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旗印⑤

 天使の描かれた天井から特大のシャンデリアがぶら下がる。キラキラと発光するのは美しくカットされた照明用のラピス。反射した光が几帳面にカットされた側面に当たって複雑な模様を浮かび上がらせた。

巨大な窓に取り付けられたこれまた巨大なカーテンは深い緑色をしており、落ち着いた雰囲気を演出している。

閉め切られたカーテンの隙間から漏れる光は無い。なぜなら、外には早くも夜が訪れていたからだった。

広い部屋には少なくとも二十人は集えそうなうな机がひとつ。

机の上にはそれぞれの食事が乗っている。どう考えても一人で食べ切れる量では無かった。

すぐ近くにはメイド服を着た給仕が六人、静かに立っている。

そんな大きな部屋の大きな机で一家が食事を摂っていた。家族全員で食卓を囲むのは中々に珍しい。それもこれも、父が大事な話があると言ったからだった。

「エリック」

上座に座る壮年の男が口を開く。和やかに母と話していた若い男は、カトラリーを持った手を止めて向き直った。

「はい、お父様」

「そろそろ、恋人の一人でも連れて来たらどうだ?お前は跡取りなのだから」

その言葉に母親はクスリと笑うと口を開く。

「あら、そうね、それは楽しみだわ。エリック、好きな子はいらっしゃるの?」

「ふふ、どうでしょう?どう思われますかお母様?」

「そうねぇ、、」

「話を逸らすなエリック」

父親は厳しい声で言った。

「逸らしてなど、、すみませんお父様」

エリックは肩をすくめる。母親はおろおろと二人の顔を交互に見た。

「次の誕生日まで何もなかったら、私が決める。それが嫌ならちゃんと考えるように」

父親はそう言うと席を立って出て行ってしまう。

シンと静寂が場を支配したのも束の間、カチャカチャと小さな音がし出した。静かに食事を再開した息子を見て母親は口を開く。

「エリック、お父様は貴方に期待しているのですよ」

エリックは母を見た。クスリと笑う。

「ええお母様、分かっています。お父様は不器用な方だ」

「ふふ。ええ、そうね。貴方は昔から聞き分けがよくて聡い子だわ。本当にいい子」

嬉しそうに言う母に向かって、息子は小さく笑った。





 柔らかな光のベールがゆらゆらと揺れる。緩やかな陰影の作り出す境界線の丁度真ん中に天蓋付きの大きなベッドが置かれていた。

積もったばかりの新雪のようなシーツの上で眠るのは、芸術のような男だった。

ピタリと閉じられたまぶたから伸びる長いまつ毛、スッと通った鼻筋、小さな唇のその全てが完璧であるように思えた。

一枚の絵画にすら思えるその男は規則正しい寝息を立てている。

じわりじわりと光のベールが侵攻して来るにつれ男はそれから逃れるように顔を背けた。

少しすると、カーテンの隙間から光が差し込むようにゆっくりと開かれたまぶたの間から金色が現れる。

麦畑を思い起こさせるようなその金の瞳に焦点が合うとまぶたが二度ほど上下した。

男はゆっくりと起き上がる。

あくびを噛み殺し、滲んだ視界に見えたのは広い部屋。

真っ直ぐ先にはローテーブルとそれを挟むようにして置かれた豪勢なソファ。更に奥には子供ならゆうにくぐれてしまうような大きな暖炉。

暖炉の上には本物と見紛うほど精巧に作られたレイピアが置かれており、その下のフックには何も置かれていなかった。

暖炉の中に並ぶ赤い石は何の変哲もないただの石のようで、昨夜のように鈍い光を放ち、熱を出してはいない。暖炉は冷え切っていた。

男はチラリと視線を右前方に飛ばす。

そこにある扉は依然として閉まったままで人の気配もしない。

意外と早く起きてしまったようだった。ベルを鳴らして人を呼んでも良かったが、そうはしない。男はもう少し一人でいたかったのだ。

天蓋付きのベッドに腰掛けると靴も履かずに裸足で歩く。

あんな紐だらけの靴、一人では履けない。男は寝衣のままベッドの右側の扉を開けた。

そこにあるは洗面台とバスルーム。

男は洗面台の横に置かれた水瓶の水で顔を洗うといつも清潔に整えられているタオルで顔を拭いた。

男はポイとタオルを放る。パサリと音をさせて床に落ちた。

部屋に戻ると男はソファに腰掛け、裸足の足で絨毯を撫でる。長さの均一な毛束が足に気持ちが良かった。

足の指でグッと握っても跡がついたりはせず柔軟に元の位置に戻る。

ぼんやりした顔で何度かその動きを繰り返すと男はツイと視線を上げた。

暖炉を右手に見て、窓はその少し奥。

ベランダに並ぶ植物は早起きなようだ。ラッパのような形をした青い花は既に元気良く上を向いている。

窓を見とめた男は、はあ、と深い息を吐いた。

 最近、一つの言葉が頭を占領している事が多い。今だってそうだ。ちょっとでも時間が出来ると考えてしまう。寝ても覚めてもその言葉ばかりが脳内にこびり付いていた。

“旗印”

 旗に紋や字を染め抜いて,戦場での目印とするもの。

 団体などが行動の目標として掲げる主義・主張。

言葉の意味はこんなところだろうか。

では、その言葉をこびり付かせたあの神父はどちらの意味で言ったのだろう。

前者だろうか、それとも後者?あるいは、その両方か。

考えても分からない。

あの時たしかに断った筈なのに。

自らの言葉で、

意志で、

断った筈だ。

それなのに、こんなにも心を占めるのはなぜだろうか。

一体何が気になって。

やはり考えても分からない。だが、分からないからこそ考えてしまうのだ。

 

 それに加えて気になって気になって仕方がなかった。あの町で見たあの白衣が。

あれが本当に彼なら?

