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帝国軍への神罰

 デュアノス帝国軍三万を率いるのはロドリゲスという四十ほどの歴戦の将軍である。最初は一兵卒だったが、その抜きんでた剣技で出世し、そこで部隊の指揮においても才能を開花させて将軍へとのし上がったたたき上げの人物である。


 帝国では加護で出世が決まるネクスタ王国や家柄で出世が決まるエルドラン王国とは違い、実力だけあれば誰でも出世することが出来る。ロドリゲスはその象徴のような人物であり、ぬくぬくと育ったバルクでは逆立ちしても敵わぬような人物であった。


「全く、王子が自ら城門を開くなど世も末だな。やはりどんな国でも数百年経つと根本から朽ちていくらしい」


 王宮に入ったロドリゲスはため息をつく。

 最初は王都ではもっと大規模な攻防が行われると思っていたが、バルクの裏切りであっさり陥落したためロドリゲスも拍子抜けしてしまっていた。


 息子である王子が降伏したためか、国王もあっさりとどこかに逃亡してしまっていた。


 そこに一人の兵士が報告にやってくる。


「王城を出た王国軍のうち、なお抵抗の構えを示した者たちが近くの神殿に立てこもっています。その数は一千ほどですが、いかがいたしましょう?」


 バルク王子は自ら城門を開けたし、大半の兵士はすでに王国に愛想を尽かしていたが、どんな国にも忠臣はいるもので、王都が落ちる最後の瞬間まで帝国軍と戦った王国軍もわずかながらいた。敵わずと悟ると王都を出たが、どうやらまだ抵抗を続けているらしい。

 しかし地方の堅固な城塞ではなく王都付近の神殿に立てこもるというのは、ロドリゲスにとっては攻めて欲しいと言っているようなものだ。

 

「火をかければ出てくるだろう……と言いたいところだが、一応神殿か」

「はい、ネクスタ王国では神は加護をもたらす存在として信仰を集めており、うかつに踏み込めば民心を失うかもしれません」


 ロドリゲスは自分の実力だけで帝国の大将軍にのし上がったという強烈な自負があり、そのため神などという存在にはかけらの尊敬もなかった。

 とはいえ、これから帝国の領地になるネクスタ王国の民の印象を悪くするのは避けたい。


「そうだ、アリエラに使者を送って神殿に攻め入る許可を出させるのだ」

「分かりました」


 そして兵士はその場を離れる。

 一応神殿の中で一番偉いとされる聖女が適当に理由をつけて許可してくれれば焼いてもいいだろう、とロドリゲスは考えた。それにアリエラが本当に帝国に忠誠を尽くすつもりなのかをはかる材料にもなる。


 ほどなくして兵士が戻り、返事を伝える。


「アリエラ殿より帝国軍の裁量に任せるとのことです!」

「よし、ならば今すぐ神殿に火をかけて王国軍をあぶりだせ!」

「はいっ!」


 ロドリゲスは自ら軍勢を率いて神殿を包囲する。

 王都から少し離れたのどかな村だったが、帝国の大軍の登場に一転して緊迫した雰囲気に包まれていた。帝国軍がやってくると村人たちは泡をくって逃亡した。


 大軍で包囲するも、神殿は立派な建物であり、頑丈な塀に囲まれていた。普通に攻めてもなかなか落ちそうにない。中に籠る王国軍も数は少ないが帝国への敵愾心は旺盛であった。そのまま攻めれば勝つことが出来ても大きな損害が出るだろう。

 やはり火をかけるしかない、とロドリゲスは決意する。

 一応今すぐ降伏しなければ火をかけるという脅迫をしたが、彼らは帝国軍がそこまですることは出来ないと思っているのか無反応であった。


「愚かな奴らめ。やれ!」


 ロドリゲスの命令で一斉に火矢が放たれる。


「馬鹿な! 神殿を焼くとはなんと罰当たりな!?」

「帝国兵め、許せぬ!」


 王国兵は口々に罵ったが、火を掛けられては神殿から出るしかない。そして帝国の大軍に囲まれ、ある者は討死し、ある者は降伏した。


 数の差は歴然であり、一時間も経たずに勝利したロドリゲスは王都に引き上げる。


 が、彼が城門をくぐった時だった。堅牢なはずの城門が突然、何の前触れもなく崩れ落ちる。


「うわああああああああっ!」


 思わず太い両腕で顔面を守るロドリゲスだったが、城門の瓦礫はロドリゲスの両腕に命中し、骨が折れた。

 さらに、周囲でも兵士たちが次々に城門の下敷きになっていく。

 続いて、王宮に残っていた帝国兵も突然の事故で怪我をしたという報告が相次いだ。それを聞いてさすがにロドリゲスは青ざめる。


(帝国では俺の実力が全てだったが、この国ではいちいち神に媚びへつらわないといけないのか!?)


 そう思ったロドリゲスの元へアリエラがやってくる。

 そして彼女は告げた。


「将軍様、災害が立て続けているのは全てこの国の元聖女、シンシアが隣国から呪いをかけているせいでございます。竜国に彼女の引き渡しを求め、もしそれがだめならそのまま竜国へ攻め込みましょう」

「……うむ」


 実際のところこれはアリエラがシンシアを憎んでのデマであるが、ロドリゲスは神と聖女についてほぼ無知であり、アリエラの言葉を信じるほかなかった。

 それにアリエラは帝国軍に対し非常に強力的であり、ロドリゲスからすれば信じられる人物でもあった。


 さらに言えば竜国には今頃帝国随一の魔術師であるサマルが侵入し、人間に反感を持つ竜たちを煽って国を混乱させているはずである。このままいけばあわよくば竜国も手に入るのではないか、という思いがロドリゲスにもあった。


「よし、早速竜国に使者を送る」


 こうして留まるところを知らない帝国軍の次の矛先は竜国に向いたのである。

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