解放の火 後編③
ー貴族の言葉に反対出来る者は誰一人としていないー
うやうやしく監視塔まで案内されて行ったエリックとチャックを見ながらレイはそんな事を思う。
「レイ、エリックが大袈裟に監視塔を指差して気を引いてくれたお陰で誰にも気づかれず爆弾セット出来たよ」
壱門の方から小走りで戻って来たラミアが小声で言う。
「…勝手に行ったのか?」
「なによ。置いて来てあげたんじゃない。誰にもバレてないし大丈夫だって」
開き直るラミアをレイはジッと見つめる。ラミアも負けじと見つめ返した。
「………次はひと言言ってくれ」
ようやく紡がれた言葉にラミアは満足そうに頷く。
「はーい。そんな事より前が見ずらいよこれ」
目深に被ったフードと顔を覆うスカーフにラミアは文句を言った。
「女とバレないようにする為だ、我慢しろ。それに中は薄着だろう、脱いだら寒いぞ」
「でもさぁ、まだ長いこと付けてなくちゃいけないんでしょ?早く脱ぎたいよ」
ラミアは再び御者台に座り馬車を移動させるレイに着いて行きながらブツブツと文句を垂れる。レイは馬車を停め、毛並みの美しい馬を厩へと誘う。手綱を厩に丁寧に縛り直した後、レイはようやく口を開いた。
「ねぇレイ、聞いてんの?」
「…断言してやる」
「なによ」
「脱いだら『何でこんな寒い格好でいなきゃならないのよ!』って文句を言う」
「はぁ⁉︎言わないし!」
ラミアは心外だとばかりに地団駄を踏んだ。
上町を歩きながらそこかしこに音ラピスを置いていたサトシとロシュ。袋いっぱいに入っていた石は残り二、三個ほどになっていた。
上町の道幅は下町と比べるとかなり広い。店も、同じ造りの建物がズラリと雑多に並ぶ下町とは違い、一つひとつが大きく装飾も見るからに高級そうだ。
高級な馬車が祭りを楽しみに来た貴族たちを乗せて壱門から入って来る。
祭りを楽しむ、と言っても貴族の楽しみ方は下町に来る平民たちとは違っていた。というのも平民は島に出る出店と一番の催しである引き抜きを見に来ている。
店の外にズラリと並ぶ女たちと、その女たちを引き抜きに来た行列を見るのだ。
だが、上町には引き抜きの催しは無い。
その代わりに、貴族たちは買った女たちを連れて店の外に連れ出す事が出来る。
普段は店の外に出られない女たちの願いを叶えてやれる日なのだ。
そういう事で大きな道には貴族の男とそれに付き従う女たちが時々見られた。
行き交う男女の声で通りは騒がしい。音ラピスを置きながらそんな声を右に左に聞き流していたサトシの耳に横を大急ぎで通り過ぎて行く男たちの声がやけに大きく響いた。
「ティハのお得意様が今日ティハを見受けするって!」
「今日⁉︎嘘だろ!何でこの忙しい日に!」
バタバタと走り去って行く足音が巻き上がった土煙の向こうに消えて行く。
「見受け?」
「どうしたサトシ」
ロシュは突然足を止めた小柄な男を振り返った。サトシは何も答えない。だがその表情はいつに無く戸惑ったようなものだった。
「ティハが、」
「……昨日レイが言ってた女か」
「見受け、されるって…見受けされたら貴族の屋敷に行く、」
ロシュの言葉には答えずにサトシはぶつぶつと呟き始める。
「ここから出られる、自由になれる…でも、それって…」
「サトシ?」
「島から出られる?…出たら…もし出られたら、」
「おい、急にどうした」
ロシュはサトシの肩を叩く。サトシはぼんやりした顔で赤毛を見た。
「助けに行くんだろ」
「助けに?」
「行かないのか?見受けされる時は助けるって昨日言ってなかったか?」
ロシュは思い出すように言った。
「いやでも、ラピスを置かないと、それに…ターウォンの事も、ある、し、」
