第三十二話
迷宮は静まり返っていた。だが静寂は安全を意味しない。
レオンは崩落した通路の瓦礫を越え、慎重に進む。
先ほどの男、あれはただ参加者ではない。
あの言葉が胸に残る。「世界を試す」
試すとは何を、誰が誰を試すのだと。
その時だった。
「動かないで」凛とした声。
背後を振り向くと、蒼銀の装束に身を包んだ少女が立っていた。
「リュカさんどうしてここに?」
「それはこちらのセリフ…私より後にダンジョンに
入ったのに先にいるの…?」
レオンは先ほど起きたことを説明した。
「なるほど、状況は分かった…」
同時刻北区画。
赤黒い闘気が渦巻く。そこに立つのは、異様な男。
並みの獣人より一回り大きく、獣のように毛が逆立ち、口からは牙が覗く。
瞳は濁っていたが、理性は残っているようだった。
「…足りねぇ」低い声、他の出場者の闘気が男に吸われていく。
拳を握り壁に叩きつける。石壁が砕ける。
その背後。一瞬、
虎のように大きな胴、猪の如き大きな牙、
巨大な獣の影が映った。
「奴らが闘気を集めていることになにか心当たりある?」
「いいえ、知らない…もしかしたら父上なら
心当たりあるかもしれない…」
次の瞬間壁が崩れた、巨大な影が現れる。
獣の気配、だが二足歩行、牙が覗く。
瞳が理性を宿している。
「王の血か…良い、実に良いぞ」低く嗤う。
「…あれは一体!」
「俺様の名ははトウコツ!」
そう言うと闘気が爆発した、空間が歪む。
(トウコツだと…?中国神話の四凶の一体と同じ名前…)
レオンは前に出て拳を握る。
(この世界にも似た概念があるのか?それとも…
だが今は目の前のコイツとの闘いが先決だ)
胸の奥で、また二つの力が揺れる。
まだ早いだが
「王の血を試させてもらおうぞ」
影が踏み込んでくる。
石壁が吹き飛ぶ、迷宮が悲鳴を上げる。
トウコツが歩くと同時に床を砕いた。
衝撃が波のように広がる。
リュカが踏みとどまる。
「闘気、起動…」彼女の体をに淡い光が包む。
「闘気拘束陣!」光の鎖が影へ走る。
だが影は嗤った。
「甘いぞ!」腕が膨張し鎖が弾け飛ぶ。
丸太のような筋肉。その姿が明かりに照らされる。
それはまさに中国の神話に語られる四凶の一柱、
檮杌を思わせる姿だった。
「お前名前名乗ってよかったのか?
俺があったもう一人は名前を名乗らなかったぞ!」
一瞬の間があった。
「やべ、まだ秘密だった…」
(さすが檮杌の意味するところ少し抜けてるようだ)
リュカが後退し、レオンが前へ出た。
拳を握る、内側で二つの流れがぶつかる。
魔力と闘気、反発し、火花のように散る。
まだ同時にはうまく制御できない。
だがら今は抑える。
「闘気を集める理由はなんだ?」影が低く唸る。
「そう簡単には言わないぞ」
(さすがに言わないか)
「俺様の攻撃を受けて立っているとはただの子供ではないな」
トウコツの攻撃を受けレオンは歯を食いしばる。
トウコツは満足げだ。
「実に楽しいぞ!!」
遠くで、実況の声が響く。
「これは大変なことになっております!」
巨大な観測用魔導具が映し出すのはレオン達のいる区画。
「王女殿下とレオン選手がトーガ選手と交戦中!」
解説役が低く言う。
「ダンジョンが崩壊しておりますが大会は継続可能なのですか!?」
「それに関しては安全性は問題はありません!」
観客席がざわめく。
トウコツが跳躍する。天井から急降下。
レオンは受け流し打撃が軌道を逸れた。
リュカがその隙に闘気を再構築した。
「多重闘気拘束陣!」
幾多の鎖がトウコツの体を絡め取る。
トウコツが初めて顔を歪めた。
「嬢ちゃんもやるな!」
「今だ!」リュカが叫ぶ。
レオンが飛ぶ。胸の奥、二つの流れが衝突する。
混ざれ無理にではない必要な分だけ
拳が熱を帯びる。闘気と魔力が互いを侵食する。
「はあっ!」
レオンは拳を振り抜いた。空間が震える。
トウコツの胴に直撃し数歩下がった。
「……ほう」瞳が細まる。
「やるじゃねぇか」
レオンは荒く息を吐いた。
「そろそろ時間か」そう言うと鎖を引きちぎった。
トウコツが後退する。
「今日はここまでだ」
「逃がすか!」
リュカが追う。だがトウコツは霧のように崩れた。
「お前たちもぐずぐずしてると予選落ちるぞ。
では次の戦いで会おうぞ…」声が遠くで聞こえた。
静寂、空気は変わった。リュカが膝をつく。
「…つかれた」
レオンは拳を見つめる。
「次は勝つ…」
一息入れて二人はゴールであるダンジョンの奥へと向かった。
その後、他の参加者にに会うことなくゴールへとたどり着いた。
ゴールにいたのは謎の男とトウコツのみだった。
予選の終わりを告げる鐘が鳴る。
「波乱の第一予選、突破者はこの六十四名!!」実教の声が闘技場に響く。
「王族全員予選突破!そして各注目選手も突破しております!」
こうして予選会は終わり、一日の休日を挟み本戦へと進むのだった。