男はカチカチと神経質に爪を弾く。

確かめようも無い。そんな手段も無いし、何より自分はそんなに自由じゃ無かった。

男は天を仰ぐ。

見えるのは無機質な天井。

出られないただの箱。

ことさら美しく、ことさら豪奢に飾り立てられた小さくて狭い、窮屈な箱だ。

男は前屈みになると膝に肘をついて顎に左手を添える。

 正直、答えは出ている。自分の意思も、気持ちもハッキリ分かる。

でも、だからと言って、その思いのままには生きられない。

捨てられない。

切り捨てるにはあまりに大きなものだった。

父も母も大事だ。

自分のわがままだけで捨てられるものでは無い。

答えは出ている。決して解決しない答えが。むしろ出ているからこそ、男はその言葉に支配され続けるのだ。

それから逃れるにはあの神父の言う通り、“旗印”になるしかない。だがもし“旗印”になっても、今度は違う事柄が男の頭を悩ませるのだろう。

全く、とんでもない事を言ってくれたものだ。

あの神父はたった一言で自分を棘だらけの檻に追い込んでしまった。このこびり付いて離れない苦悩を一生抱えろとでも言うのだろうか。

男が澱んだ体内の空気を深く長く吐き出した時、右後ろからノック音が鳴る。

一日が始まるみたいだ。





 季節は変わり、教会に呼び出された日から遠く離れたある昼下がり。その日は朝から雪が降っていて凍えるような寒い日だった。

窓の外に広がるのは一面の銀世界。しっとりと水分を含んだ雪が整えらえた芝や植木に積もって音を吸い込む。

重く垂れ下がった雲はもうグズってはいなかったが相変わらず不機嫌そうに空を覆っていた。

男の寝起きする部屋は広いせいで暖まりが悪く、多くのラピスをもってしても中々暖まらない。

昼頃になり幾分か暖かくなって来た時、不意に自室の扉が叩かれる。

コン、コココン、コン

瞬間、頭に痺れるような感覚が駆け抜けた。

細胞が震え、頭の中をかき回す。

しっちゃかめっちゃかに動き回るソレが、頭の中にある引き出しをどんどん開けて、ある事ない事なんでも繋げる。

ぐちゃぐちゃになった脳みそはある一点でピタリと止まると、これで間違い無いとばかりにピンと糸を張った。

一番深い奥底にあったその引き出しが、ガタリと音を立てて開いたような気分だ。


 いつかの音が脳の奥底から聞こえてきた。

コン、コココン、コン

規則正しい音が窓の方から聞こえる。

小走りで窓に近づき、開けた。

ベランダにはあの日のようにイーサンが座って待っていた。

僕の知ってるイーサンだ。

声が高くて、幼くて、今の僕よりずっとずっと小さい。

あのイーサン。

規則正しいノックはいつの日か二人で決めた合図だ。


 「貴族の女は自分のこと俺って言うのか?」

可愛らしい赤毛の男の子が首を傾げた。

サイズが変わっただけで本当に何も変わって無い。

僕の事を女の子と間違えたとんだ無礼者。


 煌めく星空を見た。飲み込まれそうなほど雄大で、震えるほど美しい。

「あ、流れ星!」

星が流れるあの空の下で約束した。

ああ、どんな約束だったっけ。


 甲高い悲鳴の後、高い子供の声がケタケタと大層楽しげに笑う声が聞こえて来た。窓辺に立って覗き込むと、眩しいくらいの芝の緑。

思わず目がくらんだ。

それ以上に眩しい緑に。

少年が走っている。楽しそうに笑いながら。

燦々と輝く太陽の光を吸い込んだその緑は、春に萌え出た若葉の様に瑞々しく、宝箱の中の宝石の様に美しかった。瞬間、目が合うのを感じた。


 コン、コココン、コン

いつもの自分の部屋だ。今は昼だし、雪雲があるから星なんて見えない。

エリックはノック音に勢い良く振り返る。

目を見開いて見つめる先には白衣姿の緑の目をした男と使用人がいた。

「申し訳ありませんエリック様、お医者様がいらっしゃったのですが、勝手に開けてしまわれて、」

使用人の老婆は申し訳なさそうに言う。

「っ、ああ、構わないよ。、、入ってもらって」

エリックは棒立ちのまま緑の瞳の男に釘付けになりながら、たどたどしく言った。

パタリと扉が閉まる。

医者はひらひらと手を振りながら、固まったまま動かないエリックに近づいて来た。

「、、イーサン」

長身の男はささやくように言う。男は少しだけ驚いたように目を見開いた。

「、、、ハハ、やっと俺だって分かったみたいだな」

イーサンはそう言うと、勝手にソファに腰掛ける。

「昔は窓しか叩けなかったけど、今はドアも叩けるようになった。俺も立派になっただろ?」

そう言って白衣の裾をひらひらと振った。

「イーサン、僕はっ、、」

「エリック、なにも言わずに座ってくれないか?」

緑の瞳の医者は自分の隣りを軽く叩いてそう言う。その言葉に長身の男は静かに腰掛けた。

「俺は単にお前ん家の専属医になったから来ただけだ。だから、この前の話は忘れていいよ。答えを聞きに来た訳じゃないから」

イーサンは落ち着いた声でそう言うと持って来た鞄から診察道具を出した。


 暖炉でラピスが爆ぜる音が静かな部屋に響く。

一面の雪は外の音を全て吸い込んでしまって耳鳴りがしそうなぐらいだ。

暖炉から広がって来る熱が薄く膜を張って部屋を包む。

カチャカチャと音をさせながら用意を進める医者の節くれだった手を見つめていたエリックはついに口を開いた。

「イーサン」

「ん?」

男は緑の瞳を部屋の主に向ける。

「イーサン僕は、家族を捨てられない」

エリックは絞り出すように言った。その深刻そうな声音をイーサンは黙って聞いている。

「、、、面倒な人たちだよ。お父様は家の事しか考えてないし、お母様は僕に興味が無さそう。だって、、僕をいい子だと思ってる。聞き分けが良くて、頭が良くて、誰とも波風を立てた事が無い、家族思いのいい子だって」

