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① オタクな転生王子だけど地味に努力してます!~今日も筋トレと魔法修行~  作者: あんてな
第三章

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第二十一話

 朝の光は、森をやさしく撫でるように差し込んでいた。

 エルフの国の客用宿舎。

 白木で組まれた回廊に、静かな足音が重なる。

 最初に目を覚ましたのは、ギルド長ガルドだった。

 「……妙だな」

 ベッドから起き上がり、首を回す。

 骨が鳴らない、筋が張らない。

 昨日まで、確かに身体は悲鳴を上げていたはずだ。

 斧を振るう腕も踏み込む脚も重く鈍っていた。だが今は

 「軽い……いや、違うな」

 ガルドは自分の拳を見つめ、ゆっくりと握り込む。

 (力が安定してる…)

 力が抜けたわけではない、むしろ芯が通った感覚。

 地に足が付くような、妙な安心感があった。

 「……神様ってのは、粋なことをする」

 誰にともなく呟き、ガルドは苦笑した。


 一方、別棟。

 銀翼のシルヴァリアの団員たちも、それぞれに目を覚ましていた。

 「……おい、ちょっと来てくれ」

 シグルが廊下で仲間を呼び止める。

 「どうした?」

 「弓を…引いてみろ」

 ノアは半信半疑で弦を引く。

 指先に、いつもより澄んだ感触が伝わった。

 「……ブレない」

 「だろ?」

 ミレイユも、腰の剣に手をかける。

 抜く、振る、止める。

 「…いつもより軽く振れる」

 エリオットは掌に魔力を集め眉をひそめた。

 「詠唱してないのに、魔力が散らない……?」

 全員が顔を見合わせる。ノアが言った。

 「昨日の寝た後だよな…」

 答えは、誰も口にしなかった。

 

