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白いパン③

 先が見通せないほど長い廊下をメイドに先導されて歩く。メイドはダークブラウンの髪を低い位置でひとつに束ねており、右手に付けたブレスレットがキラリと光った。

その後ろをついて行くのは背の高い貴族の男と緑の目をした従者。

従者はチラリとメイドを見た。

パチリと片目をつぶってみせるメイド、ラミアに従者役のイーサンは小さく苦笑すると元の無表情に戻って主人の後について行く。

双子の入れ替わり芸から約二週間、滞りなく準備を済ませた男たちはいよいよ作戦の日を迎えていた。

二人は全体の大きさからすると比較的小さい部屋へと通される。カチャリと開いた音に部屋の中央にいた男が振り返った。

「ピーストップさん」

浮かぶ表情は明るい。男は弾むような足取りで部屋に入って来た二人に近づく。

「いや、僕らはもはや友だ。エリックと呼ぶべきかな?」

男は熱に浮かされたようにそう言った。緑の瞳の従者はスッと目を細める。

「ぁは、、、あぁ、そうだね」

エリックは彼にしては珍しくぎこちない表情で言った。

「ああ、すまない。ちゃんと挨拶した事は無かったよね。僕はルパート・ハンス、君が味方で嬉しいよ。あー、本当に!君がね!あのエリック・ピーストップがだ!」

ルパートは興奮したように首を左右に振る。エリックはニコリと笑顔を貼り付けた。

「僕も嬉しいよ。誰にも言えなかったからね。味方は一人もいなかった、でももう違う。そうでしょうルパート?」

長身の男は相手に倣って名前を呼ぶ。

「ああ、そうだよ!」

ルパートはエリックに抱きついた。抱擁でその喜びを示そうと言うのだ。

「っ、」

長身の男は身をすくめる。

「まさに素晴らしい事だよ。ああ、とりあえず、そこに座って。うっかりしていた」

ルパートはソファを指差した。

「最大の楽しみの前に有志を紹介しようじゃないか!」

男は嬉しそうにそう言うと、メイドに指で指示を出す。そっと開けられた重厚な装飾の扉の向こうから出て来たのは二人。

一人は背の高い痩せぎすな中年の男。身にまとう衣装が大き過ぎるのかポールハンガーが服を着て歩いているように見えた。

二人目は対照的にでっぷりと肥えた若い女だった。ドレスの裾が大きな扉いっぱいに広がり、女の存在感を際立たせている。

「ご立派になられて、貴方のお父上とは、、」

「ああ、エリック様!実物の方が美男でいらっしゃいますわ」

痩せぎすな男のぶつぶつと呟くような言葉を女のキンキンと高い声がかき消した。

「テシュー卿とシアル嬢だ。お二方、こちらは中位五家でここイチア地区を治めるピーストップ家のご子息、エリック様だ」

ルパートはエリックの事をことさら仰々しく紹介した。まるで自分の権威が強まった自慢でもするかのように得意げだった。

「ご紹介に預かりました、エリック・ピーストップです。この度は新参者の私を快く受け入れて下さり大変嬉しく思います。どうぞ宜しくお願い致します」

エリックの言葉にルパートは力強く拍手すると、それぞれに席を勧める。

「早速になるが、今日の獲物をそれぞれ紹介しようじゃないか」

ルパートが手を打ち鳴らす。

「そうは言うがルパート、貴方の獲物はいつも子供ばかりではないか、それも女ばかり」

テシュー卿と紹介された男がボソボソと言った。

「悲鳴が良いのですよ。それに子供はすぐ泣くから面白い」

ルパートは嫌な笑みを浮かべながらそう言うと、興奮を抑えるかのように深く息を吸う。

「ふむ、分からんでは無いが足が遅いのは好かん。逃げ回って貰わないとつまらんだろう」

「なるほど、だからテシュー卿はいつも十代の青年たちなのですね?」

二人の男の会話にエリックは笑みを深める。そのあまりの邪悪さにボロの前に胃の中の物が出そうだった。口端が引き攣らないように力を込める。

「まぁ悪趣味です事。エリック様もそうは思いませんか?」

シアル嬢はそう言いながらエリックにしなだれ掛かるように身を寄せる。

「はは、趣味は人それぞれだしね」

エリックは努めて平静を装ってそう言った。左腕に掛かる重みにわずかに身じろぐ。エリックは表情は崩さないまま、いつこの悪趣味な話を遮って本題に入ろうかとタイミングを探っていた。

