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絵画②

 ーなんで俺が貴族サマの迎えなんだ。ー

レイに与えられた役を終えた貴族の迎えを任されたサトシは、療養所へ向かう馬車の御者台の上でそんな事を考えていた。頭の中はもっぱら貴族の事。

つまり、キャビンの中でお行儀よく座っている上品な男の事だ。

男の名はエリック・ピーストップ。

見上げる程高い身長に整った顔、いつも柔和な笑みを浮かべていて何とも穏やかそうな男だった。

ー貴族サマらしい苦労知らずの甘ったれた顔。でも俺が何を言ってもどんな態度を取っても、全く動じない。それどころかニコニコとした表情を崩さない。バカにしてんのか?能天気にも程がある。キモい。ー

サトシはいつものように不機嫌そうに眉間の皺を濃くする。

ー何で俺が気味の悪い貴族サマの迎えの仕事なんてやらなきゃなんねぇんだ。イーサンにやらせろよ。ー

男は馬に軽く鞭を入れると、いささか乱暴に馬車を走らせた。

 スクラップタウンの東にある小山の上の大きな屋敷で馬車が止まる。

御者のピアスの男は手綱を引いて馬を制し手際良く馬車を止めたかと思えばさっさと御者台から降りてしまった。

しかしエリックは馬車が止まってもサトシが降りても、座ったまま動こうとしない。

馬を厩舎に戻してからキャビンの鍵を閉めようとした時もまだ貴族の男は降りて来ていなかった。

は?と低くこぼした後、サトシはキャビンの中を覗き込んで言った。

「おい、さっさと降りろよ。閉められねぇだろ」

「ん?、、ドアは?」

エリックは困惑したように少しだけ眉を下げて言う。

「は?ドアが何だよ?テメェの目の前にあんだろ」

ピアスの男はそう噛みついた。

「あるけど、開いてないから降りられないよ」

エリックはさも当然と言わんばかりに肩をすくめる。その間も唇に乗った笑みが消える事は無い。

「、、は?」

サトシはことさら低い声で小さく呟く。

男は目の前の貴族が何を言っているのかよく理解出来なかった。

座ったままの上目遣いでサトシを見るエリックは、彼の醸し出す不穏な空気に気づいているのかいないのか、一向に動こうとしない。

と、

「はっはっは、、」

突然響いたのは乾いた笑い声。

眉間に深く皺を刻んだ状態で、眉を八の字に曲げるという器用な表情でサトシが笑っていたのだ。

エリックは男の奇妙な表情に、笑みを浮かべたまま少しだけ眉を上げて目を開くと同調するような顔をした。

「はぁ、サイコウ」

男は真顔になってそう言うと、一瞬の内に笑顔を貼り付けた。

「それじゃあ坊ちゃま、今、お開けしますね」

ガチャリと音を立ててドアが開く。

「ありがとうサトシさん」

エリックは笑みを深めて言った。

「おやおや坊ちゃま、私めの様な下賎な者に敬称など必要ございませんよ。それより、立ち上がるのに手もお貸しした方が宜しいですか?この汚い手で宜しければですが?」

「ううん、大丈夫だよ。自分で立てるからね。でも気遣いをありがとう。それから、君の手は別に汚く無いよ」

長身の男はスラスラと言葉を紡ぐ。サトシの苛立ちなどまるで気づいていないかのようだった。

