2話 サキュバスとは
夢か、幻かと思ったけど、これは現実らしい。
サキュバスだらけの学園に転生して、いきなり可愛い子が至近距離で俺を見つめてる。
「ねぇ雄大くん、そんなにキョロキョロして……もしかして、緊張してるの?」
そう言ってニコニコ笑うのは、俺がこの世界で初めて出会った女の子リリム。
ピンク色のふわふわツインテ、くるんとした大きな目。小悪魔みたいで、可愛いけど……なんか距離が近い。
そういえばサキュバスってほぼエッの為だけにできた敵だよな。
「そりゃ、いきなり別世界で、しかも女の子しかいないとか普通じゃないし……」
「ふふっ、サキュバスってもっと馴染みがないよね。だからちゃんと説明してあげる」
リリムは俺の手を取って、にっこりと笑った。
チェリーボーイには厳しい。
「これから雄大くんが暮らす“夢淫学園”は、サキュバスだけの学園なの。私たちは精気を食べることで、元気になったり、魔力が強くなったりするんだよ」
「……精気って、やっぱ“あれ”だよな?」
「うん♡ エッチな意味の♡ でもね、キスとか手を繋ぐだけでもちょっとずつもらえるんだよ?」
「マジかよ……」
「それにね、サキュバスの身体ってちょっと“特殊”なんだよ?」
リリムは嬉しそうに自分の頭を指差した。
「まずはこの角。魔力の源でもあるけど、触られると……うん、気持ちよくなるの♪」
「気持ちよくなるって……お前、堂々と何言って……」
「次は、羽根。これは魔力の調整をするために使うんだけど、興奮すると広がっちゃうんだよね~♡」
「……なるほど? 飛べないの?」
「一応、飛べるけど、精気を失うから誰も飛ばないんだ~」
なんで羽なんかあるんだよ、興奮して広がるってことは、興奮しないと飛べないんじゃねーのか。
「でねでねっ、一番の秘密は……しっぽ♡」
そう言って、リリムの腰からぴょこっと出ているハート型のしっぽが、ゆらりと揺れた。
「サキュバスのしっぽって……その……とーっても感じやすいの♡ちょっとでも触られると……もぉ、頭ふわふわしちゃうくらい、ね……」
「しっぽ近づけんな!」
「後、サキュバスは皆100歳は超えてるよ」
あっ安心、じゃねーよ!
その後、リリムがしれっとしっぽで俺を巻こうとしてきた。
触手みたいにすんな!!
「それくらい、私たちの体って、精気と密接に関係してるんだよ。だから、雄大くんのそばにいるだけでも……あったかくて、安心するの♡」
リリムがそっと俺に抱きついてくる。ふにゃっと柔らかくて、甘い匂いがして、、やばい、頭の中が沸騰しそうだ。
「雄大くんの、精気って貰えるけど妊娠はできないんだねー」
「……ああ、EDだからって言われたよ……」
「うん、でも、本当に好きな人に触れられたら、その封印きっと……少しずつ、ほどけていくんだよ♡」
リリムの瞳は、冗談じゃなく、真っすぐで。
どこか、俺の中の何かを見透かしているようだった。
俺はこの学園で、サキュバスたちに囲まれて、恋をして、精気を渡して、……世界を救わなきゃならないらしい。
やれるのか?
いや、やるしかねえんだろ、もう。
しばらくベッドの上で抱きつかれてたら、急にリリムが離れた。
「じゃあ雄大くん、そろそろ……測りに行こっか♡」
「……なにを?」
「決まってるよぉ。精気の数値だよ!」
リリムが嬉しそうに俺の手を握って、ぐいぐい引っ張る。
まるで遊園地にでも行くようなテンションだが、こっちは命がけである。
「ちょっ、待てって……俺、まだ状況もわかってな、、」
「だいじょうぶだってば♡ 教えてくれるから。ミネルヴァ先生が、ね」
「なんか、やばいやつっぽいな」
リリムに連れて行かれたのは、学園の保健棟。
白を基調にした静かな廊下を抜けた先、香水のように甘く、でも刺激的な匂いが鼻をくすぐる。
コンコン、とドアをノックすると
「入ってらして。お待ちしていましたわ、雄大くん」
そこにいたのは、信じられないほど美しい大人の女性だった。
腰まで届く艶やかな黒髪、深紅の唇、抜群のスタイルを包む白衣。
そして、なによりその目。見下ろすような視線と、どこかすべてを見透かすような微笑み。
「私は保健教師の、ミネルヴァ=アスモディア。
あなたのことずっと、お待ちしていましたの」
「ま、待ってたって……俺、ついさっき転生して」
「ふふふ、それでも……“特別な男の子”が来ると聞いて、ずっと準備していましたわ」
彼女はすっと指を伸ばし、俺のあごのラインをなぞる。
「緊張して? ふふっ……その身体、触れるだけでいろいろわかってしまいそう。でもまずは、正式に“測定”をしましょうか」
部屋の中央には、不思議な形の水晶のような装置があった。
その前に立つように促され、リリムとミネルヴァが左右に並ぶ。
「雄大くん、これは“精気共鳴装置”っていってね、私たちがどれくらい君に反応しちゃうかを測るんだよ♡」
「つまりどれだけ君達にとって、相性がいいかってこと?」
「そうよー、まっもう分かりきってるんだけど」
ミネルヴァに触られる。
「雄大くんの精気濃度、サキュバスとしてどれほど魅力的か、数値化されることで、今後の指導方針にも関わってくるのです」
「……指導って、なんかすげー響きがいやな予感しかしないんだけど……」
「安心なさい。痛みも副作用もございませんわ。ただ……少し、感じるだけですの♡」
俺が装置の前に立つと、水晶が淡く光り出した。
リリムがそっと手を添え、ミネルヴァも俺の背中に手を添える。
「ふふ……ふふふ……っ」
ミネルヴァが、頬を染めながら笑った。
「これは、予想以上……っ、なんて濃密な……まるで何年も溜め込まれた、熟成された……」
「やっぱり、すごいんだね雄大くん……♡」
溜め込んだって、前世チェリーボーイなの、なんで皆にこんなバレるんだよ。
恥ずかしいわ。
しばらく手を置いていると
バチンッ。
装置が火花を散らし、一瞬真っ赤に発光した。
「測定限界突破……っ!?」
ミネルヴァが思わず口元を押さえた。
「うん♡ これ、完全に校内最強精気濃度決定だね♪」
リリムが嬉しそうに顔を触ってくる。
ん?、最強ってことは目立つ、、
「……ちょ、やばいってそれ。目立ちすぎるじゃん!!」
「それだけ、あなたがこの世界を救う存在ってことなのですわ、雄大くん♡」
その笑顔の裏にある、熱のこもった視線が怖かった。
息づかいも少し荒くて、リリムも顔を赤くして近づいてくる。
「なっちょっなに!?」
リリムが俺の手をリリムの手で絡める。
「良いよね?」
「なっ!何が?」
リリムが気持ち良さそうに、顔を赤らめる。
「最高だなー♡、やっぱり雄大くんの精気、最高」
そしてリリムは離れて
「まだ全然足りないけどー、今日は終わりね」
リリムがくるりと回転して一歩下がり。
「また、"ちょうだい"」
リリムが上目遣いで見てくる。
「良いよ、別に」
「有り難う、雄大くん!」
なんか、照れるな~
「私にもちょーだーい!」
ミネルヴァが俺を抱き締めてきた。