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17.「ローネ、躍進!」

 三人と一匹が森林を抜けると、そこには涼透と日向汰がこの世界に来たばかりの時のような、見晴らしの良い草原が広がっていた。心地よい日差しに、草原を吹き抜ける柔らかな風。


 本当なら寝っ転がって日向ぼっこでもしたいところだが、今は様子が違っていた。

 草原に響くのは、平穏とは程遠い戦闘音。広大な大自然の中で、涼透達は三体の魔物と対峙していた。

 斑模様を持つ大蛇に、骨だけで形成された四足獣。そして黄金色の翼をはためかせる禽獣が、本能のままに容赦なく襲い掛かって来る。


 野生の動物のそれとは一線を画した、悍ましいプレッシャー。涼透達の目の前に立ちはだかる存在は、まさしく異様そのものだった。


「魔物に情けをかけるな。少しでも隙を見せれば、やられるのはこっちだからね」

「ああっ! というかそんな余裕はねえっ!」


 ミネの言葉が開戦の合図となり、草原の中で三人と一匹は魔物と接敵する。草原を駆け抜ける風と共に、彼らは大地を駆けた。


「さあ、いくよっ!」


 三体の魔物の内、ローネは全身に斑模様を持つ大蛇と対峙していた。ローネの身長を遥かに上回る体躯に、全身を覆う無数の鱗。その鱗は太陽の光を浴びて、艶めかしい光沢を放っている。

 しかし、それほどまでに体格差のある大蛇を相手にして、ローネは物怖じした様子を一切見せなかった。その視線はまっすぐに大蛇を見据え、己の一挙一動に全身全霊を込めている。


 先に動いたのは、大蛇。草花に富む大草原を、まるで氷上を滑るかのように這い動き、一瞬のうちにローネの眼前まで差し迫る。

 その大口を開け、頭から丸飲みにする勢いで大蛇はローネに喰い掛かった。


「――ふっ!」

 しかし、その巨大な牙は空を切る。


 大蛇の巨体が視界を覆ったと同時に、ローネは俊敏な身のこなしでその細見の身体を大蛇の死角――下腹部の更に下へ、体勢を限りなく低くして潜り込ませていた。

 そのまま身体を捻じるように回し、全体重を乗せた右拳の強打を、がら空きとなっている下腹部へ叩き込む。


 その拳を無防備に受け、まるで波紋が広がるように大蛇の身体が波打ち、その巨体が宙に浮きあがった。


「――んん? あれ?」


 だが、渾身の一撃を与えたはずのローネは疑問の表情を浮かべる。どうしてか、拳に伝わって来る感触が変だったのだ。

 何と言うか、直撃の直前に拳が滑ったような――。そんな、奇妙な違和感を覚えていた。

 何故そんな感触を感じたのか、ローネは自身の右拳を確かめる。そして、殴打の際に感じた奇妙な感触の正体に、ローネはようやく気が付いた。


「うっわ、なにこれ!?」


 その右拳には、半透明色をした粘液が纏わりついていたのである。その粘液が直撃の際にローネの拳を滑らせ、威力を半減させていた。

 地面を滑るように這っていたのも、その粘液による芸当だろう。なんとか粘液を振り払おうとローネは右腕を上下に振るが、一向に取れる気配はない。


「うへぇ気持ちわる――へぶっ!?」


 その粘液に気を取られていた隙を突かれ、空中で体勢を立て直した大蛇の鞭のような尾打がローネのわき腹を穿つ。防御もままならないままその細見の身体は吹っ飛ばされ、近くの大木に叩きつけられた。

 衝撃を受けきれなかったのか、その大木は音を立てて根元からへし折れる。大木が折れるほどの猛烈な一撃を受け、流石のローネも一気に戦闘不能に追い込まれて――。


「こん、のぉ! やったなぁ!」


 ――いなかった。


 平然と立ち上がり、ダメージを受けた様子一つすら見せていなかった。その細身に見合わないのは、攻撃力だけでなく頑丈さも同じであるらしい。

 不意の一撃を受けたことで、ローネの戦意はかつてないほどにメラメラと燃え上がっていた。尋常ではない闘志の炎が、少女の身体から放たれる。


(でも、どうしよう?)


