16.「新たな旅路」
「で、家を出たはいいけど、これからどこに向かうんだ?」
「とにもかくにも、今は少しでも情報が欲しいところだ。この先の山を下ったところに、大きな町があってね。そこでひとまず情報収集をしようと思ってるよ」
ミネの案内によって迷いの森をまっすぐ南下したところで、俺達は次の目的地について話し合っていた。
ミネの話によれば、山を下りたところに温泉宿で有名なレーヌという町があるらしい。ローネもそこには何度か行ったことがあるようで、レーヌの町について熱く語っていた。
「あの町はねー。なんと言っても、カフェ『ローラン』のミートパイが最高なんだよっ! かぶりつくと肉汁があふれ出て、すごくボリューミーで香ばしくってね! あ、一緒にミルクたっぷりのコーヒーもつけるともう別格だよ!」
その後もあるスイーツ店のシュークリームは最高だとか、ある牧場の牛乳は格別だとか、ある出店のホットサンドはほっぺが落ちるだとか、グルメ談義が尽きることはなかった。やはりと言うべきか、食に対する思いは人一倍強い猫娘である。
「さすが食欲で人間になったくらいの猫だ。食に関しちゃプロだな」
「当、然っ! せっかく人間になったんだもの、存分に楽しまなきゃっ!」
得意げに胸を張り、ふふんと鼻を鳴らすローネ。彼女にとって、食こそまさに生き甲斐そのもの。ローネの飽くなき食への探求心は、例え神様にだって止められやしないだろう。
「そういえば、こっちの人に会ったことってないよね。どんな暮らしをしてるんだろう?」
「そういやそうだな。なあミネ、こっちの人間ってど……」
「……」
「すいませんなんでもないっす」
人間のにの字が出たあたりで、ミネの周囲だけ急激に温度が下がる。この白猫の前で人間の話題は禁句なのだと、俺は改めて思い知った。
「でも、そんなに人間が嫌いなんだったら、町にも入れないんじゃないのか?」
「ま、そこら辺は割り切ってるよ。確かに人間は嫌いだけど、自分から争いの火種を撒き散らす意味もないしね」
「そういうもんか」
「そういうもんさ」
町に入れば、自分はただの白猫。そう思い込むことで、余計な感情や思想は一切持たないようにしているらしい。
なんて器用な猫。