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白いパン②

 見上げる首が痛いほど高い天井には所狭しと絵が描かれてており、特大のシャンデリアが幾つも吊り下がっている。美しくカットされたラピスがキラキラと光を放つそのシャンデリアは豪華な衣装を身に纏った人々を明るく照らしていた。

大人の男女が集うその部屋は広く、床に敷かれた深緑の絨毯は目に優しい。金で縁取るように施されたきめの細かい刺繍は、踏むには勿体ない見事さだった。

その絨毯を踏むのは、つるりと磨き上げられた上等な革靴と美しいピンヒール。色鮮やかなドレスは深緑の絨毯の上で花のように咲き乱れる。

城のように大きな屋敷の大広間で貴族のパーティーが行われていた。

 大勢の人が踊ったり、酒を嗜んだり、会話を楽しむ中、ある一角に人集りが出来ている。男も女も集まるその中心には、他の者よりも頭一つほど背の高い若い男がいた。

長身の男は美しい人物だった。薄い茶色ブラウンの髪は柔らかそうで、まつ毛の長い大きな瞳は麦畑を切り取ったような金色。スッと通った鼻の下には柔和な笑みが浮かんでいる。

「エリックさん、赤ワインはお好きですの?」

「エリックさん、君の持っている土地についての事だけれど、」

「エリックさん、恋人はいらっしゃいますの?」

エリックと呼ばれる長身の男はわいわいと集まって来ている人々から、入れ替わり立ち替わり話を振られていた。

長身の男は口元にニコニコと笑みを浮かべながら、一人ひとり順番に答えている。

エリックの笑顔には不思議な力があった。それは何も、人を宙に浮かせられるなどという突拍子もない力ではない。しかし、確かに力があった。

彼の笑顔を見ると、人は彼に釘付けになる。キラリと光を放つようなその表情に、誰も彼も虜になった。エリックの笑顔にはそんな力があるのだ。

 豪華な衣装を着た人々の間を、給仕服を着た男女が歩き回る。エリックはおしゃべりで噂好きの女たちの話にうんうんと相槌を打ちながら、視線を広間のあちこちに飛ばしていた。

長身の男の視線がある一点で止まる。カーテンの傍に一人佇むその人物は、エリックと同じくらいの年頃の若い男だった。

エリックは女たちに視線を戻す。

「君たちはすごく物知りなんだね」

「そんな事ありませんわ」

淡い青色のドレスを着た女が謙遜して言った。

「いいや、本当にすごい知識量だよ。知らない事なんて無いんじゃない?あまり社交界には出て来ないボリス家の事も知っていたでしょう」

「一人ひとりはそう大した事ありませんわ。私たち三人での知識量ですもの」

女は同じようにエリックを囲んだ女たちを振り返って言う。

「それでもすごいよ、君たち三人とも。じゃあ、、、彼女の事は知ってる?」

エリックは奥の方にいた女を適当に指差した。

「ええ、もちろんですわ。彼女は、」

女たちは嬉々として話し出す。エリックはそれを話半分で聞きながら再度視線を広間に飛ばした。先程見つけた男は相変わらずカーテンの側に立っている。

「へぇ、やっぱりすごいや。でも、さすがの君たちもハンス家の子息の事は知らないでしょう?だって、ほとんど表に出て来た事は無いし今日だってきっと欠席だろうしね」

長身の男の言葉に女の一人が、窓を指差した。

「あそこにいらっしゃいますわ。彼がハンス家の子息、ルパートさんですわ」

カーテンの側に立つ男、ルパートは右手に持ったグラスを傾けている。それを見た緑のネックレスをした女が嫌そうに顔を顰めた。

「ああ、彼がそうなの?来ていたんだね。あまりに見ないから顔をよく知らなかったんだ」

エリックはそう言ってとぼける。

「彼はシャイな性格ですの。人とお話されるのがあまり得意な質では無いんですわ。でも、共通の楽しみを持ったご友人がいらっしゃって、その方達とお話する時はとても楽しそうなお顔をされる印象がありますわね」

