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① オタクな転生王子だけど地味に努力してます!~今日も筋トレと魔法修行~  作者: あんてな
第四章

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第三十話

 王都アニマディアの朝は、今日も賑やかだった。

 だが、この日は少し趣が違う。

 城の正門前に集まったのは、武闘会に出場予定の王族の子供達だ。

 「今日は付き合ってもらうぞ、レオン」

 第一王子アレクが肩を鳴らしながら言う。

 虎の獣人らしい堂々とした体躯。その背には、いつも携えている大剣がない。

 「武器の調整ですか?」

 「ああ。武闘会前の最後の確認だ」

 第一ミラも頷く。彼女は腰の双剣を軽く叩いた。

 「武器も防具も、闘気に馴染ませておかないと意味がないからね」

 一行が向かったのは、王都の中でもひときわ異質な区画だった。

 金属の匂い。熱気。そして、闘気が染みついた鋼の気配。

 「ここが、黒爪の工房だ」アレクが誇らしげに言う。

 外観は古びているが、扉を開けた瞬間、レオンは息を呑んだ。

 (……すごい)

 壁一面に並ぶ武器や防具の数々。剣、斧、槍、爪、拳甲、防具。

 どれもが、ただの装備ではない。

 そしてここにいる鍛冶師たちは皆獣人。

 多種多様だが共通しているのはその眼だ。

 獲物を前にした狩人のそれだった。

 「全部、闘気を通す前提で作られている」

 ミラが説明する。

 「人間の鍛冶だと、ここまで闘気の流れを考慮しないだろう?」


 「当然だ」工房の奥から、低い声が響いた。

 現れたのは、年老いた蜥蜴獣人の鍛冶師だった。

 だが、その体から発せられる圧は、並の武闘家を凌ぐ。

 「工房長だ。武器は命を預ける相棒だ。闘気を拒む鋼は三流以下だ」

 彼はレオンを見ると、興味深そうに目を細めた。

 「…人の子か」

 次の瞬間、工房長は無言で一振りの短剣を差し出した。

 「触れてみろ」

 言われるまま、レオンが柄に触れた瞬間、闘気が自然に流れ込んだ。

 「おぉ……」

 「ほう…子供のくせに、闘気がよく通るな…」

 鍛冶師の口角がわずかに上がった。



 王子たちがそれぞれ自分の武器や防具を受け取っていく中、

 レオンは工房の奥、立ち入りを拒むような空間に視線を奪われていた。

 そこだけ、異様に静かだった。壁に打ち込まれた無数の鎖。

 鎖の中心に、一本の剣があった。

 鞘は黒色だが光を吸うような黒ではない。

 むしろ、内側から何かが滲み出るような、不安定な色。

 「見るな」

 そう言ったのは工房長だった。

 「見るだけでも、目をつけられる」

 だが遅かった。金属が軋む音。

 鎖が、微かに震えた。次の瞬間、剣が吠えた。

 衝撃が走る。壁が震え、鎖が一斉に引き絞られる。


 「…またか、この前も暴れやがったんだ」

 工房長が低く唸る。次の瞬間、剣から黒い霧のようなものが噴き出した。

 「今日は一段とヤベェ、王子達下がれ!」

 (…この国に来た時に感じた、気配の正体はコレか…?)

 (…それにこの咆哮のような音…俺を呼んでいる?)

 「俺に止めさせてください…」

 レオンは一歩踏み出した。


 レオンは右手に魔力を、左手に闘気を纏わせた。

 そして、両手を剣へと向け魔力と闘気を放った。

 放たれた二つの力は剣と霧を絡めとるように包み込んだ。


 包まれた剣が戸惑うように震えた。

 「鎮まれ…」

 レオンの声と同時に、黒い霧が霧散した。

 静寂、工房長が深く息を吐く。

 「……助かった」

 王子たちは、互いに顔を見合わせた。

 「人の子、お前は面白いな」

 そう言って、工房長は低く笑った。

 

