第一話 目覚め
FGOの水着イベに熱中してたせいで全然書いてなかったです。
ので、今日は短めです。反省反省。が、アル子ゲットしたので後悔はない。
ではどうぞ。
「……ん……」
誰に起こされたわけでも、何に邪魔されたわけでもなく、ごく自然に目が覚めた。
すごく長い間眠っていたような気がするし、そうでない気もする。
どちらにせよ、身体には一片も疲れはなく不調も見当たらない。
いや、何故か左手がなかったが、特に気にならず絶好調で、頭も頗る冴えている。
だけど一つ疑問がある。
「ここはどこだ……?」
窓から差し込む心地の良い光に照らされながらもそれだけが疑問だった。
木造の小さな部屋には俺が寝ているベッドしかなく、左手にある扉は閉まっている。
見覚えのない木の天井を眺めながら何があったのか思い出そうとしていると、唐突に声をかけられた。
「やっと起きたのか? 寝坊助」
「!?」
気がつくと女が立っていた。
いつの間に入って来ていたのか、声を掛けられるまでまるで気が付かなかった。
というか、確実にこの部屋にはいなかった。
声を発する直前に突然現れたように思う。
瞬時に色んな疑問が脳裏を過ぎったが、そんなものはこの女の顔を見た瞬間、口から出ることはなく息と共に呑み込まれた。
「っ……」
目の前には、今まで見たことがない絶世の美女がいた。
年は二十かそこらだろうか。
あまりにも整った顔立ちに、目が釘付けになるスタイルの良さ。
腰ほどまである緩やかに波打った赤髪は暗い落ち着いた色合いをしていて、その頭上には赤い宝石が散りばめられた小さな金色のティアラが輝いている。
髪と同じ色をした長い睫毛が飾るのは美人特有の少し切れ長な目で、少し赤味がかった黄金の瞳には自然と視線が向いてしまう。
綺麗に通った鼻筋に、ぷっくりとした艶やかな唇は、思わずかぶり付きたくなるような塾れた赤い果実のようで、言葉を紡ぐたびに男女問わず心をざわつかせるだろう。
よくよく見てみると耳は尖っていて、紅い宝石のようなピアスが両耳で揺れていた。
日光を知らなさそうな真っ白な肌に、ピッタリ張り付くようにして纏う自信に満ちたような濃い赤色のドレス。
細くスッキリした首元には白い牙のようなネックレスが掛かっている。
華奢な肩は剥き出しで、豊かな谷間の下では腕が組まれているからか、殊更に強調されているように見える。
抱き心地の良さそうな細い腰に、さらに細さを際立たせるかのような大きく形の良い尻。そこから伸びた美しく靭やかな両脚は隠されておらず、フロント部分は太腿の中程しかないスカートから丸見えになっていた。
女にしては少し高めだと思っていた身長は、星空のような黒いヒールで底上げされていたらしい。
「おーい」
「……っ」
ハッとした。
どうやら見惚れていたらしい。これまた聞き惚れるような、どこか色気が滲み出たような少し低めの声をかけられるまで気付かなかった。
「……ふむ。目覚めたばかりでまだ意識がはっきりしとらんらしいな」
いや、違うのだが。
「まあ、一月も眠っておったのだ。無理もない」
「……は?」
一ヶ月? なんでそんなに? 一体何があったんだ。
よくわからないがこの人が助けてくれたらしいし、取り敢えず話をしてみるか。
「あのー」
「む? なんだ、話せるか? 病み上がりであろう、無理はせずとも良い」
尊大な口調だけれど、優しい人なのかもしれない。
そもそも一ヶ月も寝かしてくれたらしいし。
「いや、大丈夫です。さっきのはあなたに見惚れていただけなので」
「……そ、そうか」
あれ? なんか照れてる?
というか、何ナチュラルに口説こうとしてるんだ俺。
そんなつもりはなかったんだが、スッと口から出てしまった。
「それで、あなたは? ここはどこですか? どうしてお……」
「待て待て、混乱しておるのはわかるが、少し落ち着け。我は逃げんし、しかと説明してやる。わかっている限りな」
どうやら無意識のうちに混乱していたようだ。
深呼吸をして落ち着ける。
「すみません。取り乱しました」
「気にするな。ではまず……」
と、そこで僕のお腹が盛大に鳴った。
「はははっ。良かろう、先に腹拵えとするか」
「……すみません」
「よいよい。道理である。しばし待っておれ」
そう言って、名も知らぬ赤い美人は扉から出ていった。
そういえば、頭に小さいけどティアラが乗ってたし、女王様とかなのかもしれない。
……いや、護衛もいなさそうだし、そんなわけないか。
というか、さっき扉から出ていくときに見えたのだが、ドレスの背中部分がお尻スレスレの腰辺りまでバッサリと開いていて素肌が丸見えだった。
……うん。場違いな感想だとは思うし、失礼だとも思うのだが、あの人……なんかえっちくね?