「ラピスはもう置き終わる。ターウォンも幽霊じゃないんだ、お前の案内が無くても探せばどこかにいる。助けに行かない理由にはならない」
その言葉にサトシは混乱したように両手で顔を撫でる。窮地でも冷静に正しい行動を選択するサトシからは考えられないような仕草だった。
「今日の作戦は、失敗出来ないっ、見受けされるって事はティハは自由になれるって事だ、だから…まだラピスを置かなくちゃいけないし、皆んなそれぞれ準備を進めてる、ティハは島を出られるんだしっ、」
男の支離滅裂な言葉にロシュは首を傾げる。
「何の話をしてる?その女が島を出たら今日この島の人間と一緒に自由になれなくなるって話じゃ無いのか?」
サトシは息を飲んだ。
自分でも何が何だか分からなくなって目線が右に左に揺れる。作戦を遂行すべきだと言う自分と今行かなくては手遅れになるという自分の間で揺れていたのだ。
と、その時、
『あー、あー、皆んな聞こえる〜?』
そんな呑気な声が耳元で響く。チャックが監視塔に辿り着き、ラピスを通して交信出来るようにした証拠だった。
『おー、やっと話せるようになったなぁ。俺もリリスも聞こえてるぜ』
『やっほっほ〜。仏頂面くんの隣にいるラミアも聞こえてるよー』
途端に騒がしくなる耳元。サトシは聞きなれた声に詰めていた息を吐き出した。
「こっちも聞こえてる…」
サトシは静かに言う。
『全員、準備は出来たか?』
レイの言葉に次々と声が上がった。
『引き抜きの行列まで後少しだ、それまで、』
「レイ、サトシが話があるって」
ロシュが淀みなく話していた男の言葉を遮る。サトシは眉間に皺を寄せて抗議する様にわずかに口を開いた。
『どうした?』
「あ、いや…」
「サトシの大事な女がピンチらしい」
歯切れの悪いサトシの代わりにロシュが言う。
「大事な女ってそんなんじゃない。姉みたいな感じで…貴族に見受けされて島を出るだけだ。別に死ぬ訳じゃないし。作戦の方が大事でしょ。ロシュが勝手に言い出しただけだから忘れて」
サトシは早口でそう言った。まくし立てるような言い方はまるで自分に言い聞かせているかのようだった。
『ティハの事か』
レイの声が小さく聞こえる。
『助けて来い』
「え」
『ロシュ、ターウォンはサトシが言っていた通りカマキリみたいな男だった。そんな人相の男を探せ』
「分かった」
赤毛はコクリと頷く。
「ちょっとレイ、待ってよ。ロシュが俺の案内無しに本気でターウォンのトコまで行けると思ってんの?」
『ターウォンは今の所思った通りの動きをしてる。この後の動きも予測出来る』
「ロシュはアイツの顔を知らない」
『お前の言ったカマキリみたいな男だっていうのはその通りだった。…助けに行きたく無いのか?』
「そうじゃ、無いけど、こんな大事な作戦にアンタらしく無い」
レイは一瞬だけ口を閉ざす。次に話し出す前にわずかに含み笑いが聞こえた気がした。
『そうかもな。後悔しない方を選べ。この話は終わりだ、行列開始まで一時間を切った』
レイはそう言うと各自に作戦の進捗を聞き始める。その声を聞きながらサトシはわずかに唇を噛んだ。
「行ってくる」
その声は少しだけ震えていた。小柄な男は恐怖を振り払うように、迷っていた時間を取り戻すように勢いよく走り出した。
読んでくれてありがとうございます!!
今日も短め!次かその次ぐらいのがめっちゃ長いです!お気をつけを!!
誰がどこに居るか、混乱してないでしょうか?してないと願ってます。「ん?」ってなると読む楽しさが減るからなぁ。
隙あらば喋ろうとするチャックとラミア。台詞を削るのが結構面倒だったりします。
後半のサトシが混乱する場面もガッツリ割愛しました笑
ごめんね二人とも。話が脱線しちゃうんだ。
さあ、次も土曜日の21:00!また来てね〜




