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29.「いざ共に」

「いやいやあの世って。じゃあ俺死んだの!?」

「ここにいるってことは、残念ながらね。あなたの人生は、悲しいことに終わりを告げたのよ」

「オイオイまじかよ洒落になんねえぞ。……いやでも、頬をつねったら痛かったぞ?」

「ああ、それは境界人が限りなく生者に近い死者だからよ。五感もあるし、もちろん痛覚だってあるわ」

「境界人?」

「境界世界の住人のことよ。そのままだと長ったらしいから、略して呼んでるの」


 自分がもう既に死んでいると告げられ、流石に俺も慌てふためいてしまった。境界人やら境界世界やらなどどいうのについてはさっぱりだが、リムの口ぶりからするに、俺が死んでいることは間違いのない事実らしい。


「……現世に戻る方法ってのは、ないのか?」

「あるにはあるわ。ただ、あなたの場合は……通常よりも難しいかもね」

「ん? どういうことだ?」

「さっきも言った通り、普通境界世界に来た者は皆、生前の記憶を失ってるのよ。でも、あなたは生前の記憶を失っておらず、そして自分の名前も思い出せる。……つまり、多分あなたは生きたままここに来たってことになるわね」

「……生きたまま?」


 その言葉の意味を図りかね、そのまま聞き返す。ただ、リムにも確証はないようで、紡がれる言葉は歯切れが悪かった。


「うーん、前例がないから上手くは言えないけれど、こう何かしらの干渉があったと言うか、何かに誘われたと言うか……とにかく、まだどうにかなる余地はあるということよ」

「マジで?」

「マジで。そのあたり、逆にあなたに心当たりとかはない?」

「……心当たり、心当たりかあ……。うーんめっちゃあるぅ」

「あるの!?」


 というか心当たりしかなかった。俺の身体から呪いが消え去ったこと。どう考えても、今の状況に呪いが関与していないはずがない。


 その心当たり、もとい呪いについて、俺はリムに語った。


「なるほど、性悪女にかけられた呪い……。あなたも、見かけによらず苦労してるのね」

「まあな。何度死にかけたかわからねえぜ」

「ただの人間でしょうに、なんともまあ不運な。そんなに不幸な目に遭って、絶望したり、死にたくなったりしないの?」


 不運に不幸、か。確かに第三者から見れば、俺の境遇はそう見えるのかもしれない。


 でも、俺は別に自分のことを不運だとか不幸だとか、そんな風に思ったことは一度もない。両親から貰ったたった一つのこの命を、そんな風に扱うなんて勿体ないからな。


 だから、答える。いつもの調子で、いつもと同じ笑みを浮かべて。


「いいや、ちっとも。例えこの先何が起ころうとも、俺は決して生きることを諦めたりはしねえよ」


 いつだって、俺の答えは変わらない。例え異世界に誘われようと、例えあの世に誘われようと、この命ある限り、生きることを諦めたりはしない。

 それがこの俺、四谷涼透だ。


「……そう。随分な変わり者なのね、ヨツヤちゃんは」

「まあ、自覚はあるけど。あと自分で言っておいてなんだけど、このタイミングでその呼び方はやめてくれない?」


 意外とシリアスな場面だったのに、四谷ちゃん呼びのせいで台無しである。空気を読め空気を。この先ずっとリムちゃんとでも呼んでやろうか、まったく。


「ふふ、いいじゃない可愛らしくて。私は好きよ、ヨツヤちゃん?」

「うわ味占めてやがるこいつ。まあ俺が可愛いのは認めるけどさ」

「いや可愛いのは呼び方であってあなた自身じゃないわよ。どんだけ自分に自信持ってるのよ」


 どや顔で自信満々に答えたら、リムちゃんから白い眼で見られてしまった。流石にふざけ過ぎたか。


「……んじゃ、俺はそろそろ行くよ。もたもたしてたら、本当に死んじまいそうだしな」


 リムに背を向け、俺は洞窟の奥へと足を進める。あいつらに無事な姿を見せなければならない以上、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。


 ――ん?


「なんだ、まだ用でもあるのか?」


 人の気配を感じて隣を見てみれば、先ほど別れたはずのリムの姿があった。血のように紅い瞳は、こちらを捉えて離さない。


「ええ、大有りよ。あなたみたいな変わり者が行きつく先を、最後まで見届けるという用がね」

「俺が言うのもあれだけど、お前も大概変わった奴だな」

「ふふ、あなたほどじゃないわ。ま、というわけでよろしくね、ヨツヤ」

「ああ。よろしくな、リム」


 こうして、奇妙な出会いを果たした俺達は、わずかな間だけ行動を共にすることとなった。リムの素性はまだまだ不明瞭なところも多いが、隣を歩いてくれるだけで、なんとも心強い。


 やっぱりどんな時も、一人より二人だな。

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