絵画⑧
開いて下さりありがとうございます。とても嬉しいです!
今回の話には残酷な描写が含まれます。十分にご注意下さい。
イーサンの暴走は大した問題にはならなかった。遮音性の高い石造りの建物に加えてこの広さだ、怒鳴り声も走る音も気づかれずに済んだようだ。
二人はチャックの指示でエリックとラミアの元へと向かう。
一方エリックは、イーサンの見つけた地下への道とは違う所から囚われていた女たちと出てきた。ラミアは先頭を歩く長身の貴族の男を見つめながら最後尾を歩いている。
ーさっきのエリックは凄かったな〜。あんなにパニクってた女たちを一瞬で落ち着けちゃうんだもん。やっぱり良い顔してるからかな?ー
ラミアは、先頭を歩く権利をエリックに譲る程度には彼のカリスマに感心していた。地上に出る階段でイーサンとロシュが合流する。
二人の顔を見たエリックは詰めていた息を吐き出した。肩の力が抜けるとなぜ一人で緊張していたかの原因を思い出した。
「イーサン大丈夫?」
エリックは暴走しかけた友人にそう問いかけた。イーサンはその言葉にカリカリと頭を掻く。
「あぁ、大丈夫だよ。俺の行動で皆んなを危険に晒してごめん」
そう言って申し訳なさそうに肩をすくめた。
『イーサンそんなの気にする事ないない、俺なんて関係無いのにパニクってたんだからさ!』
チャックがふざけたように言う。
『お前のパニック癖が無ければ俺も現場に出られるんだがな』
『えっ⁉︎』
ボソリと呟いたレイの言葉にチャックは驚愕といった声を上げた。
『ラミア、俺がなぜ現場に出ないのかと聞いただろう。最後の理由がこれだ』
「アッハなにそれ最高じゃーん?」
ラミアが先頭にいる仲間たちに駆け寄りながらクスクスと笑う。
敵地にも関わらず何の憂いも無いかのように楽しげに会話する男たちをよそに、後をついて来る女たちは静かだった。
いっそ不気味なぐらい誰も何も言わない。
一人の女が隣の女に耳打ちした。耳打ちされた女は一瞬目を見開いたが、グッと唇を歪めると今にも泣き出しそうな顔で深く頷いた。
女の目には暗い光が宿る。
ここに連れて来られた時に消えてしまっていた瞳の光が仄暗い形で女に戻っていた。
ーここでやらねばいつやるんだ?ー
列の先頭でロシュが地上階へと出る扉を開いた。
滑らかに開いた扉から一人ひとり順に出て行く。イーサンに続いて外に出ようとしたエリックが開けられた扉の向こうへと一歩踏み出した。
と思ったら、大きくバランスを崩す。
「わっ、」
短い驚きの言葉を宙に残して石造りの廊下に倒れ込んだ。
続けて聞こえて来たのは駆け抜けるような足音。段々と遠ざかって行くその音は後ろからエリックを突き飛ばした女のモノだった。
その目には確かな光。
「おい待て!そっちは出口じゃない!」
イーサンは慌てたように言う。
「あの男を絶対に許さない!許さない!殺してやるっ!アイリーン、私の可愛い子!」
女は走りながらそう捨て台詞を吐いた。
許さない、と絶叫した女の声は聞いているこちらの胸が張り裂けそうな響きを含んでいた。
女はハナから逃げる気など無かったのだ。
自らの命よりも優先したい思いがあった。
何よりも大事なモノがあった。それなのに、奪われた。
キラキラと光る雫を後ろに残して走る。女は泣いていた。
その涙は失った最愛への誓いだった。
重そうなワンピースを引き摺って走る女をロシュは急いで追い掛けた。
数秒で女を捕まえたロシュだったが、後ろから複数人に強く打たれて振り返る。
視界に入ったのは助けた女たちに襲われている仲間の姿。
「ちょちょ、待った待った、何でアタシを殴るのさ!」
