表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
① オタクな転生王子だけど地味に努力してます!~今日も筋トレと魔法修行~  作者: あんてな
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/33

第二十八話

 第三戦の名が告げられた瞬間、訓練場の視線が一斉に上を向いた。

 梁の上。そこに、いつの間にか立っていたのが第二王子ルークだった。

 鳥系獣人、背に生えた白銀の翼は折り畳まれているが、

 その存在感は隠しようがない。

 「……上からか」

 レオンが呟くと、ルークは軽やかに笑った。

 「空は私の庭なのだ」

 彼の闘気は淡い空色。風と溶け合うように、ほとんど輪郭を持たない。

 それが、逆に不気味だった。

 「制限時間、三分!」

 合図と同時にルークは、落ちた。

 羽ばたきすらない重力に身を任せた急降下。

 (速――!?)

 レオンは反射的に後退しながら、防御魔法を展開。

 「マナ・シールド!」

 次の瞬間、上からの踵落とし。

 闘気が一点に収束し、質量が増したかのような一撃が叩き込まれる。

 衝撃で、床が陥没する。レオンは横に転がり、距離を取る。

 ルークはすでに、再び空中。

 翼を広げた瞬間、闘気が流れ風そのものになる。

 「グラビティ・フライ!」

 レオンは即座に対抗する。宙に浮かぶ魔法。

 だが、ルークはそれを見て、楽しそうに目を細めた。

 「魔法で空に浮く人間、初めて見たぞ」

 次の瞬間、彼は空間を蹴った。あり得ない角度からの突進。

 レオンは咄嗟に雷魔法を放つ。

 「ライトニング・スパーク!」

 雷が走るがルークは、翼を一振りすると空間が歪み、雷が逸れた。

 (空間干渉……!)

 接近戦、空中同士での交錯。

 拳と脚、翼がぶつかるたび、闘気と魔力が火花を散らす。

 レオンは詠唱をほぼ省略し、魔法を連続で展開。

 だが、ルークは常に半拍早い。

 「遅い」

 背後からの一撃。レオンは闘気を脚に集中させ、強引に体勢を反転。

 「マナ・バースト!」

 至近距離での魔力爆発。

 ルークは直撃を避けきれず、空中でバランスを崩す。

 「……っ!」

 その瞬間を、レオンは逃さない。空間固定魔法を点で展開。

 ルークの翼の動きが、一瞬止まる。

 だが彼は、笑った。

 「三秒も、要らない」

 闘気が爆発的に広がり、空間固定を力で引き裂く。

 その反動で、二人は距離を取る。

 時間は、残りわずか。

 互いに、息を整えながら向き合う。空中で視線が交わる。

 「……楽しいぞ、レオン」

 「こちらこそ。正直、初めてです。空でここまでやり合ったのは」

 「時間終了!」

 結界が展開され、二人は静かに着地した。

 ルークは翼を畳み、深く一礼する。

 「あなた、地上戦の人じゃないな」

 「空を知ったばかりの、初心者です」

 そう答えると、彼は声を立てて笑った。

 「武闘会が楽しみになった」

 観客席では、鳥系獣人たちがざわついていた。

 「……人間が、空で王子と互角だと?」

 「いや、互角以上だろ」

 ガルドは、静かに頷く。

 「レオン、また厄介な相手を引き寄せたな」

 レオンは、空を見上げた。

 (獣人の戦い方……やっぱり、奥が深い)


 第四戦の名が告げられた瞬間、訓練場の空気が変わった。

 第三戦までにあった、速度や派手さとは異なる

 重く、沈むような圧。

 中央に進み出たのは、第二王女リュカ。

 爬虫類系獣人特有の、滑らかな鱗を首元と腕に持ち、瞳は縦に細い。

 その姿は静かで、ほとんど動かない。

 だが彼女の周囲には、深緑色の闘気が霧のように滞留していた。

 「……逃げ場は、作らない」

 低く、落ち着いた声。

 「正面から受け止める。それが私の戦い方」

 レオンは小さく息を吐いた。

 (防御特化……

 しかも、闘気の密度が異常に高い)

