第四話 おつかいアムネジアⅠ
さらに一週間が経った。
狩猟にはもう慣れ、今や鹿以外の魔獣も危なげなく狩れるようになった。
なんなら一対一の正面対決でも勝てるようになった。
「そういや、そのティアラは外さないのか?」
朝の組手も終わり、朝食を摂っていた時、ふと気になったので聞いてみた。
セレーナは会った時からずっと小さな金色の冠を頭の上に載っけているのだ。
邪魔ではないのだろうかといつも思っていた。
「ああ、血染めの帝冠のこと?」
~のこと? と言われても、名前なんか知らんし、え、名前物騒すぎない?
「あ、そっか、ハヤテはもってないものね」
曰く、この血染めの帝冠というのは生体武具と言われるものの一種で、特に上位種族しか持たないものらしい。
生体武具とは、持ち主が成長すると一緒に成長する武器防具の総称で、どれも破格の力を有しているとか。
見た目はまんま無機質なんだが、ちゃんと痛覚はあって壊れたらめちゃくちゃ痛いらしい。しかも治るまでは能力が低下するというデメリット付き。
「それで、邪魔じゃないのか?」
「邪魔なわけ無いでしょ。あなた、手や足が邪魔に思ったことある? 鼻いらないなって思ったことは?」
「……ないな」
「そういうこと」
なるほど。あるのが普通なのか。
ちなみに、セレーナの赤いドレスというか蝙蝠のような翼も生体武具らしい。
鮮紅の蝙翼衣というもので、通常時は背中から生えた赤い蝙蝠の翼ような見た目だが、体を包むと赤いドレスに変化させることができる。形状や装飾は自由自在で、色も赤系統なら自由に変えられるとか。
あと、防御力もなかなかのものらしく、レベル8以下の魔法では傷すらつかず、物理面も特殊な力が宿った武器でないと刃が立たないとかなんとか。
「あ、でも人族で生体武具をもってるって話は聞いたこと無いわね」
さようで。
「それと、鑑定しても生体武具は出てこないから戦う時は気を付けるのよ」
鑑定ってあんま役に立たんのな。
魔獣の戦闘力は雰囲気で大体わかるし、そもそも格上相手だと鑑定しても見えないしなんなら気付かれる。
植物や鉱石など、物の名称や効力、見分け方とかはセレーナに教えてもらったから鑑定を使うまでもない。
精々初見の時に少し使うくらいだ。
なんならそれが原因で攻撃されることもある。爆発したり毒を吐き出されたり、俺の腕くらいの大きさがある棘を連射されたり。
自壊されるよりはマシだが。
植物とか無機物ってこんな危ないものだっけ?
森に行く前に現在の能力値。
名前:ハヤテ (訓練期間中) 年齢:16 性別:男
種族:古雅人 絶滅種 LEV:83(↑82)
職業:無
位階:無
称号:不屈の豪運人
体力:10900/10900(↑9300)
魔力:18950/18950(↑15450)
膂力:10300(↑9100)
器量:12900(↑11700)
耐久:11950(↑10450)
敏捷:11250(↑10050)
知力:12000(↑10500)
精神:12000(↑10000)
魅力:1820(↑820)
幸運:1000
信仰:0
能動技能
鑑定Lv.6→7
逃走Lv.10
魔法Lv.→8
身体能力強化Lv.6→10
先読Lv.5→8
防御術Lv.5→8
回避術Lv.4→5
受身Lv.5→8
剣術Lv.5→7
槍術Lv.5→7
棒術Lv.5→7
斧術Lv.5→7
槌術Lv.5→7
投擲術Lv.6→10
盾術Lv.5→7
徒手空拳Lv.5→7
昼寝Lv.3→6
瞑想Lv.3→6
魔力隠蔽Lv.5→10
隠密Lv.4→10
料理Lv.6
家事Lv.6
狩猟Lv.7
採集Lv.6
簡易収納Lv.8
受動技能
苦痛耐性Lv.10
魔力感知Lv.6→8
自然治癒Lv.6→9
高速思考Lv.5→8
並列思考Lv.3→7
危機感知Lv.5→8
毒耐性Lv.4
混乱耐性Lv.4
呪詛耐性Lv.4
レベルが一上がるごとにほとんどの能力値が一〇〇上がった。
これまた異常な上昇値らしい。
普通の場合だと全部で一〇〇~二〇〇、すごく良くて三〇〇くらい。
絶滅種でも流石にここまでの上昇値はないとのこと。
おかげで魔獣とタイマン張っても勝てるようになったのから良いんだけど。
幸運と信仰は変わっていないが、この二つはそもそもレベルの上昇では変化しないので問題はない。