「それはそれは、勿体ないお言葉を、どうも!」

サトシは鼻で笑うと、バンッと大きな音を立てて乱暴にドアを閉めた。

その音に驚いたエリックはビクリと肩を震わせる。

「ふふ、随分と大きな音だったね。あまり聞く事が無いから驚いちゃったよ」

貴族の男は楽しげに言った。

サトシは大きな音一つで子供のようにはしゃぐエリックを完全に無視すると、カチャリと鍵を閉めてスタスタと歩いて行ってしまった。

 「エリック?大丈夫か?」

大きな音を聞きつけ出て来た緑の瞳の男の声にエリックは振り返る。

「あ、イーサン!聞いた?さっきの大きな音!」

エリックは興奮したように言った。

「まぁな、それで出て来たし。それよりサトシがめちゃくちゃ怒った顔してたけど大丈夫だったか?」

イーサンは首をかしげる。

「うん、大丈夫だよ。そんな事より、さっきの音は療養所の中にまで聞こえるぐらい大きかったの?凄かったんだろうなぁ」

「そんな事って、、ははっ、エリック、気にしないのか?」

「ん?何を?」

エリックは自分よりも低い位置にある顔を見て言った。

「サトシの態度だよ。アイツ、お前に当たりが強いだろ?」

「当たりかぁ、確かにね。でも打倒貴族を掲げてる人たちだし、僕に当たりが強いのは当然じゃない?」

エリックは、何を当たり前の事をと言わんばかりの表情を浮かべる。

「ははっ、なんだよ。せっかく、サトシの事は気にすんなアイツは誰にでもああだからってありがた〜い言葉を授けようと思ってたのに」

イーサンはそう言うとイタズラっぽく笑った。

「ふふ、なにそれ。じゃあ僕は落ち込んでた方が良かった?」

エリックはわざとらしく肩を落として言う。

「いやそうじゃないけどさ。でもお前が案外逞しくて良かったよ」

「そうかな?」

「貴族も平民も逞しくないと生き残れ無いよなー」

イーサンはそう言うと療養所の扉を開いた。

「お前なら大丈夫だよエリック。絶対大丈夫だ」

眩しいまでの笑顔でそう言うとイーサンは中に入って行ってしまう。

「、、、僕、どうして励まされてるの?」

エリックはそう独りごちると少しだけ困ったような笑みを浮かべて古い友人の後を追って行った。





 療養所に入って廊下を進んで行く間にエリックはリーダーであるレイの言葉を思い出していた。エリックは出自が貴族である事を利用してターゲットである“ドイル・カーン”について調べてくれとの指示を受けていた。

そこで、噂好きの貴族のお嬢様方に探りを入れたところ、どうやらドイルという男は外国の骨董品集めを熱心に行なっているらしかった。

定期的に船を出し自らも同行して、自身の目で実際に見て品を買い上げるという。

だが、行き先は決まって同じ国の同じ港。その国はネルティブ王国から一番近い奴隷が合法で有名な国だった。

更にエリックは、おしゃべりが生き甲斐のお嬢様方からこんな事も聞いていた。

『ドイル・カーンはセイレーンも裸足で逃げ出すぐらいの女好きらしいですわ。セイレーンが裸足になれるかは知りませんけれど、何度も船で旅をして毎回無事にお帰りになるのはそういう事ですわ』