エリックは目を瞬かせる。

「大当たりかも」

震えるように長く息を吐いた。

「言われるままに人に合わせて、顔色を伺って、ニコニコしながらいつだって言う通りにしてる。

、、、だってそんな僕の事が皆んな好きでしょ?」

エリックは眉間に皺を寄せながらニコリと笑う。吐き出される息は痛みを耐えるかのように細かった。

「僕をカッコいいって言ってくれる女の子たちも、面白いって言ってくれる男の子たちも、お父様もお母様も皆んな、そんな“エリック”が好きだ」

乾いた唇を舐めると、エリックはぐっと押し黙った。

「虚しいよ、すごく。虚しくて、ふふっ、涙が出そう」

エリックは笑う。

イーサンは何も言わない。手も止まっていた。

上を見上げ頭をグラグラさせて何度も瞬きを繰り返すエリックは、重力に引かれるようにストンと俯いた。

「、、虚しいけど、それでも、お母様とお父様を捨てられない」

小さくそう言うと喉を鳴らす。

医者は小さく、何度も頷いた。

雪が窓枠に積もっている。パチンッと一際大きくラピスが爆ぜた。

「エリック、、」

「イーサン、、やめて、何も言わないで。僕には言わなくちゃいけない事があるんだ。決心が鈍っちゃう」

エリックは息を吐く。

「家族は捨てられない、捨てられないけど、でも!でも、、僕は、」

緑の瞳を見た。

こんなにも違う、全くって言っていいほど面影が無いのに、それなのに、こんなにも同じだ。

「僕はね、イーサン。僕は、、あの時に戻りたいんだ。君と出会ったあの時に。

すごく、すごく、言葉では表せないくらい楽しかったんだ。あの時が。

君と、ロシュと、話して、聞いて、喧嘩して、仲直りして、星を見て、、何もかもが、あの瞬間の全部が、想像もつかないくらい楽しかった」

エリックは眉を下げてそっと笑う。

「僕の全てだった」

止んだ筈の雪が再びこんこんと降り出していた。

「君たちと会えなくなったあの日からずっと考えてたんだ。

一番好きなことって何だろうって。

僕、紅茶が好きだよ。本を読むのも絵を描くのも好き、ピアノも好き。でも、一番かどうかは分からない。考えれば考えるほど分からなくなる。だけど同時に確信も強くなるんだ。あの時ほど好きなことって無いって」

形の良い眉がキュッと寄る。

「ありのままの自分でいられた、ただのエリックとして生きていられた。君たちが僕に“エリック・ピーストップ”を求めなかったからだよ」

わずかに上がる口角は何かを耐えるように震えていた。

「レイくんの言う通り階級制度が無くなれば、皆んなは本当の僕を好きになってくれるかな?

結婚で家を大きくしようだとか、友達になって政治で良い位置につこうだとか、そんな策略なしで僕を好きになってくれないかな?」

エリックの金色の瞳がうるりと揺れ動く。

「それとも、やっぱり無理かな?地位も名誉も何も無い僕を気にかける人なんていない?好きになっては貰えない?っ、ふふ、ただの僕じゃ見向きもされないよね」

抱え切れなかった水滴がツっと頬を伝った。

「エリック、そんな事無い!」

イーサンは今にも消えてしまいそうな友人の肩を両手で力強く掴む。

「俺はお前が貴族だから会いに行ってた訳じゃない!俺が何回もここに来たのはお前がニコニコ言う通りにしてたからじゃない!

