第九話
試験から数日後、朝の光が差し込む王都ギルドの玄関前。
レオンは背負い袋を下ろし、軽く深呼吸した。
緊張で指先が少し震えている。けれど胸の奥は静かに燃えていた。
「……今日が、初めてのダンジョンか」
呟く少年の隣で、ガルドが腕を組む。
「おう。だが、今日は単独じゃない。
銀翼の団シルヴァリアの連中が一緒だ。あいつらは信頼できる」
名を聞いた瞬間、周囲の冒険者がどよめいた。
銀翼の団は王都でも指折りの中堅パーティ。
剣士シグルをリーダーに、双剣士ミレイユ、斥候ノア、
魔導士エリオット、神官セリア、重戦士バルガスの六人で構成される実力派。
彼らがギルドの階段を下りてくると、空気が変わった。
レオンより何倍も大きな影が近づく。
そして、金髪の青年が笑いながら手を差し出した。
「君がレオン王子か。俺はシグル。今日はよろしく頼む」
「こちらこそ、勉強させていただきます」
礼儀正しく頭を下げると、背後から仲間たちの笑い声がした。
「おいシグル、ガキを連れてくのは久しぶりだな!」
「下手すりゃ俺たちより強いかもよ?」
レオンは苦笑しながらも、肩の力を抜いた。
ギルド長が一歩前に出て、低い声で言う。
「いいかレオン、今日の任務は観察と補助だ。
危険を感じたら、すぐ下がれ。絶対に死ぬな」
「はい!」その言葉だけは、どんな訓練よりも重かった。
王都南方にある浅層ダンジョン「エルド鉱窟」。
岩肌の割れ目から冷たい風が吹き、湿った空気が漂っている。
入口に立つと、シグルが剣を抜いた。
「じゃあ、ルール確認だ。近接職は前衛、
魔法職とレオンは後衛でサポート。魔力感知と警戒を頼む」
「了解です」レオンは杖を構え、静かに魔力を広げた。
魔力が柔らかく灯り、青白い光が壁を照らす。
その光はまるで呼吸しているように脈打ち、洞窟の奥を照らしていった。
入って二十分ほど経った頃だった。
「前方の岩の影からゴブリンが来ます!」
小型のゴブリンが数匹、物陰から飛び出してくる。
シグルが剣で斬り伏せるのと同時に、レオンは短詠唱を重ねた。
「レオン、お前は後衛。魔法で援護をたのむ。
セリアは回復。ミレイユ、囮を頼む!」
「了解〜♪ レオンくん、焦んなよ!」
ミレイユが軽やかに飛び出し、双剣を閃かせた。
ゴブリンの注意が一斉に彼女へ向かう。
その隙に、レオンが詠唱を始める。
「フレイム・アロー!」掌から火の矢が放たれ、一直線に飛ぶ。
ゴブリンの一体が燃え上がり、悲鳴を上げて転げ回った。
その様子に、レオンの心臓が高鳴る。
だが次の瞬間、別のゴブリンがミレイユに飛びかかった。
彼女は身をひねって回避したが、すぐ背後にもう一体。
レオンは咄嗟に叫んだ。
「ウィンド・シールド!」空気が渦を巻き、透明な壁が形成される。
ゴブリンの攻撃がそれに弾かれ、ミレイユが一瞬の隙に反撃した。
「ナイス! やるじゃん、王子!」
「ありがとうございます!」
その間に、バルガスが前線で斧を振るう。
空気を裂く一撃が、ゴブリンをまとめて吹き飛ばす。
その威力に、洞窟の奥が震えるほどだった。
「ひゃははっ! まだまだ来るぞ!」
「レオン、次の詠唱準備!」
「了解です!」
エリオットの声と共に、魔法陣が地面に広がる。
紫の稲光が走り、残りのゴブリンが痙攣しながら倒れた。
静寂、全員が息をついた。戦闘は、およそ一分。
初陣としては上出来すぎる結果だった。
「…ふぅ。やっぱり群れで動くのは厄介ね」
「レオン、火の矢も風の防壁も悪くなかった。」
「はい!」身体の奥で、まだ心臓が暴れている。
けれど、その感覚が妙に心地よかった。
戦闘後、一行は小休止を取った。
セリアが回復魔法を唱え、光が淡く仲間を包む。
ミレイユは岩に腰を下ろして笑い、ノアは静かに洞窟の奥を見つめている。
「ねぇ強い魔獣がいないからって、油断しないでよね〜」
「だな。油断してると、誰かがやらかす」
「……風が言ってる。次の角を曲がった奥に何かいると」
ノアの言葉に、空気が一気に張り詰めた。
警戒しながら先へ進むと、
