし、音を立てて砕けた。
氷が飛び散り、レオンは後退、呼吸が乱れていたが目は輝いていた。
(どんな属性も通じる……なら、まとめていくしかない!)
「グラビティ・フィールド!」
半透明なものがガルドを含めた周囲を包み込んだ。
自分がいつも鍛錬の時に体に負荷をかける時に使用している魔法だ。
「何だこれは!?面白い魔法だな!」
「10倍の重力を面白いですませるとはさすがです!」
(数秒しか足止めできなそうだがやるしかない!)
レオンの身体から魔力が滲み出し周囲を舞う。
「火よ、土よ、風よ、水よ、今こそ交わりその力を見せよ!」
空中に陣が走り、四つの属性が一点に集まる。
すべてが螺旋のように絡み合い、光球が生まれた。
それはまだ不完全だったが形となった。
「エレメント・バースト!!」
「よく見せた!」
フィールドを抜け出したガルドが笑い、渾身の力を込め斧を振り下ろす。
――ドガァンッ!!!
爆発的な音と光が、訓練場を包んだ。
結界が揺れ、観客席の冒険者たちが思わず目を覆う。
煙が晴れた時、
レオンは大の字になって倒れていた。
ガルドの斧は地面に突き刺さり、彼自身が微笑んでいた。
「五歳で、ここまで制御できるとはな!」
レオンは息を切らしながらも、微笑む。
「まだ…うまく制御できませんでした」
「上等だ!お前はいずれ誰も届かねぇ場所に行く」
ガルドは審判に向かって叫んだ。
「レオン・グラディア、ランク評価、Bだ!」
観覧席がどよめき、拍手が湧いた。
「えっ…いきなりBですか!?」
「ああ。Bは冒険者の“中堅”クラスだ。本来なら十年以上戦ってようやく届く。
だが、お前は初日からそれを叩き出した!」
ガルドは、穏やかな声で続けた。
「覚えとけ、まだ通過点だ。お前はいずれさらに上に行くだろうがな!」
その言葉に、レオンは強く頷く。
「はい!精進します!」
レオンは深く息を吸い、立ち上がると頭を下げた。
まだ始まりにすぎない。だが、確かに一歩を踏み出したのだ。
夕陽が王都の屋根を染めていた。
ギルドでの激戦から数時間後、レオンは王城の大理石の廊下をゆっくりと歩いていた。
疲れはあったが、不思議と心は軽い、今朝よりも世界が少しだけ広く見える。
「まだ手が痺れてる」胸の奥で、じんわりと熱が灯る。
廊下の先で待っていたのは、兄と姉たちだった。
四人とも、レオンの姿を見るなり駆け寄ってくる。
「レオン! 無事だったのね!」
「レオちゃーん!無事でよかった!」
「レオン、怪我はなさそうだな」
「レオン、よくやったな!」
「……あなた、また無茶をしたんでしょう?」
「うん、でもちゃんと合格したよ。Bランクだって」
「……は?」
兄姉たちの表情が一瞬止まり、次の瞬間
「Bランク!? 五歳で!?」
「うん。ガルドさんが“保証してやる”って」
「…あの人、昔は父上の戦友だったわよね」
「すごいよ! レオちゃん、もう立派な冒険者だね!」
「まだ駆け出しだよ。でも、次はダンジョンに行ってみたいんだ」
「もう! 本当に無茶ばかり言うんだから、でもレオンらしいわね」
微笑む兄姉たちの姿に、レオンの緊張が少しほぐれる。
そこへ、背後から足音が響いた。
「楽しそうだな、レオン」
父アルフォンスと母セシリアが現れた。
「父上母上、試験終わりました」
「話は聞いている。Bランク認定だったな」
「おめでとう、レオン」二人は口角を上げた。
「ガルドが自ら保証したと聞いた。あの頑固者がよくもまぁ」
「はは…ちょっと、拳で話しました」
「拳でか。私も若い頃、あいつと似たようなことをしたな」
懐かしそうに笑う父の声は、どこか誇らしげだった。
「レオン」「はい」
「今日のお前は王族としてではなく、一人の男として、
試練を超えたそれが何よりも嬉しい」
アルフォンスは手を伸ばし、レオンの肩に置く。
その掌の温かさが、心の奥にまで届く。
「無理はするな。だが恐れずに進め。お前には、
神々が…いや私たちもついている!」
「はい!」
その夜、レオンは一人、自室の窓辺で夜空を見上げていた。
城下の灯りが遠く瞬き、風がカーテンを揺らす。
机の上にはギルド登録証が置かれている。
(今日で、僕は冒険者になったんだな)
(次は…もっと強くなって、みんなを守れるように)
レオンは小さく笑い、目を閉じた。
静かな夜だった。しかしその胸の中では、確かな炎が燃えていた。
それは、少年が冒険者になった日を刻む光。
そしてこれからの物語の、始まりの合図でもあった。
【名前】レオン・グラディア
【年齢】5歳
【職業】グラディア王国第三王子
【レベル】15 経験値 157/3243
【体力】 :247
【魔力】 :26974△
【持久力】:209
【筋力】 :290△
【耐久力】:230△
【知力】 :554△
【精神力】:434
【敏捷】 :252△
【技量】 :262
【幸運】 :2865△
【スキル】:魔術王 鑑定 状態異常無効 精神異常無効
【加護】 :創世神の加護 魔理神の加護 戦勇神の加護 風翔神の加護