ラミアの声が遠く聞こえる。
「皆んな落ち着いて!大丈夫だよ、もう帰れるんだよ」
エリックの混乱。
「やめろ!俺だって殴ってやりたいが、殺しちゃダメだ!」
イーサンの必死な声。
「早く行って!」
「私の分も殴って来て!」
「この人たちは私たちが抑えるから!」
女たちは口々に言って、復讐を止めようとする男たちを抑え込む。
最初の女の行動に充てられたのだろう。一人が動いた事で、彼女たちの中にあった復讐の種が芽吹いてしまった。
機会を逃すまいと目覚めてしまった。
その激情は轟々と燃え盛る炎のように一瞬で広がる。もはや止めようが無かった。
ロシュの隣を何人かの女が走り抜ける。
チラリと見えた表情は様々だった。
泣いている者もいたし、歯を食い縛っている者も、感情がごっそり抜け落ちたように全くの無表情な者もいた。
だがその誰もが、身の内の激情に突き動かされているようだった。
所詮は多勢に無勢だ。
全員を止める事は叶わないだろう。ラミアは最初から止める気が無いのか途中から女たちからの攻撃すら受けていなかった。
三人だけで止めるのはどう考えたって不可能だ。
赤毛にとって自分に纏わりつく全ての女を振り払う事は容易だった。だが赤毛はそうしなかった。
全身に激情をまとい奮い立っているにも関わらず、今にも死んでしまいそうな表情の女たちを見たらそんな事は出来なかった。
もう二度と戻らない大事なモノを取り戻そうと必死になる、悲しくも恐ろしい鬼のような彼女たちを止める事が正しい事だとは思えなかった。
例えそれが人間性を失う破滅の道だとしても。
ロシュは女を捕まえていた腕の力を抜き、ダラリと落とした。
女はそれに一瞬驚いたような表情を見せたが泣き出しそうな、それでいてどこか笑っているような表情でそのまま走って行ってしまう。
まるで救われでもしたようなそんな表情だった。
「ロシュ、どうして!」
エリックは赤毛の行動に抗議の声を上げる。
「止めなくて良いと思った」
「え」
小さく言うエリックの肩をラミアは優しく叩いた。
「アタシらに止める権利無いでしょ。まして牢であんな事聞いちゃったらね」
軽い口調で言うラミアにエリックは理解出来ないという視線を向ける。力の抜けたエリックの腕の隙間からスルリと抜けた女が後を追って行った。
それ程遠くない部屋から女たちの叫び声と食器の割れる音、低い悲鳴が聞こえて来た。
『これは、、一体どういう事でしょうか、、』
『どうなってんのレイ。女たちがドイルをボコボコにしてんだけど、』
リリスとサトシの困惑したような声が耳元で響く。
「くそっ、それだけはダメだ!殺すな!」
イーサンは女を止める事を諦めると、悲鳴の聞こえる方へと走って行った。
「イーサン⁉︎」
エリックは緑の瞳の男の後を追う。
混乱の最中もみくちゃになったエリックの髪は乱れ、顔を隠していた布は半分以上取れてしまっていた。
引っ張られ破れてしまった上着をヒラヒラとなびかせながらエリックは走って行く。
ロシュとラミア、数名の女たちが残された廊下は先程の喧騒からは考えられない程の静寂に包まれた。
「アンタたちはいかないの?」
ラミアは残った女たちに声を掛ける。
「そんな気力ない、」
「行ったところで私に何か出来るとは思えないから」
そう言いながら女はガリガリと爪を噛む。
「誰かを殴るんて出来ない。皆んながやってくれるならそれで良い」
「死んで欲しいとは思ってるけど私が手を下したくない、アイツと同じになる気がして。走って行った人たちを否定はしないけどね」
女は目を逸らして言った。ラミアは女たちを見つめると片方の口角をクイっと上げる。