「全員、配置につけ」シグルの声が低く響く。
次の瞬間、洞窟の奥から、地鳴りのような音が聞こえた。
ドゥゥゥン——。岩壁が震え、砂が落ちる。
影の中から、巨大な腕が姿を現した。
石のような肌、二つの赤い眼、口から漏れる低い唸り。
「ロック・オーガか……!」
バルガスが戦斧を構える。
セリアがすぐに補助魔法を詠唱し、エリオットが雷陣を再構成。
そしてレオンは、(今度こそ、俺も……みんなの力になりたい!)と思った。
「アクア・テンペスト!」
水と風が交じり合い、竜巻のような水柱が生まれた。
洞窟全体が揺れ、ロック・オーガを飲み込んだ。
だがそれでも巨体は崩れない。
「やるじゃねぇか坊主!押し込むぞッ!」バルガスが吼えた。
最後にノアが呟いた。
「風よ、沈め!サイレント・エッジ!」
空気が一瞬震え、巨体が崩れ落ちた。
ただ、魔力の残滓が舞うだけだった。
全員、しばらくその場に立ち尽くした。レオンの頬には煤がつき、息は荒い。
けれど、その瞳は——確かに光っていた。
「……終わった、んですよね?」
「ああ、間違いねぇ。こいつがこの層の主だ」
バルガスが斧を地に突き立て、肩で笑った。
「ふぅ……やっぱり坊や、ただの王子じゃないわね」
セリアが安堵の笑みを見せる。
エリオットも短く頷き、周囲を確認していた。
「よし、記録用の魔道具に討伐情報を登録する。
ノア、奥の通路を軽く確認してこい」
「了解」
ノアが風を纏いながら、奥へと消えていく。
その背中を見送りながら、レオンは手のひらを見つめた。
指先には、まだ微かな魔力の震えが残っている。
——グゥゥゥン……。低い地鳴り。
天井の岩が微かに揺れた。誰もが反射的に上を見上げる。
すぐにレオンは周囲を警戒した。
魔力の揺らぎが、一瞬だけ異様に大きく跳ねた。
「…シグルさん、下層の魔力の流れがおかしいです」
「なんだと?」
言葉を言い終わるより早く、轟音が響いた。
地面が崩れ、大穴が開く。
「グラビティ・フィールド!」
瞬間、レオンは魔法を展開し穴の外側に
シグル達を移動させたがレオンは下の階層に落ちていく。
「レオン!!」シグル達が呼ぶ声が遠くから聞こえた。
最後に見えたのは、仲間たちが手を伸ばす姿だった。
レオンは重力魔法でゆっくりと着地した。
レオンはすぐに魔力感知を広げ、場所を観察した。
(……魔物の数が増えてる。これは、ただの事故じゃない)
足音が響く、暗闇の奥から、無数の赤い目が光った。
ゴブリンではない。黒い毛皮の魔獣シャドウウルフ。
杖を構え、息を吸う、魔力が自然と形を成す。
火、風、水、そして土。
彼の周囲に四つの陣が同時に展開した。
「フォース・ブレード!」
四属性がそれぞれ剣となり放たれる。
前方の魔獣が一瞬で消し飛び、壁をえぐる。
「立ち止まっていても仕方ないな」
レオンはダンジョンの奥へと進むことにした。
崩落した通路を抜け、レオンは深層へと続く階段の前に立っていた。
空気が重い。息を吸うだけで肺が軋むような、濃密な魔力の圧。
「…この場所、さっきの層とは違うな」
「この感じ、なにかが魔力の流れを変えているのか?」
彼の瞳が淡く輝いた。「感じる。中心は、この先だ」
レオンは恐れを見せず、進んだ。
奥へ進むにつれ、壁面が赤く染まり始めた。
魔力が熱に変わり、石が脈動する。
洞窟全体が心臓のように鼓動しているそんな錯覚。
中央の広間に出ると、そこには巨大な結晶があった。
直径二メートルはある、紅玉のような魔力を放つ石。
その表面には黒い亀裂が走り、瘴気が滲み出していた。
「これが俗に言うダンジョンコアみたいなやつかな?」
レオンは一歩前に出た。ダンジョンコアの表面から、魔力が噴き上がる。
噴き出した魔力が弾け、魔獣の姿を形作る。
「このままでは危険だ!」彼は杖を構え、短く息を吐いた。
「行きます!」魔力が溢れる、少年の周囲に、四つの魔法陣が重なった。
赤、青、緑、黄。四属性が螺旋を描き、彼の背後で開く。
「火よ、水よ、風よ、土よ。フォース・エレメント!」
轟音が響いた。火の柱が立ち、瘴気の群れを焼き尽くす。
