19.「戦いの終幕」
「どうにか勝てた、か。……ちっ、いってぇ」
ふうっ、と息を吐き、俺はその場に座り込んだ。なんとか勝てたとはいえ、受けてしまった傷は決して軽くはない。
(……魔物。痛みも恐れもなく、ただ破壊衝動のみに突き動かされる存在、か)
その在り様は何よりも哀しく、何よりも痛ましいもののように思える。魔物も元を辿ればただの動物であり、決してあんな骨も残らない結末なんて望んでいなかっただろう。
魔力の暴走によって生み出されてしまう、異形の存在。骨獣を葬るために振るった手は、体中に受けたどんな傷よりも痛かった。
(そういや、ミネの方はどうなったんだ?)
感傷に浸るのをやめ、俺は周囲を見渡してみる。
ローネが勝利を収めたのは、激しい轟音と大地に作り上げられた巨大なクレーターからわかる。というかすげえなあいつ。
となれば、残るはミネと黄金色の禽獣の戦いのみ。その戦いを見届けるべく、ミネの方を見ると――。
「……いやまあ何と言うか、圧倒的だなあいつ」
――既に終わっていた。もちろん、ミネの圧勝という形で。
ミネに飛び掛かろうとしたと思われる禽獣は、滑空したその姿勢のまま、周囲の空間ごと凍らされていた。まるで時間そのものが凍結しているかのように、巨大な氷壁の中にいる禽獣は身動き一つすら取れていない。
その禽獣に向けて、ミネは魔術による爆炎を放った。まるで槍のように凝縮された爆炎が、凍てついたままの禽獣を氷壁ごと貫き、氷の中で爆ぜる。
後に残ったのは、氷の残骸だけだった。
ミネは氷の残骸を一瞥し、こちらへとやって来る。そして、いつかの時と同じように、俺の隣にちょこんと座った。
「そっちも終わったみたいだね。それにしても、魔物がこうも同時に現れるとは……。珍しいこともあるもんだ」
「そうなのか?」
「ああ。そもそも、魔物化自体が珍しいことだからね。まったくないってわけじゃないけど、そうそう起こることでもない。これも、魔神が復活したことによることなのかも知れないね。先行きは不吉だ」
ミネをもってして、不吉と言わしめる魔物の同時出現。これは、それほどまでに異常事態なのだろう。
「そっちも終わったみたいだね。ふーっ、手ごわい相手だったーっ!」
いつの間にか隣に座っていたローネが、そうのんきに呟いていた。手ごわかったとはいえ、ローネの身体には目立った外傷もない。すっかりボロボロとなった俺とは大違いだ。
「ミネはともかくとして、ローネもめっちゃ強いんだな」
「まあね、こう見えて鍛えてるからっ! あとご飯ももりもり食べてるからっ!」
「うわあ説得力あるぅ」
さすが食の化身。もしかするとこの猫娘は、食べた者全てを筋力に変えるという特殊体質の持ち主かもしれない。
ひとまず戦いは終わったということで、俺達は草原に腰を下ろし、休息を取っていた。
「お疲れ様、皆。待ってて、すぐに怪我を治すから」
裕の両手から放たれる、癒しの光。その光は俺達に纏わりつき、傷跡一つすら残すことなく、瞬く間に怪我を完治させた。
「ありがとな、裕。お前もだいぶ、その癒しの力を使いこなせるようになってきたじゃねえか」
「僕にはこれしか出来ないから。戦いに参加できない分、サポートは任せて」
世界の味方としての自覚が徐々に芽生えてきたのか、初めはどこかおどおどとしていた裕も、堂々と胸を張ることが出来るようになってきていた。
「よっし、じゃあ休憩も終わりだな。次の目的地は、あとどのくらいなんだ?」
「そうだね……。ここからだと、あと一日もあれば着くだろう。道中でまた魔物が襲ってくるかもしれないし、気は引き締めないとね」
「ああ」
ミネの先導の元、俺達は雄大な草原の中を再び歩き始める。