魅力は十ずつしか上がっていないが、これもセレーナに上がりすぎと言われた。
普通は一か二くらいなんだと。
魅力が上がると異性同性種族問わずに好かれやすくなったり、交渉や指揮をとったりしやすくなるらしい。
今のところ必要性は感じないが、とりあえずありがたく貰っておこう。
それ以外の上昇は日々の鍛錬やセレーナに扱かれた結果だ。
それに加え、技能の習得速度や熟練速度がオカシイらしいんだが、他に比べる相手がいないので気にしないことにする。
新しい称号の不屈の豪運人は純角幻菟を倒して得た。
セレーナも同じものを持っているので気づいたが、どうやら俺には称号補正がついていないらしい。
不屈の豪運人の効果は、幸運が一〇〇〇上がり、さらに二倍されるらしいが最初の数字と変わらないし、前まで表示されていた大番狂わせは格上と戦闘時に全能力値が二倍されるらしいが、今までそんな感じは無かった。
気にはなるが、今のところ何もできないので放置。
特に困ってもいないし。
今日は西には行かず、北の方へ向かう。
出発前にセレーナに頼まれた素材採集のおつかいがそこでしか果たせないからだ。
この最果ての大森林は危険度や気候が東西南北で少しずつ違っていて、西から東に向かうほど魔獣の強さや環境の過酷さが上がっていく。
なので北と南は同じくらいの危険度なのだが、気候が全く異なる。
北部は少し寒く、最北端ではなぜか常に雪が降っている。
魔獣の種類も異なり、寒さに強く、氷系統の魔法や攻撃をしてくるものが多い。
今は春なのでまだそこまでではないが、冬になると途轍もなく強力になり、森の他の地域にも出没して猛威を振るうようになるらしい。
南部は逆に暑くジメッとしている。
生息している魔獣も北部とは真逆で、火系統の魔法や攻撃が多い。
こちらも今はまだマシだが、夏に近づくにつれ日に日に強さと火力が増している。
夏になると当然のごとく他の地域にも湧き出す。
南部に至ってはなぜか木々が燃え盛り、地表にマグマが吹き出すらしい。
燃え尽きたくないので絶対行かなようにしよう。
「……さむ」
言葉とともに薄っすらと白い息を口から吐く。
ひんやりとした空気が体を包み、思わず身震いする。
なにか羽織ってくれば良かったと思ったが、この程度なら動いていれば気にならなくなると思い直す。
身につけているのは、セレーナが魔獣の皮などで作成した藍色のズボンと黒の半袖シャツのみ。
作ってくれるのはありがたいが、変な柄や奇抜な形にするのは切実にやめてほしい。
普通の服を作ってもらうのにいつも苦労する。
他に見る人もいないので、いいと言えばいいのだが、着ればどれだけ頑張っても魔獣にバレそうな気がするのだ。
ただ、この森の魔獣の素材を加工しているので防御力は折り紙付きなのがなんとも言えない。
そもそも自分で作れば良い話なのだが。
……今度基礎だけでも教えてもらうか。
今日のお遣いは、
・氷冷石
・冷冷椎茸
・氷凛凶蝶の鱗粉
・霜牙狡狼の牙
・爆結雹妖樹の枝
の五つを出来るだけ沢山とのこと。
上の四つはなんとかなるが、問題は最後の爆結雹妖樹だ。
下位種の雹妖樹ならともかく、倒す必要はないとしても爆結妖樹はかなり厳しい。
セレーナにも聞いてみたが、
「ダメ。雹妖樹は色が悪い」
と却下された。
そもそもの話、これらを何に使うのかというと、絵の具の顔料にする。
自称芸術家のセレーナは俺が狩りとかで外に出ている間は、基本的に離れにあるアトリエで絵を描いているのだが、これがまた見るに堪えない。
というか、人に見せるものではない。
一度だけ見せてもらったのだが、地獄かと思った。
玄関から見た夕日を描いた風景画だとかなんとか言っていたが、嘘は良くないと思う。
俺は苦痛耐性があるから耐えられたけど、常人だったら気が狂ってしまっていただろう。
かくいう俺もその日の夜は悪夢で魘された。
ちなみに、呪詛耐性もその時に得たと言えばそのヤバさが伝わるだろうか。
「凡人には良さがわからないのよ」
なんて言っていたが、芸術を分かっていないのはセレーナの方だと思う。
セレーナは千年くらいこの森で絵を描いているらしいが、それでこの有様なら才能ないのでもう止めたほうが良いと思う。
主に俺の心の安寧と、なにかの間違いで見てしまうかもしれない未来の人類のために。
