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① オタクな転生王子だけど地味に努力してます!~今日も筋トレと魔法修行~  作者: あんてな
第三章

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第十九話

 隕石の衝撃が去った後、ダンジョンは悲鳴を上げていた。

 天井の奥で、鈍い音が連なって響く。岩盤が軋み、柱が傾き、

 魔力で維持されていた空間構造が、限界を迎えつつある。

 「……崩れるぞ!」ガルドが叫ぶ。

 「このダンジョン、長くはもたん!」


 その瞬間だった。ぐ、ぐぐ……不快な、湿った音。

 「……待て」

 レオンの背筋に、冷たいものが走る。

 瓦礫の山が、内側から動いた。

 「…まさか……」

 石片が転がり落ち、その奥から、黒い骨が現れる。

 下半身は完全に消失し、胸部も半分が崩れ、

 左腕は肘から先がなかった。

 「……生き……残ったか…」

 魔力で編まれた黒紫のオーラが彼を形として繋ぎ止めていた。

 「……見事だ、人の子……」

 声は、かすれている。だが、不思議と澄んでいた。

 「フィラクテリーを砕かれようと……」

 瓦礫が、肩から崩れ落ちる。

 「星を落とそうと……我は死なぬ……」

 リッチは、レオンを見た。

 その空洞の眼窩に宿る光は狂気ではない覚悟だった。

 「我はもはや軍を率いる資格を失った。

 兵を呼ぶ魔力も時間もない」

 天井の一部が崩れ、大岩が落下する。

 リッチは、それを避けようともしない。

 「だが——」

 魔力が彼の周囲で渦を巻く。

 「貴様と、刃を交える命だけは、まだ残っている」


 空気が、張り詰めた。

 フィリアが、一歩踏み出しかける。

 「レオン…」

 「下がっててくれ」

 「……大丈夫だ」レオンは、ゆっくりと前へ出た。

 「でもっ!」

 「これは…俺が受けるべき戦いだ。

 皆さんは脱出してください!」


 ガルドが、黙って斧を下ろす。

 「……行ってこいレオン!」

 「行ってきます!」

 皆が撤退するのを確認すると、


 「またせたな」

 「かまわぬ…」

 瓦礫がさらに落ちる、もはや逃げ場はない。

 リッチが、残った右腕を持ち上げる。

 指先に、魔力が集まる。

 「最後に問おう、人の子よ…」低く静かな声。

 「汝の名を聞こう…」

 レオンは、迷わず答えた。

 「レオン・グラディアだ!」

 「…良い名だ……」リッチはわずかに笑ったように見えた。

 「覚えておこう…我を討った者の名として…」

 その瞬間、天井が崩れ、二人の間の地面に落ちる。

 ダンジョンが、完全に崩壊を始めた。

 「——来い」レオンは、魔力を高める。

 「ここで終わらせる」リッチの最後。

 少年の覚悟、崩れ落ちる世界の中心で、

 一騎打ちが始まった。


 最初に動いたのは、レオンだった。

 詠唱はない。呼吸をひとつ整え、魔力を圧縮するだけ。

 踏み込みと同時に、右手を突き出す。

 「サンダー・ソード!」

 掌から放たれた雷が刃のように一直線に走る。

 だが、リッチは、避けなかった。

 残った右腕を振る。

 「アース・ウォール…」

 石と土が瞬時に隆起し、雷を受け止める。

 リッチが、低く呟く。

 「…我が生前の得意としたのは地と火…」

 その言葉と同時に床が赤く輝いた。

 「フレイムピラー…」

 足元から、火柱が噴き上がる。

 「っ!」レオンは即座に跳ぶ。

 足元に風を纏わせ、宙で体勢を変える。

 火柱がわずかに遅れて炸裂した、熱風が頬を掠める。

 「詠唱を捨てたか……」

 リッチは、感心したように言う。

 「…だが遅い」

 次の瞬間、砕けた瓦礫が宙に浮いた。

 「アース・バレット…」

 瓦礫が、弾丸のように射出される。

 「……っ!」

 レオンは、両腕を交差させる。

 「ウィンド・シールド!」

 衝撃が、腕を痺れさせる。

 「…生前の魔法か!」

 レオンは理解する。派手さはない。

 だが、無駄がない。戦場で磨き抜かれた魔法。

 「なら!」

 レオンは、地を蹴った。

