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第二話 『異世界の衛生事情Ⅱ』

 ――翌日。

 お城の客室で目を覚ます僕。


「知らない天井だ……」


 なんて、異世界トリップしたからにはこのセリフを言っとかないと。


 さあ、今日は公衆衛生についての知識を広める準備をしていくぞ。

 まずは洗浄の知識だ。

 水魔法もあるのに、菌という概念がないから感染症が起こるんだろう。

 ただ、目で見えるものじゃない以上、菌の存在を理解させるのはやっかいだな。

 いろんなことを知ってそうな賢い人いないかな……


 そんなことを考えながら服を着替える僕。

 国から支給してもらった異世界の服だ。


「賢い人……賢人……賢者……いた。ルリル様が賢者じゃん」



 ――こうして僕はルリルの部屋を訪ねた。

 女の子の部屋にしてはずいぶん殺風景な部屋だ。

 間違えてタンスを開けて下着を見つける、なんてハプニングは決して起こらなそう。


「とりあえず小学校で習うような、公衆衛生(こうしゅうえいせい)の授業をするとこからやりましょう」


 書物であふれたルリルの部屋で、机に向かい合う二人。


「ルリル様、実は悪魔ではなく細菌というのがですね……」


 これがこうこうこうでと、へたくそな絵を書きながら、かいつまんで説明してみる。


「わかります? わかりにくいっすよね……人に教えるのは難しいなあ。自分でも何言ってるかわからなくなってきたっす」


 頭をポリポリと掻きながら困惑する僕。

 するとルリルはそんな僕を見て言い放つ。


「全て理解したわ」

「はやっ!!」


 僕はズコーっと椅子からずり落ちた。


「つまりバイ菌とやらが、ケガをしたところから入るという訳ね」

「そうそう、さすがっすね!」

「ちなみに貴方もバイ菌の一種ってことよね?」

「そうそう、僕こそがバイキンマ……違いますよね! わかってて言ってますね!」


 真顔で僕を罵倒(ばとう)するルリル。


 しかしルリルは賢いな。

 伊達に賢者やってないな。

 毒舌がなけりゃ可愛いのに。

 僕はドMじゃないから甘えたな妹キャラになってほしい。

 こんな可愛い妹がいたら幸せだろうな。

 お兄ちゃん、大好きなのーっみたいな。

 ルリルを見ながら妄想にふける僕。


「うひひ」

「そろそろ呼吸をやめたらどうかしら? 酸素がもったいない。ほら、国中の植物たちもそう言ってるわ」

「うそでしょ!?」




 ――その後、城内の多目的ホールに移動した僕ら。

 二人で紙芝居を作ったのだ。

 ゴーフルにもルリルと同じように細菌のこととかを説明したが、脳筋(のうきん)育ちには理解できないようで、とりあえず小学生でもわかるような公衆衛生の授業をしようということになったからだ。


 こうしてお城の人たちへセミナーを開き、公衆衛生の知識を共有してもらった。

 特に騎士団長のゴーフルさんは、自ら身をもって痛感した重要性だからか、全国民に行きわたるよう動いてくれている。


「ほんとに悪い国ではなさそうだな。変なところに召喚されなくて良かったよ」



 §



 ――翌朝、あまり目立ちたくない僕は、早々に旅支度を開始した。

 ルリルを連れ、魔王軍が侵攻してきているという近隣の街まで行くことにしたのだ。

 一応僕の使命は魔王その配下ギュントスってのを倒すことだから。

 血清やワクチンをどうするか、そのあたりの問題解決になるような手掛かりも、旅をしながらヒントを得られればと考える。


 この世界は剣と魔法のファンタジーな世界。

 ルリルの説明によると、この辺りは『グモール』という国の領土らしい。


「ここから南へ下れば街があるの」


 とりあえず、行動開始だ。

 スタスタと前を歩くルリルの尻を追っかけ、森の中を進んでいく。




 道中、しばらくすると木陰の向こうから人が現れた。

 一目散で走ってくる。


「たーすーけーてーくれー!!」


「誰か来ましたよ」

「鑑定してみたらどうかしら?」

「は、はい」


 ルリルに(うなが)されるまま、心の中でアナライズと念じてみる。



 名前:ルドルフ

 職業:商人

 種族:人間族

 LV.1

 HP:150

 MP:10



「ちょ、一般人はこんなに僕らと差があるんすか」


 いわゆる『はじまりの町』みたいなステータス、これが普通なのか。

 ふむ、スキルとかまでは見れないのかな?

