第一話 『とある騎士の症例Ⅳ』
キュアーという毒消し魔法が、騎士団長にかけられた。
だが、彼の様子は変わらない。
相変わらず苦しんだままである。
「やはり効果ないのでは?」
ルリルは僕の方を向いてつぶやいた。
「いや、すでに起きている筋痙攣や呼吸障害がいきなり収まるもんじゃないっすから。まずは毒素が中和できていればそれでいいんすよ」
ルリルに向かって「ありがとうございます」とサムズアップする僕。
キュアーが効いているなら、破傷風菌が出す毒素は中和できているはず。
けれどそれだけでは細菌自体が生きたままなんだよな……
本来なら抗菌薬で細菌を死滅させなければならない訳だが……
どうする?
魔法でなにかできないか。
うーむ……
顎に手をやり、僕はまた部屋中をうろうろしながら考えた。
「まず筋の痙攣を鎮めたいところなんだけどなぁ……鎮静薬……鎮静薬……代わりになるような魔法……」
「何をぶつぶつ言ってるんでしょうか……ブタ語で」
「さあ、わしにはわからんが、異世界の力でなんとかしてくれるのであれば、頼るしかあるまい」
……鎮静となると精神魔法になるのかな?
大脳皮質中枢の興奮を抑えられるような……
「魔法少女さん、精神魔法は使えますか?」
「もちろんよ。それに魔法少女じゃないわ。職業『賢者』を舐めないでくれるかしら」
「賢者だったんすか! やっぱり大魔法使いっぽいっすね!」
ルリルは少し誇らしげな顔をして、大きくうなづいた。
「よし、じゃあ賢者様。敵の怒りを鎮めるような魔法あります!?」
「あるわ。カームの魔法ね。ヘイト管理でよく使うの。唱える?」
「おお! お願いします!」
こうしてルリルにカームの魔法とやらを唱えてもらった。
すると、騎士さんの痙攣は落ち着き始める。
「……」
やがてゆっくりとベッドに横たわる態勢へと移行した騎士団長。
「ふう……よかったです。怒りや興奮はいわば交感神経優位っすからね、効いてよかった」
僕はおでこに手をあて、ほっと溜息をつく。
「やあ……悪魔が落ち着きよったぞ」
「びっくり……ですね」
ルリルたちも魔法が効いたことに驚きながら、安堵の笑みを浮かべている。
「だがまだ喜ぶには早いんっすよね。悪魔はまだ騎士団長さんの中だ」
仕切りなおすように自分の頬を両手で叩く。
「それにしても呼吸障害がまだひどく出ていないのが幸いっすよ。人工呼吸器の代わりになる魔法なんて思いつかないっすから」
「じんこうこきゅうき……ってなんなの?」
ルリルは僕が医療ワードを発するたびに、目を見開いて尋ねてくるな。
さすが賢者、知識欲が高いんだろう。
「あ、ああ。それもあとで説明しますよ」
「約束よ」
「よし、とにかくもっと静かな場所へ移動させましょう」
「ここじゃ何がまずいのじゃ……?」
「この破傷風という疾患は、騒音も引き金となって筋痙攣がおこるんですよ。こんな牢屋なんていれちゃダメです」
「そうじゃったのか……悪いことをした……」
「いえ、王様のせいじゃありませんよ」
――
僕らは城の兵士に手伝ってもらい、騎士団長を地下牢から静かな客室へと運び出した。
とりあえずは、精神魔法で鎮静、毒消し魔法で毒素の中和まではできている。
あとは抗菌薬だ。
破傷風ならメトロニダゾールか。
作用は確か……
『細菌の細胞内に侵入しDNAの破壊をおこなう』ものだったよね。
DNA破壊……
破壊……
ターゲット破壊……
まてよ?
勇者スキルに、『ターゲティング』ってのがあったぞ。
ゲームでよくある、敵を追撃したり追従するスキルだよね?
これなら特定の細菌だけにターゲットできるんじゃないかな?
そしてその細菌に極弱の攻撃魔法を放てば……
「ルリル様! スキルの使い方教えてください!」
「スキルの使い方? アクティブスキルはステータスオープンと同じように、念じるだけで使えるわよ」
「わかりました! ちなみに僕の使える攻撃魔法で一番弱い魔法ってなんですかね!?」
「風魔法のウィンドね。火力は小さいけれど、MPの消費が少ないから雑魚敵にはもってこいだわ。杖があれば威力は増すけれど、無くても手のひらから出せるのよ」
「うし! やってみるっす!」
早速僕はルリルを見つめながら、心の中で『ターゲティング』と念じてみる。
するとルリルの頭上に矢印が出現した。
「ターゲティング成功だな。つづいて……」
今度は右の手のひらをルリル向け、心の中で風魔法『ウィンド』と唱えてみる。
すると僕の右手から風が発生。
――ビュン
その風はルリルのスカートを切り裂く。
「…………な、なにをするのよ変態キモヲタくそニート」
「あちゃ、加減が難しいね」
手で純白パンツを隠しながら怒るルリル。
どこでそんな言葉を覚えたんだか。
「おお! 超セクシーっす!」
「は?」
「……なんて言ってる場合じゃないっすよねー」
「あとでその目にフォークを突き立ててやるから覚えておきなさいよ……」
あいかわらずジト目が似合いますなあ。
そして僕はルリルに魔力の調整を教えてもらい、最小限の力で唱える方法を習得する。
「ちなみに風魔法ウィンドは却下っすね。体内で風を起こすわけにはいかないから、身体を通しても問題なさそうな光魔法で代替してみよう」
「なるほど……」
「では騎士団長さんの中の悪魔を、魔法で退治します」
腕まくりして意気込む僕。
ゴクリと唾を飲み、緊張した面持ちで見守るルリルたち。