 いかに闘志が漲っているとはいえ、感情だけで勝てるほど魔物は容易な相手ではない。ましてや相手は全身に粘液を纏っており、物理攻撃は効果が薄いとくる。物理攻撃を主体とするローネにとって、これほど相性の悪い相手もそうはいないだろう。


 粘液を水で流す? しかし、近くに水場は見当たらないし、仮にあったとしてもあの粘液は水を弾く性質があるかもしれない。

 物理攻撃以外の手段を用いる? しかし猫から人の身に転じたローネに魔力はなく、ミネのように強力無比な魔術を使うことは出来ない。


(――それなら!)


 思考を整理し、ローネは大蛇を倒すための筋道を立てる。成功するかどうかは定かではないが、それでもやるしかない。

 ローネは身を翻し、大蛇にではなくへし折れた大木に向かった。縦横無尽に地面を這い回り、容赦なく喰らい掛かって来る大蛇をいなしながら、ローネは手刀で大木をある形に削っていく。


 そして出来上がったのは、木製の巨大な杭。苦心して作り上げたその杭を持ち抱え、ローネは再び大蛇と対峙する。

 攻撃が一向に当たらないことに業を煮やしているのか、その鼻息は荒く、紅い双眸には怒りの色が宿っている。


 そして、大蛇はその巨体をうねらせて、全体重を乗せて真上からローネに圧し掛かった。紙一重の所でローネはそれを飛んで躱し、空中で体勢を整える。


「っ!」


 しかし、大蛇の攻撃はそれだけではなかった。今までの攻防から躱されることなど予想済みだったのか、砂塵を巻き起こしながら大蛇の尾がローネの目前まで迫って来ていた。

 いかに素早いと言っても、空中では行動がどうしても制限されてしまう。

 風を切る音と共に、尾による猛打がローネの身体を打つ。

 その、直前。


「せぇぇいッ!!」


 ローネは持ち抱えていた杭を横薙ぎに振り、大蛇の尾を弾き飛ばした。

 そして、その勢いを殺さぬまま身を捻じり、眼下にいる大蛇に向けて、巨大な杭を打ち付けた。

 その杭は大蛇の強固な鱗すら貫いて、地中深くまで食い込む。一瞬のうちにその身を大地に縫い付けられた大蛇は、どうにかして身体の自由を取り戻そうと足掻くが、その杭が抜ける気配は一向にない。


 まさに恰好の的となった大蛇に止めを刺すべく、ローネは突き立てた杭を踏み台とし、遥か上空まで一気に跳躍した。

 そして、身体を前のめりに回転させ、落下に合わせてその回転も徐々に速く、勢いを増していく。

 例え破壊衝動のみに突き動かされる存在だったとしても、その身に残った微かな本能が訴えかけていた。


 あの一撃を喰らうのは、不味いと。

 大蛇は激しく身体を打ちつけて、なんとかその一撃から逃れようと藻掻くが、しかし間に合わない。つい先ほどまで遥か上空にあったはずのローネの姿が、いつの間にか頭上にまで迫っていた。

 ローネは叫ぶ。全力全開の一撃を、全身全霊を以て叩きつけるために。

 そして、この戦いに決着をつけるために。


 ――その、必殺技の名を。


「天! 空! 踵落としぃぃぃぃぃッッッ!!!!」


 回転と重力、そしてローネ自身の脚力が乗算された、遥か天空からの踵落としが大蛇の頭部に炸裂する。

 例え物理攻撃の威力を半減させる粘液を纏っていようと、極限まで高められた必殺技であれば、その粘液すら貫いて止めを刺せる。だからこそローネは、確実に必殺技を当てられるよう、巨大な杭を作って大蛇の動きを封じたのだ。

 大蛇の頭骨が砕けた音が、草

原に響き渡る。更にその勢いは留まることを知らず、ローネを中心として、大地に巨大なクレーターを作り上げた。


「……ふぅ」


 大蛇の姿が灰となって砕け散ったのを見届けた後、周囲を見渡し涼透達の元へ駆け出した。

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