お前が虫のイタズラに笑ったからだ。泣きもしないで笑って、ベランダに急に出て来た得体の知れない俺の事を怖がらなかったからだよ。

俺は、、俺はお前のそういうトコに惚れたんだ。なんて面白い奴なんだって思った」

エリックは目をパチパチと上下させていた。イーサンは相手の肩に食い込むほど強く力を込めていた指を緩める。

「そうじゃ無かったら、あんなデカい川渡ってまでわざわざ行かない」

少し笑った。

「あの時のエリックがありのままのお前だって言うんなら、俺は、ありのままのエリックが大好きだよ。

ロシュも同じ事言うし、きっと他の奴らもお前の事好きになると思う。だっていい奴らだ」

緑の瞳の男は肩に置いていた手をスルリと下ろす。

「ごめんなエリック、お前の事“旗印”にしたいなんて言ったらそれこそお前の肩書きだけ見てるみたいだったよな。

だから、もう旗印とかああいうの忘れてくれていい。

でも友達では居てくれないか?ただのエリックと、ただの俺で、ただの友達。敬称も敬語も使ってないのに今更言うのも変な話だけど、」

エリックはフッと笑った。頬を伝っていた雫はいつの間にか乾いて消えている。

「イーサン。君は、僕になんの肩書きも無くても僕の事を好きだって言ったよね?」

イーサンはコクリと頷いた。

「だったら、良いよ。ありのままの僕と友達でいてくれる人がこの肩書きを必要とするなら、使って良いよ」

「、、え?」

「それに、君といるとあの時に戻れるような気がするんだ。一番好きなあの時に。だから、」

「ちょ、待って、待てエリック」

イーサンは手をブンブン振って友人を制止する。

「お前、自分がなに言ってるか分かってるのか?なにもかも全部無くなるんだぞ?」

「僕が考えなかったとでも?」

「っ、未来もだぞ!なに不自由無く暮らせるんだ、約束された未来も地位も財産も全部だぞ?全部、無くなるんだぞ」

「僕が欲しいモノじゃない」

イーサンは狼狽しながら視線を右往左往させる。

「家族も、友達も、恋人もだぞ?」

「分かってるよ」

エリックは穏やかに言う。

「、、成功するかも分からないんだ。仮に成功したとしても二度と会えないかもしれないし、そもそもお前が反逆者だと知られればご両親だってどうなるか、」

「うん。申し訳なく、思うよ、、不出来な息子だ」

エリックは少しだけ言葉を詰まらせた。だが瞳に宿る意志は揺るがない。

「他に僕に言っておきたい事はある?」

エリックはそう言って少しだけ眉を下げた。イーサンは友人の意志の固い声に困惑の表情を浮かべる。

自分でレイに良い奴がいると提案しておいて反対するなどおかしな話だが、心配せずにはいられなかったのだ。

その決断で本当に良いのか、と。

「ふふ、どうして君がそんな顔をするの?」

エリックはクスリと笑う。

「イーサン、知らなかった?僕って本当はわがままなんだ。ニコニコと従順なのが本当の僕じゃ無い。

分かってる。これは、僕の事を慕ってくれている全ての人たちに対する手酷い裏切りだって。

でも、僕はわがままだから、何を捨ててもあの時に帰りたいと思ってしまうんだ。

