第三話 マジック&ハンティング
書く時間がなかなか作れなかったので超特急でございます。
またあとで見直しますが、とりあえずどうぞ。
12/07改 ポジティブ・スキルってなんやねん
三日目、今日も心地いい気分で目が覚めた。
筋肉痛で動けなくなると思った身体も特に不調はない。
今日は魔法について教えてくれるらしいが、その前に昨日の復習がてら何でもありの戦闘訓練を一時間ほど行った。
案の定コテンパンにやられた。
少し休憩してから魔法の特訓を始めるが、教えてもらうことは大してなかった。
と言うのも、俺が古雅人だからか、やり方が何となく分かるのだ。
まず初めに、セレーナに見本を見せてもらう。
正直見なくてもできる気がするが、念のためだ。
「よーく見てなさい?」
セレーナの魔力だろうか、体表から赤い燐光が出てくると、それが集まって拳くらいの大きさの火の玉を作り出した。
意外と小さいと思ったがその危険性は極めて高く、少し触れるだけで半身は消し炭になるのではないだろうか、と思うほどの莫大なエネルギーを秘めているのが分かる。
現れた火の玉は数瞬のあと突然姿を消し、瞬時に前方から爆発音が響いてきた。
見ると、的にしていた木は粉々に砕け散って火の雨を降らしていた。
周囲の木々も粗方薙ぎ倒れていて、さながら隕石でも降ってきたかのような有様になっていた。
「どう? わかった?」
セレーナは少し自慢げな顔でこちらを見てくるが、俺はその光景に言葉も出なかった。目玉は出そうだった。
落ち着いて俺もやってみる。
自分の体内に意識を向けると、右肺を中心にして何かが全身に巡っているのを感じる。
きっとこれが魔力と呼ばれるものだろう。
魔力は空中に漂っている魔素に似ているが、それよりももっと濃く、密度が高い。
「最初はえいs……」
古雅人特有の紋様が浮き出ているのだろうか、全身に熱を帯び、体の前に火の玉が形成されていく。
セレーナのものよりも大きいが、威力はそこまでなさそうだ。
数秒で作り終えると同時に的へ発射。
セレーナのものよりも小さい爆発音を響かせた。
規模も小さく、被害は半分ほどだった。
まあ、こんなもんか。
セレーナを見るとなぜだか呆れたような顔をしていた。
「……やっぱり、ハヤテ教え甲斐ないわ」
いや、教える気無いだろアンタ、とは消し炭にされたくないので言わないでおいた。
その後も水とか土とか風とか雷とか色々やってみたら殆どできたが、重力魔法と時空魔法はまだ少し時間がかかりそうだった。
というか、吸血鬼固有の魔法、鮮血魔法とかで勝った気になるのは大人気なさすぎでは?
昼食後、昼寝をしてから魔法と魔導についての座学が開かれた。これ先にしてほしかった。
最初は誤字かと思ったがどうやらそうではなく、ちゃんと区分されていて、魔法は俺が使ったやつで、魔導はセレーナが使ったやつ。
何が違うのか簡潔に言うと、すごいか超すごいか、の違いらしい。うん、わからん。
種族固有の魔法は区分的には魔法なのだが、仕組みが違うのでそれは置いておく。
そもそも一般的な魔法というのは誰でも使えるわけではなく、種族を問わず才能がある者にしか使えないもので、基本的には何でもできると言われている。
が、魔導はその魔法を極めた者の中のさらに選ばれた存在しか至れない頂きのようなもので、ガチで何でもできる。
俗説では神になる条件の一つとも言われるほどで、禁忌と言われている死者の蘇生もできる。死者の魂を連れて行く死神を倒せたらの話だが。
ちなみに経験談らしい。いや死神に勝ったんかい。
「せれーなすごーい」
私凄いでしょアピールがすごかったので褒めてやったら頭を殴られた。
解せぬ。
明日は初めての狩りに行く予定だ。
進行具合が超特急すぎるんだが。
本日の成果
能力値
「体力1600(100up)
膂力1200(200up)
器量1200(200up)
耐久1500(500up)
敏捷1200(200up)
知力1500(500up)」
Level Up
「魔法Lv.5→6