「入るぞ」
数分ほどだろうか、そう長くは無い時間、見慣れない窓の外の景色を眺めていると、先程の赤い美人が戻ってきた。
今度はちゃんと扉から入ってきたが、何故か部屋を出ていった時とは装いが若干変化していた。
頭上のティアラはそのままだが、アクセサリー類は全て外されており、背中に広げられていた長い赤髪は後頭部で一纏めにしてある。おかげで滑らかな肩や、シュッとした頬などがよく見える。
本人が美しすぎてあまり気にならないが、ドレスも色は同じ赤系統のものでも少し地味めなものになっていた。
そして何より目につくのは、その上から身につけている白いエプロン。
もしかして……なのだろうか。
「出来たぞ」
そうは言うものの、両手には何も載っていない。
というか、先程は腕を組んでいたから気付かなかったけど、今見るとその爪の長さににビビった。髪の毛よりも黒い赤色の爪は五センチくらいの長さがあった。
移動する感じかと思い、気を取り直して腰を上げようとすると止められた。
「よいよい。そのままそこに座っておれ」
「あ、はい。…………えっ?」
扉を閉めずに部屋の中に入ってくると、その後ろからたくさんの食器や料理がやってきた。
ナイフやフォークは勿論、たくさんのパンが入ったバスケット、スープがなみなみ入った器や、食欲をそそる匂いがする肉料理の載った大きなプレートなどなど。
思わず素っ頓狂な声を上げたのは、それらがひとりでに浮いていたからだ。
「えっ、えっ、なん……、それ、えっ?」
意味が分からなかった。どういう理屈で浮いてるのか、そもそもなぜ浮かしているのか、なんで食器は歪な形をしていて変な柄なのかとか、指を差して口をパクパクさせてしまった。
「なんと素っ頓狂な顔を見せておるのだ。まるで初めて魔導を見たような幼子のような反応をしおって」
「ま、ぎ……?」
なんじゃそれ。見たことも聞いたこともない。
「……ふむ。まあよい。そこを動くなよ?」
え、なに、殺される? と思ったら、赤い美人は右手を軽く振った。
すると、そこから金色が混じった暗い赤色のキラキラした粒子、というかエネルギー? みたいなものが俺が世話になっているベッドに向けて放たれた。
それが触れた瞬間、ベッドの両脇から茶色い何かが伸びてきて、ベッドの上を平たく広がっていき、大半を覆い隠してしまった。
奇跡的というか、案の定というか僕は無事だ。下は空洞になっていて、脚も自由に動かせる。
その光景を口をだらしなく開けたまま見ていると、その木の板の上に浮いていた食器たちが次々と無事に着陸していった。
要は、クソデカベッドテーブルができたということだ。
僕の口のだらしなさは悪化した。
「これが魔導というものだ」
「……え、すっご。なにこれ魔導すっご!!」
正しく子供のように無邪気な反応をしてしまった。少し恥ずかしい。
「ま、まあ? 魔導と言っても大したことはしていないのだが、そう輝いた目で言われると悪い気はせん」
そんなこんなで少し居た堪れない気持ちで食事タイムが始まったわけだが、そんなものはこの料理の美味しさの前で平伏すことになった。
食器の素人が作った感というか、歪さに少し疑問があったが、そんなことを気にする余裕はなく、目の前の料理たちに誘惑された食欲に俺は負けた。
「いただきます」
一ヶ月も寝込んでいたということで、まずは胃に優しそうなトロッとした白いスープに口をつけた。
見た目通りクリームシチューのような味で、濃厚であってもくどくはない。具材はトロトロに煮込まれた色とりどりのたくさんの野菜だけで、緑色の根菜のようなものや、口に入れた瞬間ホロホロとくずれていくオレンジ色の野菜など、どれも食べたことはないが口に合い、それぞれの主張は激しくなく、シチューの旨味のために存在しているかのようだった。
それに小さく切られていたのもあって、ほとんど顎を使うことなく飲むようにして食べることができた。
バスケットいっぱいに入れてあった焼き立てのパンはクロワッサンのような見た目で、バターのような芳しい匂いは鼻腔を擽り、外はサクサク中はフワフワでほんのりバターの風味を感じる。