「僕が連れて来た子たちを紹介しようかな」

ついにエリックが声を上げた。これ以上話を聞いていられなかったし、何より部屋の隅で控えている従者、もといイーサンが限界そうだったからだ。

イーサンは額に青筋を浮かべて男たちを睨み付けていた。その視線もはや従者のそれとはほど遠い。脳天から溢れる怒気はメラメラと燃え上がり、天井を舐める炎が見えるようだった。こんな従者の表情を見られて怪しまれるのはマズイ。

「エリック様の好み、気になりますわ」

「ご期待に添えると良いけど」

エリックはそう言うと女に軽く微笑み掛ける。

「連れて、、持って来て」

ワザと乱暴に言い直すと従者を顎で示した。

「かしこまりました」

緑の目をした従者はコクリと頷くと部屋を出る。少しするとガチャリと音が鳴って扉が開いた。

先程の従者が鎖を握って入って来る。

繋がれた先にはがっしりとした体躯の赤毛の男、それからいかにも不機嫌そうな小柄な男、最後は左手にブレスレットを付け、メガネを掛けたブロンドの女だった。

「どう?ご期待に添えたかな?」

エリックはニコリと笑う。

「大人の男⁉︎」

「綺麗なのもいますな」

「こんなゴツくて大きな男、怖いですわ」

指を指された赤毛よりも先に、後ろにいた小柄な男がギロリと睨みつけた。

『サトシ、静かにして』

『俺はなんも言って無いでしょ。アンタこそ静かにしてなよリリス。メイドと顔が同じだってバレるぞ』

『貴方がカツラをかぶってメガネをすれば大丈夫だと言ったんですよ』

鎖で繋がれた二人は貴族たちが騒ぐ中ボソボソと会話する。

「ダメ、、だったかな?」

エリックが聞いた。

「ぁ、いや、ダメではないけど、君は大人の男を獲物にするのかい?」

「性別は気にしていないかな。楽しめればどちらでも」

その言葉にルパートはゆっくりと頷く。

「なるほど、、、初めてのタイプだ」

妙に感心したような言い方だった。

「君たちは彼のような男性を獲物にしないの?」

エリックは言いながら赤毛を振り返る。

「そりゃあそうだろう。大人の男なんか狩って何が楽しい?甲高い悲鳴を消してやるのが楽しいんじゃないか。あの耳障りな声を、消すのが、楽しいんだ」

男は途切れ途切れに言ってその思いを強調させる。続けてでっぷりとした女が口を開けた。

「ええ、ルパートさんの言う通り。泣いて許しを乞うのが憐れっぽくて良いのですわ。逃げ惑うのを追うのも。そちらはテシュー卿の方がよく知ってらっしゃるかしら?」

話を振られた痩せぎすの男はニタニタと気味の悪い笑みを浮かべる。

「知っているか?こういう時は走らない方が良いんだ、余裕を見せる方が恐ろしいらしい。半狂乱になって逃げてくれる。それを、」

男は右手で銃のような形を作った。

「ズドン、、、ピタッと声が止む。それが、本当にたまらない」

恍惚とした表情で男は言う。

ギリッ、鈍い音がわずかに響いた。従者が歯を食い縛る音だ。その緑の目は真っ直ぐに男を捉えており轟々と燃えるようだった。

「、、なるほど。確かに、それは最高だよね」

エリックは口角を吊り上げる。

「そうだろう!」

「うん。でも、男性も良いよ。強い者をねじ伏せる、、、あの感じは、、、」

パチリと瞬きをすると意を決したように絞り出した。

