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戦後

 私たちエルドラン王国軍が帝国軍を破った翌朝のことでした。

 帝国軍は夜のうちに闇に紛れて撤退していき、三万いた兵士はほぼ全員姿を消していました。敵ながら見事な退却ぶりです。


 ほぼ、といったのは帝国軍には無理矢理同行させられた王国貴族の軍勢がわずかながら参戦していたためです。彼らは帝国軍が退却すると、すぐにハリス殿下の元に降伏しにやってきます。

 また、戦いが終わったのを見計らい付近で様子を見守っていた貴族軍や、私と殿下の書状に応じてやってきてくれた貴族などもちらほらと集まってきます。


 そして殿下と謁見する訳なのですが、そこで彼らは一つのことを提案してきました。


「すみません、帝国軍は破れたとはいえ、現在我が国は神様にも見放され、殿下も討死し、滅茶苦茶な状況です。この状況では再び帝国軍に征服されるのを待つ他ありません。そのため出来ればシンシア様には我が国の聖女に復帰していただきたいのです」


「「!?」」


 彼の言葉に私と殿下は顔を見合わせます。

 私たちは帝国に勝てるかどうかも分からなかったためその先のことまで考えが及んでいませんでしたが、王国を救援すれば当然発生する問題です。すでに大多数の王国の民はアリエラでは神の加護が失われていくばかりだということに気づいたのでしょう。王国で相次いでいる災害を救えるのは恐らく私だけです。少なくとも次の聖女が現れるまでは。


 だからといって、竜の巫女としての役目を途中で放り出す訳にはいきません。今回の戦いで勝てたのも竜たちの協力のおかげ。今後はよりいっそう感謝の祈りを捧げなければなりません。

 それに、そもそも今回の戦いは竜国の皆が私を帝国に引き渡さないために戦ってくれたという側面があります。それなのに祖国が危機に陥っているからといって早々に戻ることは人として出来ません。


「……それについてはすぐに答えることは出来ない」


 殿下も同じようなことを考えたのでしょう、そう答えます。

 すると貴族たちは不安そうな表情で言いました。


「ではせめて竜国の軍勢を王都まで派遣していただくことは出来ませんか?」

「それも難しい。今回は竜の助けを借りて勝利したが、我らだけでネクスタ王国に進めば、帝国には勝てないだろう」


 竜たちは竜国を守るために参戦してくれただけで、ネクスタ王国を助けるためについてきて欲しいとまではさすがに言えません。


「そ、そんな! それでは我らはどうすればよろしいのでしょうか!?」


 貴族は悲痛な叫びを上げます。

 確かにこのままでは聖女が不在で(アリエラはいるかもしれませんが)神の加護を失った状態で、帝国の脅威に脅えながら過ごさなければならないのです。そしてそもそも帝国軍自体も、国境から引き上げただけで本国まで撤退するかは分かりません。


「少し考えさせてくれ」


 そう言って殿下は貴族たちを下がらせます。

 後に残された私たちは勝利したものの困惑してしまいました。


「ネクスタ王国のことについては申し訳ないが、我らではどうにも出来ぬ。自力で頑張ってもらうしかあるまい」


 そう言ったのはルドリオン公爵です。竜国の事情を考えると、これが最も妥当な選択でしょう。竜国としては帝国を撃破しただけでも十分ネクスタ王国のために戦ったと言えますので、見捨てたというそしりを受けることもないはずです。

 殿下は何か言いたげな表情ですが、それに対するうまい反論を思いつかなかったのか、何も口にすることはありませんでした。


 このままではネクスタ王国を諦める方向で議論がまとまってしまう。諦めきれなかった私は口を開きます。


「すみません、この件について一度神託を伺ってみてもよろしいでしょうか? もしかしたらこの地に留まりながら聖女としての務めを果たすことも出来るかもしれません」

「しかしすでに二体の竜に対して祈りを捧げているのだぞ? そんな余力があるか?」


 私の言葉に殿下は一瞬期待の表情を見せましたが、すぐに現実的な問題にぶつかります。


「もちろん、継続的には無理です。しかし例えばネクスタ王国にて新しく聖女の加護を授かる者が出るまでだけでも」


 加護を授かる儀式は年に一度あります。今からだと約三か月後ぐらいに行われるはずです。三か月であればどうにかなるかもしれません。


「なるほど。どの道、我らも考えなければならないことはたくさんあるし、一日で決めることでもない。いったん解散して明日また仕切り直して話し合おうではないか」

「分かりました」


 こうして殿下の言葉でその場はお開きになったのでした。

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