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07 結末

「トリアーニャ!目が覚めたか!3日も意識が戻らず父は……父はっ」


(また3日も寝ていましたの?)


 矢を受けた時と同様、騒がしく入室してきたのは、この国の王。トリアーニャの父でもある。

 今回も、トリアーニャのベッドに縋り付いて泣き出してしまった。

 父の後ろには、母や兄たちもいる。


「お父様……」

「トリアーニャ、ううっ、其方が襲われた状況を聞いて肝が冷えたぞ」

「そ、そうですわっ!あのピンクの頭の方は……」


 ヒロインはあれからどうなったのだろう?

 アルフィオの師匠であるケント師が魔法で拘束していたようだったが。


「姫様の容態が良ければアタクシから説明いたしますが」


 兄たちの後ろから、アルフィオとミューズが現れた。


「貴女様はあの時わたくしの足を診てくださった……」

「改めまして、ミューズと申します」

「ミューズ師は俺の師匠の1人だ。この3日間ずっとトリアーニャ姫についていてもらった」

「それは、ありがとうございます」


 アルフィオの説明を聞いて平身低頭となる。

 自分がのんきに寝こけている間にどれだけの人に心配をかけたのか……!


(アルフィオ様がわざわざお連れするほどの治癒師!そのような方に付きっ切りになっていただいてたなんて)


「まずは姫様の足の状態から。アタクシと賢者であるケントの2人で姫様の左足から『呪いの元』を取り出しました。そのあとアタクシが治癒魔法をかけましたので、傷はなくなっております」

「はい、ずっと体が熱を持ってるような怠さがあったのですが、目覚めたらそれがなくなってました」

「ええ、長年の不調は呪いの所為ですね。取り除けて良うございました」

「ふぐぅ、我が娘は長年……すぐに熱を出したり寝込んだり……ミューズ師よ、このお礼は……うぐっ」

「お父様、涙を拭いてください」


 父をはじめ、母も兄たちも侍女たちも涙ぐんでいる。


「すみません……我が国の者は涙もろいものが多いようで」


 思わずミューズに謝ってしまった。


「いえいえ、姫様のお体ですが、傷は治りましたが、足の筋力は戻っておりません。こちらは回復や治癒魔法では対処できません。時間をかけて取り戻すしかありません」

「はい」

「アタクシが診ますのでゆっくりリハビリしましょう。家の中で立って歩けるくらいにはなるはずです」

「はい……!」


 時間はかかるがいずれ回復する。

 今まで歩けなかったのだ。


「わたくし、頑張ります」


 トリアーニャは両手を顔に添え、桃色に染まった頬でうれしそうにほほ笑んだ。


「可愛い……」


 それを間近で見てしまったアルフィオは思わずつぶやいた。

 はっと気づいたときにはミューズににやにやとした顔で見られていた。

 ミューズ以外に聞こえなかったのが幸いだが、絶対にあとでいじられる。


「それからあのピンク頭ですが」


 ミューズが『ヒロイン』のことをピンク頭と言った。


「あの方、お名前はなんとおっしゃるのですか?」

「姫様のお耳に入れるほどの名前ではありませんわ」


 ミューズがにっこりと切って捨てた。

 よほどあのピンク頭はこの治癒師を怒らせたらしい。


「あのピンク頭は魅了の魔眼を持っておりました。その力を使い、この国の人間を思うままに動かしていたようです。姫様の護衛騎士や侍女たちがあのとき使い物にならなかったのは彼女の魔眼の所為です」


 やはりそうだったか。

 長年仕えてくれていた彼らが自分を裏切るとは思えなかったのだ。


「操られてしまった騎士たちはどうなりましたか?」

「姫様を捕らえていた騎士たちはこのアルフィオが吹き飛ばしてしまいましたので、全身打撲の大ケガを負いました。アタクシが治しましたので傷の方はもう消えております。が、姫様の護衛ともあろうものが賊に操られるなど」