「すごく、良いよ。ゾクゾクするよね」

にっこりと笑顔を浮かべる。吐きそうだ。演技とはいえ自分の口からそんなおぞましい言葉が出るなんてまるで悪夢のようだった。

「ん〜、そうか、、でも、男か、大人の、、、聞きたいんだが、反撃されないのかい?」

「はん、げき?」

エリックは首を傾げる。

「、、いいや、、だって、こっちは武器を持ってる。相手は丸腰だし、、、反撃って言ったって、、」

「それは!そうだが、、でも、、、いや、なんでもない」

ルパートはコクリと頷いた。

「そういうのも、アリかもしれない」

男は突然思い直したようにそう言う。

「本当?そうだよね。じゃあ早速、、楽しまない?」

「良いだろう。ソイツらも入れて“狩り”を楽しもうじゃないか」

男はスタスタと歩き出す。従者の横を通り過ぎた時、ピタリと立ち止まった。

「、、先頭の赤毛の手の鎖はそのままにしてくれ、その方が楽しめる。そうだろう皆んな?」

ルパートは振り返って言う。

「恐れていらっしゃるのルパートさん?私はエリック様に守って頂きますからどちらでも構いませんわよ」

女はそう言いながらエリックの腕を掴んだ。

「別に恐れてなど、」

「チビは良いのか?アイツも男だろう」

痩せぎすの男が聞く。

「ソイツはまあ、後ろの女よりチビだから別に構わない。皆んな鎖には同意みたいだし、それで良いだろう?」

「あー、、」

エリックは鎖で繋がれた赤毛をチラリと見た。赤毛はゆっくりと瞬きしながら小さく頷く。

「うん、そうだねルパート。じゃあ、そうしよう」

その言葉に男は満足そうに大きく息を吐いた。





 動きを抑制していた鎖は、両腕の動きを封じるもの以外は全て取り払われていた。赤毛の男は、体の前で封じられた腕を煩わしそうに動かすと月明かりが影を落とす庭を眺める。

事前の調べ通り、“獲物”たちは庭のあちこちにある檻に入れられてバラバラに配置されるようだ。

ロシュが入れられている檻の壁は左右にしか無く背後は庭へと通じていた。

無機質で何もない床や壁は冷たく一切の生命を感じない。

『弾は全部抜いといたよ、安心してアイツら成敗しちゃってよね〜』

『ご苦労ラミア。屋敷を出て予定通り馬車まで来てくれ』

『りょうかーい』

耳飾りから響いたラミアの声にレイが返答する。

と、今度は耳元からでは無いところから声が聞こえて来た。

[ご機嫌よう、獲物の諸君。今から僕らと狩りをしてもらうよ。僕らが狩人で、お前たちは獲物]

赤毛は上を見上げる。天井には石が嵌め込まれていた。録音された音声ラピスのようだ。

[舞台はお前たちの目の前に広がる僕の庭。制限時間は一時間、逃げ延びたら次回も楽しめるから、是非頑張って。僕らは五分後に出るよ。それじゃあ、始めようか]

その言葉とほとんど同時に庭へと続く檻が鈍い音をさせながら開いた。

 芝の匂いを運ぶ夏の夜の生ぬるい風が赤毛の鼻腔をくすぐる。男は唸るように言った。

「何人だ?」


 エリックとその従者は、家主とその仲間に連れられて庭近くの部屋に通された。そこは一見普通の応接室のように見える。しかし、メイドによって整然と並べられた銃器の数々がその部屋が普通ではない事を物語っていた。

