第四話
王都に雪が積もり始めた頃。
王城の中は、白い石壁に魔導暖炉の光が映え、
どこか神秘的な温もりに包まれていた。
生後9ヶ月になったレオンは、
ついに兄姉が見守る中「掴まり立ち」練習に挑戦していた。
まわりに柔らかな毛布を敷き、レオンは両手で台に掴まりながら、
ぷるぷると震える脚に力を込める。
(よし……まずは下半身の安定!
前世で培ったバランスの全てをここに注ぐッ!)
「あ、立った!レオンが、立ちましたわ!」
「よくできたの~」
「すばらしい!」「うんうん!」
皆が歓声を上げた瞬間、レオンは誇らしげに胸を張り――
ぷるぷるぷる……どさっ!見事に尻もちをついた。
「きゃっ!?だ、大丈夫レオン!」
「……ぶばぁ」(くそぉ…足がまだ安定しない……!)
そんな内心のぼやきをよそに、ソフィアはほっと息をつく。
「ふふ、よく頑張りましたね。さすがレオンです」
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「母上がいらっしゃたようですよ」
入ってきたのは王妃セシリア。
彼女の姿はまるで陽だまりのようで、
淡い金髪に穏やかな微笑みを浮かべている。
「レオンはうまく立てたかしら?」
「少し立てたけどすぐに尻もちつきましたわ。」
「あら、もう少し早く来れば立てたところ見れたのね。」
俺は、はいはいで母に近づくと、そっと抱えられた。
「ライナルト、シリルそろそろ鍛錬の時間になるわよ」
「もうそんな時間でしたか」
「行きましょう兄上」
二人は立ち上がるといそいそと出て行った。
「今日はお兄ちゃんたちの鍛錬見学するレオン?」
「ううー」(する~)
「では行きましょうね~」
『私たちも行く~』
俺たちが訓練場に到着すると鍛錬が始まった。
木剣を打ち合う音が響く、それは若き王子たちの修練の証。
王家の誇る第一王子ライナルトと、第二王子シリルが剣を交えていた。
「はああっ!」
「おおっと、動きが速くなったなシリル!」
「兄上には、負けませんっ!」
ライナルトの剣が、軽やかに風を裂く。
対するシリルも、幼いながら鋭い突きを見せた。
木剣がぶつかり、乾いた音が響くたび、空気が熱を帯びていく。
訓練場の端では、俺と王妃と姉二人、そして騎士たちが見守っていた。
(うお……兄ちゃんたちの訓練ってマジの実戦仕様じゃん!?)
第一王子ライナルトは金髪を後ろでまとめ、
長身の体をしなやかに動かしながら、木剣を振るっている。
剣筋は無駄がなく、打ち合うたびに「バキン!」と鋭い音が響いた。
その隣で、第二王子シリルが小型の木剣を両手で握って奮闘している。
彼の動きはまだ荒いが、情熱と元気だけは一人前だ。
「シリル、もっと足を開け! 重心が上がってるぞ!」
「くっそ、兄上みたいにはいかないな……!」
(これぞ少年マンガでよく見る兄弟修行シーン。
観てるだけでテンション上がる!)
レオンの目はきらきらと輝いていた。
――と言っても、外見上は“母に抱かれて目をぱちぱちさせてる赤ん坊”である。
「ふふ、レオンも興味津々ですね」
(そりゃ興味も湧くわ。見たところ、明らかにステータス差がある。
ライナルト兄は【筋力350】【技量290】【敏捷210】、
シリル兄は【筋力210】【技量180】【敏捷260】か)
転生以来、レオンは鑑定によって
ステータスの相場を感じ取るようになっていた。
本人にとってはもはや、呼吸のような感覚だ。
そんな二人の稽古を見ていると、少し離れた芝生では、
見るのを飽きたのかソフィアとミリアが魔法の練習をしていた。
「はぁ……火よ、理をもって灯れ、ファイア」
ソフィアが詠唱を唱えると、指先に小さな炎の球が生まれる。
「ふふ、いい調子ね。ミリアもやってみなさい」
「えいっ! ……わわっ、燃えすぎ!」
ミリアの手から炎が跳ね、慌ててソフィアが水魔法で消火した。
「もう、力をこめすぎなのよ。魔力の制御は“イメージ”が重要なの」
「むずかしい~」
(……うん、可愛い。努力してる姿が可愛い。)
レオンは思考の中で、自分なりに整理を始める。
――【魔法は魔力+詠唱】で発動する。
詠唱が設計図、魔力が材料、イメージが完成図といったところだ。
俺が無詠唱で魔法が発動できているのは、
完成図と設計図が一括りになっているからだろう。
これも魔術王スキルの効果なのだろうか?実にすばらしいスキルだ!
満足げにうなずく赤ん坊。
その様子を見ていたソフィアが、そっとレオンの頬をつついた。
「ふふ、レオンも見てたのね。弟に見られると、ちょっと恥ずかしいわ」
「ん、あう」
「きゃっ、今の“あう”って、もしかして“がんばれ”って言ってるのかしら!?」
「わ、わたしも聞いた! レオンが応援してくれてる!」
ミリアが喜びの声を上げ、二人は顔を見合わせて笑い合う。
その笑顔を見て、レオンはほんのり頬を緩めた。
(……あぁ、癒される……。こういう日常、前世で欲しかったやつだ)
その後、兄たちの訓練と姉たちの魔法練習を一通り見終えたレオンは、
母の腕の中でまどろんでいく。
頭の中では、今日見た技の一つ一つが“経験値”として整理されていくようだった。
(ライナルト兄上の剣は“パワー型”、シリル兄上は“スピード特化”。
姉上たちは“火・水の基礎魔法”。なるほど、家系的にバランス型か)
気づけば、レオンは寝息を立てていた。
リディアはそっと微笑み、その額に手をかざした。
「おやすみなさい、レオン様。……きっと、素敵な夢を見ているのでしょうね」
風が窓を抜け、光が柔らかく差し込む。
中庭では兄姉たちがなおも練習を続け、その声が遠くから聞こえてくる。
夜風が穏やかに吹き抜ける。
月の光が一筋、寝室の窓を照らす。
目を覚ました俺は夜だと気づく。
「あぅ」(鍛錬の音が心地よくてすっかり寝ちゃったぜ)
母様が寝ているのを確認すると、(ステータス)と心の中で唱えた。
【名前】レオン・グラディア
【年齢】0歳
【職業】グラディア王国第三王子
【レベル】1 経験値 37/50
【体力】 :61
【魔力】 :10783
【持久力】:52
【筋力】 :56
【耐久力】:47
【知力】 :168
【精神力】:153
【敏捷】 :47
【技量】 :58
【幸運】 :1093
【スキル】:魔術王 鑑定 状態異常無効 精神異常無効
【加護】 :創世神の加護
(うんうん、順調にのびてるな。)
(レベルを上げなくても伸びるのは意外だった、
ポ〇モンの努力値のようなものかな?)
(レベルが上がった時が楽しみだ)
ステータスを確認し終えると俺はまた眠りについた。




