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王都へ

 それから私はハリス殿下に神託と御使様から聞いた言葉を伝えました。そして神巫について、さらに神様の力を元に戻す方法について調べるためにネクスタ王都へと戻らなければならない、と話しました。

 その結果、殿下は私を守るために軍勢を出してくれることになりました。中には「ネクスタ王国など放っておくべきだ」という貴族もいましたが、竜たちも賛同しているということを伝えると彼らも同意してくれました。


 こうしてエルドラン王国の軍勢に、ネクスタ王国の貴族たちを加えて王都を目指すことになったのです。


 行軍中に入ってきた情報によると、帝国軍は王都に戻ることなく西方に戻っていき、王都では反バルク王子派の者たちがバルク派の者たちを追いだして王都を取り返したそうです。また、その報を聞いて王国貴族たちもぽつぽつとこちらの軍勢に合流してきました。


 こうして、私は王都に帰ってきた訳ですが、王都は変わり果てていました。相次ぐ神の怒りにより城壁や王宮はぼろぼろになっており、街の人々も相次ぐ戦いですっかり活力を失っています。特に中央の王宮は一度完璧に改修された後に傷んでいるので余計に痛々しい見た目でした。


「これは酷いな」


 王都の惨状を見たハリス殿下はため息をつきました。

 が、そこへ私たちの軍勢を見た王都の人々が門を出て出迎えてくれます。


「聖女様、お戻りいただきありがとうございます!」

「ハリス殿下、我らを助けに来ていただきありがとうございます」


 彼らは口々に私たちを歓迎してくれました。

 その中心にいた一人の少年がこちらに進み出ます。他の民衆や兵士と違って一人だけやや身なりがいいです。


「これは皆様、遠路はるばるありがとうございます。私はバルクの腹違いの弟、ルイードと申します」


 そう言って彼は私たちに丁寧に頭を下げました。腹違いとはいえ、王子が現れたことに私たちはざわめきます。

 言われてみればその仕草は丁寧で、庶民のものとは思えません。


 それを見てハリス殿下が周囲を警戒しながら前に進み出ます。


「僕がエルドラン王国のハリスだ。君はバルクが敗北した後、王都の混乱を治めてくれていたのかな?」

「そうです。元々母親の身分が低かったので世継ぎ候補にはなっていませんでしたが、事ここに至って心ある者を集め、私とエメラルダで帝国兵の残りとバルクの家臣を追い出して皆様をお待ちしておりました」

「シンシア様、よくぞお戻り下さいました」


 そう言ってルイードの後ろから現れたのはエメラルダでした。何度か会ったことはありますが、大司教グレゴリオの娘で敬虔な神官でした。おそらく、帝国軍の敗北後は教会をまとめてくれていたのでしょう。


「国を離れてしまってすみません」

「いえ、私たちこそ力及ばずでした」

「こちらこそ戻るのが遅くなってしまってすみません。皆さんご無事でしたか?」

「あまり……」


 そう言ってエメラルダは言葉を濁します。もしかしたら帝国との戦いで命を落とした者もいるのかもしれません。


「とりあえず王宮へどうぞ」


 そう言って二人が私たちを案内してくれます。街の中もついこの間帝国との戦いがあったばかりで、民家が壊れていたり、道路が血で染まっていたりと酷いものでした。


「そう言えば、陛下や大司教様、それにアリエラはどうしたのですか?」

「それが、陛下は帝国軍がやってきた際に逃亡してそのまま、大司教様はバルクに投獄された心労で再び体調を崩され、アリエラは一度戻って来たものの神殿にファイアー・ボールを放って逃亡しました」


 そう言ってエメラルダが眉を顰めます。国王である陛下がいないことやアリエラが逃げてしまったのは由々しきことです。


「陛下やアリエラの行方は分かりませんか?」

「陛下についてはおそらく王族と親しい貴族のどこかに逃げ込んでいると思います。アリエラは……分かりませんが、このまま姿をくらますとは思えません」

「なるほど」


 とりあえず陛下さえ戻って来て、アリエラさえどうにかすればまだ再建の兆しはあるということでしょう。

 私がいない間、バルクや帝国の振る舞いはよほど酷かったのだろう、私たちは行く先々で人々の歓迎を受けました。私は一度神殿に顔を出してその場にいた神官たちをねぎらうと、今後の対応を協議するために殿下と王宮へ向かいます。


 そしてルイードやエメラルダ、そして大勢の貴族たちと話し合います。少し前まではこういうとき、貴族たちは誰が権力を握るかという主導権争いを繰り広げたものですが、今は彼らも疲弊しきっているせいかそういうこともありませんでした。もっとも、今主導権を握れば帝国との戦いの矢面に立たされるのではないかと危惧したからかもしれませんが。


 そして私が聖女に戻り、陛下が戻ってくるまでの間ルイードが国王の代理を務め、ハリス殿下がそれを補佐するという体制にすることで落ち着いたのです。

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