第3話 正体(相手)
3話目です。よろしくお願いします。
第3話 正体(相手)
1
何時までも私が動かないからか。
つまり欲のままの行動を起こさない私を誘うためか、彼女は私を抱きしめた。
体を密着させ、ふくよかな彼女の胸が私に押し付けられる。
そして、私の唇に彼女の薄紅色の艶っぽい唇が近付き、私を抱きしめる片方の手が、私の股間をまさぐり始めた。
「!?」
彼女は途端に私から離れた。
「何者だ! お前は!?」
声は美しく澄んでいるが、明らかに不審な声音で裸の彼女は尋ねる。
「そりゃあ、地球人さ」
「地球人とは皆そのような者なのか!?」
ガバッと彼女がいる大地が割け、彼女は割けた穴へと落ちて行く。
穴はますます広がり、私の方まで迫って来るので、私は逃げ出した。
「安心しろ! オマエのような不純物など喰わぬわっ!」
穴から声がする。初めは女の声だったが、次第に野太く、大地全体に響くような音量となっていく。
私は大穴を覗いた。
「!?」
中には半ば溶かされた生き物の死骸に満ちていた。
さながら宇宙各地の知的生命体の見本市だ。
先程、地下の構造を3Dで見ていたが、このような映像は確認されなかった。
見事に隠避していたのか、あるいは地下内を流動的に移動させていたのか……。
エビを思わせる頭部をした、赤褐色の屈強な身体付きと手足をした、立てば3メートルはある異星人。
また別に、体長1メートルほどだが、地球人によく似た全身灰色の異星人。
更に、全身緑色で猪を思わせる頭部をした、半ば溶かされた残りから察すると、丸々と太った異星人……。
もうきりがない。あの女が彼らを襲いこの穴の中に閉じ込めたのだろう。
よく見ると、落下したあの女もいる。彼女の身体は崩れ始め、これらの異星人の残骸へと変化し始めている。
2
私は宇宙船へと走る。
宇宙船を確認するが、仰天する。
何と大地がうねり、草木が絡みつき、宇宙船を東の方へ。つまり海の方向へと運んでいるではないか!
ものすごいスピードで東へと運ばれる私の宇宙船。
私は必死に追い掛けた。
50キロメートルもの距離を全力疾走したが、追いつかず、宇宙船はやはり動く砂浜によって、海へと投げ出される。
「くそっ! 今度は水泳かよっ!」
私は迷わず海に飛び込み、宇宙船目掛けてひたすら泳ぎ続けた。
泳ぎながら、私のある部分は冷静にこの現状を分析していた。
先ず、先程見た異星人たちの死骸は、あの「女」のような姿、あるいは「男」。要するに彼らの故郷で魅力的な姿の造形をした同種族を出し、魅惑して、地の中に叩き落とした。
何のために?
決まっている。邪魔者なので排除して、喰らっているのだろう。
そして、一部は先程のように彼らの体組織を使って、対象の種族を造りだすために保存。
何故喰らっている?
決まっている。この星の意志がそうさせているのだ!
この惑星は、この惑星自体が意志を持った生命体で、宇宙各地から来る異星人を喰らっているのだ!
では、生命でない物は?
それは咀嚼できないので、惑星外へと飛ばしている。
恐らく海を操って、高く高く、海水を巨大な噴水のようにして押し上る。それが宇宙空間に達するまで。
あの最初に見た月にまで、飛ばして捨てているのだ。
3
宇宙船は先程私が走った距離よりも、更に長い距離を流されて行く。
だが、こいつは、私も月に捨てるつもりなので、宇宙船を流す波は次第に緩やかとなり、私はどうにか追いついた。
「緊急開錠。船内へ入ることを許可されたし」
私は宇宙船のある部分にしがみ付き言葉を発する。
すると、その箇所が光り、私の声と目の虹彩と胸ポケットの記章を確認すると、人ひとりが入ることが出来る緊急の入り口が開いた。
私が船内に入ったことを確認すると、この緊急の入り口は即座に閉じられる。
ずぶ濡れの私は、この惑星からの脱出の準備をするため、操縦室へと急ぐ。
周辺の海水が、恐らく「テラ004」の全海水が集まっているのか、打ち寄せる波が激しく船体に叩きつけられる。
これがはるか上空へ、噴水のように高く吹きあがる気配を、私はひしひしと感じた。
「緊急発進! 大気圏外まで一気に上昇!」
ほとんど全くの垂直に推進しているので、凄まじいGが操縦席に着いた私に押しつぶそうと掛かる。
私の宇宙船は間一髪で、巨大噴水からの脱出に成功し、「テラ004」の大気圏外に出て、月の辺りまで一気に到達した。
すぐ近くでは、噴出された海水が瞬間冷凍されている。
月のあの例の位置にまで進み、モニターで調査車両に乗っていた時に発見した、各宇宙船の残骸を見る。
彼ら、あの地下で半ば喰い殺されていた異星人たちが「テラ004」に来たのは、私と同じく調査のためなのか、あるいは植民のためなのか?
いずれにせよ、この危険極まる惑星の報告は、この状況だと彼らの故郷の星へは出来てはいないだろう。
私は一応同志と思わしき、彼らの朽ち果てた宇宙船に敬礼をした。
意味のある行為かどうか分からないが。
取り敢えず、エアシャワー室に入り、予備の勤務服に着替えよう。
掃除ロボが色々と船内を動いてくれている。
着替えた私は、狭い執務室で、この「テラ004」に対する報告書をまとめる。
もっとも、数時間もあれば出来ることである。
あとは冥王星基地への位置をセットして、定期的な超光速航法で、5年をかけて太陽系へ戻るだけだ。
第3話 正体(相手) 了
次は「相手」の対しての「私」の正体で、おしまいです。
まぁ、バレバレですけどね。
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