『何人だ?』

耳元で唸るような低い声が響く。エリックは銃器を見定めている男に近づくと質問した。

「ルパート、今日は何人の獲物がいるの?」

「それぞれ三匹ずつ連れて来たから全部で十二匹だね」

「そう。十二、匹ね」

エリックは小さく呟く。従者は深く息を吐いた。


 馬車が闇に溶けるように停まっている。左右対称に整えられた庭のほど近く、月明かりも届かないような場所に停まったその馬車には二人の男が乗っていた。

一人は座席の取り払われたキャビンの中で黒い岩と睨めっこする金髪の男。もう一人はその隣で庭の地図を見ている鋭い瞳をした黒い服の男だった。

「聞いてた皆んな?合わせて十二人だって、だからぁ、探す人数はロシュたち三人を引いて八人!」

金髪が相変わらずの軽い口調でそう言う。

『チャックは計算が早いな』

低い声。ボソボソと話すロシュの声はラピス越しでは聞き取り辛かった。

『馬鹿なの?十二から三引いたら九だろ。全員で九人だ、分かったか馬鹿二人』

「ひでぇ!そんな自信満々で間違えたら恥ずかしいぞサトシのバーカ!」

「九で合ってる。五分しか無いんだ、急いで全員集めて庭を脱出しろ」

チャックは隣から飛んで来たレイの冷静な声に、シュンと項垂れると気を取り直したように顔を上げて黒い岩に浮かぶ熱源を目で追いながら仲間に指示を出しだした。






 赤毛の男は薄暗い庭を音もさせずに歩く。耳を澄ませば虫の声に混じって急くような足音。風の運ぶその音は右手側から聞こえているようだった。

ロシュはくるりと向きを変える。足音はこちらに向かって来ていた。

「おい」

「きゃあ!」

闇の中から突如聞こえた声に相手は叫びながらその場にうずくまる。

「ゆ、許して下さい。お願い!殺さないでっ!」

「おい、殺したりしない」

ロシュは怯えた様子の少女の隣にしゃがみ込んで言った。手をぐいと差し出すと、口を開く。

「見ろ、手を塞がれてる。お前と同じで殺される側だ」

「ころ、、ぅう、私、本当に殺されるの?あぁ、いやっ、ヤダァ!」

「おい落ち着け、静かにしろ」

ロシュは走り出そうとする少女の手を掴んで止める。

「殺されたりしない。安全な場所まで連れて行ってやる、ついて来い」

そう言うと、くるりと踵を返してロシュは歩き出した。しかし少女は一向に動かない。

過呼吸気味に呼吸を繰り返しながら目を見開いて赤毛を見つめるだけだった。

ロシュは三歩ほど進むと振り返る。

「、、怖くない。俺が守ってやる」

ニコリともしない表情でそう言うと赤毛の男は再び歩き出した。新たな足音のする方へ。

ー残り時間は四分、この調子だと思ったよりも時間が無いかもしれないー

少女は鼻を大きくすするとふらふらとした足取りで赤毛の後に続いた。


 高い生垣が無数に有り、迷路のようになっている庭を小柄な男が一人で歩く。いつもの数倍は機嫌が悪そうな凶悪な面をしていた。

「あの野郎ぜってーぶっ殺す。何がチビに手錠は要らねぇだ。後悔させてやる」

ボソリと呟いたサトシの言葉は耳元で道案内に騒がしいチャックの声にかき消され、誰の耳にも届かなかった。届かないはずだった。

「ひっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

茂みに隠れていたらしい青年が尻もちをついてズリズリと後ずさる。どうやら独り言を聞かれていたようだ。

「そんなにビビんなくていいよ。こっから出たいでしょ?」

「え、、」

青年は困惑の表情を浮かべてサトシを見上げた。

「で、出るってどうやって?貴方何か知ってるんですか?狩りって一体何なんです⁉︎」

「死ぬかもしれない時にそれって重要?さっさと立って黙って付いて来なよ」

そう言うと芝生を踏み締めて歩き出す。

「あ、ちょっとっ」

青年は立ち上がろうとしてズルリと滑ってしまう。その音にサトシは首だけで振り返った。

「生きたいならさっさと立つ。腰抜かしてる奴をおぶってやる程俺は優しく無いよ」

軽く駆け出すような足音が追って来る。どうやら自力で立ち上がれたようだ。


 ザクザクと整えられた芝生をかき分ける複数の足音。ヒューっと吹いた風がカツラの間を通ってわずかに汗ばむ地肌に心地良い。段々と下がって来た伊達メガネをキュッと上げたリリスはチラリと後ろを振り返った。

