旗印①
2章も開いて下さりありがとうございます!
ここから登場人物が一気に増えます。
なるべく分かりやすく書いているつもりですが、上手く伝わるか少し不安…
後書きに大まかなキャラ整理を載せておきますので参考にして頂けると幸いです。
さて、2章の始まりはーー前回エリックの元に『レイ』を名乗る怪しい人物が現れる少し前から。
見通せない程広い庭。城のようにそびえ立つ大きな屋敷が闇の中に浮き上がる。
敷地内に小川が流れ、橋が架かり、噴水も花壇も森だってあるような立派な屋敷が男の生まれ育った家だった。
寮制の学校へ行って約八年、久しぶりに帰った屋敷は何一つとして変わっていなかった。
綺麗に刈られた庭の草木も自分を出迎える為に左右にズラリと並ぶ大勢の使用人も、家具の配置も食器の一つに至るまで何もかも同じだ。
それは当然、自身に与えられた部屋だって同じだった。
何もかもあの日のまま、天蓋付きのベッドに冷えた暖炉、ふかふかの絨毯にわずかにカーテンの開いた窓。
隙間から差し込む光が窓辺をくっきりと縁取っていた。
自分だけがあの日から遠く離れてしまったのだとまざまざと感じる。男は小さく息を吐いた。
何も変わらないと言ったが変わった事もある。
それらを眺める自身の視点が随分と高くなったのだ。見上げていた絵画が丁度目線のところに来ていた。
それに部屋に飾られていた模造品の斧はもう無い。レイピアだけが静かにそこにいた。
背の高い男はゆっくりと窓へ近づく。
うっすらと開いたカーテンの隙間から外を覗いた。
真っ暗闇だ。庭に建てられた街灯がわずかに光るだけで何も見えない。
いつの間にか陽が落ちてしまったようだ。
一体、どれほどの時間経ったのか自分では検討もつかない。陽光が消えてしまうくらいには経ったのは確かだろう。
男は窓の縁にそっと腰を下ろした。
ひんやりと冷たいガラスに背を預けぼんやりと上を見る。
何も映さない金の瞳は無感情に揺れた。
ガラス越しに見える星が立ち込めて来た雲に覆い隠されてしまう。
雲間からささやかに差し込む月明かりにスラリと長い大きな手をかざした。男は右手を持ち上げて自身の手をまじまじと見つめる。
いつかこの部屋で見たものとは全く異なっていた。
大きな手は歳月の経ちようを表す。時が巻き戻る事は無いのだ。
男は拳を軽く握ると膝を抱えて動かなくなった。
ねずみ色をした雲が空からこぼれ落ちそうな程重々しく垂れ下がる。湿気を含んだ空気のせいで水の中にでもいるかのようだ。
まとわりつく感覚に身動きするのが億劫になる。陽光の差さない陰気さが余計に気分を滅入らせた。
カビでも生えてしまいそうなジメジメとした鬱陶しさの中に薄汚い店が建っている。
中からはドヤドヤと騒がしい声が聞こえていた。ツンと鼻に抜けるのはアルコールのにおい。赤ら顔の酔っ払いたちの騒ぐ机を抜けたところにカウンターがある。
その隅の席に男が二人座っていた。
一人は変わった髪色をしている。夕日を移したような色の短髪を持ったその男は無表情でグラスを傾けていた。
その隣に座るのは翡翠のような緑の瞳をした男だった。無地の服を着ている隣の男とは対照的に派手な色味の服を来ており、表情も豊かだ。
さっきからこの男ばかりがしゃべっている。
「それでな、その子の弟が血相変えて走って来て」
「うん」
赤毛の男は相槌を打ちながら汚れたジョッキを傾けた。
ザワザワと騒がしい店内を縫うように歩く人物が一人、淀みない足取りで真っ直ぐこちらへと向かって来る。
赤毛は話している男の方に顔を向けてはいたが、視線はその奥に注がれていた。こちらへ歩いて来る人物へと。その人物は小柄な男でフードを目深に被っている。
「ロシュ、聞いてるか?」
「、、、サトシだ」
「サトシ?」
緑の瞳の男がロシュの意味深な言葉を聞いて振り返った。
振り返ったすぐそこに黒い壁、いや、人だ。すぐ目の前に人が立っており、壁に見えただけだった。
「やっと見つけた」
サトシは低い声で言う。うんざりしたような響きだ。