木の根元に生えている、青白く痩せ細った、いかにも体調が悪そうな見た目の冷冷椎茸を採取しつつ、氷冷石が採れる小川に向かっていると、前方に氷凛凶蝶の大群が現れた。
どうやら現在捕食中のようで、獲物が見えないくらいに密集していて、俺に気づく様子はない。
パッと見は水色の翅の綺麗な蝶といった感じだが、実際には成人男性の胴体くらいの大きさがあり、開張に至っては両手を横に伸ばしても届かないほどだ。
しかも肉食性で気性はかなり獰猛。
獲物を見つけるとすぐさまその大きな翅を忙しなく動かして、陽光を反射してキラキラと輝いている鱗粉を大量に、且つ広範囲に飛ばす。
この鱗粉の一つ一つには氷の魔法がこもっており、触れるとそこから凍りついていき、吸い込んだりすれば目も当てられないことになる。
そうやって体の動きが鈍くなった獲物を生きたまま、骨以外を食らい尽くす。
なんとも凶悪な魔蟲だが、これは冬になって一匹で行動するようになる時の話で、それ以外の季節では鱗粉の量も効果も少ない。
だからそれを補うために群れているが、食事中ならその少ない鱗粉もほとんどないだろう。
別のを探そうと思ってその場を離れようとするが、そこで氷凛凶蝶の群れが一斉に飛び上がった。
間の悪いことに食事が終わったみたいだ。
見ると、肉片一つ、血の一滴すら付着していない何かの骨が地面に転がっていた。
群れている氷凛凶蝶は勿論のこと一匹あたりの一回の食事量は減る。
なので、飛び上がった常時飢餓状態の氷凛凶蝶は、すぐさま俺の生命の臭いを嗅ぎつけた。
距離を取って鱗粉を飛ばそうとするもの、我先にと次の食事にありつこうとするもの、反応は二つに分かれたが、どちらも変わりはなかった。
氷凛凶蝶たちが飛び上がった時には既に魔法を発動しており、こちらに振り向いた瞬間、一匹あたりに一つの土の鏃が頭部に突き刺さり、全ての頭を吹き飛ばした。
「……やっぱり少ないな」
死骸を能動技能の簡易収納に入れつつ呟く。
五十匹くらいいたが、予想通りどの個体もほとんど鱗粉は無かった。
そのうち湧いて出てくるので気にせず次に進む。
それから小川に着くまでに同じくらいの群れを二つ見つけた。
どちらも鱗粉を使う前だったのでいい感じに集まった。
あと百匹分もあればセレーナも良しとするだろう。
それと、霜牙狡狼の群れにも二回遭遇した。
霜牙狡狼の体高は精々人の腰ほどまでと魔獣にしては小柄な方で、全身を白と水色の体毛に覆われている。
そしてなんと言っても特徴的なのが二本の牙だ。
大きさは大腿骨くらいあり、霜のような氷の結晶で覆われてほとんど真っ白のそれには、食った獲物の血がこびり付いていて薄っすらと赤くなっている。
この赤が濃ければ濃いほど食った獲物の数が多く、強いということになり、一番赤いものがその群れの長になる。
まあ、これも冬の話なので、今の季節では大きくても三分の二くらいで色も薄い。
強い個体も群れもなかなかいない。
なので、今回出会った五頭と八頭の二つの群れはどちらも魔法で串刺しにして倒した。
元々、五十頭ほど狩るつもりだったが、嬉しいことに以意外と立派な牙を持っていた個体が多かったので、もうちょっと少なくても良さそうだ。
氷冷石は名前に氷と付いてはいるが、氷ほど冷たくはないし、氷ができるほど寒いところでは採れない。
ただ見た目が氷に似ているというだけ。
だから、これが採れるのはほどほどにヒンヤリしている今のうち、ということになる。
小川の冷気もあって川岸ではこれが採り放題なのだ。
木陰に隠れて小川の様子を伺うが、魔獣がいる様子はない。
今のうちにさっさと拾ってしまおう。
爆結雹妖樹の住処はもう少し北の方なので、早くしないと日が暮れるまでに帰れなくなってしまう。
面倒なことを頼まれたものだ。
「……どうしよう」
爆結雹妖樹の枝を取りに森のさらに北に向かった俺はなぜか、爆結雹妖樹と腕すら通らないほどに密集した無数の雹妖樹に囲まれていた。
お読みいただきありがとうございます。
ブクマや星さんで餌付けしてください。喜びます。狂喜乱舞します。
来年は月二回更新頑張りたいところです。
次の更新は三が日直後を予定してますんで、ちょっと早いですが、
ハッピー・メリー・クリスマス良いお年をー