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① オタクな転生王子だけど地味に努力してます!~今日も筋トレと魔法修行~  作者: あんてな
第三章

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第十七話

 リッチが両腕を広げた瞬間、祭壇室の空気が一変した。

 瘴気が渦を巻き、床に刻まれた儀式陣が脈打つように光を放つ。

 まるでダンジョンそのものが呼吸を始めたかのようだった。

 「来るぞ……!」

 レオンが叫ぶより早く、死霊の奔流が解き放たれた。

 地面が砕け、スケルトンの群れが一斉に起き上がる。

 だがその動きは鈍重ではない。瘴気によって強化され、

 関節の軋む音すら戦意に満ちていた。

 「前衛、押し返せぇぇぇ!!」

 ガルドの咆哮と同時に、精霊騎士団が前に出る。

 斧、剣、精霊槍がぶつかり合い、金属音と骨の砕ける音が交錯した。

 「数が多い……!」

 「召喚速度が異常だ!」

 スケルトンは倒しても倒しても、祭壇の周りから次々と生まれてくる。

 その様子を見下ろしながら、リッチは低く嗤った。

 「無駄だ。この場は我が領域。死は尽きぬ。

 我、魂も破壊されることはない」

 次の瞬間、リッチの指先が光った。

 黒紫の結界が展開され、空間そのものを歪める。


 「来る……ホーリーバリアだ!」

 レオンが即座に判断する。

 彼は一歩前に出て、杖も詠唱も使わず魔力を構築した。

 光の壁が波のように広がり、リッチの魔力とぶつかる。

 壁は揺らいだが、完全には崩れない。

 「……さすがに硬いな」

 「レオン…精霊が、近づけませんの……!」

 フィリアの声は必死だった。

 彼女の周囲を漂っていた精霊たちが、

 魔力に押されるように後退している。

 リッチがゆっくりと首を傾げる。

 「精霊術か。……この場では意味を成さぬ」

 「それは……どうかな」

 レオンは視線を逸らさずに言った。

 「フィリア、強い精霊魔法を使う必要はない。

 弱くていい。通路を作るだけでいい」

 「……通路?」

 「精霊の力で瘴気の流れを、ほんの一瞬乱せれば…」

 フィリアは一瞬、目を見開いた後、強く頷いた。

 「…分かりましたの!」

 彼女は両手を胸の前で重ね、深く息を吸う。

 「精霊さん…怖がらなくていいですの。力を貸してください……」

 淡い光がか細く、しかし確かに灯った。その瞬間。

 「今だ!」

 レオンは魔力を一気に解放する。

 「ライト・レーザー!!」

 光が一直線に走り、精霊が作った瘴気の小さい隙を正確に貫いた。

 バリィィィン!!

 リッチの結界に亀裂が走り、破片のような魔力が四散する。


 「……ほう」

 リッチの声に、わずかな驚きが混じった。

 「術式の隙を突いたか。若いが……理解が早い」

 「褒め言葉なら、ありがたく受け取るよ」

 その間にも前線は激化していた。

 「うおおおっ!!」

 ガルドが戦斧を振り抜き、骸骨兵をまとめて粉砕する。

 だが背後から、新たな死霊が立ち上がる。

 「くそっ……キリがねぇ!」

 「左から来るぞ!」

 「防壁展開、間に合え!」

 ガルドの怒号と、シルヴァリア、精霊騎士団の攻撃が飛び交う中、

 レオンは違和感を覚えた。それはリッチが

 自身の魂を保管するアイテム、フィラクテリーを敵味方の攻撃が

 四方八方に飛んでいるにもかかわらず

 気に掛ける素振りを見せないことだ。

 「……フィリア!」

 「は、はい!」

 スケルトンの斬撃を精霊障壁で弾きながら、フィリアが振り向く。

 「精霊視で見て、魔力が一番安定してる場所はどこ?」

 フィリアは一瞬目を閉じ、意識を精霊と同調させる。

 「…中央の……祭壇です。まるで…木のように根を張っているますの!」

 その言葉に、レオンの背筋がひやりとした。


 次の瞬間、ガルドが吹き飛ばされ、床を転がる。

 「ガルドさん!」

 「無事だ!だが……この数、明らかに祭壇から湧いてやがる!」

 レオンは視線を走らせ、戦場全体を俯瞰する。

 スケルトンが出現する位置、魔力の流れ、魔法陣の明滅。

 すべてが——中央の祭壇に収束していた。

 (……そうか)

