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回想Ⅰ 『神巫』

 あれは今から五年前のことでした。


 当時まだどこにでもいる平凡な少女だった私は同い年の子供たちとともに、神の加護を授かるため町の神殿に集まりました。

 十歳の時に加護を授かる儀は一生に一度の重大事です。何せここで授かった加護によって人生が決まります。すごい加護を得られれば今後の出世も思いのままなのです。


 普通は農家の生まれで『農家』、手先が器用なら『鍛冶』のように得意なものや生まれに沿ったものを与えられるのですが、時々大きな番狂わせが起こることがあります。

 去年も、この村の平凡な農家の息子が突然『将軍』の加護を与えられ、王都の軍隊に迎えられたということがありました。そのため、加護は神様が人知の及ばぬ思考で最善のものを割り振っていると言われています。実際、特筆すべき資源や産業がないネクスタ王国が栄えているのはこの『加護』で人々が力発揮しているからと言っても過言ではありません。


 その日、神殿の礼拝堂には私の他に二十人ほどの同年代の子供が集められていました。

 いつもはお祈りをする礼拝堂ですが、今日は厳粛な面持ちの神官たちがずらりと並び、その中央の祭壇上に水晶玉があり、後ろに司祭様が経っています。


「シンシア・ハーレーン」

「はい」


 名前を呼ばれた私は返事をすると緊張しながら祭壇へ歩いていき、壇上の水晶玉に祈りを捧げます。それを見て壇上に立っていた司祭様が水晶玉に手をかざすと、そこには『神巫』という文字が浮かんできました。


「あなたの加護は『神巫』……って何だ?」


 厳粛な顔で私の加護を告げようとした司祭様が水晶玉を見て困惑しました。すぐに他の神官たちが集まって来て、彼らは議論を始めます。中には『加護全集』という分厚い書物を持ってきてぺらぺらめくっている神官もいますが、皆一様に首を捻っていました。

 十歳だった私は最初儀式が失敗したのかと思い、少し不安になっています。


「あの……私の加護は一体どういうものなのですか?」

「分からない。だが記録にある限りこのような加護は見たことがない」


 恐る恐る尋ねると神官も首をかしげて答えました。


 それを聞いて他の子どもたちもざわざわします。

 基本的に、大きな力がある加護ほど人数が少なるという傾向があるからです。例えば神様に加護をお祈りする『聖女』は数十年に一人しか出現しないと言われていますし、去年うちの町からでた『将軍』も数年に一人の加護と言われています。

 そのことを思い出して私も次第に不安から期待へと気持ちが変わっていきました。

 もしかしたら私はすごい才能を持っているのかもしれません。


「ちょっとシンシアはこっちに来てくれ」

「は、はい」


 私は司祭様に騒然とする会場から連れ出され、別の部屋に向かいます。

 室内で二人きりになると、司祭様は一つの宝石を私に見せました。


「これは魔力を測定する宝石だ。ここに魔力を流してみてくれ」

「わ、分かりました」


 そう言って私が手をかざした瞬間でした。

 パリン、という音とともに宝石が突然砕け散ったのです。それを見て司祭様の表情は驚愕に満ちました。


「すみません、何か間違えてしまいましたか?」

「いや、今のあなたからは膨大な魔力を感じました。この宝石では魔力を計測しきれない者などこれまでこの村にはいませんでした。ということはもしや……」


 そう言って司祭様は今度は小さな鉢植えを持ってきます。そこには一見すると土しか入っていません。


「これは何でしょうか?」

「ああ、これは神様の恩寵でしか咲かないと言われている幻の薬草の種が入っている。通常は我ら司祭クラスの神官が全員集まって神様に恩寵をくださるよう祈りを捧げ、ようやく芽吹くものだが、聖女様であれば一人でも軽々咲かせられると言われている。ちょっとやってみてくれないか?」

「わ、分かりました」


 それを聞いてだんだん私の中に、自分がもらった力がすごいものではないかという実感が大きくなってくるのを感じました。

 私はおそるおそる鉢植えに手をかざして祈ります。

 すると、鉢植えの中からすごい勢いで草が芽吹き、成長していきます。

 それを見た司祭様は腰を抜かして尻餅をついてしまいました。

 私も自分のことながら現実を受け入れることが出来ないぐらいです。


「これはまごうことなき本物だ……噂に聞く聖女様もここまでの力をお持ちではない。今から王都の神殿に許可をとるが、もしかするとあなたは次の聖女様になるかもしれない」


 次第に司祭様の口調にも熱がこもってきます。


「そうなのですか!? でも聖女様は『聖女』の加護を持つ者しかなれないはずでは」

「だが、この力は明らかに『聖女』の力よりも強い。何にせよ、王都に行ってもっと正確に力を測定する必要があるだろう」

「は、はい」


 こうして私は急遽の王都行きが決定したのです。

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