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ネクスタ王国からの使者

 その翌日のことでした。私が部屋の中から何となく王宮の方を眺めていると、私の出身であるネクスタ王国の旗印を掲げた使者が歩いていくのが見えます。

 ネクスタ王国とエルドラン王国は特に何もない時に使者が往来するほど仲がいい関係ではなかったような気がしたので、私は何となく胸騒ぎを覚えて王宮に向かうことにしました。


「巫女様、いかがされましたか?」


 私の姿を見た貴族の一人が声をかけてきます。相変わらずここまでちやほやされるのは慣れませんが、今はかえって話が速いです。


「ネクスタ王国からの使者が入ってくるのが見えまして。実は私はそちらの出身なものなので、何か起こったのではないかと気になっていたのです」

「なるほど……そう言えばそうでしたな」


 私の言葉を聞いて貴族の方は複雑な表情を見せます。

 そして少し考えた末に口を開きました。


「実は先ほど届いた情報によると、ネクスタ王国はデュアノス帝国に大敗したのです」

「え!?」


 思わぬ言葉に私は声をあげてしまいました。元々仲は良くない二国でしたが、まさかここまで早く戦いになってしまうとは。


「一体何があったのですか!?」

「実は……」


 そう言って貴族の方はバルク王子の失政と相次ぐ反乱、そして敗北に至るまでの流れをかいつまんで説明してくれます。


「そんな……いなくなってすぐにそんな恐ろしいことになっていたとは」


 あまりのことに戦慄しました。確かに彼は危ういところがありましたが、まさか私がいなくなってから短期間でそこまでひどいことになってしまうとは思いませんでした。


 しかも話を聞く限りでは、バルク王子の暴政や帝国の侵略はむしろここからが本番。国民の被害は増えていくばかりでしょう。


「それで使者は我が国に援軍を求めてきたらしいのです」


 ネクスタ王国は西のデュアノス帝国、東のエルドラン王国に挟まれており、北は山、南は荒れ地が広がっています。

 そのため助けを求めるとすれば我が国しかありません。


「それで使者の方は?」

「今殿下と謁見しているはずだが、どうなることやら」


 貴族も隣国で起こっている悲劇に表情を暗くしました。

 それを聞いた私はいても立ってもいられなくなります。

 そして使者が退出するのと入れ替わりに、殿下の部屋に向かいました。そこで部屋から出てきた殿下と鉢合わせします。


「ハリス殿下、シンシアです」

「シンシアか。ちょうど僕も呼ぼうと思っていたところだ。入ってくれ」


 殿下の言葉に促されて入室すると、殿下も険しい表情を浮かべています。

 私が殿下と向かい合うように腰かけると、殿下は使者から聞いた話を語り始めました。

 内容はおおむね、先ほど使者から聞いた話と同じでした。


「……と言う訳でネクスタ王国から救援要請が出た訳だが、結論から言うと援軍を送ることは出来ない。申し訳ない」

「いえ、これはそもそもバルク王子の自業自得です」


 王国や王家がどうなろうと構わないですが、無関係の人々が被害を受けることだけは心が痛みます。

 とはいえ、仮に援軍を送って帝国軍を撃退しても、王子をどうにかしないことには問題は解決しません。かといってバルク王子をどうにかしても、混乱した状態では帝国に対峙することも難しいでしょう。


「そもそも我が国は守護竜様の力で国を守ってもらっている以上、他国に比べて軍隊がかなり弱い。巫女がいないときに攻め込まれていればすぐに滅ぼされていただろう。続いて、最近は落ち着いてきたが、魔物の大量発生による傷跡は深く、その少ない軍勢もかなり損害を受けている」

「はい」


 たくさんの貴族たちが私に感謝する際、いかに自分たちがこれまで苦しんでいたかも同時に聞きました。そのため、その状況は王都にいる私にもある程度想像はつきます。

 とても勝利の勢いに乗っている帝国軍と戦う余力はないでしょう。


「そしてもう一つ、人間に味方しない竜の存在も気になっている。僕としてはまず国内の問題を先に解決することが先だと思う」

「その通りです」

「とはいえ、今後もネクスタ王国の動向には注意を払うし、我が国の状況が一段落すれば援軍も出せるかもしれない」

「お気遣いありがとうございます」


 ハリス殿下はエルドラン王国の王子。まずは自分の国の人々を守ることを第一にすべきでしょう。

 そんな中、私のフォローまでしてくれてありがたい限りです。


「こういう中王都を離れるのは不安であるが、人間にあまり好意的でない竜たちが棲むガルドロス山脈というところがある。なのでまずそちらの問題をどうにかしようと思う」

「分かりました」


 殿下の言葉に私は頷きます。


「竜の背に乗っても数日かかる遠いところだ。旅支度だけはしておいてくれ」


 こうして私は祖国の心配をしつつも旅支度を始めるのでした。

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