 精霊騎士団の詰所では、より静かな変化が起きていた。

 若い騎士が、ふと立ち止まる。

 「……今、聞こえた?」

 「何がだ」

 「葉の……擦れる音じゃない。呼吸みたいな……」

 長年森をリュミエルが、ゆっくりと目を閉じる。

 「……精霊の気配が、濃い」

 森はまだ傷ついている。だが沈黙してはいない。

 「応えてくれているか…」

 ただ、胸に手を当て、静かに頷いた。


 そして、レオン。

 彼は窓辺に立ち、朝靄に包まれた森を見下ろしていた。

 身体の奥を流れる感覚。魔力が以前よりも活発になっている。

 呼吸を整えるだけで、自然と集中できる。

 「これが、あらたな加護の力…」

 小さく呟くと、背後から声がした。

 「やはり、あなたも感じているのですのね」

 振り返ると、王女フィリアが立っていた。

 彼女の耳元では、淡く揺れる光、精霊の影が以前よりもはっきりしている。

 「精霊たちが、今朝はよく語りかけてきますの」

 「僕も同じだ」レオンは微笑む。

 フィリアは、少し驚いたように目を見開き、それから静かに頷いた。

 「神殿での祈り…あれは、無駄ではなかったですの」

 二人はしばらく、言葉なく森を眺めた。

 違和感は、不安ではない。それは前進の兆しだった。


 やがて、人々が集まり始める。

 誰もが、何かしらの変化を感じている。

 だが誰も大声で語らない。ただ互いの表情を見て理解する。

 「……ああ」

 「……そうだな」

 言葉はいらない。彼らは同じ夜を越えた。

 同じ戦場を生き延び、同じ祝福の余韻の中にいることを。


 滞在中の数日間、彼らは久しく味わっていなかった

 何もしない時間を過ごした。治療院での精密な診察、

 温かな食事、森を望む回廊での休息。

 レオンは、朝の鍛錬を欠かさなかった。

 神殿ではなく宿舎の小さな庭で。

 誰に見せるでもなく、誰に強いるでもなく。

 ただ胸の奥に残る感謝を、静かに整えるために。

 フィリアは、そんな彼を遠くから見ていた。

 「……あなたは、不思議な人ですの」

 ある日の夕刻、彼女はそう言った。

 レオンは苦笑する。

 「休めるときに休まないと、次で倒れますから」

 「現実的ですね」小さく笑った。

 「また…森に来ることは、ありますか」

 レオンは少し考えてから答える。

 「必要とされたら」

 それは約束ではない。だが拒絶でもなかった。

 フィリアは満足そうに頷いた。


 帰還の日。

 森の入口にはエルフ国王達と精霊騎士団が並んでいた。

 大げさな式典はない。だが、別れの言葉は丁寧だった。

 「森は貴殿らを忘れません」

 王の言葉にレオンは深く一礼する。

 「こちらも忘れません」

 フィリアが一歩前へ出る。

 「レオン」

 「はい」

 「次に会うときはもっと穏やかな事であることを願っています」

 「同感です」

 二人は、短く笑い合った。


 石造りの壁、大きな城、然とした兵の配置。

 「……帰ってきたな」

 思わず、そんな言葉が零れる。

 ここは、グラディア王国城門前。

 森と精霊の気配に満ちたエルフの国とは対照的な、人の国の中枢だった。

 ガルドが肩を鳴らす。

 「空気が固ぇ、懐かしいっちゃ懐かしいがな」

 シルヴァリアの団員たちも、わずかに姿勢を正している。

 ここから先は冒険者ではなく、国家の関係者として扱われる場所だ。


 彼らは休む間もなく、謁見の準備に入った。

 エルフ王国での出来事は、すでに間者によって王城に伝えられている。

 だが、正式な報告は当事者の口からでなければならない。

 玉座の間、高い天井に王国の紋章が掲げられ、赤絨毯が真っ直ぐに伸びている。

 その先に立つのは、グラディア王アルフォンス・グラディア。

 威厳ある佇まい。だがレオンが一歩近づいた瞬間、

 その視線はわずかに和らいだ。父の目だった。

「レオンよ。無事の帰還、何よりだ」

 だが、その声の奥には、確かな安堵があった。

 レオンは深く跪く。

「はい。エルフ王国での任務、無事に完遂いたしました」


 報告は、簡潔かつ正確に行われた。

 森の異変、ダンジョン内でのアンデッドの発生。

 リッチの討伐とダンジョンの崩壊。

 そして神々の介入。

 「神々からの直接的な言葉や預言はありませんでした」

 レオンは、そう前置きした上で続ける。

 「ただ、戦いの後、眠りの中で三柱の神と邂逅しました。

 エルフ王国が信仰する、エリュシア、リュミエール、セレーネの三神です」

 場が、静まる。アルフォンス王は、すぐには反応を示さなかった。

 代わりに、隣に控えていた宰相が静かに息を呑む。

 「…加護を頂いたのか?」

 「はい。三神から加護を授かっています」

 クラウス王は、ゆっくりと頷いた。

 「そうか」それ以上、追及はなかった。

 神々の加護は国家が軽々しく踏み込める領域ではない。