水の奔流がそれを洗い、風が渦を巻いて押し返し、
最後に土の鎖が魔晶石を包み込んだ。
魔力の嵐の中心で、レオンが息を吐く。
ダンジョンコアが再び脈動した。
魔獣が再び生まれてくる。レオンはすかさず魔法を唱え続ける。
「魔力には余裕はあるけど…このままでは埒が明かないな」
少年の額から汗が滴る、コアの周囲に魔力が集まり始めた。
それは形を持ち、やがて巨大な影を形成していく。
それの姿を自分のオタク知識からひねり出した結果
ゴーレムのようなものと判断した。
金属の脚が地を踏みしめ、肩の装甲が展開される。
中心に埋め込まれたコアが、赤い光を反射した。
「自己防衛システムか?」
言葉を終えるより早く、巨体の拳が空を切った。
爆風が生まれ、岩塊が弾け飛ぶ。
レオンは飛び退きながら詠唱を始める。
「ウォーターウィンド・ランス!」
水と風の槍がゴーレムの胸を貫くが、わずかに表面を削るだけ。
弾き飛ばされた槍が岩に突き刺さり、火花が散った。
「くっ……硬すぎる!」風を足に集め、跳躍力を高める。
岩で巨大な拳を作り、それに火を集約し熱を帯びさせる。
「ロックフレイム・インパクト!」
爆ぜるような火を岩拳にまとい、巨体の顔面を撃つ。
衝撃が走り、装甲の一部が焼け崩れる。
だが、すぐに金属のような音とともに再生していく。
レオンは歯を食いしばった。
「自己修復…コアから魔力を吸って回復してるのか!」
コアから放たれる赤光が、一層強く脈動する。
ゴーレムの動きが速くなり、拳が唸りを上げた。
地面が砕け、魔力が爆ぜる。
障壁を展開するも、腕が痺れ、体力の限界が迫る。
(……これじゃ、もたない……!)
瓦礫を避けながら後退するが、背後はすでに行き止まり。
ゴーレムの眼が光り、全身が赤に染まった。
「まずい、チャージしてる——!」
光線が放たれる。視界を白が覆い…
「ライト・バリアッ!!」
轟音とともに、金色の障壁が割り込んだ。
爆風の中、聞き覚えのある声が響く。
「まったく、勝手に突っ走ると危ないぞ、王子様!」
瓦礫の上に降り立ったのは、銀翼の団シルヴァリアの団長、シグル。
背中の魔力翼が風を生み、砂塵を吹き飛ばす。
「シグルさん…! みんなは!?」
「全員無事だ。バルガスが岩壁をぶっ壊してくれた」
続いて現れたのは巨躯の戦士バルガス。
彼が担ぐ戦斧には、魔力の火花が散っている。
「道、開けといたぞ。あとは派手にやろうぜ!」
さらに、魔導士エリオットが後方に陣を張り、
ノアは弓で牽制をし、ミレイユはゴーレムをかく乱させ、
神官セリアが補助魔法を展開していた。
「レオン、魔力残量は?」
「残り五割くらいですね」
「なら、十分だな」
エリオットの瞳に光が宿る。
「シグル、合図を!」
「ああ——全員、散開!」
次の瞬間、戦場が動いた。
「サイクロン・スラッシュ!」
「ライトニング・ダンス!」
「サンダー・チェーン!」
「バースト・スラッシュ!」
シグルが正面から突撃し、バルガスが左から重撃右からミレイユが連撃、
エリオットが詠唱を繋ぎ、雷の鎖で敵を拘束する。
レオンは風と炎の魔法を混ぜ合わせ撃ち込み、動きを削ぐ。
連撃が炸裂し、防御したゴーレムの片腕が吹き飛ぶ。
金属音を立てて転がる腕の断面から、黒い煙が漏れた。
だが、コアが再び脈動する。
残った腕が変形し、鋭い刃が展開された。
「来るぞッ!」
斬撃が地面を切り裂き、爆風が広がる。
シグルとバルガスが同時に盾となり、衝撃を受け止めた。
「こいつ、まだパワーが上がってやがる!」
「コアの出力が暴走してる!今のうちに止めないと……!」
エリオットが叫ぶ。
「コアを直接狙うしかない!」
シグルが短く頷き、指示を飛ばす。
「バルガスとミレイユは俺と突っ込む!」
「エリオット、セリア、ノアは援護!」
「レオンは最大火力で攻撃を!」
『了解!!』
全員が一丸となって行動する。
三人が刃となった腕に攻撃を叩き込む。
「ライトニング・ダンス!」
「ロック・ブレイク!」
「サイクロン・スラッシュ!」