「ふーん?ま、どっちを選ぶかは自由だもんね〜」
ラミアはそう言うと、ポタポタと涙をこぼす女の肩にそっと手を回した。
部屋に飛び込んだイーサンの視界を覆ったのは、鼻を突く鉄の臭いとぐちゃぐちゃに荒れた床だった。大きな机はひっくり返り、乗せられていた食事が散乱している。
椅子から立ち上がりサトシの元へ駆け寄っていたリリスは、息を切らしているイーサンを一瞥すると何も言わずに奥を見る。
イーサンはその視線を辿る。そこに有ったのは人の塊だった。砂糖に群がる蟻のように女たちが一箇所に集まっている。
鈍い音と掠れた悲鳴。聞こえるのはそんな音だけだった。ここに来るまでの間は女たちの罵り声が聞こえていたのに今はまるで無い。
憎しみと恐怖に支配された瞳だけがあった。
「もうやめろ!」
イーサンは外側の女たちを引き剥がしながら言う。
先程までの激情はどこへやら、女たちは拍子抜けするぐらい簡単に復讐をやめた。ただそこに立っていた、まるで何も感じないかのように。
ようやく追い付いたエリックは肩で息をしながら扉に縋り付く。
イーサンが最後の一人を引き剥がすと、大袈裟な程胸を上下させる血塗れの男が姿を現した。
手足は奇妙な方向に捻れ、意識が虚なのか目の焦点が合っていない。
エリックは息を飲んだ。あまりの光景に目が焼き付いたように離せない。ロシュとラミアがいつの間にか隣に立っている事さえ今のエリックには気付けなかった。
イーサンはテーブルクロスを引っ掴むと、血溜まりに膝を落として止血を始める。
イーサン以外の人間は誰一人として動かない。目の前の光景をただ見ているだけだ。
ーどうして誰も動かないの?何も言わないの?僕はなぜ、動けないの?ー
エリックは動かない体の代わりに思考を巡らせる。
ーなぜイーサンは助けるんだろう。あんなに、怒ってたのに。ー
一向に言う事を聞いてくれない舌の代わりに脳内で自問する。
ロシュが止めに行った時のイーサンの声は取り乱しており、言いようの無い怒りと深い悲しみを含んでいた。
ーあんな悲痛な声は聞いた事が無かった。
それ程までに怒って泣いていたイーサンがなぜドイルを助けるのかが分からなかった。
止めようとするのは分かる。彼女たちが被害者という立場から貴族に手を出した犯罪者になってしまうのだから。
でもどうして自らの手を服を血に汚れさせてまで助けるのだろう。ー
そんなエリックの疑問を代弁するかのように最初に駆け出した女が口を開いた。
「なんで治療なんかしてんのよ、放っておけばいいじゃない!、、こんな奴苦しんで死ぬのがお似合いだわ!」
女の強い言葉にイーサンの緑の瞳がジワリと滲む。
「そうよ!私たちがコイツに何をされたか知らないでしょう!」
「お姉ちゃんがっ、うぅっ、、お姉ちゃん、」
「私たちを助けたいならソイツを助けようなんてしないはずでしょ、、?」
「目の前で殺されたのよ、いたぶられて、弄ばれて、ッ、、私の娘がっ、、」
四方から飛ぶ声にイーサンは眉をしかめ、口を歪めた。
「コイツには死すら生温い、助けるな!」
「そうよ、、っこの裏切り者!」
女の投げたカトラリーがイーサンの背中を打ち、床に転がった。金属の落ちる鋭い音がキーンと耳に響く。
「、、俺は、医者なんだ」
イーサンは絞り出すように言った。真っ赤に染まるテーブルクロスが彼の手を鮮やかに染め上げる。
「手を施せば生きられる可能性がある人間を、嫌いだとか許せないからって理由で見捨てたら、自分が一番嫌いな人間になっちまう。俺が目指した医者じゃ無くなっちまう」