 王はその線を正確に理解していた。


 報告が終わると、アルフォンス王は玉座から立ち上がった。

 「今回の件、王国として正式に感謝を表する」

 視線が、ガルドとシルヴァリアへ向けられる。

 「ギルド長ガルド、ならびに銀翼の団シルヴァリア。

 よくぞ我が息子を支えてくれた」

 ガルドは片膝をつき、豪快に笑った。

 「旧友の頼みだからな。それに今回は、こっちが助けられた」

 その言葉に、場がわずかに和む。

 アルフォンス王は、再びレオンを見る。

 「しばらくは休養に専念せよ」

 それは、王命であり父からの願いでもあった。

 「お前は、十分に役目を果たした」

 レオンは、静かに頭を下げる。

 「ありがとうございます」


 謁見が終わり、玉座の間を後にする直前。

 アルフォンス王は、誰にも聞こえぬほど小さな声で言った。

 「無事でよかった」

 その一言で、レオンの胸に張り詰めていたものが、少しだけ緩んだ。

 王子として、冒険者として、そして息子として。

 彼は、確かに帰ってきた。


 エルフの国から帰還して、一週間。

 レオンは王城内での軽い公務と、

 魔力回復を兼ねた調整訓練の日々を送っていた。

 神々の加護は派手に主張することなく、

 しかし確実に身体と魔力の巡りを支えている。

 そんなある日の昼、王城がわずかにざわついた。

 「…第三王子殿下」

 執務補佐の侍女が、珍しく少し早足で近づいてくる。

 「エルディア王国より使節が到着しております。

 先頭に立っているのは…エルディア王女フィリア様です」

 レオンは、思わず手にしていた書類を落としかけた。

 「……はい?」

 聞き返す間もなく、鐘の音が城内に響く。

 それは正式な来賓の到着を告げるものだった。


 謁見の間。

 赤絨毯の先に立つ少女は森で見た時と同じ、だがどこか違って見えた。

 淡い緑のドレス、耳元で揺れる精霊石の装飾。

 だが、その背筋はまっすぐで、視線は王城の天井すら臆さず見据えている。


 「エルディア王国第三王女フィリア・エルディア。

 本日は父王フィルシアの名代として参りました」

 流れるような一礼。

 グラディア王アルフォンスは、驚きを隠さずに目を細めた。

 「これは…思いがけぬ来訪だ。道中に問題はなかったか」

 「はい。貴国の護衛のおかげで、安全に」

 そう答えながら、フィリアは一通の封書を差し出した。

 「こちらを、アルフォンス陛下へ」

 王はそれを受け取り、封を切る。中身を読み進めるにつれ、

 その表情は驚きから、理解へ、そして静かな表情へと変わっていった。


 「……なるほど」

 王は書簡を閉じる。

 「エルフ王フィルシアより

 娘に外の世界を学ばせたい。そのための留学を願うと」

 場が、静まり返る。留学それは単なる私的な話ではない。

 友好の証であり、信頼の担保でもある。

 アルフォンス王は、ゆっくりとフィリアを見る。

 「この話、王女自身の意思と考えてよろしいかな」

 フィリアは、迷いなく頷いた。

 「はい。森の中だけでは、見えないものがあると知りました」

 その視線が、ほんの一瞬だけレオンに向く。

 彼は、気づいたが何も言わなかった。


 アルフォンス王は、玉座から立ち上がった。

 「我が国はフィリア王女と使節団を歓迎しよう!」即断だった。

 「学びの場としても、文化交流の意味でも、これ以上の機会はない」

 宰相が一歩進む。

 「滞在先や身辺の警護については…」

 「第三王子の監督下に置く」

 王の言葉に、レオンが目を見開く。

 「えっ父上?」

 「お主が適任だろう」

 フィリアは、わずかに目を丸くした後、

 小さく、しかし確かに微笑んだ。

 「よろしくお願いします、レオン王子」

 「…こちらこそ、フィリア王女」


 謁見後。

 回廊で二人きりになった瞬間、フィリアは声を落とした。

 「驚きました?」

 「正直に言うと、かなりです」

 「成功ですの」

 そう言って、彼女はくすっと笑う。

 「父は、あちらの国なら安心だと。それに……」

 言葉を切り、少しだけ視線を逸らす。

 「レオン殿がいるから、と」

 レオンは苦笑した。

 「信頼にこたえられるように頑張ります」

 その答えに、フィリアは満足そうに頷いた。

 「そういえば、フィリアって第三王女だったんだね?」

 「そうですの、上に兄と姉が二人おりますの」

 「僕の家族と一緒だね」


 こうしてエルディア第三王女フィリアの留学が、正式に始まった。

 それは平穏な日常への回帰である

 森の外で、彼女は何を見るのか。

 そしてレオンは、その外の世界をどう見せるのか。

 王城の鐘が、静かに次の始まりを告げていた。

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