6話前編 ゴブリン戦
森の奥、かつて封印された地。
黒く焦げた石碑の前で、低く唸る声が響いた。
「……目覚めの刻は、すでに来た。サキュバスどもが精気を乱れ飛ばす世界……今こそ、我らが立つ時……」
その姿は、従来のイメージとは違っていた。
青黒い皮膚。黄金の瞳に理知の光を宿し、儀式服のようなローブをまとった中年の男、ゴブリン・エルダー。
封印から目覚めた彼らは、単なる蛮族ではない。
彼らは知性と魔力を持ち、戦術を練り、目的を持って行動する。
「精気……この世界に満ちる生命の源。その源泉を支配すれば、我らの種は再び栄える」
その周囲には、十数体のゴブリンたちが静かに跪いていた。
爪を研ぎ、舌を舐め回しながらも、命令が下るのを待っている。
「まずは“夢淫学園”。あそこには我らの標的、最上級の精気を持つ者が集まっている」
エルダーの手が、虚空に浮かぶ魔力の球を握りつぶした。
「サキュバスはもう、我らに従うか、喰らわれるか、
クククク選ばせてやろうではないか」
一方その頃
「ねぇ雄大、最近ちょっと学園の魔力の流れ、変わってきてると思わない?」
リリムが心配そうに、抱きついてくる。
俺は剥がしながら
「……たしかに。なんか、落ち着かないっていうか、胸がザワザワするっていうか……」
ミネルヴァからも通達があった。
学園の外郭を包む結界が、微かに反応しているのだと。
「これは……誰かが、外から結界に干渉している……?」
ミネルヴァが不思議そうに、顎に手をつける。
その違和感の正体に、まだ誰も気づいていなかった。
すべてはゴブリン族の計画”の第一歩に過ぎなかったのだから。