第4話 正体(私)
これでおしまいです。
お付き合いしていただいてありがとうございました!
第4話 正体(私)
1
通常航行中。私は速度を落として、船内外に異常が無いかを入念に確認する。
時には船外に出て、破損個所を修理した。
面倒くさいので、宇宙服は着用せず、勤務服のまま船外作業をした。
デザー(命綱)を背中に直接装着し、特殊な吸盤靴を履いてはいるが。
そう。私はアンドロイド。
自分で思考可能な、完全なヒューマノイド型のロボットだ。
私の外見を見たら、恐らく30代前半の、どこにでもいる男性にしか見えないだろう。
容姿は「地球全人類から30代前半の男性を均等に混ぜたら」的な感じである。
明るい褐色の肌。身長は180センチメートルで、少しやせ形だが筋肉質。
重量もこの体格に合った74キログラム。製造されてから24年目。
目鼻立ちはくっきりとしているが、顔の造りに特にこれといった特徴は無い。
少し癖のある黒褐色の髪は短く(伸びることはないのだが)、瞳の色も同じく黒褐色。
食事を必要としないので、当然排泄もしない。
また女性との間に子をなす行為もしないし、そのような機能は付いていない。
あの時、美しい女性の姿をした「テラ004」が私を誘惑したが、その時になって初めて私が非生物であることを察したようだ。
私の思念は読めても、私を構成する物質までは読めなかったらしい。
生物ならば脳波の電気信号、私の場合は人工頭脳の電気信号を何かしらの方法でチャッチし、思考や記憶や情報の解析をしたのだと思われる。
私のコードネームは「AI-810」で、あの惑星の発見時に仮につけた「テラ004」と同様に、人間のネーミングセンスは貧困だ、と自立思考する私は呆れる。
2
21世紀から急速発展したAI。
それに伴って、膨大な動力源や記録装置の小型化、部品の軽量化や精緻さが発展して、私たちが造られた。
このように「AI-XXX」のコードネームを持ったアンドロイドが、太陽系外の超光速航法。つまり太陽系外の調査任務をしている。
生身の人間が超光速航法を行なった場合の危険性を鑑みて、我々がこの任務に就いている。
まぁ、この宇宙船を造り、そのための資材を採掘したのは、人間であるのだが。
特に太陽系内の各惑星やそれぞれの衛星での資材の採掘は、通常の宇宙服より二回り大きい、パワードスーツ内に入って行っているのだから、ロボットだけを特別危険な任務に就けている訳では無い。
流石に、超光速航法を搭載した宇宙船の乗組員だけは、躊躇しているようだが。
単純に我々なら、飲食物の保存スペース、給排水や酸素供給のシステムを、船内に造る必要が無く、完全に超光速航法の機能に特化した宇宙船が出来る、というのも理由である。
それを考えると、「テラ004」で見た様々な異星人たちの死骸だ。彼らは生身で来たのだから、恐れ入る。
多分、超光速航法の技術が我々よりも優れているのだろう。
報告書には、あの月にまで飛ばされた宇宙船の残骸の回収を一番に行うこと、決して「テラ004」に降下をしないこと、と記録している。
無論、私をメンテナンスする技術者が、帰還した私の見聞きした体験をバックアップして、上層部のお偉いさんたちが報告書とのすり合わせで精査して、結論を出す。
ロボットの私が言うのも妙だが、惑星が意志を持った一つの生命体なのは驚きだ。
一体どのような過程を経たらそうなったのか?
あるいは、あの惑星は大型の生物もいたが、全てあの惑星に食べられたのか。
やって来る異星人たちの思念を読み、彼らの文化や言葉などを瞬時に理解して、自分たちにとって魅惑的な対象の相手を造り上げて出現させ、そして罠にはめて喰う。
何となく私は奇妙なつぶやきを発した。
「惑星への意志」
3
生きるとは根源的なことだ。
人間ならば無意識的に皮膚からも始め、呼吸を自然にしている。例えば、自身の判断で皮膚呼吸を止めることなど有り得ない。
これは人間の根源には「生への意志」があるからだ。
もっと言えば、全ての生き物には、根源にこのような「生への意志」を持っている。
それが一つの地球型惑星に顕現した。
自己保存の本能。あの理想郷のような環境は、あの惑星の「意志」によって形成されたのか。
このように私はくだらない、ものの役に立たない思考は可能だが、私の根源に「生への意志」があるか、と問われれば、あの「テラ004」のほうがよほど生き物である。
さて、私の動力源もそろそろ少なくなってきた。
船内の特別室のベッドで3時間程寝て、私の動力源を宇宙船内からの電力からいただく。
診断装置と簡易な修理機能もある充電室で、特に私の身体に異常箇所は無かった。
先程、食事は必要としない、と言ったが、50キロメートルも全力疾走したし、それ以上の距離を泳ぎ、ついさっきまで船外で宇宙船の補修をしていた。
流石に活動するための補給が必要な状態である。
これは「生への意志」ではなく、単なる私の自立思考からの義務感からである。
大体フル充電すると、10年間の通常の活動は可能だ。あのような激しい動きをしなければ。
船体の異常が無いことが確認されたので、一回目の超光速航法の準備が始まったことを知らせる、音声が船内に流れる。
ロボットの私に、機械が警告のアナウンスを発する。
掃除ロボも船内の掃除を既に終え、元の収容箇所に戻っている。
私は何ともこの滑稽な機械だらけの状況に苦笑する。
現在の船内日時は、2329年6月15日まで、あと数時間。
さて、ちゃんと5年後の2334年の6月か7月ごろには、冥王星基地に到着するのだろうか。
そして、それは本当に地球時間と合っているのだろうか、と私は願うのであった。
第4話 正体(私) 了
惑星への意志 完結
今回、2つの全4話の連載作をほぼ同時に開始して、ほぼ同時に終わらせる、という一種の実験をしてみました。
どちらが楽しめたでしょうか?
どちらもだと大変うれしいです。
【読んで下さった方へ】
・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。
・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。
・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。
・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。