 フィラクテリーが見つからない理由。

 リッチが壊せないと言う理由。

 レオンは呟く。

 「あれ自体が、フィラクテリーだ…」

 「え……?」フィリアが息をのむ。

 「祭壇そのものが、フィラクテリーになってるんだ!」

 その瞬間、リッチが初めて大きく反応した。

 「……ほう?」

 魂の炎が、僅かに揺れる。

 「気づいたか、人の子よ」

 祭壇の魔法陣が一斉に輝き、床が脈打つ。

 「我が魂は、小さき器に収まる存在ではない。

 そう、この祭壇こそが我が器よ!」

 フィリアの声が震えた。

 「そんな…じゃあ…リッチを倒すには……」

 「祭壇を破壊するしかない」レオンは即答した。

 「だが、簡単じゃないぞ。

 あれは、フィラクテリーであり、魔力炉そのものだ」

 ガルドが斧を肩に担ぎ直し、歯を剥いた。

 「祭壇を壊せば、リッチはただのアンデットに戻る」

 「……愚かな」

 リッチの声が低く響く。

 「祭壇を壊せば、このダンジョンは崩壊する。

 貴様らも、生き埋めになるぞ」

 「それでも、放っておくわけにはいかない」

 レオンの声は、揺るがなかった。

 「作戦変更だ。みんな全火力、祭壇へ」

 「レオン様……!」

 「精霊たちも……覚悟を決めました!」


 祭壇の魔法陣が赤黒く輝き、空気が悲鳴を上げる。

 リッチは両腕を広げ、哄笑した。

 「来い……!我が魂を砕けるものなら、砕いてみせよ!」

 こうして戦いは、リッチ討伐から祭壇破壊戦へと局面を変えた。

 祭壇の魔法陣が唸りを上げるたび、瘴気が波のように広がる。

 スケルトンの群れはなおも湧き続け、

 前線は完全な消耗戦に突入していた。

 「くそっ……!」

 ガルドの戦斧が骨を砕くが、間髪入れずに次の個体が立ち上がる。

 「このままじゃ押し切られるぞ!」

 (祭壇はフィラクテリー兼魔力炉。通常攻撃じゃ、表層を削るのが限界…)

 彼は戦場の中心で立ち止まり、声を張り上げた。

 「全員、聞いてくれ!」

 その声は、不思議と混戦の中でもはっきり届いた。

 「祭壇を破壊するには、一点に最大火力を叩き込むしかない」

 「つまり……?」フィリアが問い返す。

 レオンは一度、深く息を吸った。

 「俺が超級魔法を撃つ!」一瞬、空気が凍りついた。

 「正気か、坊主!?」ガルドが叫ぶ。

 「超級魔法ってのは、王国でも片手で数えるほどの

 魔導士しか使えねぇ代物だぞ!しかも、」

 「分かっています」レオンは即座に遮った。

 「詠唱が長く発動まで時間もかかる。さらに術者も無防備になる…」

 レオンは続ける。

 「詠唱時間は…最低でも三十秒。その間、俺は一切動けない」

 「三十秒だと……!?」シルヴァリアの仲間たちが顔色を変える。

 この戦場での三十秒は、永遠にも等しい。


 ガルドは一瞬だけ黙り込み、次の瞬間、豪快に笑った。

 「……いいじゃねぇか」

 「ガルドさん……?」

 「坊主が全力でぶち抜くってんなら、

 俺たちはその時間、死ぬ気で守るだけだ」

 彼は戦斧を地面に叩きつけ、前に出る。

 「俺が前線を張る!精霊騎士団、シルヴァリアは側面と後方を死守しろ!」

 『了解!』『やってやるさ!』仲間たちが即座に動き始める。

 フィリアはレオンの隣に立ち、強く頷いた。

 「私も…詠唱補助をします。

 精霊たちに、レオン様の魔力を守らせます」

 「ありがとう、フィリア」

 その言葉に、彼女の頬が少しだけ赤くなる。

 その様子を、リッチは静かに見下ろしていた。

 「愚かだ…この場で詠唱など、自殺行為に等しい…」

 「だからこそ、やる価値がある」

 レオンは一歩下がり、魔力を体内で静かに循環させ始めた。

 「全員、頼む。俺が詠唱を終えるまでてえてくれ!」

 ガルドが斧を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべる。

 「言われなくてもな、行くぞ野郎ども! 王子様の晴れ舞台だ!」

 次の瞬間、スケルトンの群れが雪崩れ込む。

 「来たぞ!密度が上がってる!」

 「前衛、耐えろ!」

 レオンは静かに目を閉じた。

 そして、低く、確かな声で詠唱を始める。


 「天を飾る星よ、永劫の軌道を外れ、我望みにに応えよ…」


 その背を守るように、

 ガルドが、精霊騎士団が、シルヴァリアが前に立つ。

 鋼と骨がぶつかり合い、

 スケルトンが激しく衝突する。

 戦場の中心で、

 ただ一人動かぬ少年の詠唱が、静かに力を集めていた。

 この三十秒が、すべてを決める。

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