番外編 幼馴染み
「あの日、素直になれていたら」
あの日、ちゃんと「好き」って言えてたら、今ごろ、隣にいられたのかな。
夕焼けのグラウンド。
ふと目に留まったのは、誰もいないバスケコート。
葵は制服姿のまま、フェンス越しにぼんやりと見つめていた。
「バカ雄大……いつも、ニヤニヤしてさ……」
いつも隣にいた幼なじみ。
バカみたいに元気で、からかってきて、でも優しくて。胸見てきて。
あの時、葵は強がってばかりで、“女の子らしい言葉”なんて、ひとつも言えなかった。
いつか、伝えられる。伝えてくれると思ってた。
そして、突然だった。
雄大がこの世からいなくなったのは。
理由なんてどうでもよかった。
気づいたときには、心にぽっかり穴が空いていた。
数週間が過ぎても、何も変わらない日々。
周りは「時間が解決する」と言うけれど、葵にとっては違った。
毎晩、夢に出てくるのは、雄大とのいつもの日々。
「バカ……。好きだったのに……」
ぽつりと漏れた本音に、葵自身が驚いた。
今さら言葉にしても、もう届かない。
後悔ばかり。
その夜、夢の中に、女神のような声が現れた。
『あなたの想いは、まだ終わっていないわ。もう一度、彼と向き合いたい?』
「な、なによそれ……。でも……っ、うん、会いたい……」
『なら、時が満ちたとき、あなたを彼の元へ導きましょう。』
その日から、葵は毎晩同じ夢を見るようになった。
見知らぬ世界、奇妙な制服、そして……“変わっていく自分の姿”。
(なにこれ……私、なんかおかしくなってない?)
胸の奥がムズムズして、体が火照って。
ときどき、雄大の名前を呼ぶと、何かが溢れそうになる。
「変な夢……の、はずなのに」
目が覚めた時、いつも寂しくなる。
「本当に、あの夢が正夢ならな……」