三人の攻撃を受けた腕が崩壊する。
二人が拘束魔法を放つ。
「サンダーチェーン!」
「アイス・バインド!」
それぞれの魔法が上半身と下半身を拘束する。
一人が頭に渾身の矢を放つ。
「トルネード・アロー!」
顔に的確に命中し目を破壊した。
皆が叫んだ『レオン!!』
「みんなが作ってくれたチャンスかならず決める!」
レオンの身体から魔力が滲み出し周囲を舞う。
「火よ、土よ、風よ、水よ、今こそ交わりその力を見せよ!」
空中に陣が走り、四つの属性が一点に集まる。
すべてが螺旋のように絡み合い、光球が生まれた。
以前、不完全だったそれは今この時、完全な形となった。
「エレメント・バースト!!!」
放たれた光球はゴーレムの装甲を貫き、内部まで焼き切る。
金属が砕ける轟音が響いた。
ゴーレムが崩れ落ちる。
赤く染まっていたコアの光が、ゆっくりと青に戻っていく。
誰も、言葉を発せなかった。
ただ、沈黙の中でコアが静かに脈打つ。
光が一度、レオンの足元を照らし——
何事もなかったかのように、静かになった。
「……終わった、のか?」
シグルの問いに、エリオットが頷いた。
「魔力、安定。暴走は収まった…」
「まったく…心臓に悪い任務だぜ」
バルガスが斧を肩に担ぎ、笑う。
セリアが魔法で、仲間の傷を癒やしていく。
「みんな無事でよかった……」
レオンは静かにコアを見上げた。
そこには、何の意思も表情もない。
ただ、淡く脈打つ光が、静かに彼らを照らしていた。
王都に戻ったのは、それから数時間後だった。
馬車の窓から見える空は晴れ渡り、昨日までの嵐が嘘のようだった。
「これが……現実かよ」バルガスが伸びをしながら笑う。
「地上の空気がこんなにうまいとはな!」シグルが言う。
「まったく。お前のいびきのせいで、馬車の中で寝られなかったがな」
エリオットがため息をつく。
いつもの軽口が戻る。
そのやり取りを聞きながら、セリアは静かに微笑んだ。
「無事に帰ってこられて……本当によかった」
日が傾き、王都の空が茜に染まり始めていた。
冒険者ギルド・王都本部に到着したレオン達。
先頭を歩くシグルが、肩でドアを押し開けながら声を張り上げる、
ざわめきが一瞬止まった。
「ただいま帰還だ! 全員無事、生存確認済み!」
途端に、酒場のような喧噪が爆発した。
「おおおっ!」「生きて帰ったか!」「坊主もやるじゃねぇか!」
受付嬢のミーナが慌てて駆け寄ってくる。
「皆様!?本当に…よくご無事で……!」
レオンは軽く会釈し、淡く微笑む。
「はい、少し危険でしたが、ダンジョンの暴走は止まりました」
「暴走を…止めた?」ミーナの声が震える。
周囲の冒険者たちも耳を疑ったように顔を見合わせる。
その瞬間、階上から重い足音が響いた。
「お前たち、帰ったか!」
低く、響く声。姿を現したのは、ギルド長ガルド・ロウズ
長身で、鋼のような体躯。数日前の試験でレオンと拳を交えた男だ。
レオンは一歩進み出て、深く頭を下げた。
「はい。ガルド様。任務は完了しました。
下層にあった暴走ダンジョンコアを鎮圧しました。これがその記録です」
彼は腰のポーチから、淡く光る記録用の魔道具を取り出した。
ギルドの鑑定士が駆け寄りそれを受け取る。
「確かに受け取りました」
シグルが苦笑混じりに肩を叩く。
「…まったく、とんでもねぇ奴だ。あの戦いの中記録も撮っていたとはな」
レオンは少し戸惑いながらも、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。ですが、僕一人の力ではありません。
皆さんの力があったからこそです」
その謙虚な言葉に、ガルドが口角を上げる。
「そう言える奴は、さらに強くなる」
少年は真剣な表情で頷いた。
「はい、ありがとうございます」
王都ギルドでの騒動が落ち着いたのは、夜も更けてからだった。
王都の大通りは、すでに灯火が点りはじめ、
街全体が穏やかな夜気に包まれている。
ギルドの一室にて、レオンは最後の報告を終えると、深く息を吐いた。
