第十二話
エルディアの奥へ進むにつれ、森は徐々に沈黙を深めていった。
本来は鳥の声、精霊のささやき、風の歌が溢れる道だという。
だが今は、風の音すらほとんどしない。
「とても静かですね」
「祈りの神殿は、この森のどこよりも静かな場所です。
外の者が入ることは滅多にないのですが……
特別に、レオンさんをご案内しますの」
フィリアがそう言って森の奥へ踏み出したとたん、
途端に空気が変わった。
木々のざわめきが消え、風の音すら穏やかになる。
まるで森そのものが、ふたりの歩みを見守っているようだった。
しばらく進むと、森の天井が開け、柔らかな光が降り注いだ。
そこだけ、周囲の世界と切り離されたような静寂の空間。
蔦に覆われた石造りの建造物へたどり着く。
「ここが、祈りの神殿です」
フィリアの言葉が吸い込まれるほど静かだった。
入り口には水のような膜が張られており、
フィリアがそっと手をかざすと静かに道が開いた。
「神殿内は、神の力が濃い場所です。
普通の人は、長くいると体調を崩します。
でも……レオンさんなら問題ないと思います」
中に入ると、ひんやりとした空気の向こうに、透明な霧が漂っていた。
天井から差し込む光は淡い青白さを帯び、まるで水の底のような静けさがある。
神殿の中央には、祈祷台と、三つの円形の祭壇。
それぞれに水晶のような石が置かれていた。
フィリアが囁く。
「この三つの祭壇は水精神エリュシア、音律神リュミエール、
そして月夢神セレーネの祈り場です」
「三柱ともこの国が特に深く信仰している神でしたね」
彼女は祈祷台の前に立ち、両手を胸に重ねた。
「レオンさんも神々に祈りをささげられてはいかがでしょうか?」
レオンは目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。
すると足元の石がわずかに震え、胸の奥で何かが響き始めた。
低い水音、揺らぐ弦の調べ、遠くで誰かの眠たげなささやき。
気づけば、体がふっと軽くなる。
(…まただ)
意識だけが抜け落ち、深い深い水の底へ落ちていくような感覚。
外の世界の声が遠ざかり、光が溶けて混ざり合う。
そして意識は、以前にも来た神々の領域へと辿り着いた。
以前の記憶を頼りに会議室のある場所へ向かっていると自分を呼ぶ声がした。
その声の方へ向かうと小さな庭園のような場所へたどり着いた。
庭園にたどり着いたレオンの前に、三つの気配が柔らかく浮かび上がった。
「ようこそ小さき子よ。あなたとは…再び会えて嬉しいわ」
透き通るような青髪を持つ女性は水精神エリュシア様
片手に流れる水が集まり、ゆるやかに形を変える。
「ふむ……やはり興味深い響きを持つ子だな」
銀の髪に小さな音符のような光をまとっている男性は音律神リュミエール様、
歩くたびに空間が音を奏でる。
「久しぶり……やっと、会えた……」
淡い紫の衣をまとい、眠たげに微笑む少女は月夢神セレーネ様。
その気配は夜の静けさそのもの。
その声は優しく、不思議な安心感があった。
エリュシアが一歩近づく。
「あなたは…この国で何を望みますか?」
「望み…?」
「ええ。この国に入ってすぐ、聖樹はあなたを見た。
精霊はあなたを歓迎し…今、この神殿ですらあなたを導いた」
リュミエールが、少し愉快そうに肩をすくめる。
「つまり、おまえが何をしに来たのか。
それがこの国の運命に、どんな響きをもたらすのか我らは知りたい」
続けて、セレーネが静かに口を開いた。
「あなたがここに来るのは…必然。それだけはわかってる。
でもね…その必然が祝福か、試練かは…まだ、決まっていないの」
「…………」
その言葉は、霊気のように肌を撫でた。
「レオン…この国には、いま静かにほころびが生まれつつあるわ」
「ほころび…?」
「人々の目にはまだ見えません。
けれど土地の脈が揺らぎ、魔力の流れがわずかに乱れている」
リュミエールが指先で空間を弾くと、音が濁った。
「調和が失われつつあるのだ。
音が乱れ、森がざわつく。
我らは直接干渉できぬが…おまえは別だ」
最後に、セレーネが主人公の手に触れる。
柔らかな夜風のような温度。