 「アイス・ニードル!」

 リッチの足元から、氷の棘が生えた。

 「……甘い」

 リッチは魔力で無理やり脚部を形成し氷を砕く。

 だが、その瞬間を

 「——もらった」レオンの左手が輝く。

 「ブレイズ・エクスプロージョン!!」

 爆発的な炎が、至近距離で炸裂。

 リッチの上半身が、後方へ吹き飛ぶ。

 瓦礫に叩きつけられ、さらに胸部が崩れる。

 「……よい」

 リッチは、起き上がる。

 魔力が、無理やり形を整える。

 「近距離で魔法を撃ち合う…実に心地よい」

 天井が再び崩れる。

 大岩が二人の間に落ちる。

 同時に

 二人は同じ動きをした。

 瓦礫を蹴り砕きながら突っ込む。

 「レーザー・ブレード!」

 「ブレイズ・ソード…」

 光と炎が、衝突する。

 爆風が、二人を引き剥がす。

 着地した瞬間、レオンは膝をついた。

 「……っ」息が荒い。

 詠唱無しの連打は魔力の消耗が激しすぎる。

 対してリッチも右腕が肘から崩れ落ち両腕がなくなった。

 それを魔力で腕を作って補った。

 肩の骨に、亀裂が走っている。

 「……互いに、限界が近いな」

 リッチの声が、わずかに震える。

 だがその震えは恐怖ではない高揚だ。

 「生前……これほど魔法で斬り結んだ相手はいなかった」

 レオンは立ち上がる。

 「…俺もだ」

 瓦礫が落ちる。時間は、残っていない。

 二人は再び構えた詠唱も策もない。

 あるのは意地と誇りだけ。

 崩壊する世界の中、

 王と王子の魔法が、再び激突しようとしていた。


 天井が、大きく割れた。光が、上空から差し込む。

 同時に、ダンジョン全体が悲鳴を上げる。

 限界だ、レオンもリッチも理解していた。

 互いにもう次はない。

 リッチが、静かに両腕を広げる。

 両腕とも魔力で辛うじて形を保っている。

 「…我は、かつてかの地を治める王だった…」

 低く、しかし誇り高く。

 「国を守るため、魔法を学び、剣を取り、そして死んだ…」

 魔力が集束する。その密度は、

 これまでとは比べものにならない。

「この一撃に、我が全てを賭けよう」

 リッチの胸部、砕けた骨の奥で、魔力核が燃え上がる。

 「エンド・グラウンド!」

 詠唱はない。だが王として磨かれた技術が、

 魔法を成立させる。地と火が、融合し、

 赤黒い奔流となって、レオンへ向かう。

 その瞬間。レオンはゆっくりと息を吸った。

 「……俺は、王子だ」声は迷いを含まない。

 「生まれで戦うわけじゃない」

 両手を前に、掌の間に、

 ありとあらゆる属性の魔力が薄く重なっていく。

 混ざらない、ぶつからない、制御され、束ねられている。

 レオンの魔力が、一点に圧縮される。

 「オール・エレメンタル!!」

 次の瞬間レオンの掌から、虹色の光線が放たれた。

 細いだが、空間を貫く密度。

 赤黒い地火の奔流と、虹色の光が、正面衝突する。

 一瞬、音が消えた。

 そして。衝撃が、ダンジョン最奥を吹き飛ばす。

 光が溢れ、熱と衝撃が、全てを塗り潰す。


 レオンは膝をついた視界が揺れる限界だ。

 煙が晴れる…リッチはまだ生き残っていた。

 胴体はほぼ消失し倒れていた。

 魔力は霧のように散っている。

 「……見事だ」

 声は、もう、かすれていた。

 「最後に…」

 リッチは手を挙げたると奥の瓦礫が動いた。

 そこから現れたのはリッチの使っていた大きな杖だった。

 リッチは、ゆっくりと顔を上げる。

 その瞳に光が宿る。

 「若き王子よ、杖をそなたに…」

 杖がレオンの元へ飛んできた。

 「どうして杖を…?」

 「この杖は強き者が持つべきだ…」

 「分かった…」

 「では行くがよい…」


 次の瞬間魔力が完全に霧散した。

 魔力核が静かに砕け音もなく消える。

 残ったのは静寂そして、

 ダンジョンが最終崩壊を始めた。

 レオンは、立ち上がろうとしてふらつく。

 遠くから、仲間たちの声が聞こえた。

 生きて、帰らなければならない。

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