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05.「森の中で一泊」

 辺りにはすっかり夜の帳が落ちており、頼りになる光源は空から注ぐ微かな星明かりのみとなっていた。夜目の効かない鬱蒼とした森の中、周囲に気を付けながら慎重に足を進める。


「こんな暗闇の中じゃ、今日のうちに森の中を抜けるのは危険だな」

「そうか? まあ裕もいるし、ここは大事を取っておくか」


 ひとまず俺達は木の幹に腰を下ろし、休憩を取った。……一刻も早くこの森を抜けたいところだが、こんな奇妙な目に遭っている今、迂闊に動くわけにもいかない。

 というか、動こうにも動けない、と言った方が正しい。

 有り体に言えば、腹が減って動けない。


「くぁーっ、なんにしても腹が減ったぜ」

「昼から何にも食ってなかったからな。結局飯屋にも行きそびれちまったし」

「僕も……。何か食べたいなあ」


 誰の物とも知れない腹の音が、虚しく夜空に響き渡る。

 今出来ることもない以上、起きていても仕方がない。俺達は木の幹に腰掛けたまま、大自然の中で眠りについた。


 *


 ――そして迎える、朝。

 小鳥のさえずる音に導かれるようにして、次第に意識がはっきりしてくる。変な体勢で眠りについたせいか、体中がやけに痛かった。寝違えていないだけマシと言ったところか。……やっぱりベッドが恋しい。


「よ、っと……」


 その場に立ち上がり、凝り固まった体をほぐすべく軽く伸びをした。ボキボキと、体中の骨という骨が大合唱を起こす。どんだけ固まってんだ俺の身体。

 謎の身体能力を得たとはいえ、そのあたりの身体機能に変わりはないらしい。それに強くなったとは言っても、それは単純な筋力の向上のみで、例えばおっかなびっくりな技が使えるとか、とんでもない再生力がある……というような、超常現象の類は備わっていないようだ、残念。


「……ん? そういやあいつ、どこ行ったんだ」


 その時、日向汰の姿が見当たらないことにようやく気が付いた。

 どこにいるのかと辺りを軽く散策してみると、何やら頭上から奇妙な物音が。不審に思って見上げてみると、そこには木の枝にしがみついている悪友の姿があった。


「……なにやってんだ、お前?」


 ひとまず件の木に近づき、奇行に走る悪友を不審なものを見る目で見上げてみる。日向汰もこちらに気が付いたようで、枝にしがみついたままにっと笑みを浮かべた。


「おう涼透。なに、腹の足しに木の実でも取ろうと思ってな」

「木の実? 食えるのか?」

「たぶん大丈夫だろ。リスが齧ってるのを見たし」

「ふうん、なら大丈夫か。というか、ここにはちゃんと普通の動物もいるんだな」


 日向汰の言葉を聞きながら、昨日交戦した人狼を思い返す。あれはああいう生物だったのか、それとも動物が何かしらの影響で変異した姿なのか……。


(まあ、考えてても仕方ないか)


 いくら考えたところで、情報があまりにも不足している今、やはり明確な答えなど出てきはしない。思考を振り切り、俺も木の実を集めるべく別の木によじ登った。

 どっちが木の実を集められるのか勝負しようぜ、と日向汰が勝負を仕掛けてきたが盛大に無視を決め込み、黙々と木の実を集める。


 そして、木の実を集め始めてから数十分ほどの時間が経ち、既に山が出来るほど木の実が積み上がっていた。今の身体能力に慣れるいい練習にもなったし、まさに一石二鳥だ。


「よし、こんだけあれば充分だろ。そろそろ食おうぜ」

「ああ、そろそろ腹が減って死にそうだったしな」

「ふあぁ、おはよ……ってなにこれ!?」

「ようねぼすけ。どうだ、なかなかの収穫だろ?」


 今更のそのそと起きてきた裕は、目の前に積まれた木の実に愕然としている様子だった。傍から見ている俺でもわかるくらいに、驚きと喜びに目をキラキラと輝かせている。


「こんなにたくさん……! これ、全部食べられるの?」

「おう、少しだけ食ってみたけど大丈夫そうだぜ」


 日向汰のその言葉を聞くや否や、裕は大量の木の実に齧りつくようにして、勢いよくバクバクと食い始めた。太陽の光を浴びて輝く瑞々しい果実が、瞬く間に裕の口の中へと消えていく。めっちゃ食い意地張ってんなあいつ。


「むぐむぐ……、二人は食べな(むぐむぐ)いの? 美味し(むぐむぐ)いよこれ!」

「そうだな。よし、俺達も食うか。あと話すか食うかどっちかにしろ」

「ああ、そろそろ腹が減って死にそうだったしな。あと行儀悪いぞお前」


 裕に続くように、俺達も思い思いに木の実に手を伸ばす。

木の実の山に手を突っ込み、一つ頬張る。その一口を皮切りに、空腹の限界だったことも相まって、先ほどまで山盛りだった木の実は、見る見るうちに減っていた。


「お、なかなか美味いな。味は……ちょっとミカンに似てるか?」

「俺としちゃ、がっつり肉とか魚が食いてえところだけどな。ま、こいつも美味いからいいけど」


 そして、遂に木の実の山は俺達三人の腹の中へと消えていった。

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