「おぉ!ビビったぁ、、こんなトコでどうした?」
「それはこっちの台詞だクソイーサン。上流専門のお医者サマがこんな汚ねぇ酒場にいんじゃねぇよ。探すのが面倒くせぇだろ」
ボソボソと言った言葉にも関わらず、その私怨からか細部に乗った感情までよく聞こえた。
「悪い悪い。何だった?」
「集合だよ。アンタもね」
サトシはロシュを顎で指してそう言うとクルリと踵を返してさっさと行ってしまう。
「つれない子だなぁ。一緒に行けばいいのに」
イーサンは笑いを滲ませながらそう言った。
じっとりと湿った空気をかき分けて歩きているような気さえするジメジメとした日だった。サトシについて酒場を出た二人は外で待っていた金髪の男に明るく出迎えられる。
「ロシュー、イーサン!ひっさしぶり〜」
ブンブンと手を振る男は喜色満面で近づいて来たかと思ったら、ピーチクパーチク話し始めた。
「聞いてよ二人とも!サトシってば俺にここに居ろって!うるせぇって言うんだよ酷くね?」
「うるせぇ静かにしろ」
「なんだよっ!俺はイーサンたちに喋ってんの!嫌なら聞かなきゃいいじゃんか」
「黙れ」
「ハハ、今日も仲良しだなぁサトシとチャックは」
イーサンは二人のやり取りをニコニコと見守る。一方ロシュは二人よりもささくれが気になるようで難しい顔をしながら自身の手をいじっていた。
「仲良くねぇし、マジで最悪。なんで俺がコイツらの面倒みなくちゃなんねぇんだよ」
サトシは心底嫌そうな顔でぶつぶつと文句を言いながら目的の場所を目指して足早に歩く。その間もチャックは話し続け、イーサンはそれに楽しそうに相槌を打ちロシュは黙々とささくれを千切っていた。
ゴツいピアスをつけた小柄な男が、いつもの不機嫌そうな表情で向かったのは案の定といった場所だった。
つまり、他の場所よりわずかに小高い丘の上にある教会だ。
男は慣れた様子で教会の裏に回ると扉の先へ姿を消した。小柄な男に連れられた三人の男もまたそこへ入って行く。
相変わらず金髪と緑の瞳の男が上機嫌に話していた。
ピアスの男サトシが消えて行った扉を開けるとこじんまりとした部屋が広がる。ただでさえ広いとはとても言えない部屋が更に狭く感じた。
というのも、部屋にはすでに二人の男が居たからだった。
そこに更に自分たち三人、男が追加されれば、くつろぐ事はおろか座るのもギリギリというものだ。幾らピアスの男が小柄だと言えども狭いものは狭い。
「いきなり呼び出して悪いな」
声を出したのは神父姿の男だった。男は教会の表へ通じているであろう扉の近くに座っている。
「俺らは大丈夫だ、それよりサトシが色んなトコを探してくれたみたいで悪い事したよ」
イーサンはそう言って肩をすくめる。
「早速で悪いが、仕事の話だ」
レイが鋭い瞳でそう言った。
「まず最初に、俺たちは次の段階に進むべきだという事を話しておきたい」
四人の男たちは黙って話を聞いている。
「俺たちのやろうとしている事はいわば革命だ。階級制度の崩壊とはつまりそういう事だろう?それは決して一人で出来るものでは無いし、まして五人で出来るものでも無い。もっと多くの人々を味方につける必要がある」
その言葉に金髪の男が何度か小さく頷いた。
「人の心を動かす事は容易い事では無い。人々を味方につけるならそれについて行きたいと思わせる強い力が要る。人を惹きつける様な強い旗印が要るんだ。それはつまり、イーサン、お前だ」
鋭い瞳の男はハッキリとした口調でそう言うと、緑の瞳を真っ直ぐに見る。
「、、俺?」
いきなり名指しされたイーサンは戸惑ったように眉を下げた。金髪の男もイーサンと同じように驚きの声を上げている。
「イーサン、お前は上流専門の医者だろう?」
「え、あぁ、、まぁ、」
「そこだ。医者の中でもかなり地位のある上流付きの医者が味方についているという事は、民衆にとっても貴族にとっても大きな衝撃になる。それこそが力だ。人々の関心を強く惹きつけるカリスマになり得ると考えている」
神父は確信して言った。