 工房主が、ゆっくりとレオンを見る。

 「お前は…この剣に拒まれていない」

 「え?」

 「この剣はな、持ち主を選ぶ。

 選ばれなかった者は、近づくだけで闘気や魔力を喰われる」

 王子たちも、驚きを隠せない。

 「そんな剣が…なぜここに」

 「初代の工房長が打った剣と伝わっている」

 工房主は、深く頭を下げた。

 「その剣はお前のものだ」

 「……俺が?」

 「剣が、お前を選んだ」

 壁に繋がれていた鎖が、自らほどける。

 黒剣がゆっくりと宙に浮きレオンの前に来た。


 「大会前に、とんでもないもの拾ったわね」ミラが苦笑する。

 「武闘会で使うかは別として……」

 「これも縁だ」アレクが言う。

 レオンは剣を握りしめ、静かに息を吐いた。

 (……また、厄介なものを背負ったな)

 だが不思議と、悪い気はしなかった。

 黒剣は、今は静かに、

 まるで嵐の前の獣のように眠っていた。


 「武闘会……無事に終わるといいがな」

 工房を出た後、王子たちは無言だった。

 だが、誰もが同じことを考えていた。

 武闘会は、もう始まっている。

 ただし表には見えない場所で。残り三日。

 嵐の中心は、確実に近づいていた。


 夜のアニマディアは、昼とはまるで別の顔を見せていた。

 王都中央の大広場。

 無数の篝火が円状に並び、獣人たちの歓声と太鼓の音が夜空を震わせる。

 闘気を込めた演舞、獣拳の型を応用した舞踏、

 すべてがこの国の武を祝うためのものだった。

 「……すごい熱気」

 フィリアが目を輝かせて言う。

 「前夜祭は、武闘会そのものと同じくらい重要だからな」

 第一王子アレクが胸を張る。

 「戦う前に、心と闘気を解き放つ。

 それがアニマディアの流儀だ」

 レオンは周囲を見渡しながら、静かに息を整えていた。

 歓声に包まれた広場の中で、彼の感覚だけが別のものを拾い続けている。

 (……闘気の流れが、妙だ)