 心の中で疑問を浮かべる僕。


「ああそれは、相手に『開示する意思』があれば見れるようになるの」

「ちょ! 心を読まないでくださいってば!」


 ルリルの持っている固有スキル、『テレパシー』はやっかいだ。

 言葉を念じて相手に伝えることもできるが、相手の心の声も拾えるそう。

 つまり気が緩むと心を読まれてしまうのだ。

 ……ふう、僕が変態じゃなかったことだけが唯一の救いである。


「あら、モンスターも追いかけてきてるわ」

「えっ、どこっすか!?」


 一目散で走ってくる商人の男ルドルフの、さらに後ろから何やら鋭い目つきの獣が追いかけてきているのが目に入る。


「……アナライズ」



 名前:プチべロス

 種族:ケルベロス族

 LV.1

 HP:250

 MP:0



 なるほどこれがモンスターか。

 二つ頭のオオカミのような獣が5,6匹はいるだろうか。

 青黒い毛並みに、鋭い歯を光らせたモンスター。

 鼻息荒く、ガチンコの喧嘩腰(けんかごし)って感じだ。

 今にもとびかかってきそう。


「変な匂いがするわね……」


 鼻をくんくんと動かすルリル。


「たしかに、獣臭(けものくさ)いっすね」

「あなたもよ。近寄らないでゴミ」

「や、僕はさっき朝シャンしてきましたよ?」

「じゃあ生まれつきゴミ臭いのね。……ゴミかわいそう」

「ちょ、ひどくないっすか?」


 なんで僕こんなに嫌われてるんですかね……

 ルリルは僕の背後へ回り込み、後ろからひょいと顔をのぞかせて声を上げる。


「さあ、やっておしまい、ポチ!」

「誰がポチですか」


 モンスターのステータスを見る限り、やっつけられそうな気はする。


「首の(ひも)だけは守りなさいよ」

「そういやこの赤い紐、どうゆう意味があるかまだ教えてもらってないんですけど?」


 僕は首に手を当ててルリルに尋ねた。


「いいから、早くやっておしまい」

「……はあ。わかりました」


 ま、とりあえずモンスターを始末することにしよう。

 なにかと経験は積んでおかなきゃね!


 早速僕は(たずさ)えていた剣を構え、剣の心得スキルを念じてみる。

 すると、身体が勝手に動き出し、引っ張られるようにモンスターへと駆け出した。


「え、ちょっと怖いんすけど」

「グルルル……」


 けたたましい咆哮(ほうこう)とともに僕を目掛けて駆けてくるプチベロスの様は、コマンドバトルなら『にげる』を選ぶじゅうぶんな要素である。

 だが僕の体はそれを許さない。

 いや、僕の剣術スキルが許してくれないのだ。


 見た目の割に重さを感じない剣を、両手でしっかりと握りしめる。

 でないと剣に引っ張られて腕が千切れそうだからである。


「うりゃあああ!!」


 とりあえず怖さを紛らわすためにも、意味のない雄叫(おたけ)びをあげてみる。

 と、僕の剣は上段から大きく振りおろされた。

 瞬時、断末魔のような叫びが聞こえ、ビビって(つぶ)っていた目をゆっくり開けて見てみると……

 プチベロスは真っ二つに切り裂かれていた。


「わっわっわっわっあわわわわわわ!」


 血しぶきでも被るのかとあたふたしていると、二分されたモンスターの体は、粒子のように変化して空中へと飛散した。


「ビビった……」


 こうして僕が、というより僕の剣が、あたりのモンスターを始末していった。


「結構やるんじゃん僕!」


 ガッツポーズでルリルのほうを振り返る。


「ルリル様も少しは見直してくれましたよね!」

「すごいわね、モンスター同士の争いは」

「や、僕人間。そろそろ認めて」


 そんなやり取りをしていると、さっきの商人ルドルフさんとやらが話しかけてきた。


「ハアハア……助かりましたぞ冒険者のお方」

「いえ、当たり前のことをしたまでです」


 とりあえずかっこつけてみる。

 腰を抜かしている商人さんに手を差し伸べる僕。


「大丈夫っすか」


 天使すぎるルリルといい、マッチョすぎる騎士団長といい、人間離れした異世界人ばっかりだったから、自分と同じぐらいの背格好である商人さんに親近感を感じる。


「お強いんですね」

「はい。主に私が」


 ズイッと身を乗り出してアピールしてくるルリル。


「いや、ルリル様は何もしてないですよね」


 もちろん商人さんはルリルをスルーして僕に握手を求めてくる。


「ありがとう……本当にありがとうございました」

「いやあ、僕ってこう見えて意外と強いんですよーうへへ」

「ついでといってはなんですが、お金は払いますので、街まで護衛をお願いできないでしょうか? 馬車もありますんで」

「え? まあ僕らも街に向かってたんで。ルリル様、いいっすよね?」


 僕がそう尋ねると、ルリルはコクリとうなづいた。


「うひょ、歩かなくて良いなんて、ラッキー!」

「心の声、口に出てるわよ」

ブクマ、評価ありがとうございます!冒険パートは序盤テンプレ展開ご容赦くださいませ

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