『女好きのあの方は美しいセイレーンを見たらすぐにでも自分の船の底に閉じ込めて、自分のモノにしてしまうって』

『そうですわ、だって船上パーティに参加されたさるお方が船の底から女の声を聞いたらしいですもの!』

『きゃー!』

女たちは胸を押さえていささか大袈裟とも言える反応で怖がる。

『そういえばもうすぐ外遊からお帰りになるらしいですわよ』

『毎回骨董品のお披露目に船上パーティを開かれるから、今回も、、』

『いやん、エリックさん私セイレーンなんて恐ろしいですわ』

『私も』

『私も、』

エリックはわざとらしく怯えた瞳で見上げて来るお嬢様方に向かってニッコリと微笑むと、

『女性はきっと襲わないから大丈夫だよ。むしろセイレーンの方が君たちの美しさに恐れをなして逃げてしまうかもね』

そう言ったエリックの輝かんばかりの美しい笑顔にきっとセイレーンは裸足で逃げ出すのだろう。ちょうどお嬢様方が彼の顔を直視し続けられなかったように。

と、そんな具合でエリックはターゲットが外遊から帰って来たという情報を得たのだ。

古い友に続いて吹き抜けの天井の広い部屋に入ると、そこにはまだ少し見慣れない仲間たちが勢揃いしていた。

長身の男は楕円形の広いテーブルで何やら紙をめくっていたレイに近づくと、屋敷から大事に持ってきた手紙を置く。

手紙の蜜蝋は崩れており一度開けられた事が窺えた。

レイは首を傾けて立ったままのエリックを見上げる。その鋭い瞳は彼の言葉を言外にありありと伝えていた。

「ターゲットから、船上パーティへの招待状だよ」

レイはその言葉にわずかに口角を上げると、素晴らしいと呟く。だがその呟きは喧しい男の声によってほとんどかき消されてしまい、誰の耳にも届く事はなかった。

「船上パーティ⁉︎なにそれすげぇ!船の上でパーティすんの⁉︎」

「そうだよチャックさん、ターゲットが外遊から帰って来るからね。ああそうだレイくん、ドイルが行ってるのは君が予想した通りの国だったよ」

「ふむ、つまり骨董品集めは奴隷売買の隠れ蓑というところか」

「わざわざパーティを開くぐらいだから全くの嘘では無さそう。見せられる趣味と秘めたる趣味って感じかも」

エリックの言葉にレイは静かに頷く。

「それと、噂ではパーティで船底の方から女性の声を聞いたって」

「じゃあ買われた子たちは船の底の方に閉じ込められてるかもって事か」

イーサンは湯気の立ち昇るカップを貴族の男に手渡しながらそう言った。小さく礼を言ったエリックはレイの横の椅子に腰掛けるとソーサーをくるくると回して熱を冷ます。

ほろ苦い香りが広い部屋を満たし、頭を冴えさせるようだった。

「エリックがパーティに招待されているから今までとは違うアプローチになりそうだな」

鋭い瞳の男はそう言うと机の上に広げていた紙類をまとめて気難しい顔で二階へと上がって行く。きっと部屋を出て来る頃には非の打ち所がないような用意周到な作戦が出来上がっている事だろう。