 祝祭の高揚とは違う、冷たい違和感。

 まるで、火の中に紛れ込んだ影のような。

 そのとき、獣拳の演武が始まった。

 王族直属の精鋭による模範試合。

 虎の力強さ、狼の連携、鳥の舞うような動き、爬虫類の粘りと密度。

 闘気がぶつかるたび、観客からどよめきが上がる。

 「……これが、本場の獣拳」

 レオンは息を呑む。型だけではない。

 獣の生態そのものを、闘気で再現している。

 演武は何事もなく終わり、歓声が爆発する。


 「レオン」ミラが、低い声で呼びかける。

 「ミラさんも感じましたか」

 「……ええ」

 二人の視線が、自然と広場の端へ向かう。

 そこには、灯りの届かない場所があった。

 祭りの喧騒からわずかに外れた影。

 人影がいくつか、溶け込むように立っている。

 「レオン」フィリアが一歩前に出ようとする。

 「俺が行く」アレクがそれを制した。

 「ここは前夜祭だ。下手に騒ぎを起こすわけにはいかない」

 だが遅かった。陰の一つが、ゆっくりと動いた。

 次の瞬間、広場の外れで獣人が倒れた。

 「おい、どうした!?」

 悲鳴が上がる。駆け寄ろうとした者たちが足を止めた。

 倒れた獣人の身体から、闘気が抜け落ちていく。

 「…闘気が吸われている?」

 その闘気は、地面を這うように影へと流れ込んでいく。

 「来る!」ミラが叫ぶ。

 同時に、陰から黒衣の人物が姿を現した。

 顔は仮面で覆われ、気配は人為的に歪められている。

 「祭りの最中に、随分なことをする」

 アレクが前に出る。黒衣は答えない。

 ただ、低く嗤った。

 「…武の国は、良い餌だ」

 その言葉と同時に、黒衣は闘気を解放した。

 闘気なのに冷たい。生命力を削ぎ取るような、異質な波動。

 「逃がすな!」王都警備隊が動く。

 だが、黒衣は地面に手をつくと、体を溶かすように姿を消した。

 残されたのは、倒れた獣人と、重苦しい沈黙。

 「……無事だ。闘気を吸われただけで、命に別状はない」

 治療役が告げる。安堵の声が上がるが、空気は完全に変わってしまった。

 祭りは続けられた。だが、誰もが気づいている。

 祝祭の裏で、何かが動き始めた。

 夜更け、王城の一室。王子たちとレオン、フィリアが集められていた。

 「武闘会を狙っているのは、間違いない」ミラが断言する。

 「闘気を集める何者かだ」アレクが拳を握る。

 「ならば、武闘会そのものが狙いだ」

 レオンは、静かに頷いた。

 「……最近の違和感。そして今夜」

 線が、一本に繋がる。

 「何かが、もう始まっている」国王が声を低く言った。

 窓の外では、まだ篝火が揺れている。

 祝祭の光は、濃い影を生み出しながら。残り二日。

 この国の誇る武が、試されようとしていた。



 朝霧の立つ訓練場で、アレクは一人、拳を振るっていた。

 虎獣人特有のしなやかな筋肉がうねり、

 闘気が、呼吸に合わせて脈打つ。

 だが一撃一撃に、王族としての重みがある。

 「……まだ、足りん」

 誰に向けるでもなく呟いた。

 そこへ、足音。

 「朝から気合い入ってますね」

 振り向くと、レオンが立っていた。

 「来たか」

 アレクは拳を下ろし、闘気を収める。

 「昨夜の件…気にしているのか?」

 「当然でしょう」

 レオンは正直に答えた。

 「武闘会は、ただの祭りじゃない。

 武の国の心臓みたいなものだ」アレクは拳を握る。

 「だからこそ、俺は負けられん。

 王子として、長子として、そして次代の王として」

 レオンは微笑んだ。

 「重いものを背負える人ほど、折れません」

 アレクは、ふっと笑った。

 「不思議な男だな、お前は」

 そして、真っ直ぐに告げる。

 「武闘会、全力で来い。俺も、全力で迎え撃つ」


 城の高塔。王都と闘技場を一望できる場所で、ミラは静かに佇んでいた。

 狼獣人の耳が、微かな音を拾う。

 「来ると思った」

 背後からの足音に、振り返らずに言った。

 「……鋭いですね」

 レオンが苦笑する。

 「武闘会前の静けさが嫌いだ」

 「もし、武闘会で何か起きたら」

 彼はレオンを見る。

 「私は戦士としてではなく王女として動く」

 「…それでいいんですか」

 「王族は、国のために使われる存在だ」

 迷いはない。レオンは、ゆっくりと頷いた。

 「なら僕も協力します」

 ミラが初めて笑った。

 「頼もしいな」


 訓練場の天井近く。

 ルークは梁の上に腰掛けていた。

 鳥獣人の翼が、朝の風を受けて揺れる。

 「やっぱり、ここにいた」

 レオンが隣に腰を掛けた。

 「地上は落ち着かなくてね」

 ルークは翼を広げる。

 「飛ぶのをやめたら、私は私じゃなくなる」

 「もし、武闘会で異変が起きたら」

 彼女は、真剣な眼差しで言う。

 「私は上から全体を見る。誰かが落ちそうなら掴む」

 「…空から?」

 「空から」レオンは、少し安心したように笑った。

 「心強いです」

 「でしょう?」


 王城地下。厚い石壁に囲まれた静かな部屋。リュカは瞑想していた。

 爬虫類系特有の冷静な呼吸。闘気は密度が高い。

 「…レオン」

 目を開けずに言う。

 「どうして分かったんですか」

 「気配が乱れていませんでしたから」

 彼女は立ち上がる。

 「私は、派手なことはできません」

 「それが強みです」レオンは即答した。

 「守れる人がいるから攻められる」

 リュカは少しだけ目を伏せる。

 「戦士として、王女として…守る役目は、嫌いではありません」

 そして、静かに告げる。

 「もし最悪の事態になったら。私は皆を守り抜きます」

 「……僕も一緒です」

 短い沈黙の後、彼女は小さく頷いた。



 太鼓の音が、王都に響く。闘技場へ向かう行列。

 歓声、高揚する闘気。その裏で

 王族たちは、すでに“戦場”に立っていた。

 レオンは、胸の奥で闘気を整える。

 (武闘会は、ただの試合じゃない)

 祝祭の幕が、今上がろうとしていた。

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