 開始の合図。だがリュカは動かない。

 まるで、岩のように。レオンは距離を取り、様子を見る。

 「《フレイム・ボルト》!」

 火球が一直線に飛ぶ。だが、リュカは避けない。

 闘気が前面に集中し、鱗のような層を形成。

 火球は直撃し――霧散した。

 「……っ」

 無傷。レオンはすぐに属性を切り替える。

 「《アイス・スピア》!」

 氷槍が複数放たれる。だが結果は同じ。

 闘気の壁に触れた瞬間、砕け散る。

 (単なる防御じゃない…受けた衝撃を分散している)

 リュカが、ゆっくりと一歩踏み出す。

 そのたび、床が軋む。

 「攻めないの?」レオンが問う。

 「これから攻めるの…」

 次の瞬間彼女は、掌を地面に叩きつけた。

 闘気が地面を伝い、円状に広がる。

 「――来る!」

 レオンは跳躍し、衝撃を避ける。

 だが、空中でも安心できない。

 闘気が立体的に立ち上がり、圧そのものが襲いかかる。

 呼吸が、重くなる。レオンは即座に、魔力を爆発的に放出。

 「マナ・バースト!」

 圧を押し返し、距離を確保。

 その隙に、詠唱を最短で組み上げる。

 「アーク・ライトニング!」

 雷が闘気の層を貫こうと走る。

 だがリュカは、両腕を交差した。

 闘気がさらに圧縮され、雷を飲み込む。

 「通らない……!」

 リュカの視線が、初めて鋭くなる。

 「では、これは?」

 一歩踏み込み。闘気を極限まで圧縮した、正拳突き。

 その瞬間、空気が爆ぜた。レオンは咄嗟に防御魔法を重ねる。

 「マナ・シールド!フォース・ウォール!」

 だが貫通してきた。完全ではないが、衝撃が内部まで届く。

 「ぐっ……!」

 レオンは吹き飛ばされ、地面を滑る。

 (……重い。あの一撃、当たり続けたら)

 時間は、残りわずか。

 レオンは立ち上がり、深く息を吸う。

 (範囲攻撃は無理。なら一点集中だ)

 魔力を、極限まで収束。

 レオンは、詠唱をほぼ省き、低く呟く。

 「オーラ・ディスラプト!」

 闘気の流れを乱す干渉魔法。それをリュカの足元へ。

 一瞬、闘気が揺らいだ。

 「……!」リュカが、初めて一歩下がる。

 「時間終了!」

 結界が展開され、戦闘は終了した。

 リュカは静かに呼吸を整え、レオンを見た。

 「…乱されたのは、久しぶり」

 「こちらこそ。正直、三分じゃ足りませんでした」

 彼女は小さく、口角を上げた。

 「武闘会が…楽しみ」

 観客席が、どよめく。ガルドは苦笑した。

 「防御の化け物か…あれは、正面からやる相手じゃねえな」

 レオンは頷く。

 (獣人の王族…本当に、一人一人が達人だ)


 第二王女リュカとの手合わせが終わり、

 訓練場にはゆっくりと静けさが戻っていった。

 結界が解かれ、観客席の獣人たちがざわめきながら去っていく。

 レオンは深く息を吐き、額の汗を拭った。

 (……重かった。攻撃じゃない、存在そのものが)