「もし…あなたが助けたいと思うなら、わたしたちは、あなたに道を示す。
けれど…選ぶのはあなた自身」
その言葉が胸の奥深くに響く。
三柱の神は同時に手をかざした。
淡い水の光、音の波紋、月光の粒が主人公の胸に吸い込まれる。
「あなたに力を授けます」
エリュシアが言う。
「あなたが異変に気づくための感覚。森の乱れを察するための眼差しを」
「そして…」
リュミエールが微笑む。
「この国で戦うならば、おまえは必ず音を聴くだろう。そのための耳を」
「夜、寝てる時にの時に私たちに…また会えるようにする能力を…」
セレーネが囁く。
「あなたの夢の中で…ね」
三柱がゆっくりと離れていく。
光がほどけ、空間が崩れ始める。
「レオン……気をつけて」
「森は、美しいだけの場所ではない」
「でも……あなたなら大丈夫」
最後の声は、月光の余韻とともに溶けた。
意識が急速に浮上し——
「……レオンさん! レオンさんっ!」
フィリアの声が響く。
気がつくと、神殿の祈祷台の前。
フィリアが不安そうに肩に手を置いていた。
「すみません…ちょっと呼び出しが…」
「呼び出し…?。すごい気配が…神殿全体がレオンさんに反応して…」
神に会ったなんて、そう簡単に言って信じられるものじゃない。
でも嘘をつく気にもなれなくて…
「そうだね…この国の三柱の神々が、俺に語りかけてきたんだ」
そう言うと、フィリアは驚くどころか静かに息を呑み、
まばたきすら忘れたように俺を見つめた。
「やはり、貴方は選ばれた者なのですね」
「いや、そんな大袈裟な…」
「いえ、そうでなければ、この聖樹の根源に触れるほどの
神気を感じるなんて…普通はあり得ませんの」
フィリアは振り返り、大聖堂を見上げる。
揺れる金髪が光に溶けて、まるで聖樹そのものの一部のように見えた。
「聖樹は精霊とも神とも繋がる門だと伝えられています。
特に水精神エリュシア様と音律神リュミエール様、
そして月夢神セレーネ様は…私たちエルフが深く信仰する御方。
レオンさんが何かを感じ取られたのなら、それはきっと意味があることですわ」
「意味か……」その時だった。
ざわり、風でも吹いたのかと思った。でも違う、空気の流れではない。
もっと深い、森の根に触れるような感覚。
大地の奥底から、かすかに響くざわめき。
「…今の、感じましたか?」
俺が周囲を見渡すと、フィリアも耳に手を当てて目を細めた。
「…ええ、今森が、少し軋んだような…?」
彼女の言葉は普段の穏やかさとは違い、どこか緊張を帯びていた。
「聖樹の近くにいると、魔力の流れがよく分かりますの。
でも…今の感覚は、少し…嫌な感じがしました」
聖樹の葉が、風もないのに震えている。
森の奥で、何かが呼吸しているようなそんな生々しい気配。
俺の胸がかすかにざわつく。
(……まさかもう、何かが?)
神々が言っていた、ほころび、森の均衡の乱れ。
そして近いうちに訪れる何か。
全部が繋がり始めているような気がした。
「フィリアさん…この国で、最近何か変わったことは?」
フィリアは首を傾げつつも、表情を曇らせた。
「…正直に言いますと、ほんの数日前から森の奥で精霊たちが少し…
落ち着かないようなのです。でも王宮は大したことはないと…」
「大したことじゃないならいいけど……」
胸の奥のざわめきが、静かに強くなる。
俺は空を仰いだ。聖樹の巨大な枝葉の間から、
柔らかな陽光が差し込み、白金の粒子が舞っている。
美しいけれど、その美しさの奥に、目には見えない亀裂が走り始めている。
三柱の神々が示したほころび…エルフの国で何かが起きている。
それを確かめねばならない。
【名前】レオン・グラディア
【年齢】5歳
【職業】グラディア王国第三王子
【レベル】20 経験値 571/15939
【体力】 :345
【魔力】 :34490△
【持久力】:292
【筋力】 :388△
【耐久力】:322△
【知力】 :738△
【精神力】:874
【敏捷】 :410△
【技量】 :323
【幸運】 :3657△
【スキル】:魔術王 鑑定 状態異常無効 精神異常無効 神眼 地獄耳 夢幻
【加護】 :創世神の加護 魔理神の加護 戦勇神の加護 風翔神の加護