部屋は納得したという空気が流れる。まぁ、主に金髪の男が作り出した空気だったが。それでも皆が納得した部屋の空気をイーサンは切り裂いた。
「それは違うなレイ。地位があるから人がついて来るなんてあり得ない。人を惹きつけるカリスマ性っていうのは生まれつきだ。俺には人を惹きつける様な力は無いよ」
緑の瞳の男も同じく確信したように言う。
「、、だが、」
「知ってるぜ。圧倒的なカリスマを持ってる人間」
レイの言葉を遮るようにして医者の男は言った。
「アイツはスゴイ、目を離せない強さがある」
イーサンはそう言うとニコリと笑う。狭く静かな部屋で緑の瞳の男だけが上機嫌だった。
暗い夜の街にけたたましい警鐘が鳴り響く。点滅する特殊なラピスが石畳の凸凹道をチラチラと照らし、長い立髪の馬が襲歩で走り抜けた。その前方を猛スピードで走るのは黒い馬車だ。四角い形をしたその馬車は道の悪い入り組んだ通りを巧みに進み、後方の追随を許さない。しかし、重たいキャビンを引いている分追いつかれるのも時間の問題だろう。加えて追手は確実に増えて来ていた。
「ヤバいよ!どんどん増えてる!」
焦ったように引き攣った声が黒い馬車を揺らす。
「クソッ‼︎誰だよ!邪魔しやがって!」
次に苛立ったような声がして扉を殴りつける鈍い音が鳴った。左右にガンガンと揺れている車内の空気は沈んでいる。
響き渡る警鐘は明瞭に聞こえて来ていた。というより、音はどんどん増え続け暗い街がチカチカと明るく照らされ始める。
「どこ行けば良いの⁉︎真っ直ぐ帰るのは流石にダメでしょ⁉︎」
最初の人物がヒステリックに叫びながら御者台にしがみ付いた。御者は眉間に皺を寄せた厳しい表情のまま口角を上げる。
「安心しろチャック、上手くいったら生きて帰れるぞ、たぶん、」
「何それ⁉︎もっとちゃんと保証してよ!俺、捕まんのも死ぬのもヤダよ!つーか捕まったら死ぬじゃん!お前は医者で、階級的に助かる可能性があるから良いかもしれないけどさあ!下民は即死刑に決まってるよぉ!」
御者はその言葉にカラカラと笑う。
「まぁ、任せときなって」
小さな呟きは不敵な響きを含んでいた。
時を遡る事半月前、イチア地区を治めるピーストップ家の私兵たちが住む大きな石造りの宿舎。
ズラリと並ぶ棚とそれを埋め尽くす大量の本がある部屋で大男は眉をしかめて唸っていた。並ぶ書物の数々はこの国の犯罪の歴史だ。
男は筋骨隆々で背も高く非常に威圧感のある人物だった。棚を滑る手は浅黒く、大きな甲には無数の細かな傷がある。
冷たい石造りの壁から生まれたひんやりとした冷気が部屋を包んでいた。
シンと静かな空間に音が生まれた。コツコツと一定の間隔で響く音が段々と近づいて来る。質量の軽そうな、それでいて鋭い音が少し向こうで止まった。
「こんなところに居たのねアレクサンドル」
大男は高い声の方を向く。
そこに立っていたのはブロンドの長い髪を高いところで一つにまとめたもの凄い美人だった。女は、この国の多くの女と同様に足首まであるワンピースを着ており、腰元にはエプロンが付いていた。
キッと整った眉にスッとした瞳でこちらを見ている。
「スカーレット、、すまない。探させたね」
大柄の男はその見た目とは裏腹に優しい声音をしていた。
「全くよ、大きな身体なのによく消えるんだから。もう夕飯の時間よ?子供たちが癇癪を起こしちゃうかも」
「ごめんよ。でもそんなに探させてるかな」
大男は困ったように言う。
「ええ、最近は特にね。コソコソ自室にこもってアレコレ調べてるみたいじゃない。何を調べてるの?」
「そんな、コソコソだなんて、」
「あらそう?妻に隠し事だなんて立派にコソコソしてると思うけど?」
スカーレットは挑戦するように言った。
「あぁ、、ハハ、別に隠してた訳じゃないさ。でも変に話して不安を煽るのも良くないと思っててね、確証も無い仮説だし、」
大男は観念したように苦笑する。
「不安?何か良くない事なのね?だったらなおさら話して欲しいわ。私が貴方の一部の同僚よりよっぽど有能だって知ってるでしょう?」