 エリックはその長身に見合った長い足を組みながらイーサンの淹れたコーヒーを飲む。キッチンに程近いコの字型のソファには三人の男。

赤毛が特徴的なロシュはソファの一面を占領して広々と寝ており、自分をここまで連れて来てくれた感じの悪い小柄な男サトシは丸い眼鏡をかけた姿で本を読んでいた。

彼はスクラップタウンに住んでいるらしいが文字を読めるようだった。

出会ってそんなに経っていないし、顔を合わせる回数もそうあった訳では無いが本や新聞を読んでいる姿を度々見かける。

言動は粗野で、貴族である自分を嫌いだという態度を隠そうともしない初めて会うタイプの人間だ。そんな彼だが学はある程度あるようだった。

ソファに座っている最後の一人は、先程船上パーティに食いついたチャック。彼は短い金髪の髪に寝癖をつけたままの状態で小さな石、ラピスを加工してた。

緻密な作業をしているように見えるが、器用にもイーサンとずっとおしゃべりしている。思えばチャックが静かにしている所を見た事が無いかもしれない。

彼が話す事は貴族の自分からすると常識違いな事が多すぎて、そもそも何の話をしているのかすら分からない。

そういう時はそっとイーサンに聞くのだ。イーサンは話があっちこっちに飛んで行ってしまう所を除けば非常に素晴らしい通訳者だった。

流石、貴族付きの医者でありながら善意のみでスクラップタウンに診察に行く男だ。

どの階級の人間とも話す機会が多いので通訳スキルに関しては一級品だった。

エリックは、何を言ってるのかほとんど分からない宇宙みたいな会話を繰り広げる二人をニコニコと見つめる。

ここに居るとまるで夢でも見ているみたいな不思議な気分になる。

普段の生活を忘れてしまう。

目に鮮やかな調度品も、甘い香水の香りも政界の噂話も、とろける様な食事も滑らかで上質な衣装の触り心地も、全て遠い過去のように押し流されてしまう。

見た事も聞いた事も無いような汚い言葉や荒々しい声音。大袈裟なまでの身振り手振り、それに負けないぐらいの騒がしさ。

そんな彼らが望む“旗印”とはどんなだろう。どんな声で話し、どんな立ち居振る舞いをするのだろう。

どんな“エリック・ピーストップ”を望むのだろう。

長身の男は麦畑のような色の瞳でじっと観察する。口元には完璧な笑みが乗っていた。





 漆黒の闇が辺りを包む。天上にポツリと一人きりでいるのは薄雲にぼんやりと浮かび上がる月。耳に届くのは静かな海の音だった。そんな穏やかな波が岸辺を打つ海上に豪華な船が停泊していた。船は暗い闇の中で輝かんばかりで空の月を圧倒していた。

どうやら船上パーティがあるようだ。波止場には美しく着飾った人々が集まり、列をなして船へと乗り込んで行く。

黒い衣装にシルバーの蝶ネクタイ、黒い耳飾りをした、周りよりも頭ひとつ程背の高い男もまた船に乗るための列に並んでいた。その後ろには長身の男よりは幾分か控えめに着飾った男が三人。

緑の瞳の男に赤毛の男、そして小柄な男。

小柄な男の胸に付いた赤いブローチがキラリと輝いている。

三人は長身の男の従者のようだ。彼らの順番が回って来ると先頭の男は係の女に招待状を手渡した。

女はそれを確認すると

「お越し頂きありがとうございますエリック様。素敵なお時間をお過ごし下さい」

と言い、男に招待状を返す。

「ありがとう。君にも良いことがありますように」

男は招待状を受け取りながらそう言うと女に向かって微笑んだ。

その微笑みに女の瞳は釘付けになる。整った顔から放たれる計算され尽くされたような完璧な表情に抗える者など居ないのだから当然だ。

男が従者の三人を連れて優雅に足を進めて去って行くのを女はボーっと見送った。次の客が招待状を差し出すのにも気が付かないほどだった。

『エリック、別に女の子を落とす必要は無いんだけど?』

ガガっと小さくノイズが入った声が耳元で響く。声はエリックの耳飾りを模した青色のラピスから聞こえていた。

「もちろん分かってるよチャックさん。僕はイーサンたちを自然に船に乗せる役、そしてターゲットの動きを見張る役」

階段を上がりデッキを目指しながら真剣な声で言う。

「エリックのたらし込みは天然物だ」

エリックの後を従者として歩くロシュがボソリと呟いた。

「ハハ、お前もあの子みたいにたらし込まれたか?」

「誰が言ってるんだ?」

隣を歩くイーサンの言葉に赤毛は心底不思議だという表情で答える。

「無駄口叩くな。静かにしろ」

「でもサトシ、イーサンの言ってる事は変だぞ」

「だから?それを今気にする必要があんの?」

「、、無いかもな」

「だったら黙る」

一行がデッキに着く頃には誰も無駄口を叩く者は居なくなっていた。





 時を遡る事一週間、レイによって再び集められた五人は自分達を召集した張本人を広々としたリビングで待っていた。彼が遅れるなんて珍しい、そんな事を話しながら待っていると神父の格好のままのレイが部屋に入って来た。

「遅れてすまない。教会に来た子供が杯を割ってな、片付けをしていた」

鋭い瞳の男は言いながら持って来た資料を机の上に広げる。ソファでくつろいでいた面々もそれぞれ立ち上がり楕円形のテーブルの方へと移動して来た。

レイは呼吸を整えるようにフッと息を吐く。

「作戦が出来上がった。話しても?」

その問い掛けに男たちはまばらに頷いた。

「場所はエリックが持って来たパーティの開催会場、大きな客船だ。中に入れるのは招待客とそのお付きの人間のみ。だが侵入は問題ない。エリックに堂々と入って貰い、専門医としてイーサンがついて行く、そして医者のイーサンの助手役としてサトシとロシュ。合計四人で中に入って貰う」