「……やっと、終わった」
その声はまだ幼さを残している。
だが、背に感じる疲労と満足感は、確かに“戦いを終えた者”のそれだった。
彼の脇に立つのは、ギルド長ガルド。
「よくやった、坊主。…いや、レオン・グラディア殿下と呼ぶべきか」
「…ギルドではレオンでいいですよ、ガルドさん」
そう答える笑顔に、ガルドも口の端をわずかに上げた。
「そうか。…じゃあレオン、次に潜るときは俺も連れていけ」
「その時はぜひ」
軽く拳を合わせ、レオン達はギルドを後にした。
レオン達は王城へと向かっていた。
今回のダンジョン暴走は王都近郊を巻き込む可能性のあった大事件だったのだ。
報告を聞くため、国王自らが謁見の間で待っているのだ。
広間を駆け抜け、重厚な扉の前で立ち止まる。
扉の向こうは――謁見の間。
王が政務を終え、家族とともに待っているという報せを受けていた。
胸の鼓動が速くなる。
何度も入った場所なのに、今日は少し違う。
侍従が扉を開く、眩い光の中に王がいた。
金の装飾を施した椅子に腰かけ、背筋を伸ばしながらも、
穏やかな眼差しを浮かべる王アルフォンス・グラディア。
その傍らには、母セシリア王妃と兄姉たちの姿もあった。
第一王子ライナルト、第二王子シリル、第一王女ソフィア、第二王女ミリア。
皆、彼の帰還を待ちわびていたのだ。
レオンは膝をつき、深く頭を下げた。
「ただいま戻りました、父上。――無事、任務を果たしました」
しばし沈黙。そして、王の低く、しかし温かい声が響いた。
「顔を上げなさい、レオン」
その声音に、レオンはゆっくりと顔を上げる。
父王の目には、厳しさと誇りが混ざっていた。
「ダンジョン暴走の鎮圧、ギルドから報告は受けた。
お前が中心となって事態を収めたと、よくやった」
レオンの胸に温かいものがこみ上げた。
「ありがとうございます。僕一人では今回の事は解決できませんでした。
シルヴァリアの皆さんのおかげです」
「そうだろうな」王は穏やかに頷く。
「人の力とは、常に誰かと共にあるものだ。
それを理解していることが、何よりの証だ」
母セシリアが微笑みながら近づき、そっと頬に手を添える。
「無事で何よりです…。あなたが初めて外の世界に出たと聞いて、
どれだけ心配したことか」
「母上……すみません。でも、僕…」
「ええ、もういいの」
そっと抱き寄せた母の温もりが、緊張を溶かしていく。
その時、ソフィアがゆっくりと歩み寄った。
「ふふ、レオン。やっと一人前の顔になったわね」
「姉上……」
「子どもの頃から、外に出たい、自分の力を確かめたいって言ってたけど……
本当に行って、本当に結果を出すなんて」
軽く笑いながらも、瞳の奥には驚きと誇りがあった。
ミリアがぱあっと笑って駆け寄る。
「おかえりなさい、レオン!怪我してない?怖くなかった?」
「うん、怖かったよ。でも、皆がいたから大丈夫だった」
その答えに、ミリアは胸を撫で下ろしたように笑った。
続いて、第二王子シリルが腕を組んで前に出る。
「今回の活躍、兄としては誇らしい限りだ」
「ありがとう、兄上」
「ただし、俺は抜かされる気はないぞ。すぐに、追い抜かしてやる」
軽口に笑いが生まれる。だが、その目は真剣だった。
幼い頃は兄の背中を追っていたレオン。
今、並ぶ位置に立ち始めている。
そして最後に、第一王子ライナルト。
彼は少し離れた場所からじっとレオンを見つめていた。
「……戦う覚悟ができた顔だな」
レオンが振り返ると、兄は静かに頷いた。
「父上の跡を継ぐ者として、俺は国を守る覚悟を持っている。
だが、お前は世界を見据える目を持っているようだ」
「世界を…?」
ライナルトの瞳が少しだけ柔らかくなる。
「あぁだから、己の歩む道を見失うなよ」
レオンは真剣に頷いた。
「はい、兄上」
王は家族の団欒を見つめ終わると、続けて仲間たちへと視線を移した。
「シグル・アークレーン、ミレイユ・カルナス、エリオット・グランツ、
バルガス・ロウハート、セリア・ノルト、ノア・リンドバーグ、