赤いヒールの女が言った。エリックはその言葉に確信したように小さく頷く。

「楽しみって?」

急かさないようにゆっくりと、気取られないようにさりげなく、長身の男はそう聞いた。

「ごめんなさい、そこまでは、、、聞こうとして近づいても、皆さんシャイな方達ばかりで、、、」

「逃げられてしまいますのよね」

「分かりますわ。目がちょっと合っただけで避けられてしまうんですもの」

赤いヒールの女の言葉に、他の女たちも口々に言う。

「それって失礼ですわよね、」

「ええ、ただお話ししたいだけですのに」

「私なんて、“君に興味なんて無いから、僕に話しかけても無駄だよ”って言われましたのよ!」

緑のネックレスの女は憤慨したようにそう言った。

「なんですのそれ!」

「信じられませんわ!」

「興味無いなんてこっちの台詞ですわ!大体、そういうつもりで話しかけている訳でもありませんのに!」

女たちはぷりぷりと怒り出す。エリックは同意を求めるような声に、上手に返しながらカーテンを見た。男の周りにはいつの間にか何人かの人間が集まっており、にこやかに談笑している。長身の男はその様子を横目で伺いながら女たちの声に耳を傾けた。

耳の痛くなるような声の中にも情報は沢山ある。近づく為には男の人柄を知る事も重要だ。

エリックは終始ニコニコと笑みを浮かべながら、忙しなく頭を働かせた。





 吹き抜けた高い天井とそれに伴って高い壁には大きな窓があり、ぼんやりと月の光が差し込んで来ている。天井にポツポツと設置された照明ラピスはその頼りない光を飲み込むように明るく輝いていた。

白い天井、白い床、白い壁。

部屋の全てが白で統一されたシンプルな部屋は生活感で溢れていた。スクリーンの正面に置かれた、これまた白いソファには脱ぎ散らかされた服やらがかかり、ローテーブルの上にもキッチンにも汚れた食器が置かれそこかしこに石が散らばっている。

そんな部屋の広さやシンプルさを全て感じさせない部屋にしたのは他でもないここに住んでいる人物の仕業だった。

その人物は入口に近い位置に置かれている楕円型のテーブルに座って眠りこけている。テーブルの上には乱雑に置かれた石と、それを加工するような工具が乗っていた。

金髪の男はスヤスヤと寝息を立てる。遠くの方でガチャリと音が鳴ったのも気付かないようだった。

声が聞こえる。男の声だ。話す感じからして二人いるようだった。

「貴族サマが言ってたルパートの仲間、検討はついたけどそれで全員かは分かんないって双子が。あとロシュは人数居ても関係無いって言ってるけど、ターゲットが増えればそれだけ助ける人間も増えるし、どうだかね、」

「そうか、あとはチャックの情報だけだな」

ガチャ、すぐ近くで音が鳴る。金髪の眠る部屋に入って来たのは二人の男だった。一人は修道服を着た鋭い瞳の神父。もう一人は、耳にゴツいピアスを幾つも付けた小柄な男だ。

神父が部屋の惨状に眉を顰めた時、ピアスの男サトシは眠る金髪に足早に近づいた。

「起きろクソ野郎」

言葉と同じくらい荒々しく金髪の頭を叩く。

「う゛っ」

チャックは潰れたような声を口から漏れさせると、ふらふらと頭を上げた。

「テメェ、片付けとけってこの前言ったよなぁ?」

サトシは目を吊り上げて言う。

「んだこの汚さ。ここはリビングなんだよ、共有スペースだ。汚くしていいのはテメェの部屋だけだ。これも前言ったよな?学習しろよ。馬鹿なのか?ああ、馬鹿だったか」

男の剣幕にチャックは顔をしわしわと萎えさせると、うるさいとでも言うかのように両手を耳に持っていった。

「おい、耳塞いでんじゃねぇ」

そう言って金髪の両手を掴む。

「サトシ一旦待ってくれるか?」

喧騒を遮ったのは神父だった。静かに言ったにも関わらずよく通るその声にピアスの男はピタリと動きを止める。

「チャック調べ物は終わったのか?」

「うぅ〜ん」

チャックは自由になった手で眠そうに目を擦りながら唸り声を上げた。

「ええっとねぇ、、あー、、」

ぼんやりした顔でポリポリと頬を掻く。サトシは隠そうともせずに舌打ちで不機嫌を露わにした。

「、、、、ああ、終わった。終わったよ」

「そうか、ご苦労様。それで、、分かった事は?」

レイは金髪の覚醒をじっくりと待つとそう聞く。チャックはポツポツと思い出すように話し出した。





 「ルパート様、お手紙が来ております」

そう言いながら、椅子に腰掛けて本を読んでいた若い男に近づくのは壮年の使用人だ。動物の足を模したようなデザインの椅子は重厚感たっぷりで、座る者を程よく押し返す。

ルパートは差し出された手紙を受け取った。重みを感じるそれの中には、手紙以外にも何か入っているようだ。さっそく封蝋を剥がすと、手紙からふわりと良い匂いが香る。紙に焚きしめられた香の匂いだった。