魔力感知Lv.3→5
昼寝Lv.2→3」
New
「瞑想Lv.3」
今朝の戦闘訓練は魔法も全開でやった。剣一本だけと手加減はされていたが、変わらず手も足も出なかった。もともと一本ないけど。
朝食を摂ってから森に入る。
家の近く、もといセレーナの近くには魔獣が寄って来ないので少し遠出する。
俺の能力値ではそこらへんの雑魚にも負けるらしいので、最初にコツとか色々教えてもらう。
まずは気配の消し方。
この森に動物は一切存在せず、魔獣しかいない。
しかもドイツもコイツも外よりも強力で、それ故に危険にも敏感らしい。セレーナがいい例だ。
俺の場合だと、気配が弱すぎて逆に寄ってくるらしい。なので死物狂いで習得しろとのこと。
音を立てないとか、風下に立って臭いに気をつけたり、殺意を出さないなどなど。
あとは魔力を隠すのも大事だ。
魔力とは体の内側にあるものだが、人によって多少の差異はあれど基本的に体の外に滲み出てしまうので、魔力を扱えない普通の動物は兎も角、魔獣は限定的にでも魔力を自在に操れるので、少しでも魔力を隠さずに近づいたらすぐにバレてしまうんだと。
それとただ単に魔力の無駄だから常に体の内側に閉まっておけるようになれとのとのこと。
ちなみに息や汗にも微量ながら魔力を含まれているのでそれも無くせと。
そんなのどうしろと?
「気合でなんとかしなさい」
歳だけとったやつはこれだか……
「なに?」
なんでもないです。
なんでわかるんだよ。
「顔に出てるわよ」
気をつけよう。
諸々教えてもらい、本格的に狩りを始める。
今日は晶角鹿という魔獣の上位種を狙う。
なぜ上位種なのかというと、この森では普通の晶角鹿がいなくて、この森の中で一番弱いのがその上位種だからだ。
基本的に炎を扱う炎晶赤鹿、氷の氷晶青鹿、雷の雷晶黃鹿、風の嵐晶緑鹿の四種類で群れは構成されている。
けれど、群れが相手となると結構脅威なので、怪我を負ったり弱っていたりしてはぐれている一匹を狙う。
どれが出るかは完全ランダムだ。
東の方へ進んでいくと、小川で水を飲んでいる炎晶赤鹿を発見した。
まず目につくのはその大きな角で、複雑に枝分かれした水晶のような材質の双角は炎を纏っており、パッと見、炎が直接頭から生えているように見える。
体高は百五十センチ程で、赤い体毛には所々同色の水晶のようなものがあり、陽の光を反射してキラキラと輝いている。
なんとも派手な見た目。
他の三種もこれの色違いみたいなものらしい。
自分から狙ってくれと言っているようなものではないか。
が、基本的には群れで行動していて、ちょっかいをかけると群れ全体で四種類の魔法を嵐のように降らして反撃してくるので基本的には狙われないらしい。
「じゃあ、見本を見せるわね」
セレーナはそう言って槍を投げた。
槍はセレーナが魔導で木を加工したものだ。
最果ての大森林の木ということもあり頑丈さは折り紙付きで、セレーナの魔導で驚くほど鋭い穂先になった。並の鉄板なら余裕で貫くとか。
弓でも良いのだが、半端なものだと射ったあとでも余裕で躱されるらしいので、あまりオススメしないとのこと。
てかそもそも俺が使えない。
正直、投げた槍は目で追えなかった。
気づいたら炎晶赤鹿の首が宙を舞っていた。
結構グロいな。
「こうやるのよ」
セレーナはなんでもない風にそう言った。
いや分からん分からん。
要は相手に反応されない速度で投げろってことだと思うが、無理だろ。
投げれる気がしない。早くも諦めそう。
「さあ、次に行くわよ」
もう一つ方法があるらしい。
解体の仕方を教えてもらってから次を探す。
二つ目。
次は氷晶青鹿だ。
炎晶赤鹿よりも全体的に若干小さめだが、角は太く、氷のような見た目をしている。
そこから冷気も漂っているようで、周囲の空気が少し白っぽい。
「魔導、ハヤテの場合は魔法ね。で、やる時のコツは、相手に気づかれないことよ」
氷晶青鹿の足元の地面が突然隆起し、その勢いのまま尖った先端で首を切り裂いた。
さっきと一緒じゃねーか!