男は妻の強気な発言に誰か聞いてやしないかと心臓を縮こまらせた。
スカーレットが女でなければ自分の上司だったかもしれないぐらいには有能なのは事実だし、そう評したのは自分だが誰が聞いているとも分からない図書館でそう言うことを言われるのは肝が冷えた。
しかし等の本人はどこ吹く風でアレクサンドルの正面に立ち、その顔を見上げている。怒ってこそいないようだが美人の真剣な顔には思いがけない怖さがある。
「そうだね、悪かった。じゃあ聞いてくれるかい?」
「もちろん」
女は嬉しそうに頷いた。
大男は棚の様々な場所からいくつか資料をピックアップしてピーストップ家から与えられた自宅へと戻るとそれらを食卓机に並べた。
「スカーレット、この話を覚えているかい?」
男はそう言うと資料を指差す。真っ先に目に飛び込んで来るのは二人の人物だ。一人は中年の男で、もう一人は髪の短い少女だった。
「それは確か、そいつの屋敷から逃げたお嬢ちゃん、確か、、アルベロちゃんね、が、新聞を使ってデカデカと貴族の犯罪を煽った事件よね」
女は長い指で中年の男の顔をトントンと叩く。
「忘れる訳無いわ、下層の子がそんな事をするのは初めての事だし、上流が下層に対して犯した犯罪行為というのが理由で捜査された初めての事件だったもの。
結局、裁く事は出来なかったわね、、証拠不十分が理由だって貴方言ってたでしょう?
あんなに世論が動いたのにね、、、証拠不十分だなんてそんな理由、、、貴族から平民への犯罪で初めて裁けるかもしれないと思ったのに、」
スカーレットは小さく言った。
「、、そう、そんな事件。君が言ったように前代未聞で知らない者は居ないと思うけど、俺は違うところが気になったんだ」
そう言うとアレクサンドルは資料をめくる。
「この太古の石、遥か昔に使われていた骨董品のようなラピスだ。もう使う事も出来ないにも関わらず、あの日屋敷から被害者たちと共に消え、未だにその所在が分かって無い」
「ああ、そう言えばそんな事言ってたわね」
「俺はあの日屋敷に侵入した犯人たちが、なぜこの石を盗んでいったのか皆目見当もつかないんだ。あ、大前提として、被害者たちの自分たちだけで逃げたと言う主張は間違ってると考えての事ね」
大男はそう付け加えた。
「ええ、それは私もそう思うわ」
「金目当てだと考えると、こんな足の付きやすい物を盗品としてわざわざ選ぶ理由が無い。それならその辺に飾ってあっただろう絵画を盗む方がよっぽど良いに決まってる。それに、ラピスの置いてあった場所は被害者たちが閉じ込められていたという牢と正反対に位置してる」
男は屋敷の間取り図を引っ張り出して言う。
「それから計画の綿密さも気になる。あまりに証拠や痕跡が無い。こんな芸当を出来る人間は限られてる。にも関わらずラピスを盗むような意味不明な行動をとる。意味が分からないよ」
大男は首を振った。
「それから次に、彼らを助けたのはどんな人物かって事だ。こんな計画を立てられそうなのはきちんとした教育を受けた中流か上流だと思うって前も言っただろう?」
「ええ。でも中流や上流が下層の人間を助けるとは思えない。そう言う事だったわね」
「そう」
女の補足に男は静かに同意した。
「これが俺が感じた違和感だよ。ずっと引っ掛かってる」
大男は難しい表情を浮かべる。二人しかいない資料室が沈黙で満ちた。ラピスの白い光が二人の影を色濃く縁取る。口を開いたのは男の方だ。
「うーん。そもそも、犯人の動機は何なんだろう、、」
「それは貴族であるワスルを裁く事でしょう?、無理だったけど」
「でも、それだと何故ラピスを盗っていったかっていう問題に当たる」
「それは、、そうね。確かに」
「ああ。それに実は、気になっているのはこの事件だけじゃないんだ」
アレクサンドルは違う箱を引き寄せた。
「ワスルの件とは直接関係無いかもしれないんだけど、似たような事件があって、、」
「、、こんなに?」
スカーレットは資料を手に取って呟く。