 防御に特化した闘気。

 密度と粘性を併せ持つ、爬虫類系特有の性質。

 短時間の手合わせだったにもかかわらず、精神的な消耗は大きかった。

 「よく立っていたな」

 背後からかかる、低く張りのある声。

 振り向けば、第一王子アレクが腕を組んで立っていた。


 夕焼けが訓練場を赤く染める中、獣人たちは次々と引き上げていく。

 最後に残ったのは、アレクとレオン、

 そして散らばった訓練用の武具だけだった。

 「片付けは俺がやる」

 そう言いながら、アレクは巨大な鉄製の重りを軽々と持ち上げる。

 「…手伝います」

 レオンが言うと、アレクは一瞬だけ視線を向け、鼻で笑った。

 「勝手にしろ」

 二人は言葉少なに、重りや武器を壁際に戻していく。

 金属が擦れる音だけが、静かな空間に響いた。

 「今日の戦いだがな」

 アレクが、唐突に口を開いた。

 「お前、自分が勝てたと思うか?」

 レオンは手を止め、少し考えた。

 「……いいえ。三分という制限がなければ、

 どうなっていたか分かりません」

 その答えを聞いた瞬間、アレクは大きく笑った。

 「ははっ! そうだ、それでいい」

 最後の重りを置き、腕を組む。

 「王族ってのは、常に比べられる。力も、血も、結果もだ」

 夕日を背にしたその姿は、まさしく獣人の王子だった。

 「だがな。武の前では、王族も平民も関係ねえ」

 アレクの視線が、真っ直ぐレオンを射抜く。

 「お前は強い。だが、それ以上に驕らねぇ」

 それは、最大級の評価だった。

 「次は制限なしでやろうぜ」

 アレクは拳を差し出す。

 「武闘会で死ぬなよ。…俺が本気で倒す前にな」

 拳と拳が、軽くぶつかり合った。


 日が沈み王城の回廊に灯りが入る頃。

 レオンは、客間へ戻る途中、ミラに呼ばれて城の書庫を訪れていた。

 壁一面に並ぶ戦術書と、過去の武闘会記録。

 静かな空気の中で、ミラは一冊の古い記録を閉じる。

 「今日の戦い、見事だったわ」

 「ありがとうございます」

 「特に、リュカとの戦い。

 君は彼女の防御を、力で崩そうとしなかった」

 ミラは、鋭い視線を向ける。

 「闘気を力ではなく、性質として見ている」

 「…流れを読んでいるだけです」

 「それができる者は少ないわ」

 ミラは、机の上に一枚の記録を置いた。

 「これは前回の武闘会の記録よ。

 準決勝で、闘気が暴走した事故が起きているの」

 文字の一部が、明らかに焼け焦げていた。

 「公式には事故。だが私は作意的だと考えている」

 レオンは黙って耳を傾ける。

 「今回も似た匂いがするの」

 ミラは静かに言った。

 「君は外様だ。だからこそ見えるものがある」

 「…そうかもしれません」

 短い沈黙の後、ミラは微笑んだ。

 「だから協力しよう。情報は私が集める。判断は君にまかせるわ」

 それは、明確な同盟の依頼だった。


 書庫を出た直後、レオンは突然腕を掴まれた。

 「やぁ、レオン君」

 振り向く間もなく、ルークに引っ張られる。

 連れて行かれたのは、王城の高塔。

 夜風が強く、星が近い場所だった。

 「人間は空を飛べないんでしょう?」

 「えぇ、それが普通ですね」

 「じゃあ、どうして空を見るの?」

 唐突な問い。

 レオンは、星空を見上げながら答えた。

 「……届かないからだと思います」

 ルークは目を丸くした。

 「憧れ?」

 「ええ。手が届かないものほど、目を離せない」

 彼は静かに笑った。

 「そうですか…」

 夜風が翼を揺らす。

 「武闘会、怖くない?」

 「正直に言えば、少し」

 「ふふ、それでいい」

 ルークは、指で軽くレオンの額を弾いた。

 「勝ち残りなさい。また話したいから」


 夜も更け、回復施設の薬湯には静寂が満ちていた。

 レオンが一人で浸かっていると、誰かが入ってきた。

 湯けむりで最初は分からなかったが、

 近づいてくる影を見て驚いた。王女のリュカが入ってきたのである。

 「えっ、リュカさんっ!?」

 「レオン…いたの…」

 特に自分を気にする様子もなくお湯に浸かり始めるのだった。


 薬草の香りと湯気の中、リュカは静かに湯に浸かっている。

 「…レオンあなた無理をしている…」

 低く、静かな声。

 レオンは否定しなかった。

 「自覚はあります」

 「それでも前に出る。理解できない」

 「守るものがあるからです」

 その言葉に、彼女の闘気が僅かに揺れた。

 「……それなら、同じ」

 リュカは目を閉じる。

 「私は、壊さないために立つ…」

 短い沈黙。

 「あなた、神に触れている…」

 核心を突く一言。

 「気配が違う。でも…敵ではない」

 彼女は、静かに告げた。

 「武闘会で、あなたが崩れそうなら私が守る」


 それは、誰にも聞かせない誓いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