ルパート・ハンス様

拝啓

 花のつぼみが膨らみ、近づく季節を嬉しく思う時期となりました。お健やかにお過ごしの事と存じます。

 さて、この度は突然の手紙をお許し下さい。ルパート様の好まれるご趣味について先日耳にする機会が御座いました。実は、私もそのご趣味に大変興味がありまして、手紙を送った次第で御座います。

つきましては、そのご趣味に是非参加させて頂きたく存じます。新参の身で大変厚かましいとお思いの事でしょう。しかしながら、私は必ずや貴方の良き理解者になれると確信しております。

どうかご一考下さい。

 それでは、いつかお話し出来る事を願って。

                                        敬具  

                         エリック・ピーストップ

ルパートは封筒をひっくり返す。ころりと落ちて来たのは、手の平程の大きさの双子石だった。それを見た男はガタリと音を立てて勢いよく立ち上がる。膝に置かれていた本がドサリと音を立てて落ちた。しかし、ルパートはそんな事には一切目もくれず一歩二歩と進む。

「はは、、アッハ!まさか!彼が!中位五家の子息が!僕らの仲間だったなんて!」

男は言いながら天を仰ぐと入っていた石の角で手の平に文字を書き出した。

“同志 歓喜 招待”

手の平に書いた文字は、字の癖もそのままに石の表面に浮かび上がる。石はじんわりと熱を持ったかと思ったら、ボォっと光り出した。文字が溶けるようにしてその光の中に消えて行く。

「ハハ、そうか!エリック・ピーストップが!」

男は喜びに打ち震えるようにしてそう言うと、軽い足取りで部屋を後にした。





 豪勢な馬車が上流階級の町を抜け、中流階級の町を抜けて山道へと入る。峠を三つほど超えると別荘地が見えて来た。建ち並ぶ大きな屋敷を通り過ぎて再び山道へと入って行く。

ぐんぐん登って行き他の別荘も無くなった頃、建物が見えて来る。鬱蒼と茂る木々の間に半ば埋もれるようにしてあったその建物の中に豪華な馬車は吸い込まれるように入って行った。

馬車が完全に停止するとエリックは屋敷に入る。淀みない足取りで扉を開けた。

「ただいま」

エリックが軽く言うと部屋のあちらこちらから声が返って来る。長身の男はこちらに背を向けてテーブルに座る男に近づいた。

男は何枚も紙を広げ、あっちを捲ったりこっちを捲ったりしている。

「レイくん、招待状出したよ、早速返事も返って来た」

長身の男はそう言いながら持って来た招待状をそっと机に置いた。

「ああ、すまないな。ありがとう」

レイと呼ばれた修道服姿の男は封の開いた招待状を確認する。

「ルパートが仲間全員に僕を紹介してくれるらしい。まさかこんなすんなり信用されるなんて、それに最初から全員に会えるとも思って無かったよ」

エリックは言いながら椅子を引いて席についた。

「お前はルパートたち下位の貴族とは違うからな。この国に五つしかない中位五家の息子だ。どうにか繋がる機会を狙ってる奴らばかりだとお前が一番知っているんじゃないか?」

レイの言葉にエリックは小さく肩をすくめる。

「“エリック・ピーストップ”を紹介したとあればルパートは仲間内からの株も地位も上がる、余程の馬鹿じゃない限りこんな絶好の機会を逃すはずが無い」

「じゃあ、レイくんの予想通りになった訳だね」

エリックが感心したように言った時、背後からこう興奮したような声が聞こえて来た。

「アタシって天才じゃなーい?」

振り返って見えたのは両腕を上げて得意げな表情を浮かべたラミア。その隣には彼女と同じ顔のリリスと赤毛のロシュが座っており、彼らの前のローテーブルの上にはいくつかの銃器が並べられていた。

「銃の練習?」

エリックが聞く。

「弾を抜く練習だ」

ロシュが答えた。

「エリックさんは居ない日だったので知らないかもしれませんが、当日屋敷に忍び込む役がラミィになったんです」

リリスは足をピタリと揃えて座り、落ち着いた口調でそう言う。

「そそ、作戦当日に“狩り”に使われる銃から弾を抜くっていう大仕事、仕事の出来るアタシにピッタリだと思わない?」

ラミアは言いながらトリガーに人差し指をさしてクルクルと銃を振り回した。ソファの背もたれにゆったりと背を預けて座っている彼女は随分とくつろいでいる。

「ラミアさんが潜入?レイくんが決めたの?」

振り返って聞くエリックにレイが静かに答えた。

「ああ。バレないように素早く、でも確実に弾を抜かなきゃならないからな。作戦当日までの期間は演技の上手いリリスに入って貰い、当日の銃の改造はラミアにやって貰う事にした。リリスよりラミアの方が筋が良いとロシュのお墨付きだからな」