「さあ、ハヤテもやってみて?」
今日は優しいと思ったのは気のせいだったみたいだ。
そのあと何回か挑戦したけど、無理でした。
獲物に逃げられるたびに、あれが駄目これが駄目、とビシバシ指導された。地獄かと思った。
お風呂で汗とかドロとかを洗い流し、晩飯を食べて今日は寝た。
本日の成果
能力値
「魔力3500(500up)
精神2000(500up)」
Level Up
「先読Lv.4→5
投擲術Lv.5→6
回避術Lv.4→5
並列思考Lv.3→4」
New
「魔力隠蔽Lv.5
隠密Lv.5」
昨日、初めて狩りに成功した。
レベルもいくつか上がったが、できるまで三日もかかってしまった。
「ハヤテ、やっぱり異常よあなた」
なんで?
「いくら私が教えたからといって、こんなにすぐ格上を倒せるようになるわけ無いもの」
それに、レベルも上がり過ぎだとか。
なんだ、無理難題をやらせようとしてたってことか? ひどい、と思ったがどうやらそういうわけではなく、もっと時間をかけて、できるようになるまでゆっくり教えるつもりだったんだと。
もともと成長率が高い絶滅種というのもあるかもしれないが、それにしても異常らしい。
そんなこと俺に言われてもな。
昨日は初めて自分で獲れたということもあってか、残念ながら途轍もなく美味しく感じた。
なぜ残念なのかというと、
「料理できたほうが女の子にモテるわよ」
と、セレーナが言うので、モテるどうこうはどうでも良かったが、折角なので教えてもらうことにした。
のだが、そこでセレーナの料理技術はヤバいと初めて知った。悪い意味で。
今までの感じで期待はしてなかったが、今回は驚いたことに予想外だった。悪い意味で。
肉を捌いたり、森で採った野菜を切ったり下処理するまでは良かったのだ。問題はそのあと。
肉を焼けば真っ黒な炭のような見た目になるし、スープを煮込めば黒紫色の毒々しい液体になり、体に悪そうな煙がモクモクとあがった。なんなら実際に毒耐性という受動技能も得た。
調理する姿を見ていたものの、手際が良すぎて何を入れているのかほとんど分からなかったが、手当たり次第にたくさん入れていたようには見えた。
「美味しいものは入れれば入れるほど美味しいからね」
そんな過程を経て、出来上がったのはいつも通り美味しそうな料理の数々。
意味が分からなかった。
最初はこういうものだと納得しようとしたけど、やはりおかしい。
調理中に毒耐性を得るとか、記憶喪失ながらも普通ではないと思った。
今後セレーナには料理をさせないようにしよう。
いつ死ぬかわかったものではない。
そう決めたが、恐る恐る食べた料理はいつも通り、というかいつもより美味しくて、俺の食欲を大いに誘った、
それがより一層俺の決意を固めた。
そして今日も狩りに行く。
もちろん獲物は鹿だ。
正直、肉自体は飽きているのだが、選り好みできる立場ではないので我慢する。
セレーナも一緒だ。
少し森の中を歩くと、ちょうどいいやつを見つけた。
今回は雷晶黃鹿だ。
こいつは肉自体が少しピリッとしているのか、辛さとは少し違った、舌が痺れるような感覚がクセになる。
そいつはどうやら手負いのようで、左後ろ脚を引きずっている。
息を潜め、木槍を構える。
魔力の漏れ、気配、ともに問題なし。
視線は少しずらしたまま、殺意といった邪念を消し去る。
その状態のまま数分ほど待つ。
雷晶黃鹿の警戒が緩んだ瞬間、全力で槍を投げる。
しかし、いくら体内魔力の流れを活性化させて身体能力を強化して全力で投げたとしても、俺の力では体の浅いところに刺さるのが精々だ。
なので、槍から手を離す瞬間に風の魔法を行使して槍を後押しする。
もちろんそれで雷晶黃鹿に気づかれるが、その時には既に槍が首に突き刺さっていた。
雷晶黃鹿が黄色い目を見開くと同時に、その首は宙を舞った。
