幼少期編
挿絵→カスタムキャストにより作成
ボクがその事を思い出したのは、まだ幼稚園児だった時だ。
「ひゃぅっ!?」
「わっ!?だいじょうぶみずきちゃん!?」
「~っ!?」
その日、派手に転んで膝を擦りむいたボクは痛みで色々と思い出した。
ついで、ジローを見た瞬間、再会出来た喜びや膝の痛みと色々な感情がごちゃ混ぜになり爆発し、子供としての感情に引きずられて情けなく泣き喚いてしまう。
「………うぅっ…ふぇ………うぁぁぁん!!いたいよぉぉっ!じろーくぅぅんっ!」
「えっ!?あっ…えっと……?よしよーし…?だいじょうぶだよー…??」
「じろーくん!じろーくぅぅんっ!うわぁぁぁん!!」
そして目の前に居たジローに向かって手を伸ばすと、普段お母さんにもそうしてもらってるからか戸惑いながらもボクを抱きしめて『だいじょうぶ』と声を掛けて背中を撫でてくれた……
それが嬉しくて、温もりに安心出来てますます泣き喚いてしまうボクを、ジローは嫌な顔をせず抱きしめて声を掛け続けてくれた………
それから直ぐに落ち着いたから、騒ぎに気付いて先生が駆け付けた時には、戸惑いながらもボクを抱きしめて座り込むジローと、そのジローに抱きしめられてニコニコしているボクが居たのだった。
それからの日々は、ボクはジローにベッタリだったらしい。
らしい、というのも……
思い出したと言っても幼稚園児の時は9割方“みずきちゃん”の意識だったからだ。
男として18年程生きた“ボク”では無く、まだ5歳児の“みずきちゃん”。
そんな“みずきちゃん”がジローのそばに居られなくなる記憶を思い出した結果、ジローがそばに居ないと不安で仕方なかったらしい。
小学校に上がる頃には段々と“ボク”と“みずきちゃん”が混ざり合って今の自我が完成していった。
と言っても今の“ボク”は結局の所、8割“みずきちゃん”としての意識だ。
今にして思えば、男だった時の“ボク”の記憶は、【記録】になったと言える。
恐らく、ジローと恋仲になるのに男としての意識が邪魔になると判断した駄女神がそう処理したのだろう。
結果、ボクはジローの事が大好きで全幅の信頼を置き、彼に対しては男友達の様な振る舞いをする女の子になった訳だ。
「ほら瑞樹ちゃん!朝だよー!」
「うぅん…あとごふん~…
「遅刻するからダメです!」
ばっさぁ!
「やぁ〜…………布団捲らないでぇ~………
「良いから起きるッ!遅刻するよ!!」
毎日そんな感じでジローに起こされる日々が定番になっていった。
女の子扱いされてなくない?とも思うけど、変に遠慮されるより良いし、男だった時もそうだったからジローに起こされるのは慣れてるし………
それとボク自身、ジローが朝から女の子であるボクの部屋に堂々と入って来る事に忌避感は無かった。
むしろ朝からジローの顔が見れて嬉しかった位だ。
…………おかしいなぁ…元男のはずなのに。
ジローと一緒に居ると胸がポカポカして、ふわふわして、きゅんきゅんして、この気持ちってなんだろう……?
「ふわぁ~…おはよぉじろぉ……
「ほらほら、早く着替えて!?」
「むぅ……じろぉ…おかあさんみたい………
「いいから着替えなさいっ!!」
「ひゃぁ〜………
………まだ小学1年生で性差の出始めとは言え、平気でボクを着替えさせられたのは、歳の割にしっかりしてたジローからしたら、きっと手のかかる妹みたいな者なんだろうなぁ………
そんな毎日を過ごして、5年生になってからのある日の事、ボクは遂にアレが来てしまったのだった。
「うわぁぁぁぁっ!?」
「えっ!?なに!?どうしたの瑞樹ちゃん!!」
ガチャッ!
「じじじじろーくん…………どうしよう…………おまたから血が………ボク…病気なの………?
最近はなんだかつらかったし……
ボク……死んじゃうの………?」
「ちょっ!?自分からトイレのドア開けるの!?
僕相手だからって遠慮無し!?」
「そんな事よりコレ………
「ひゃぁぁっ!?おまた見せないでよ!?」
「よく見て…!」
「だから見せるなぁぁぁっ!?僕は男だぞ!?」
「だって………だってぇぇっ……えぐっ…ぐすっ………
「とりあえず母さん呼んでくるから!」
「や、やだ!行かないで…!!」
「うっ…!でも…!」
「こ、怖いの……………
「うぅ〜…!!と、とりあえずおまた拭いてパンツ履いて!?」
「う、うん……
初潮の日はそんな風にすったもんだした。
というかその日もジローの家に遊びに来ているときで、ジローがそばに居て、それが初潮でボクに生理が来た事とか全部知られちゃったのは今思えばかなり恥ずかしい思い出だ………
と言うか、生理に対する事前知識がゼロな訳では無かったはずなのに心構えが出来てなかった、のもあるけどさ、
幼少期のボク、どれだけジローに依存してたんだろ…………
ただ、下世話な話。
コレがきっかけでジローはボクの事を女の子として見てくれるようになった気がする。
「お…おはよう瑞樹ちゃん!」
「んぅ……あ……じろぉ……おはよぉ~………♪」
「………じゃあ早く着替えて来てね!?」
「……じろぉが着替えさせてぇ…?」
「じ、自分で着替えなさぁぁぁい!!」
「…えぇ……?」
起こしに来る時に顔を赤らめる事が増えたし……
「あ…重い物は僕が持つよ?」
「気にしなくていいよ?いつも自分で持ってるし♪」
「そう…?いつでも言ってよ??」
ボクを気にかけてくれることが増えた。
単純なボクはジローに構ってもらえる事が増えたのが嬉しかった。
それに………
「お前ら夫婦みてぇ〜!ふ う ふ! ふ う ふ!!」
「えっ!?ちょっ、やめてよ!!僕達はそんなんじゃないッ!!」
「あはは〜♪照れなくても良いじゃんジロー♪
えへっ♪みんな羨ましい~?♪」
「~~っ!!」
「ボク達は夫婦でぇ〜す♪いぇ~い!ぴーすぴーす♪」
「瑞樹ちゃんは恥ずかしくないの!?」
「え?ボクはジローとなら嬉しいだけだよ?」
「あぁもうっ!!なんなのさ瑞樹ちゃんは!?ありがとう!?」
ボクとジローとよく一緒に居るからこうやってからかわれる事も多くなった。
けどボクはやっぱり単純だから嬉しいだけで。
大好きなジローと夫婦扱いされても悪い気はしなかった。
ボクがそんな態度だからか、最終的にはジローも開き直ってたなぁ~……
否定したところで当のボクが全肯定しちゃうから。
まぁ、それも中学生までだった。
中学生になると制服を着る様になって、学ランとセーラー服によって男女の違いがハッキリしだすし、
本格的に美少女に成長した上にセーラー服でバッチリ女の子しだしたボクから、ジローが距離を置く様になっちゃった…………
「ジロー!一緒に帰ろぉ〜♪」
「っ!僕は用事があるからっ!」
「えっ!?ジロー!?おーい!?………ちぇっ…なんだよぅ………。」
ただ、家に帰ってお気に入りのパーカー&ズボンに着替えればいつも通りのジローになってたからボクは気にしない事にしていた。
けど、高校生になった今。
私服の時でもあからさまにジローから避けられるようになってきた気がする。