「いくら双子でも人が変わったら流石にバレちゃわない?二人は外見以外はあまり似てないし、」

エリックが控えめに言う。

「安心して下さい。万が一にもバレませんよ」

「そーそー、だってそれで生き残って来たしねー。ねぇラミィ?」

「ええ、リリィ」

「え?」

突然の事にエリックの思考が止まった。最初に話したのがリリスで次に話したのがラミア、でもラミアは『ラミィ』と相手に呼びかけてリリスは『リリィ』と返事した。

「あははっ」

「ふふ」

戸惑う貴族の男に女たちは肩を振わせる。

「ね?分かんないでしょー?」

「さっきまで話していたのに、ラミィが私を演じたら途端にどちらがどちらか分からないんですよ。絶対に分かりっこありません」

リリスだと思っていた人間がラミアになり、ラミアだと思っていた人間がリリスになった。

ーもう何がなんだかさっぱり分からない。喋り方ひとつ、姿勢ひとつ、仕草ひとつでここまで別人に見えるものなのか。

いや、彼女たちの顔は文字通り瓜二つなのにどちらがどちらかすんなり分かる程違って見えるという事は逆も然りだと言う事だ。

互いを真似られると他人には全く見分けが付かなくなる。今それぞれが名乗ってる名前も正しいかは僕には分からない。なんだか頭が痛くなって来た。ー

目を回すエリックを見たロシュがひと言。

「名札が要るな」

ボソリと呟いた小さな言葉は、双子の笑い声にかき消されてしまった。





 墨をこぼしたかのように黒々とした空を無数の光が埋め尽くす。その光は何百、何千、もしかしたら何億光年という時間をかけて地上に降り注いでいた。

昼間の茹だるような暑さはなりを潜め、夜風が心地良く吹いている。

療養所の体をとった屋敷の屋上に置かれたベンチにもたれているのはエリックだ。

いつの間にか出現したベンチ、置いたのは誰だろうか。煌めく星々を見つめながらエリックは長く息を吐く。

太陽が昇ればいよいよ作戦実行の日だ。

上手くターゲットたちを騙し、仲間を安全に潜入させなければ。

「エリック様、ご一緒しても?」

背後から声をかけられてエリックは振り返る。緑色の目を細めてイタズラっぽく笑っていたのはイーサンだった。

「様付けやめてよ。どうぞ」

言いながらエリックはベンチの端に寄る。

「良いだろこのベンチ」

「イーサンが置いたの?」

「だってお前、気にせず寝転んでたじゃないか。貴族様を汚い屋上の床に寝転ばす訳にはいかないだろ」

「僕、君に貴族とか言われるのちょっと嫌なんだけど」

エリックは少しだけ不満そうな表情を浮かべて言う。

「ふはっ、冗談だよ。地べただと身体が痛くなるだろうし、洗濯係の仕事が増えると思ったから置いたんだ」

「洗濯係?」

「お坊ちゃんの衣装が汚れてなけりゃちょっとは長く休憩出来るだろ?」

「、、そんな事まで考えてるの?」

エリックはおかしそうに笑った。

「もちろん考えてるさ。エリックは何を考えてる?」

イーサンは夜空から視線を外すと隣を見る。

「僕?」

「ああ。旗印の事ばかり考えてないか?」

「え」

エリックは短く言うとイーサンを見返した。いきなりそんな事を言われるとは思っていなかったのだ。

「作戦会議の日、演説しただろ?すごく良い演説だったぜ、チャックや双子は特に感動してたしな」

イーサンは言葉の端に思い出し笑いを滲ませながら言う。

「でもなエリック、無理に旗印になろうとしなくていいんだぞ」

イーサンの声がエリックの頭の中を反響した。同時に心の中に声が溢れ出す。

ー無理してるように見えた?わざとらしかった?ロシュには芝居の真似だと思われた。でも、チャックさんたちは気に入ってくれた。イーサンは気に入らなかった?だったらどうしたらいい?どう演じたらいい?ー

「無理になんて、そんな事、」

強めに吹いた風が木々を揺らしてざわざわと囁き合う。

「お前が疲れないなら別に良いんだ」

イーサンはそう言うと肩をすくめた。

「でも、ここに来たのは“皆んなの理想の貴族のエリック”を捨てて“わがままなエリック”を取り戻すためだろ?