イーサンは血が滲みそうな程の力で歯を食い縛る。浮かぶのは今にも張り裂けてしまいそうな苦しそうな表情。
「俺は、例え親の仇でも、死にかけてる人間がいたら助ける」
そう言って一粒だけ涙を流した。イーサンは意を決したように女たちを見上げる。
「お前たちには本当に申し訳ないと思ってる。俺に復讐を止める権利なんて無い。でもっ、」
イーサンは逡巡するかのようにわずかに言葉を切った。
「でもこれは、俺の信念なんだ。失えないんだ」
魂を震わせて紡ぐような、そんな声。
「お前たちが復讐を譲れないように、俺も誰かを助ける事を譲れない。俺は、俺自身に誇れる人間で在りたい」
涙で滲む緑の瞳は本気の色を宿していた。彼の生き様を映していた。
「ごめんな」
静かなひと言。
もう誰も何言わなかった。
それはイーサンの言葉に納得したからかもしれないし、言っても無駄だと思ったからかもしれない。もしかしたらイーサンがどれ程頑張っても、復讐は達成されると分かっていたからかもしれない。
何にせよ、部屋は静寂に包まれる。
そんな光景をエリックはただ見ていた。時が止まったかのような空間を。
女たちの想いとイーサンの想い、どちらも分かる。
“分かる”なんて言葉を使う事が適切かは分からなかったが、想いを汲む事は出来た。
だからこそ、どちらが正しいのか分からなかった。
どちらも正しく無いのかもしれない。それを判断する資格は自分には無い。
エリックの喉がゴクリと鳴る。
だがそんな不安定な思いの中に一つ確かなモノがあった。
古い友人の美しい覚悟。
混沌の中にあるたったひとつの確かな光。今にも消えそうなぐらい弱々しいのに、決して揺らぐ事の無いモノ。
イーサンの想いは強くエリックの胸を打った。心臓の鼓動が高鳴る。聞こえるのはそれだけ。
まるで一枚の絵画を見ているような気分になる。
あまりにも痛々しくて、美しくて。涙さえ出そうな、そんな感覚。
感じるのは高揚感にも似た鈍い痛み。
復讐の為に命を奪う選択をする人間の残酷さと、それでも失われない人間の気高い誇りと信念。
そんな矛盾したどちらも確かに人間で、真実だった。
血にまみれた恐ろしい現実に差し込んだ希望の光。救いの光。
イーサンは救いだ。
自分でも知らぬ間にエリックの頬は濡れていた。詰めていた息をそっと吐き出す。息の仕方すら忘れてしまうような、そんな衝撃だった。
イーサンは結局ドイルを救う事は出来なかった。あの後すぐ響いたチャックの声で、それどころでは無くなってしまったのだ。使用人が惨状を目にする前に逃げなくては。
ロシュとラミアは予め用意していたルートに女たちを誘導してそのまま夜の闇に消えて行った。
エリックとイーサンは急いで馬車まで戻り、客人としてなんら疑われていないリリスたちを乗せ堂々と正門から出る。
エリックはガタガタと揺れる馬車の中、向かいに座るイーサンを見た。
彼の血に塗れた手は月明かりを受けて黒々と落ち込んでいる。緑色の瞳は悔しそうな色を宿し、彼の本気の思いが伝わって来るようだった。
誰も話さない。
いつも仲間の話題を知りたがるチャックすら口をつぐんでいた。現場を見ていないのだから気になって気になって仕方がないだろうに、何も言わない。
彼の存外繊細な心がそうさせるのかもしれない。今は話す時ではない、と。
一方でエリックは、先程見た光景が頭の中で何度も何度も繰り返される。壊れた歯車のように同じ場所を延々と巡る。
ー怖かった。暴力の光景が。怖かった。女たちの激情が、人をなぶり殺しに出来る程の憎悪が。
彼女たちの手や裸足の足は傷だらけだった。人を痛めつけるとあんな風になるの?