「どれも被害者は貴族や金持ちばかりでいずれも何かしらの犯罪行為に手を染めていた恐れがある」
「つまり犯人は義賊だって事?それに“恐れがある”って何?」
「どれも証拠がことごとく盗まれていて決定打に欠けるんだ」
「なるほど、だから“恐れがある”なのね。でも正義の味方気取りならどうして証拠を盗んで、その後何もしないのかしら?」
女は腕を組んだ。大男はゆっくりと二回瞼を上下させる。
「スカーレット、俺は、嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感?」
「何か、何か途轍もない事が起こるんじゃないかって、」
大男は机の上に散乱する資料を見下ろす。ラピスの落とす頼りない明かりが不安げに揺れた気がした。
金縁の装飾が派手な扉の前で大きな鞄を背負った二人の男が屈んでいる。二人とも青葉のような若々しさを持った年頃のようだ。
「おいフロイデ、早くしろよ」
「うるせぇな、黙って待ってろ」
フロイデと呼ばれた唇の厚い若者がいらだったように言う。カチャカチャと軽い金属音が小さく聞こえていたと思ったら、ガチャリという分かりやすい解錠音が響いた。
「よっしゃ」
青年がドアノブに手をかけた時、フロイデがその手を遮って開けられないようにしてしまう。
「何すんだよ」
「“何すんだよ”じゃねぇよ。開けてもらっといて礼の一つも無しなのかグランツ?」
唇の厚い青年はそう言って猫背の青年を下から睨め付けた。
「なんだよ。怒ってんのか?さっきのはちょっとした冗談だろ?」
グランツはおどけた調子で言う。しかし、フロイデの表情は変わらない。
「う、悪かったよ。怒るなって。鍵も、開けてくれてサンキュな」
猫背の青年は先程とは打って変わってしおらしい調子でそう言った。
「だよな?」
フロイデは念を押すかのようにそう言うと、今しがた開けた扉を慎重に開く。
重々しい音を立ててゆっくりと開かれた扉を抜けてそっと中に入った。後に続くグランツの表情も真剣なものに変わっている。
部屋の中をざっと見渡した青年たちは目線を交わらせた。
切れ長の瞳の青年は指を複雑に動かす。それを見た唇の厚い青年は頷くと、グランツとは反対の方向へと進んで行った。
二人はそれぞれ細心の注意を払って歩みを進める。グランツは最初の部屋で立派なタンスを見つけた。
青年は目を輝かせると背中を曲げて一番下の段から順に開けていく。そして目当ての物を見つけると、片っ端から背負っていた鞄の中に詰め込んだ。
五分ほどしてグランツが初めの扉へ戻ると、フロイデも丁度着いた所だった。二人の青年は入って来た扉から素早く出るとどこへとも無く消えて行った。残ったのは荒らされた部屋と価値の無いガラクタばかりだ。青葉のように水々しく若い二人は卑しくも泥棒だったのだ。
2章1話読んで頂きありがとうございます!
楽しんで頂けましたでしょうか?前述した通り、それなりに多くなってきた登場人物を整理させて頂きます。
『既出キャラ』
エリック:主人公。貴族出身。長身の美男子。迷いながら進む青年。
イーサン:エリックの幼馴染。中流階級出身の医者。聖人とは彼のこと。
ロシュ:イーサンの幼馴染。スクラップタウン出身。用心棒を生業にする赤毛の男。
レイ:幼いエリックと貴族として会っていたが、なぜか神父になって再び現れた。鋭い瞳の寡黙な男。
『新登場キャラ』
サトシ:いつも不機嫌な小柄な男。口が悪く人嫌いだが、演技は得意。器用なオールラウンダー。
チャック:お喋りな金髪碧眼の男。ラピスという特殊な石を加工するのが得意。
アレクサンドル:エリックの家に仕える軍人。筋骨隆々で浅黒い肌の大男。独自で星骸を追う。
スカーレット:アレクサンドルの妻。金髪の美女。優秀な人物だが、家庭を守っている。
長くなってしまいましたがこんな所でしょうか。
「この人誰?」となって話に集中出来ないとキャラに申し訳ないので分かりやすく書けるよう頑張ります!
続きは明後日の木曜日、21:00より公開予定です。明後日お会いしましょう。