それなのにここで“皆んなの理想の旗印のエリック”を演じてたら演じるモノが変わっただけで疲れちまうんじゃないかと思って。だから無理すんなよって」

イーサンの言葉にエリックは黙ってしまう。ベンチの背に頭を預け、空一面を覆い尽くす無数の星々をぼんやりと眺めた。

流れ星が漆黒のキャンパスを彩る。ひときわ強く吹いた風がエリックの喉から言葉を押し出した。

「、、、演じないで人と関わる方法を知らないんだと思う」

エリックはポツリと言う。

「君たちと遊んでいた頃は演じてなかった筈なんだけどな。もうどうやってたか思い出せないよ」

長いため息。

「僕じゃない僕でいる時間が長過ぎた」

貴族の男は静かにそう言った。

「エリックは優しいんだな」

イーサンが久しぶりに口を開く。脈絡の無い言葉にエリックは顔を上げた。

「なんの話?」

「お前が優しいって話。だって周りの期待を裏切らないように自分を押し殺してまで演じて、誰かの理想を守ろうとしたんだろ?自分を見失うぐらい完璧に。

ホントのエリックはお前が言ったようにわがままかもしれないけど、そんなわがままな自分に蓋が出来るくらい、誰かの為に行動したんだ。それは優しいって事じゃないのか?」

イーサンは首をかしげる。

「そうかな、僕は自分が無いだけだよ。自分で自分の理想を考えて行動するよりも、誰かの理想を演じる方が楽だっただけ」

「自分が無い奴が地位も家族も未来も全部捨てて、今ここで星を見てるとは思えないぞ」

イーサンは笑いながら言葉を続ける

「昔、一緒に見たよなぁ。スクラップタウンまで行ってさ」

「うん」

エリックは小さく頷いた。

「あれ、ひょっとして覚えて無いのか?お前とロシュが俺の事長生き出来ないって言いやがっただろ」

イーサンはニヤリと笑って言う。

「あはは、そんな事よく覚えてるね。でもそこまでは言ってないよ」

「そうだったか?」

イーサンはそう言って首を傾げた。

「あそこで皆んなで朝日を見るって約束、覚えてる?結局叶わなかったけど」

「、、、あー、言ったかもなぁ、、ははっ、そうだ、言ったな、言った、思い出した」

エリックの言葉にイーサンはコクコクと頷く。

「あそこから見る朝日はすげぇ綺麗なんだよ。エリックに見せたかったんだよなぁ、俺」

イーサンは思い出すかのように目をつむった。

「なぁ、見に行くか?朝日!」

「え?」

パチリと目を開けたかと思えばイーサンは威勢よくそう言う。

「日の出まであと五時間ぐらいか?ちょっと仮眠して、行こうぜ。ロシュも今日は療養所で寝てるし起こしてさ、皆んなで朝日見よう!」

名案だとばかりに手のひらを打ち合わせると、イーサンは勢いよく立ち上がった。

「ちょ、ちょっと待ってよ。明日は作戦の日なんだよ⁉︎ロシュはそれでここで寝てるんだし、無理だよ!」

「ちょっとぐらい大丈夫大丈夫。そもそも決行は夜だろ?朝日はすぐ昇っちまうんだ、そんなに掛かんないさ」

「ちょっとイーサン!それは今日じゃ無くても良いでしょ!イーサン!聞いてるの⁉︎」

エリックの声が静かな夜にこだまする。

「聞いてるさ。大丈夫大丈夫、エリックはなんでも難しく考え過ぎなんだよ。朝日を見たらスッキリする事間違いなし!」

イーサンの確信に満ちた声が夜空に響いた。室内に戻る楽観的過ぎる友を追ってエリックもベンチから立ち上がる。

エリックの説得の言葉もなんのその、イーサンは愉快そうに笑うだけだった。二人の声が星の間に溶けて混ざる。

彼らの住む星の輝きが、何百、何千、何億光年という時間をかけていつかどこかに届く気がする、そんな夜だった。

読んで下さりありがとうございます。

物語と関係無さ過ぎるけど、吐き出す場所が無いのでここでひとつ吐き出させて頂きます。

女性キャラが少な過ぎると身内から怒られて凹む。

これから沢山出すからぁ!許してぇ!

でもこんな人権無視の世界に活躍する女なんて居なくね!?無理があるくね!?

でも頑張って世界観と齟齬が生まれないように沢山出せるようにするから許して!怒んないで!

自分の中で、女性キャラって特に理想像があるのか産みの苦しみが半端ないんだよー!

まだしばらく女性キャラは出て来ないけど、出て来た暁にはそっと心の中で褒めてやって下さい。

しれっとこれまでのキャラが女になってたら笑ってやって下さい笑

さて、醜い愚痴はこの辺で。

次回は土曜日の21:00です。またお会いしましょう〜

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