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守護竜様

 私たちが洞窟に足を踏み入れると、途端にじめっとした嫌な空気が漂ってきて体中を覆います。その気配はとても国を守護する竜の洞窟とは思えません。ハリス殿下と御使様も顔をしかめています。


 それでも進んでいくと、洞窟内からは時折、奥に残っていた小鬼たちが走り出てきては、ハリス殿下により斬り伏せられていきます。もはやすっかり小鬼たちに占拠された洞窟です。


「ここは普段は誰も常駐していないのですか?」

「巫女が在任している時はこの近くの別荘に護衛とともに滞在していた。元々この付近には魔物の気配など全くなかったから、不在時の警戒もおろそかになっていたというのもあるし、各地に魔物が出没したので後回しになっていたというのもある」


 大事な洞窟があるところよりも実際に人々に害が出ているところを中心に魔物を討伐するというのは理解できる考えではあります。国の様子を見ている限り特別この洞窟にだけ魔物が湧いているようにも見えません。

 それに、元々はもっと神聖な気配があって魔物が近寄りがたい雰囲気があったのでしょう。


 時折出てくる小鬼を倒しながら進んでいくと、やがて洞窟の奥にある祭壇のようなものがある広間に出ます。おそらくここが目的地でしょう。


「例年であればこの祭壇に巫女候補が祈りを捧げれば守護竜様はすぐに反応してくださる。しかし今年はどうだろうか」


 ハリス殿下は相変わらず険しい表情のままです。ここで守護竜様の反応がなければ私は巫女になれず、そうなれば国はさらに荒れ果てていくでしょう。


 が、私を見ている御使様は黙ってこくりと頷きます。どういう事情があろうと、ここまで来た以上は祈ってみるしかありません。


 私は意を決して祭壇の前に進み出ると、目をつぶって手を合わせます。

 しばらくの間巫女が不在になり、洞窟を荒してしまい申し訳ありません。しかしこれからは私が巫女として祈りを捧げ、洞窟も清めます。そのためどうか再びこの国に加護をもたらしていただけないでしょうか。


 私はそんな思いを込めて一心にまだ見ぬ守護竜様に祈りを捧げます。


 すると。


 突如私の目の前に眩いばかりの光が降り注ぎます。その強さは目をつぶっていてもまぶしく思えてしまうほどでした。傍らにいたハリス殿下も思わず声をあげてしまうのが聞こえます。


 さらに、私の脳裏に重々しい声が響きます。


 “そなたが次代の巫女か”


 その声を聞いて私は直感しました。この声の主こそが守護竜様に違いありません。


「はい、シンシアと申します」


 “そうか。本来の巫女とは少し違うが、どうやらこの危機に対して特別に現れた者なのだろう”


「?」


 私は守護竜様の言葉が少し引っ掛かりましたが、言葉はなおも続きます。


 “これからそなたに力を授ける。その力を使ってこの洞窟をきれいにして欲しい”


 そして突然、私は試練の時と同じように脳裏に使ったこともない魔法の記憶がよみがえってくるのを感じます。強いて言えばこれまで呪いにかけられた人々を治した時に使ったのと似たような魔法です。呪いを解くのも、穢れてしまった洞窟をきれいにするのも通ずるものがあるのかもしれません。


 もしかしたら試練の時も私のポテンシャルに期待した守護竜様が私に力をくださったのかもしれません。

 竜の巫女を選ぶ試練である以上、竜の側からそういう形での介入があってもおかしくありません。


「ピュリフィケーション」


 私が呪文を唱えると、それまで陰鬱な気配が漂っていた洞窟内に清浄な風が吹き、みるみるきれいになっていきます。


「おお、これは!?」


 その様子を見てハリス殿下も目を見張ります。

 たちまちのうち、洞窟内は見た目は全く変わっていないのに魔物が救う穢れた洞窟から神聖な気配のする厳かな空間へと変貌を遂げたのです。


「これでどうでしょうか?」


 “ご苦労だった。これで予も洞窟に戻ることが出来る。とはいえ今日は帰って休むが良い”


 その言葉に私は安堵します。初めての務めでしたが無事果たせたようです。


「は、はい」


 私が頷くと目の前の光は消えていき、声も聞こえなくなりました。

 それを見てハリス殿下が興奮した面持ちで声をあげます。


「よく分からないが、うまくいったのか!?」

「はい、守護竜様に力を貸していただき、この辺りをきれいにしました」


 私の言葉に傍らにいた御使様も黙ってうなずきます。それを見た殿下はほっと一息つきました。


「そうか。ご苦労であった。詳しい巫女の役割はまた明日伝えるゆえ今宵はゆっくり休むが良い」

「ありがとうございます」


 殿下の優しい言葉に私もほっとします。試練からの守護竜様への祈りと緊張が続き、いつの間にか精神的にかなり疲れてしまっていました。

 こうして私たちは再び竜の背に乗り、王宮に戻ったのでした。

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