それ単体でも無限に食べれるくらいだが、シチューに浸して食べるとまた別の顔を覗かせる。
パンに染み込んだシチューの旨味に溶け出したバターが合わさり、口のなかは旨味の暴力に蹂躙され、それは嚥下した後にも残るが、そこで呼吸をすると、驚いたことに口内に残っていた旨味は気化し、息と共に鼻から抜けていく。
気化したことにより、暴力的だった旨味は幾分落ち着いた匂いになって嗅覚で余韻を楽しませる。
これがヤミツキになって空になったバスケットは数知れず。
途中手を伸ばした水もこれまた絶品だった。
見た目は何の変哲もないただの水。
だが、喉越しが格段に違った。
冷たすぎず、ぬるくもない丁度いい温度に、全てを洗い流すかのような清涼感。
体の中を全て洗い流されるような感覚、まるで何も食べてなかったかのような、ともすれば歯を磨いたあとのような清潔感を錯覚するほど。
一リットルは飲んだ。
次は一際存在感を放っていた謎の肉料理。
五百グラムくらいはあったように思う。
まずは力強い肉の匂いが俺を歓迎する。
しっかりと焼け目の付いた表面、その上には薄茶色のソースがたっぷりとかけられていて、テカテカというよりもキラキラと輝いている。
ナイフを差し込むと、ナイフの重さだけでスっとなんの抵抗もなく切り分けることができた。
切断面からは肉汁が大量に溢れ出していて、表面の焼き後は肉の旨味を閉じ込めるためだったのだと気づいた。
慎重にフォークを突き刺し口に運ぶ。
口の中に入れた瞬間、嵐が巻き起こった。
肉は舌で踊らせるだけでホロホロと崩れていき、崩れるたびにくどいほどの肉の旨味、重たさを感じる油を撒き散らす。
が、ソースのおかげか、野菜ベースのそれは名残惜しさを感じるほど瞬時に肉の全てを優しく包み込み、胃の中に下っていく。
食べ終わる頃には、あの一瞬の肉の嵐が恋しくてしかたくなってしまい、何度も口に運び、肉がなくなるまでおかわりをした。
結局最後までなんの肉か分からなかった。
「ごちそうさまでした」
正直言うと、人一人が食べる量ではないほど腹に入れた気がするが、身体に満ちる充足感や内側から溢れる生命力でそこのところはどうでも良かった。
食後のお茶を飲み、ほっと息をつく。これまた高級そうな紅茶だった。
ふと前を見ると、いつの間にか美女は俺の対面でテーブルに肘をついて座っていた。
ただ、先程までの尊大で余裕のある雰囲気とは打って変わって、どちらかと言うと年相応の少女然とした雰囲気で、微笑ましげで嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
これまた違う魅力があって見惚れていると、見られているのに気づいたのかハッとすると、先程の大人な雰囲気に戻り、取り繕うように言った。
「く、口に合ったようで何よりだ。では話の続きとしよう」
そうだった。元々そういう話だった。
「っと、その前に自己紹介だな」
確かに。ご馳走してもらったのに互いに名前も知らなかった。
「我はセレーナ。見ての通り吸血鬼である」
えーと? 確かにそれっぽい見た目だけれど、さすがに吸血鬼とか、ないない。
いや、でも、さっき魔法みたいなのを使ってたし、あながち嘘でもないのかも。
「それで、お主の名は何というのだ?」
吸血鬼の真偽は取り敢えずおいておこう。
俺の名前は、
「…………ん?」
あれ、なんだっけ。
少し混乱したが、落ち着いた。
多分、記憶喪失と言うやつなんだろう。自分のことは何一つ思い出せなかった。
名前はもちろん、どこで生まれて育ったとか、家族、年齢、人間関係、今まで何をしていたのか、なぜこんなところにいるのかとか、さっぱりだった。
セレーナさん曰く、見つけた時にはほぼ死にかけで意識はなかったらしい。
ちなみにその頃には既に左手も無かったみたいで、助けるのが遅くなってすまなかった、と謝られた。
別にセレーナさんは悪くないし、こうやって一ヶ月も看病してもらって意識を取り戻せたのはセレーナさんのおかげなので、逆に感謝しまくった。