それに、どうせ利用されるなら偽物の僕の事を好きだって言う人より、ありのままの僕を好きだって言ってくれる人に利用されたい。

ふふっ、もう戻らないモノを求めて全てを捨てるだなんて悪魔との契約みたいだね。

でも、ただのエリックを受け入れてくれるなら僕は喜んで契約するよ」

フっと息を吐く。金の瞳は真剣な色を宿していた。

「本当に良いんだな?」

エリックはグッと頷くと真っ直ぐにイーサンを見る。もう迷いは見られなかった。

「僕を、旗印にして」

力強い言葉は静かな部屋に朗々と響いた。

緑の瞳がそれを見返す。

きっと、ずっと昔からこうなる事は決まっていたのだ。若葉のような緑が目に沁みたあの時に全て決まっていた。早いか遅いか、ただそれだけの違いだろう。

 雪は止む気配も無くしんしんと降りしきっていた。何の音もしない静かな昼下がり、イーサンはこれから起こるであろう嵐の巻き起こす轟々という唸り声を微かに聞いた気がした。





 昼間の日差しが随分と弱まり所狭しと立ち並ぶ細長い建物に斜めに陽が差し込む。町を歩く人々の影が長く伸びて、そのうねるような動きは長い草が風で揺れているかのようだ。

石畳の道に飛び出すようにして置かれた傘付きの机に同じデザインのブレスレットを付けた同じ顔の女が二人座っていた。

一人は新聞を読んでおり、一人はカップに入った飲み物に向かって息を吹きかけているところだ。

「それアイスですよ」

「ん?」

「だから、それ、アイス。、、ホットじゃないですよって、」

新聞を読んでいた方の女が指を指す。それを聞いたもう一人の女はポカンとした表情を浮かべた後、恐る恐る口をつけた。

女が、本当だ熱くなーいと淡々と反応した時、新聞の女は半ば遮るようにして再び口を開く。

「また『星骸』ですって」

「なぁにそれ?」

遮られた事など微塵も気にしないで聞き返した。

「あら、ラミィ知らないんですか?ちょっと前から有名ですよ。貴族のスキャンダルばかりリークする組織の名前です」

「、、あぁ、?、、あー、あれか、うんうん、」

「分かってませんね。ま、でもラミィの言いたい事も分かりますけど。つまり、」

ダークブラウンの瞳が交わった。

「「ちょー、どーでも良い」」

二人は声を合わせてそう言うと楽しそうにクスクスと笑う。女は手にしていた新聞をポイと捨てると、湯気を立てる自分の飲み物に口をつけた。

女の手を離れた新聞は風に押されて遠くへと流されて行く。その影は不気味な生き物がふらふらと移動しているかのようであった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!とっても嬉しいです!!

そして第2章旗印、終了です!

エリックの革命家としての第一歩でした。

次回は土曜日の21:00公開になります。引き続き宜しくお願い致します。

また土曜日にお会いしましょう。

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