そなた達にも王国を代表して礼を言う。
お前たちの働きがなければ、王都は危うかった」
シグルが一歩前に出て、頭を下げた。
「光栄にございます、陛下。ですが殿下の冷静な判断と力があってこそ。
…我々も救われました」仲間たちも頷く。
王の目がわずかに細められる。そして、ゆっくりと息を吐いた。
「謙遜は美徳だが、今宵ぐらいは胸を張れ。褒賞は後日用意しよう。
王国を救った英雄たちに、今日は祝宴を用意してある」
その言葉を聞いた瞬間、バルガスの腹が「ぐぅ」と鳴った。
謁見の間に、微妙な沈黙が流れる。
王の眉がぴくりと動き次の瞬間、静かに笑いが零れた。
「…空腹には勝てぬか。若い証拠だな」その場が一気に和む。
王の一声で、楽団が穏やかな旋律を奏で始めた。
銀の器にワインが注がれ、香ばしい肉と焼き立てのパンの香りが広間に満ちる。
「さあ、皆も座ってくれ」
国王が軽く笑うと、場の緊張が解けた。
「は、はい! では……失礼します!」バルガスがぎこちなく椅子に座る。
「うおっ……この椅子、ふっかふかだな!」
「バルガス、落ち着け。王の前で椅子の座り心地を語るんじゃない」
「いや、ほら……尻から王国を感じるっていうか——」
「それ以上言うな。殿下が笑ってるぞ」
確かに、レオンは堪えきれずに小さく吹き出していた。
「……ふふ。ほんと、変わらないな」
王妃セシリアがその様子を見て、柔らかく微笑む。
「あなたの周りには、良い仲間がいるのね、レオン」
「はい。彼らがいてくれるから、僕は前に進めます」
その返答に、王の表情も穏やかにほころぶ。
「そうか。ならば——王としてでなく、父として言おう。よくやった」
レオンの胸に熱いものがこみ上げる。
戦場での緊張も、勝利の余韻も、今はただ静かに溶けていった。
宴が進むにつれ、次第に場は和やかになっていく。
ソフィアが興味津々にシグルへ尋ねる。
「シグルさん、本当に最深層でモンスターが暴れてたの?」
「ああ、かなりの強敵だった。……でも、レオンが前に出てくれて助かったよ」
エリオットが頷く。
「魔法制御も完璧だった。正直、あれほどの精度で複数属性を
同時に操ることができるのは、今の王国でも数えるほどもいない」
バルガスが骨付き肉をかじりながら、大きくうなずいた。
「しかも魔力切れもせず、最後まで立ってたからな!
もう殿下じゃなくてリーダーって呼びたくなるぜ!」
「おいおい、それは俺の立場がなくなる」シグルが苦笑する。
「いや、いいじゃねぇか。お前は団長で、殿下は…未来の国を背負う者だ」
その言葉に、レオンは軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。でも、僕にとっては皆がいてこその今回の戦いです」
広間に、穏やかな笑い声が広がる。
杯の音が重なり合い、夜は静かに更けていった。
宴の終盤、王が立ち上がった。
「レオン、そしてシルヴァリアの諸君。お前たちの功績は、
正式に国の記録に残す。ただし、今日の暴走についてはまだ調査が必要だ。
特にダンジョンコアの異常についてな」
「はい、陛下。報告書に記載できる範囲でお伝えします」
「うむ。だが今日はそれでよい。難しい話は明日にしよう」
王は杯を掲げた。「この国の未来に。そして若き英雄たちに——」
皆が杯を掲げる。「——乾杯!」
音楽が再び流れ、穏やかな夜が王城を包み込む。
その隅で、レオンはふと、窓の外の月を見上げた。
外では月が高く、静かに輝いていた。
【名前】レオン・グラディア
【年齢】5歳
【職業】グラディア王国第三王子
【レベル】20 経験値 571/15939
【体力】 :345
【魔力】 :34490△
【持久力】:292
【筋力】 :388△
【耐久力】:322△
【知力】 :738△
【精神力】:874
【敏捷】 :410△
【技量】 :323
【幸運】 :3657△
【スキル】:魔術王 鑑定 状態異常無効 精神異常無効
【加護】 :創世神の加護 魔理神の加護 戦勇神の加護 風翔神の加護