自分の体が傷ついて痛いだろうに、それでも止めない狂気、殺意。ー
エリックはいつの間にか詰めていた息をフーッと吐き出す。
ー僕はアレを背負わなきゃいけないんだろうか。あの想いを、背負わなきゃいけないんだろうか、旗印としてー
貴族の男は頭を垂れた。
ー動く事すら出来なかった僕にそんな事が出来るんだろうか、あの激情を背負う覚悟があるんだろうか。
無理だ。
僕はイーサンみたいには出来ない。僕は彼みたいに気高い人間じゃない。イーサンは誰よりも憤りを覚えて涙まで流したのに、それなのに“医者だから”って命を救うのに全力を尽くした。
女の子たちの気持ちに寄り添ってその想いを抱えながら、それでも自分を見失わないなんて僕には出来ない。僕はアレを背負えない。ー
止まりそうになる呼吸を必死で整えながら、エリックは馬車の柔らかな背にもたれ掛かった。
ポツポツと降り出した雨が、馬車を引く二頭の馬の毛の間を滑り落ちる。霧のように細かい雨粒は、暗い夜を進む馬車を覆い隠してしまった。
あの夜から数日、エリックはずっと自身の療養所で過ごしていた。連日に渡って引越し作業をする双子とそれを手伝うサトシとチャック。
サトシは、物の多い彼女たちに断捨離をさせようと試みたがあまり成果は得られなかったようだ。
飛び交う言葉と頻繁に出入りする人間。
そんな彼らの騒がしさはエリックには届かない。
彼はリビングに置かれた高級なソファに腰掛けながらぼんやりと外を眺めていた。手には屋敷から持って来たであろう紙と鉛筆。
エリックは手を真っ黒にしながら熱心に何かを書いたかと思えば、糸が切れたようにただ窓の外を見るという事を繰り返していた。
屋敷から迎えが来れば大人しく帰って行くが、翌日もここに来る。誰と話す訳でも引越しの手伝いをする訳でも無いのにここに来て、ただ座っているのだ。
日が暮れて、今日も貴族の男は帰って行った。
やっと引越し作業が終わり、手伝っていた男たちは解放される。連日の作業で疲れ切っていた双子とチャックは、当初から言っていた引越し完了祝いをする訳でも無くさっさとそれぞれの部屋へと戻って行った。
一人残されたサトシは、どうにも埃が舞っている気がしてそのまま療養所の掃除へと移行する。
ーこの、どうにも気になってしまう性格を辞めたいがそうもいかないー
療養所の清潔を守っているのはサトシだった。
使いっぱなしのグラスを片付け、キッチンを拭き上げる。リビングのゴミを取り除き、椅子を整えた。ソファのクッションを所定の位置に戻した時、ふとローテーブルの上のスケッチブックが目に入った。
ーあの貴族サマの物だ。こんな物を持ってんのはアイツしか居ないー
ピアスの男はスケッチブックと鉛筆を持ち上げて机を拭いた後、角度を調整するかのように慎重にそれらを置く。
それから床の汚れを拭き、全ての掃除を終えたサトシは満足げに頷いた。
ーコーヒーでも淹れてもう寝よう。今日はここに泊まって明日の朝一に帰れば良いー
そんな事を思いながら最後のひと仕事と言わんばかりに湯を沸かすと、熱々のコーヒー片手にソファに腰掛けた。
ピカピカに磨き上げられたローテーブルの上には几帳面に置かれたスケッチブック。
サトシはそれをなんとは無しに手に取った。コーヒーが冷めるまでの間少しだけ暇だったのだ。
男はスケッチブックをペラリとめくる。
ー上手い、凄くー
鳥に花に空、色こそつけられていなかったが、ページをめくる度に非常に緻密なデッサンがサトシを迎えてくれた。
しばらく風景画が続いたかと思えば途中から人物画に変わる。イーサンやロシュが描かれていた。
ー上手い。流石、リリスの顔を一度見ただけでほとんど完璧な似顔絵を完成させただけの事はある。アレがあったから俺は女があの双子だと分かったしー
もう一枚めくると今度はレイとチャック。動き出さないのが不思議なくらい生き生きと描かれている。
次のページにはサトシの顔。
ー紙の中に閉じ込められたモノクロの自分というのはなんだか変な感じだー
サトシはその絵をまじまじと見た後、紙をめくる。
男は息を飲んだ。
そこにあったのは描きかけの絵。
あの日の絵だ。
イーサンが貴族の男を救おうとするあの瞬間の絵だった。絵は自分の見ていた方向とは違う方向から描かれていたが、あの日の光景そのものだった。
これはエリックの視点だろうか。
ピアスの男は描きかけの絵をジッと見つめる。何かを掴もうとするかのように。
湯気を上げていたカップはいつの間にか冷え切ってしまっていた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
今回も残酷描写がありましたが、どの程度が残酷なのか主観では中々判断が難しい…
ともあれ、第3章絵画、完結です!
エリックは何を思い、絵を描いたのか。
今回の件でエリックはどう自分の内面を消化させるのかと考えた時、絵を描くか曲を作るか、でした。
さすが貴族の英才教育を受けた男。芸術の才があるようです。
第4章からは週に2日の投稿とさせて頂きます。火曜日と土曜日です!
次回は土曜日の21:00予定となります。
ゆっくりになってしまいますが、楽しみながら続けたいと思います。
続きも読んで下さったら嬉しいです!またお会いしましょう〜。