レイの言葉に名前を呼ばれた男たちはそれぞれ頷く。

「中に入ったらエリックにはターゲットであるドイル・カーンの動きを見張って欲しい。主催者である奴が当日派手な動きをするとは思えないが、まぁ一応な。あとは怪しまれないよういつもの様に振る舞ってくれれば良い」

「うん、分かったよ」

エリックは少しだけ緊張した様に、でもどこか楽しそうな表情で同意した。

「次にサトシとロシュとイーサンだが、お前たちは直接船内を歩き回って囚われているであろう女たちを探して欲しい。船内はおおよそどこでも歩き回れるようだが、貴族の使用人が主人を放って歩き回っているのはおかしい。だから持参した鞄に船内で給仕や整備をしている者たちの衣装を入れておき、それに着替えて探って貰いたい」

「ちょっといい?手荷物検査とかあったらどうするつもり?」

サトシは小首をかしげる。

「今までは一度も無かったようだから大丈夫だとは思うが、一応鞄は二重底にするつもりだ」

「なるほど。俺が思い付く事をアンタが思い付かない訳無かったね」

ピアスの男は納得した様に言うと次を促すように手で示した。

「三人には実際に中で捜索して貰うんだが変装はすると言っても敵地、まして閉じ込められている人間を救出するなら、大勢をバレないように移動させる必要がある。どこから人が現れるかも分からない状況でそれぞれ別行動をするというのはかなり危険だ。だが、チャックが素晴らしいモノを発明してくれた」

レイはそう言うと金髪の男に視線を流す。チャックは待ってましたとばかりに目を輝かせると、ポケットから赤い石の嵌ったブローチを取り出した。

レイ以外の男たちがそれを不思議そうに見つめている間にチャックは素早く立ち上がってソファの脇に置いてあった大きな黒い岩に駆け寄る。

岩は表面がつるりとしており覗き込めば顔が反射しそうなぐらいだ。岩の表面には六つの赤い染みのようなモノが浮かんでいた。

その岩はサトシが邪魔だと散々注意しており、二人が度々言い争いになる原因の岩だった。

「皆んな見てっ!」

金髪は弾んだ声で言うと黒い岩の表面に浮かぶ染みのようなモノを指差した。イーサンとエリックはよく見ようと体をひねっている。

「こっちの赤いのが俺ね!これの動きをよく見といて!」

チャックはそう言うと広いリビングを走り出した。突然子供のようにはしゃぐ金髪にサトシは眉を顰める。小言を言おうかと口を開いた。だがそれはイーサンの一言によって遮られ、この世に生まれる事は無かった。

「すごい!赤い染みみたいなのとチャックの動きが連動してるぞ!」

「そうなんだよイーサン!!」

チャックはピタリと止まると理解してくれた仲間の方を見て嬉しそうに言う。

「このブローチ!これに付いてる赤い石は熱ラピスなんだ!」

男は机にバタバタと近づくと、先程自分が置いたブローチを手に取って掲げた。

「俺はこれを加工して、人間とか生き物の熱を感知させるようにしたんだ!そんであの黒い岩!」

チャックは岩を指差す。

「あの岩の表面に出てる赤い染みはこのブローチが感知した熱。どこにどれだけの熱源が有るかはあの岩を見れば一発!死角から敵が来てるのも分かるんだよ!すごくね⁉︎」

チャックの早口言葉のような発言にイーサンは目をぱちくりさせた。彼の脳内ではきっともの凄い勢いで今しがた流れ込んできた情報を処理している事だろう。

「待ってよチャックさん。いくら熱ラピスを加工したからって熱を感知させる事なんて出来るの?だって熱ラピスはただの温度を持った石。切り出した場所によってじんわり温かかったり冷たかったりするだけじゃないか。石の量を調整して温度を変える事は出来ても、熱自体を感知させるなんて、、」

