第一話
あたたかい、やわらかな光が、世界を満たしていた。
光の中に溶けていくような感覚だった。
柔らかくて、心地よくて、まるで上質な毛布にくるまれているみたいだ。
しばらくたって目を開けてみた。
天井がやたら白い、そして吊るされたシャンデリアっぽい何か、
しかも自分にかけらられているこのシーツ、
やたら上質でふかふかやけにふかふか!ベッドもとても高級そう。
手足は動かないし、体はぷにぷに、小さな体が震える。
いや、というか動かそうとしてもプルプルしてる。筋力ゼロ。
まるで高難度のバランスボール。
はい確定。これはもう完全に赤ちゃんの手である。
焦っているうちに、誰かにそっと抱き上げられた。
腕の中は驚くほど温かくて、甘い花の香りがする。
「ようこそ……私の愛しい子。」
優しく微笑む彼女の胸に抱かれた瞬間、
心の奥がじんわりと熱くなる。
(ああ……この人が、この世界の母親なんだ)
優しい声。包み込むような愛情の響き。
視界はまだぼやけているけれど、金色の髪が光を反射しているのがわかる。
頬を撫でる指先が、やわらかくて温かい。
「まぁ…起きたのね、レオン。」
声がやわらかい。まるで鈴の音。
彼女の瞳は澄んだ碧。
――まって、これ絵画の中の女神ですか?
「あーうー。」
「ふふ、今日も元気ね。」
(いや俺喋ってるつもりなんだけど!? 翻訳されてない!!)
(“今日も”ってことは……俺、もう何日か経ってるのか?)
記憶は転生前の最後――白い光に包まれた瞬間で途切れている。
どうやら、産まれてすぐに意識が落ちたパターンらしい。
(つまり今、異世界二周目の初の朝…!)
(それにレオン……いい名前じゃん。短くて覚えやすいし)
テンションが上がる俺。
だが喋れない、発音は全部「赤ちゃん言葉」固定。
そんな俺の内心をよそに、母らしき人が優しく微笑む。
「本当に、王子とは思えないほど穏やかな顔ね。」
(え、王子? 今、王子って言った!?)
俺の脳内で警報が鳴り響く。
庶民派どころか、王族転生確定である。
(まじかよ…貴族どころか王族…覚えること多そうだぜ)
そこへバァンと扉が開いた。
「お母さまーっ!! 赤ちゃんってほんと!?」
「見せて見せてーっ!」
ドタドタと入ってきた兄姉4人と父親と思われる人たち。
全員美男美女。遺伝子の暴力。
「ちっちゃい!」
「ほっぺ柔らかい~。」
「名前は? あ、レオンだって!」
「わたし、この子と遊ぶ~!」
(ちょ、顔近い! 俺のパーソナルスペース!!)
それを見て笑う父。
でっかいマントをひらひらさせててるし背もでっかい。
母が父に俺を渡すと、父は俺を持ち上げて、
「我が第三の息子、レオン・グラディアよ。
この国の未来を共に担おうではないか!」
と高らかに言った、荘厳な声が部屋に響く。
「あなた、まだこの子は生後三日ですよ。」
「む? そうか……いやしかし、気概は大切だ。」
その後、ベッドに寝かされた俺。
「母上、レオンの体調はどうですか?」
低く落ち着いた少年の声。
振り向くと、金髪碧眼の少年が立っていた。
10歳くらいだが立ち振る舞いが完全に王族。
(え、この子が長男かな?)
「健康そのものよ」
彼は俺の顔を見て、優しく微笑んだ。
「ふむ、元気でなによりだ。弟の顔を見るのは、やはりいいものだ」
(語彙力が貴族! テンション落ち着きすぎでは!?)
続いて、栗色の髪の少女がのぞき込んできた。
「きゃー! レオン起きたの!? 私もほっぺ触っていい!?」
(あっ、この人は自由人タイプだ! 絶対元気系姉!)
頬をむにっとされる俺。
ぷにぷに音がしそうなほどのスキンシップ。
(やめて姉上! その行為、俺の尊厳がぷよぷよになる!)
さらに小さな兄妹が続いて現れた。
「おおー、ほんとに動いた!」「あーうーって言った!」
「かわいい!」「変な顔してるー!」
(おまえらうるさい!!)
まるで幼稚園の集会みたいに賑やか。
いや、でも――この空気、悪くない。
転生早々、温かさを感じる家庭。
(でもいいな……こういうの。前世じゃ味わえなかった)
王様は豪快に笑い、家族みんなもつられて笑った。
笑い声が部屋に響く。温かい、やわらかい音だ。
その時、俺の手のひらにほのかな光が灯った。
白く揺れる光の粒、兄姉が一斉にどよめく。
「えっ、レオン光ってる!」
「魔力!? もう魔法使えるの!?」
(うそ!? 俺何もしてないんだけど!?)
父王が感嘆の声を漏らす。
「おお……生まれてすぐに魔力の光を……やはりうち子は天才だったか!」
母が優しく俺の頭をなでる。
「ふふっ。きっとこの子は大きくなったら素晴らしい子になるわ。」
「みんな、ありがとう。仲良くしてあげてね。」
「もちろん!」「はい!」「うん」「…守ります」
四人の声が重なり、部屋に小さな笑いが広がる。
その光景が、胸に深く刻まれた。
(あぁ……こんな家族の中で生きられるなんて、すごく……幸せだ)
王族という現実にまだ混乱しているはずなのに、
不思議と怖さよりも、温もりが勝っていた。
父王が俺に近づき、その額にそっと手を置く。
「我が息子よ。この国の未来を照らす光であれ」
低く響く声に、空気が震える。
…その言葉が、心の奥にじーんと響いた。
俺は小さく拳を握った。
「きゃー! 握りこぶしした! かわいいっ!!」
「お兄さま、見て! 決意してる顔してる!!」
(よし、決めた!明日から体幹を鍛えるぞ!寝返りから筋トレスタートだ!)
そう決意した俺は、赤子特有の眠気が襲ってきてドヤ顔で眠りについた。
王妃はそれを見て微笑み、優しくつぶやいた。
「ふふ、もう立派な王子の顔ね」
(うん、たぶん寝顔ドヤってる)
こうして俺の第二の人生――異世界ライフが、静かに幕を開けた。




