それからの日々
挿絵はカスタムキャストにて。
あの告白事件からまた数日後、
結局まだジローとのすれ違いは続いていて、ボクはメグちー達女友達といる事が多かった。
メグちーがボクに気を使って1人にならないようにしてくれてたのもあるけど。
今日も帰りにファミレスで駄弁っている。
あ。ちなみにボクがお小遣い稼ぎにバイトをしてる店だったりする。
(最初はジローには止められたけど、ボクを避けるのなら知ったこっちゃないと当て付けのように始めた、制服が可愛い。)
今日はシフトが無い日だ。
ーでさ〜……マルちゃんはどう思う?」
「えっ?」
「なに〜?メグの話を聞いてなかったの?みずきち〜」
「あ、ごめんアキちゃん。」
アキちゃんは見た目が分かりやすくギャルって感じの、茶髪で可愛い顔をした明るい子だ。
メグちーの友達だから親しみやすさは折り紙つきだけどね。
本名は高橋暁菜。
「あやまるならアタシにじゃなくてメグにでしょ?」
「あ、そだね、ごめんメグちー。」
「あはは♪いいよぉ〜!
もしかして愛しの“ジローきゅん”の事でも考えてた?」
「うっ…!まぁ、そだね………はぁ………
メグちーの本名は芹沢愛美。
産まれ付きの白銀髪なのを、よく染めてるとか言われてしまうけどそれを気にせず笑い飛ばす豪胆さとポジティブシンキングを併せ持つこのグループのリーダー女子。
髪色もあって派手な見た目だけど心根は優しくて世話焼きな良い娘だ。
見た目は快活系美少女なのに若干人付き合いが苦手でオタク系男子とばかり話がち(相手は見た目が美少女なボクに萎縮しがち)なボクの事もよく気にかけてくれているから今世ではジローの次に信頼している。
「本当に、そんなに分かりやすく瑞樹が好意を向けてるのに神谷の奴はなんで避けるんだか。」
※神谷→ジローの苗字、本名は神谷治郎
このクール系黒髪美人は佐倉友香ちゃん、
ボクはトーカって呼んでる。
実際落ち着きがあって大人っぽいからボク達のブレーキ役だったりする。
この3人がボクの所属する女子グループの基本メンバーだ。
と、アキちゃんがからかう様な口調でボクに向かって笑いかけてくる。
「多分アタシらとつるみ始めてからみずきちが可愛くなって照れてるんでしょ!」
「そうかなぁ…?」
「どう考えてもそうでしょう。
オシャレを覚えたあなたは自分がもっと魅力的な女の子になった事をもっと自覚しなさい。」
「トーカちゃん……
「そ〜そ〜♪ジローくんがマルちゃんを見る目、恋する男の子だよ?♪」
「そ…そうかなぁ…?だったら嬉しぃなぁ………♡」
この3人から教えて貰って、校則に違反しない程度のナチュラルメイクのやり方とか、スキンケアとか、私服選びのセンスとか、日常での派手すぎないメイクの仕方とか、段々と鍛えられていったからなぁ……
(((やっぱり好意がダダ漏れだなぁこの子。)))
あれ…?なんで3人とも生あたたかい目を…?
ともかく、こんなボクと友達してくれてる事に嬉しさや感謝を感じている。
「でもさみずきち〜」
「ん?」
「アンタから告白しないの?」
「げほっ!?」
ちょっ!?いきなり何を!!飲んでたアイスティが変なとこ入ったじゃん!!
「暁菜。」
「だってさぁ〜ともちん、見ていて焦れったくね?」
「だとしてもそれは当人の問題よ。私達は後押しをしても過度な介入はするべきでは無いわ。」
「アタシにゃわかんなーい!!」
「あはは♪まぁまぁ!あーしらは見守るだけだよあっきー?」
「ちぇー…
「はぁ…けど、私としても焦れったいのは本心よ?」
「あは…あはははは……けど避けられてちゃどうしようも無いよ………
アレから、朝起こしにも来てくれなくなったから遅刻ギリギリになって以来、極力早く寝る様にして、携帯のアラームもセットして、自力で起きれる様になりつつあるしね。
…………前世より成長したなぁボク。
最近は休みの日にお母さんに頼んで料理を習い始めたし。
折角だから…さ………また、ジローと普通に話せる様になった時にお弁当を渡してビックリさせてやるんだ!!
その分忙しくなるから、ジローに会えない寂しさを紛らわせるし…………
そうやってボクはジローと関わりが無くなっていく中、日々を過ごした。
コレがラブコメだったら直ぐに仲直りしたんだろうけど、現実は厳しい。
ジローの“逃げ”が徹底していたから。
休日にふと空いた時間が出来てジローの部屋へ行こうとしてもジローの部屋の窓はロックしてあるし、
家を尋ねてもジローのお母さんからジローは今出かけてると言われるし………
学校でもジローは休み時間になっても男友達と喋ってて入り辛いし
そもそも、ボクはボクで女子の輪に加わらないといけないから滅多にジローの方に行けないし。
たまに女子の輪に入らない時はジローが居ないからオタク系の友達と話すだけで終わる。
凄いなぁ………ジローってば無駄にこんな才能が…?
「うぅ…………じろぉ…………
「うわぁ……………
「重症ね、コレは。」
「………。」
そんな日が1ヶ月以上続き、今日は前世の最期を夢に見て寝覚めが悪かった事もあり、ボクは意気消沈していた………
それを見たアキちゃんは苦笑い、トーカちゃんは呆れ顔をしていた。
……けど、なんだろ、いつも楽しそうにヘラヘラしてるメグちーの顔が、今日は怒ってる様にも見える。
そんなメグちーがボクに耳打ちしてきた…?