「それには寛大な処置を、お父様!魔眼持ちなど対処は不可能ですわ」

「……トリアーニャがそう言うならば考えるが、まったくの無罪放免とはいかぬぞ」

「お願いします。皆、長年わたくしに忠実に仕えてきてくださったのです。どうか寛大な処置を!」

「わかった、悪いようにはせぬ」

「ありがとうございます!」

「騎士たちのために聖樹教会から魔眼に関しての資料をお出ししますわ」


 魔眼持ちのヒロインだが、賢者であるケントに捕らえられ聖樹教会の総本山に隔離監禁されることとなった。

 今後の魔眼・魅了持ちに対する対策を取るための研究材料となるらしい。

 あのヒロインは、聖樹を呪い混乱した国に少女を送り込み、弱った聖樹を回復させ国の上層部を乗っ取る組織の者だと判明した。


「簡単に言うと、自作自演ですわ。ですが聖樹に手を出すなど聖樹教会としては絶対に許すことができません。魅了の魔眼持ち、あるいは他者を思いのままにあやつれる術者がまだいると考えられております」


 他人を操ることができれば聖樹の元まで簡単にたどりつける。

 ただし、長時間他人を操ることはできないため回りくどい方法で各国を支配しようとしているらしい。


「姫様が作られた聖樹の葉と花を使ったお守り、これを持っていた王子殿下お2人とその婚約者である令嬢方、国王陛下王妃陛下には魅了が効きませんでした。こちらも聖樹教会に成果が報告されてます」

「そうですか……!」


 トリアーニャの作ったお守り(トリアーニャ的には栞のつもりだったのだが)が皆を守ってくれたらしい。


「聖樹が呪われなかったこと、姫様のお守りが効力を発揮したこと、それらによってゲームは始まることもできなかったのですわ」


 こっそりとトリアーニャにだけ聞こえる声でミューズがささやいた。

 その内容はミューズがここが乙女ゲームの世界であると知っている転生者であることを示していた。


「ミューズ様っ」

「あの絵本を読んでアタクシとケントはすぐに気づきましたわ。作者が自分たちと同じであると」

「ミューズ様、あの、もう少しお話を」

「姫様、そろそろお休みください。これからいくらでもお話しする機会はございますから」


 トリアーニャに眠るように言ってミューズは部屋から退出した。


「では我々も行く。トリアーニャゆっくり休むのだ」


 父王をはじめ、家族たちも出て行った。

 そして、アルフィオが残った。


「アルフィオ様……ありがとうございます。助けに来てくださって。でも、どうして?」

「貴女に送ったアメジストのネックレス、それにケント師が魔術を仕込んでいたのです。貴女が俺を求めたら貴方の元へ転移するように」

「えっ、そのようなことができるのですか?」

「ケント師はできるのです。俺は、まだできないんですけど」

「でもでも、アルフィオ様すごかったです。なんか光ったらみんなが倒れてて」

「貴女の様子を見て頭に血が上りました」


 トリアーニャはアルフィオに助けられた瞬間を思い出して顔が真っ赤になった。

 ドレスがボロボロで足も肩も出ていたのだ。肌をアルフィオに見られていたのだ。


「あ、あああ……」

「最悪な状況を想像しました。ミューズ師の診察で姫が、その……汚されてないことは教えてもらいましたが」

「にゃああああああっ!」


 そんな風に見える状況だったのか、と今更ながらに気付いた。

 トリアーニャとしては単に足が見えてて恥ずかしかっただけなのだが。

 しかもアルフィオを見て縋り付いて泣いてしまったのだ。

 十分誤解を与える状況だった。


「も、申し訳ありません。アルフィオ様……わたくしっ」

「トリアーニャ姫、俺以外の人間が貴女に触れることがこんなにも腹立たしいとは思いませんでした」

「アルフィオ様?」


 アルフィオのアメジストの瞳がトリアーニャを見つめている。

 トリアーニャはこの場から逃げ出したい衝動にかられた。


「姫……」

「アルフィオ様、待って、あのわたくしそろそろ眠らないと」

「好きです。あの時貴女に振られましたが、それからも変わらずずっと好きです。忘れられませんでした」

「ひゃああああっ」

「もう一度俺に貴女に結婚を申し込むチャンスをください」

「か、考えておきます」

「ありがとうございます。ではおやすみなさい」


 アルフィオはトリアーニャの手にキスを落とし部屋から出て行った。

 残されたトリアーニャは、熱が上がってしまい早速ミューズの診察を必要としたのだった。





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