穂先が首に刺さった瞬間に風の魔法が発動して、内側から無理やり吹き飛ばしたのだ。
「はー、完璧ね。二回目とはいえ格上相手ならもっと苦戦するはずなのに、やんなっちゃうわ」
セレーナがなんかしょげていた。
まあいっか。
解体した雷晶黃鹿は、見た目以上に収納できる携帯収納という魔道具に突っ込んでおき、次の獲物を探す。
「あ、今日はもう帰るわよ」
なぜ? と思ったが、どうやら狩り以外にも教えたいことがあるらしい。
もっと狩ってレベルを上げたかったが、そういうことなら仕方がない。
渋々帰ることにした。
帰り道、不思議な魔獣に遭遇した。
腰ほどまである大きさの真っ白の兎で、額からは白い燐光を発する、三十センチ程ある螺旋状の純白の角が生えていた。
「ちょっと待って!? あれ、純角幻菟よ!」
セレーナは急に立ち止まると、小声で叫ぶという器用なことをやってのけた。
あれは純角幻菟というらしい。
どうも結構なレア物らしく、六千年という歳月を生きているセレーナでさえ五百年前にこの森で一回出会ったことがあるだけらしい。
戦闘力自体は他の魔獣よりも弱いくらいなのだが、警戒心がこの森の中でもトップレベルに高く、人前どころか他の生物の前に出てくることはほとんど無い。
逃げ足においては他の継い付いを許さず、捕まえたものには幸運が訪れると言われているほどらしい。
「あれ、すっごくおいしいのよねぇ」
食ったんかい。
だが、美味いと聞けば俄然やる気が出てきた。
あと、絶対に俺が調理する。
セレーナの訳の分からない料理にはさせない。
前回の時はセレーナが勝ったがそれでもギリギリで、もう少しで逃げられそうになったとのことなので、今回は二人がかりで奇襲することになった。
先手にセレーナの魔導を全方向から叩き込む。
が、それは当然のようにジャンプして躱される。
どうやら誇張なしに難敵のようで、セレーナの魔導が発動する前から行動していたように見えた。
そこに俺が槍を持って突っ込む。
空中なら為す術もないだろうとの算段だ。
ところがどっこい。
頭を狙って槍を突き出すが、空中を蹴って危なげなく躱された。
「「何それ!?」」
セレーナも初めて見たようだった。
だが、間近で見ていたため理屈は分かった。
空中を蹴る直前に極小極薄の魔力で足場を生成していたのだ。
それに加え、セレーナの魔導を避けれた原因もわかった。
魔獣のくせして一丁前に魔力隠蔽の技能を持っているようだが、この距離で見れば流石に分かる。
理由一つ目、こいつは常に幻を見せる魔法を使っているのだ。
それだけならセレーナが見破れるはずなのだが、この魔法の範囲が幻兎の全身を覆うかどうかという、すごく微妙な使い方で、地味過ぎて分かりづらいのだ。
これで狙いが結構ずれる。
2つ目、少し先の未来が見えている。
セレーナの魔導は素晴らしく、魔力が動いたと感じる前には既に発動し終わっている。奇襲にはもってこいだ。
にも関わらず、こいつは魔力が動く前に回避行動を取った。
それに加え、異様なほど目に魔力が集まっている。
と言っても、2つ目に関しては憶測だ。
実際に幻兎が何を見ているのかわからないからな。
仕組みがわかったらあとは簡単。
頭を使って倒すだけだ。
「ハアッ……ハアッ……」
数分で決着はついた。
仰向けに転がったまま横を見ると、生気のない赤い瞳が俺を見つめ返してきた。
どういう原理か分からないが、純白の角は死してなお色褪せることなく輝いていた。
「……ハヤテ、あなた、いつの間に幻影魔法なんて覚えたの……?」
今さっき。
疲れた。
肉はたしかに美味かった。
味付けは塩胡椒だけだったが素材が良かったのだろう、それだけで充分だった。
お読み頂きありがとうございます。
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