(マルちゃん、今夜ジローくんに夜這いを仕掛けな。)
「ひゅっ!?」
(あはっ。初心な反応だねぇ~あーしそうゆうの好きよ♪
………しっかり、腹を見な?)
それだけ告げると何時ものニコニコメグちーに戻ってそこからは普通にお喋りした。
その日はバイトがあったから帰りが遅くなり、
明日の為にも寝ないとなぁ……とベッドに入ろうとして、ふと昼間のメグちーの言葉を思い出した。
『夜這いを仕掛けな。』
『しっかり腹を見な?』
腹を見る…?
腹を割って話せ、って事なのかな…?
それとも、そのままの意味…?
ともかく、ジローの部屋の明かりは、ボクが部屋に来た時点でもう消えてたから寝てるはず。
どうか開いてて、と願ってカーテンを、窓を開けた。
(あ…。)
今日は暖かいからか、ジローは窓を開けて寝た様だ。
よし。それなら……
ボクは久しぶりにジローの部屋へ、窓から入った。
(……よく寝てる。)
久しぶりに見たジローの顔は、やっぱりいつもと変わらない。
けど、寝ている分幼く見える。
……?なんだろ、今、胸が“きゅん”…って……?
ともかく、ジローが起きない様にそっと布団を捲り、先ずはそのままの意味で捉えてジローのお腹を見てみる事にした。
そう、頭に過ぎったのは、メグちーの険しい顔と『腹を見ろ』の言葉。
それで、嫌な、予感がした。
どうか、ボクの思い過ごしであってくれ、と願いつつ、ジローのパジャマを捲ると………
「っ…!」
もう1つ、南側にある窓からさす月明かりに照らされたジローのお腹は、赤黒く変色した部分があったのだった…………
それも、1つじゃない。
更に捲りあげると、胸にも、痣があった。
(そん……な………
ジローが、虐められている。
最悪の想像が、当たってしまった。
ボクは震える手で、そっとパジャマを、布団を、戻し…………………
もど…………し…………
「こんなの……………むり………だょぅ……………うぅ………ぁぁぁ……………じろぉ……………
涙で視界が滲む。
“どうして”
“なぜ”
そんな言葉が頭を巡る。
起こしたらボクが見た事が、バレちゃう………
けど…………確かジローは、1度寝たら、朝まで起きないハズ……だから……………だから…………ねぇ………
ボクに、勇気を、ちょうだい…?
「そう、コレは夢。
都合のいい夢だから。
ねっ?ジロー。」
そう、ジローの耳に言い訳を囁き、
ボクはジローの口に、そっとボクの口を重ねた。
変態だね!
と自分にツッコミを入れて、何とか、気持ちを、誤魔化して……………
「ファーストキス………あげちゃった……好きだよ、ジロー。大好き。」
覚悟を決めた。
虐めに立ち向かったら、次はきっとボクが、標的になる。
でもどうせ1回死んだ人生だ。
2週目のコレは、きっと予定調和で、ジローが自殺してしまうように世界が誘導してるんだ。
だからボクがジローを守らなきゃ。
“またボクが代わりに死ななきゃ。”
“所詮は同じ人生のやり直しだから高校生で死ぬのは確定した未来なんだ。”
そうして、言い訳の、偽りの覚悟を決めた。
翌日、何か知っているであろうメグちーを空き教室に呼び出して話を聞いてみた。
「………それをあーしに訊く、という事はマルちゃんは、“見た”んだね?」
「うん。見た。ジローのお腹は、殴られた様な跡があった。」
「で、初夜這いはどうだった?興奮した?♪」
「それに関しては何故か胸がきゅんきゅんしたけど茶化さないで教えて。」
「素直かw……こほん…茶化してごめん。なら、あーしが知る限りの事を話すよ。
マルちゃんは、ジローくんの幼馴染みだから知る権利がある。」
そう言ってメグちーが見せてきたのはスマホに映る一枚の写真。
そこにはジローに腹パンする男子生徒の様子が写っていた。
コイツは……
「この前、ボクに告白してきた人…?」
「そう。コイツの名前は風間颯太。
見た目は爽やか系だけど実際は裏でこうゆう事してる奴だね。
あーしはその日、偶然兄ちゃんが魔改造した無音カメラを持ってたからこうして盗撮出来た訳だけど。
ごめんね、あーしは正義の味方じゃないから、1人で解決しようとは思わないし、マルちゃんを巻き込む事にした。」
「ううん、むしろ巻き込んでくれてありがとう。
ジローがなんでボクを避けてたのか、やっと分かったよ。」
おかしかったんだ。
いくら喧嘩したって言ってもあのジローがここまで徹底的に逃げるのが。
きっと、風間に脅されてたんだ。
「警察には言った?」
「まだ。
それに警察に言っても多分無駄だと思う。
学校に言っても握りつぶされそうだから学校にも言ってない。」
「なら、先ずはジローの親に言いに行こう。
とにかく、こうゆうことは大事にしないと。」
「そうだね。」
「……アキちゃんやトーカちゃんには?」
「昨日コッソリ話した。
昨日の時点ではまだ確定では無かったけど、アイツの見た目に騙されたら可哀想だし。」
「分かった。」
「……………マルちゃん。」
「なに?」
「あたしは、ああゆうの嫌いなんだ。」
「ボクもそう思う。」
「あはっ♪んじゃ、やったりますか。」
「うん。行こう。ジローの家に。」
その日、結局ボクはジローの家に行く事が出来なくなるのを、この時はまだ知らなかった。