記憶が無いのはショックだったが、だからといって何ができるわけでもない。それに、なにか不都合があるかと言われると特に無い。強いて言えば一般常識が分からなくて困るくらいか。
左手が無いのは、ふーん、て感じ。精々(せいぜい)食事がし辛かったくらいだ。ないものねだりをしても仕方がないし。
と、そこでセレーナさんが折りたたまれた黒い布と白い毛皮を持ってきた。
布のほうは俺が倒れていた時に着ていた服らしい。
じっくり見てみるが何かを思い出す感じはない。
同じ素材が無かったからか、修繕した後が丸分かりで、相当ボロボロだったのが分かるくらいだ。
何もないだろうと思いつつもポケットを探ってみると、一枚のカードのような物が出てきた。
硬質で白っぽいそれはなにか文字が書いてあるようだったが、カード自体は熱で溶けたようになっていて、”高等学校”と”颯”くらいしか読めなかった。
ので、取り敢えず俺の名前はハヤテという事にした。
白い毛皮はなんと、俺が瀕死に陥った原因らしい。
白雷帝虎という魔獣の毛皮で、広げると巨人のハンカチみたいな大きさだった。
毛皮自体の見た目は少しボロく見えるものの綺麗に鞣されていて、柔らかい手触りをしているのだが、なぜだか妙な威圧感と力強さを感じた。
それもそのはず、白雷帝虎はここら辺一帯の主で、素の身体能力自体がこの森の魔物を軒並み上回っていたうえに、雷を自在に操り、その雷を身体に帯びることで何者も寄せ付けない速度で動けたとのこと。しかも、帯雷中はあらゆる魔導や飛び道具を無効化、または減衰していたらしい。
よくそんなのに襲われて生きていたものだと、改めてセレーナさんに感謝すると、
「打倒したのは我ではないぞ?」
てっきりセレーナさんがコイツを倒してくれたのかと思いっていたのだが、着いた時には既に死んでいたらしい。
討伐者は多分俺とのこと。どうやって倒したんだこんなヤツ。
ちなみにさっきの謎の肉は保存していたコイツのものだと。
もうあれは食べれないのかと思ったり、色々と魂消た。
後で事件現場に行ってみたが、特に青々とした木々が生い茂っているだけで、何も思い出すことはなかった。
それからも色々と話を聞いてみた。
まず、ここは中央大陸と呼ばれる七つある中で一番大きな大陸の、最も東に位置する最果ての大森林というところで、この中央大陸でトップレベルに危険な場所らしい。
とは言いつつも、セレーナさんはそんなところに一人で住んでいて、今ではめっきり見なくなったが昔はよく人も来ていたとのこと。
なら安心安心、とはならん。きっと危険すぎて人が来なくなっただけではないだろうか。
というか、セレーナさん一人暮らしだったのか。てっきり貴族とか王族とかの偉い人かと思っていた。
「それに、ハヤテはあの白雷帝虎を打倒したのだ。他の魔獣なぞ鎧袖一触だろうて」
不安や恐れが顔に出ていたからか、そう励まされた。
いや、その時のこと何も知らんし、そんな力が自分にあるとも思えない。
「それで、ハヤトはこれからどうするのだ?」
話は終盤に差し掛かった。
他にも色々と話したが、今は割愛する。
「今すぐにでも出ていくのなら止めはせんが、見送りはなしだ」
俺はどうしたいのだろうか。
正直、セレーナさんにいつまでも厄介になる訳にはいかないが、かと言って全く知らない外の世界に出てもすぐに野垂れ死ぬだろう。
「今すぐに、と言わんのなら、外で生きていけるよう色々と教えてやろう」
「え、いいんですか?」
優しすぎないか?
「よい。ここで放り出して死なれても寝覚めが悪い。それに、一人でいるのも飽きてきたところだ」
セレーナさんはそう言って、少し悪戯っぽく、片目を閉じて微笑んだ。
気づくと日が暮れていたので、今日はもう夕飯を食べて寝ることにした。
セレーナさんの作る料理が美味しすぎるのもあって、寝る前にはしばらく厄介になることに決めた。
お読みいただきありがとうございます。
感想や評価等していただけると嬉しいです。
誤字脱字報告も大歓迎でございます。
気が向いたらブクマもどうぞ。
それではまた来月(多分)。