エリックは考える様にわずかに眉を顰め、控えめに言った。

「ふっふーん、それ聞きたい?俺が天才だって事聞きたい?」

金髪はいかにも得意げという表情で待ってましたと言わんばかりだ。

「確かに熱ラピスにそんな特性は無い、でも今まで出来なかったからって永遠に出来ない訳じゃない。特に俺みたいな天才にかかればねっ!ラピスは石なんだよ、加工次第でどうにでもなる。

そもそもこの岩自体、俺らがいつも使ってるような小さなラピスを切り出す前の大きな岩だ。まぁ?そんな岩をブローチとリンクさせて熱の場所を見られる様にする加工とか発想なんて、常人には無理だろうけど?俺みたいな天才じゃないと気付かないかなぁとは思うけど〜?」

そう自信満々に言った。

「本当に?すごいよチャックさん、誰にでも出来る事じゃない」

「思い付きを実行出来る技術があるのもすごいなぁ」

「チャックはうるさい天才だったのか」

「へーすごいじゃん、お前ウルセェだけじゃ無かったんだ」

口々に褒められた金髪は一瞬驚いたような顔をした後、さっきまでの鼻高々の様子はどこへ行ったのか照れ臭そうに俯いてしまった。

「あ、あとぉ、この青いピアスは音ラピスでぇ、普通はちょっとした録音とか録音したのを鳴らすぐらいしか出来ないんだけどぉ、」

チャックは打って変わってモジモジとした様子で先程とは違うポケットから小さな青色の石が付いたピアスを取り出す。

「この珍しい双子石を使って音ラピスを加工するとぉ、遠く離れてても会話が出来るんだよね」

金髪の言葉に男たちは息を飲んだ。

遠く離れてても会話ができる?それってとんでもない事だ。

「え、どう言う事?僕、勉強不足でちょっとよく意味が、、イーサン分かる?」

「いんや、さっぱり。ツインラピスは知ってるけど、、なぁ?」

「あれは双子同士の繋がりがある石で文字を書くと、繋がりがある全ての石の表面に書いた文字が浮き上がるモノだったよね?」

「あぁ、俺もそうだと思うけど、、」

緑の瞳の男は言いながら肩をすくめた。

「そう!エリックの言う通り、ツインラピスには身内同士の石に同じ情報を瞬時に伝える性質がある。だから俺はその性質と音ラピスの音を集めて外に出す性質を合わせれば、遠く離れてても同時に会話が出来るんじゃないかって思ったんだ」

チャックはさっきよりは幾分か控えめに、それでいて少しだけ自慢気に言った。

「はー!すごいなぁチャックは!本当に天才じゃないか!」

イーサンは思わず立ち上がってチャックの肩を抱き寄せて揺さぶる。エリックもしきりに頷きながらパチパチと手を叩いて賛辞を送っていた。

「という訳で、潜入の安全はチャックの発明によってある程度は担保された」

レイの言葉に部屋は自然と静かになって行く。

「俺とチャックは熱を感知するブローチや会話が出来るピアスの効果が届く範囲に馬車を置き、そこで黒い岩に表われる熱源をお前たちに逐一報告しようと思う」

全ての説明を終えたレイは仲間たちに質問は無いかと聞いた後、静かに頷いてキッチンへと消えて行った。

読んで頂きありがとうございます。

『ラピス』という石についての整理をしたいと思います。


ラピス

全てを司る資源、山から出る奇妙な石で色々な種類があります。

【基本】

・白色の光る石

・青色の音を集める石

・赤色の熱を発生させる石

【亜種】

・ツインラピス(双子石):互いに影響し合い、短い情報を伝え合う石。


ざっとこんなイメージを持って頂けると分かりやすいかと思います。

ラピスは神父であるレイもブローチとして付けており、エリックたちの住むネルティブ王国の宗教に大きな影響を与えていますが、長くなってしまうのでその話はまた機会があれば。

次回は木曜日21:00公開予定です。またお会いしましょう。

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