後ろを歩くのは四人の少年少女。不安そうに爪をいじったり、唇を噛み締めていたりと反応は様々だったが大人しく後ろをついて来ていた。

「レイさん、残り時間はあとどのぐらいですか?」

『あと二分弱だな』

「ではそろそろ脱出地点に向かった方が良いですね。庭も広いですし」

リリスはそう言うと歩く速度を少しだけ上げる。

「チャックさん、ここから脱出地点までに助け出せそうな方はいますか?」

『んー、、居ないよ!』

「そうですか、では他の方々は皆さんに任せる事にします」

『うん!リリスが一番脱出地点に近いから一番乗りだと思うよ〜』

チャックが間延びした声で言う。

「ふふ、別に競争などしていませんが一番と言われるのは悪くないですね」

リリスは事前に見ていた地図を思い出しながら、西側の塀を目指した。





 貴族たちの前にあった扉が重苦しい音を立てて開く。扉の間から差し込んだ月の光が真っ直ぐに降り注ぎ、冷たい石造りの床を照らした。

サーッと頬を撫でる風がエリックのブラウンの髪を柔らかく揺らす。広がるのはまだ何も起こっていない穏やかな夜の庭だった。

「はー、やっと五分だ。この時間が一番長く感じるよ」

「そうだね」

エリックはルパートを見下ろしながら小さく頷く。

「いよいよ始まりますのねっ」

女の弾むような声。

「それじゃあ、狩りの始まりだっ!」

男たちは歓喜を声に滲ませながら庭へと駆け出して行った。残されたエリックとその従者は冷めた目でそれを追う。張り付いたような微笑みは消え失せていた。





 高く聳える石造りの塀にメガネ姿の女がそっと触れる。彼女の後ろには先程と変わらず四人付いていた。

塀のゴツゴツとした感触が指から伝わって来る。女はブレスレットを付けた左手を塀に滑らせながら少し歩く。散った葉が溜まり、絨毯のように広がっていた。

カサカサと鳴る足音がある一点で立ち止まる。

リリスが足で落ち葉を退けると塀の下にぽっかりと空いた穴が現れた。

「さぁ出口ですよ。出たら外で私を待っていて下さいね」

「えっ、お姉さん来てくれないの、、」

一人の女の子が消え入りそうな声で聞く。

「すぐに行きますよ。でもお姉さんの仲間がまだ来ていないのでもう少し待っていなくては」

「じゃあ私、ここにいる」

「私も、」

「僕も」

女の子の言葉にならうように声が続く。

小さな肩が小刻みに震えていた。ガラスのような瞳が頼りない月明かりで揺れるのを見たら、ダメだとは言えなかった。

迷うように息を吐いたリリスの鼓膜を低い声が揺らす。

『先に出なよ。もう五分経ってるし、いつそっちに貴族連中が来るか分からない。ラミアが弾は抜いてくれてるけど出会わないのが一番でしょ』

サトシが言った。

「それもそうですね。分かりました、では私はひと足先に戻ります」

リリスはそう言うと宙を見ていた視線を少女たちへと戻す。

「一緒に行きましょ」

安心させるように微笑んだリリスに、少女たちは安堵の息を吐いた。





 大きく開いた重厚な扉の前でエリックは一度だけ瞬きする。

助け出す人々が思ったよりも庭全体に散らばっていた為五分以内に全員を避難させる事は叶わなかった。全員が無事に脱出出来る事を祈りつつ、エリックは自分の出番まで待つ事にする。

「あれ、銃一個多くないか?」

背後から聞こえるのはイーサンの声。

「どうしたの?」

「いや、選べる銃の数は全部で五つだっただろ?貴族の人数はお前を入れて全員で四人。だったら銃は一個しか余らない筈だ。なのにほら、二個残ってる」

イーサンは机の上を指差して言う。

「本当だ。僕も一応選んだから一個しか残らない筈だね。あれ、でも全員銃は持ってたよね?」

エリックは長い指を顎に添えながら思い出すように呟いた。

「お嬢様はいつもご自分の銃をご持参してらっしゃいますよ」

「え?」

部屋の隅の方で控えていたシアル嬢の従者の女が言う。

「男性の扱う銃は重いから嫌だとおっしゃっておられました」

「え、、、じゃあ、、その銃は、弾が、、」

イーサンの声がそこで途切れた。エリックは開け放たれた扉を振り返る。暗い夜の庭が大口を開けて待っていた。

読んで頂きありがとうございます。

女性キャラを仲間にする時にどんなキャラにするかめちゃくちゃ苦しみました。

最終的にラミアとリリスという双子になりましたが、最初は一人のつもりでした。

でも既に仲間として出来上がってる集団の中に違和感なく馴染める女とはどんな人間なのか、もうめっちゃ悩みました笑

あまりに強くカッコいい女性も違うし、花のように可憐な女性も違うし…

最終的に二人だけで世界が完成しているような強烈な双子になりました。

でもそれはそれで生まれる苦労も笑

女が二人もいると、文字しか無い小説という世界で区別するのに苦戦しました。

リリスが敬語を話すのは彼女たちの歩んで来た過去に理由がありますが、どちらがどちらかを区別するメタ的な理由もあります。

そんな二人の誕生秘話でした!

さぁ、次回は火曜日の21:00公開です。また来てね。

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