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第六話 『悪魔に呪われた村Ⅹ』

 僕とルリルは、村にまだ生息しているであろう寄生虫を駆除するために、屋敷から出た。


「(まったく……本当に浮気性なペットね)」

「(へ? なんか言いました?)」


「(……貴方の顔はタニシそっくりねと言っただけよ)」

「(あとでタニシの顔見てきます!!)」


 そして村の中央へ移動する僕たち。


「じゃあいきますよ! 日本住血吸虫をこの村から撲滅しましょう」

「村全部の日本住血吸虫をターゲティングするの? さすがにタニシのライトアローのMPが持たないのではないかしら」

「いや、さすがにそれは数が多すぎますからね。だから中間宿主であるミヤイリガイを撲滅するんです。寄生虫って中間宿主がいないと生きていけないんですよ。そして僕はタニシではない」

「なるほど……ちなみにミヤイリガイの中にどれぐらいの日本住血吸虫がいるの?」

「確か、2,000匹以上いるんです」

「そんなに……。だったらだいぶ効率良くなるわね」

「そうなんですよ、僕の残りのMPでもいけるかなって思いまして。そういや僕ってレベル上がったりしてないのかな、最近ステータス見てなかったや」


 僕は心の中でステータスオープンと念じる。

 すると目の前に半透明のウィンドウが出現。



 ――ブヒッ。


 名前:琢磨・毛利

 種族:人間族

 職業:勇者(飼い主:ルリル)

 レベル:24

 HP:225,000,000

 MP:2,250,000

 一般スキル:ターゲティング、剣の心得、拳の心得

 職業スキル:言語理解、アナライズ、四属性魔法、光魔法、刻印魔法

 固有スキル:医学知識、成長補正



「おお! やっぱりレベルアップしてる! それも大幅に! ギュントス倒したり、今日もライトアロー打ちまくってるからかな。ルリル様とまではいかなくてもかなりのMPだ。さっそくやってみるぞ!」


 そして僕は目をつぶり意識を村全体に広げ、心の中でターゲティング『ミヤイリガイ』と念じる。

 すると無数の矢印があちこちの用水路などに出現。

 目を開け、周りを見渡してみる。


「かなりの数だ……」

「いけそうかしら? 私も手伝ったほうがよければ言いなさいよ」

「大丈夫じゃないですかね? とにかくやってみます! ライトアロー……!!」


 僕はターゲティングしたミヤイリガイに向けて、光の矢を放ってみた。

 あたりが眩しくなるほどの光が、僕の手から放射されていく。


「ハアハア……やったか……?」


 息を切らしフラフラと地面に膝を着く僕。


「私がターゲティングで見てあげるわ。ミヤイリガイのイメージ画像を出しなさい」

「は、はい。こんな感じっす」


 僕は頭の中で、ミヤイリガイのイメージを思い出す。


「わかったわ。……ターゲティング」


 ルリルがミヤイリガイにターゲティングする。


 すると、最初よりは大幅に減ったものの、まだ村の遠方には矢印が出現しているようだ。


「……どうですか?」

「まだね。だから手伝おうかと言ったのに」

「サーセン……」

「灼熱の焔を纏いし幻獣よ、我はみましの眷愛隷属、我が身に宿し猛き炎を喰らいて盟約を結び給え――。灼熱の業火……!!」


 ルリルの詠唱。

 あたりが一瞬暗くなったかと思うと、杖から火の鳥の形をした精霊が現れ、空高く舞い上がる。

 次の瞬間、無数の火の玉が村に降り注がれた。


「すげえ……ルリルの姐御、半端ねえっすよ!」

「……ターゲティング」


 ルリルが再度ターゲティングするも、矢印はどこにも出現しない。


「対象消失。撲滅完了ね」

「助かりました! さすがは賢者です。ケタが違いました!」

「当然よ」


 ふふんと顎をつきだすルリル。


「よし、じゃあこれからが大事なんですけど」

「ええ」

「根本的に撲滅しようと思ったら、ミヤイリガイが住めない環境を作るしかないんです。だから、全部の用水路をコンクリートで固める」

「コンクリートってなにかしら」

「え……さあ?」

「さあ?」

「いや、僕はそうゆうの専門じゃないので。からっきし……」

「では、どうゆう材質なの?」

「なんか固ーいやつです。石よりも固いの」

「よくわからないわ」

「たぶん貝が住みにくい底にすればいいんだろうけど、石とかじゃ崩れちゃうからじゃないですかね? あと緩やかな流れの河川に生息するってことだから、直線的にして水の流れを早くするのも目的だと思います」

「では強固で植物も生えなさそうな溝を創ればいいわけね」

「たぶんそうです師匠! 砂や泥も入ってこないようにお願いします!」

「まったく……都合いいんだから」


 と、ルリルは詠唱を始める。


「偉大なる大地の女神よ、我は汝と契約を結ぶものなり、その息吹をもって樹嶽を統馭し給え……!!」


 ルリルの詠唱に呼応して、目の前に魔法陣が出現する。

 それは橙色に発光し出し、中心からムクムクと白い煙のようなものが出てくる。

 そして村一体の用水路に沿って流れ、ゴゴゴという音とともに地面が揺れた。


「うわっ! どうなったんすか!?」

「見に行きましょう」


 僕とルリルは、用水路を覗きに行った。


「これは……!」

「砂と砂利と水をセメントで固めて、溝を作ってみたの」


 用水路は灰色のなめらかな溝にかわり、スイスイと水が流れていた。


「完璧じゃないっすか!」

「これで日本住血吸虫の撲滅は完了かしら?」

「いや、まだです。中間宿主がいなくなっても、水の中にまだ成熟した日本住血吸虫がいるだろうから、それらを殺虫しなければいけないんですけど。さすがに今日中にはできないですね。それに人だけじゃなくほ乳類全般に感染するんですよ、ネズミや家畜などまたどこからか運ばれてくる可能性があります。だから根本的な撲滅のためには、村人への教育が大切になってきます」

「まずは川や水田に入らないようにするということ?」

「そうですね、川遊びはまず禁止。子供には教育できると思います。それでも水田を仕事にしている大人には、水田に入るなというのは無理かもしれない。だから時間をかけてでも、水田はあきらめて果樹栽培などに転向してもらうほうがいいですね……。農業形態を変えていく必要がある」

「一朝一夕でできる改革ではないわね……」

「そうです。でもやるしかない。せっかく原因がわかってるんです。救える命を見過ごすわけにはいかないですからね」


 こうして僕とルリルは、日本住血吸虫撲滅計画を進めていった。




 ――僕たちは屋敷内大広間で、紙芝居をつくり村民を教育した。

 亡くなった人も多く、再び悲劇を繰り返したくないという想いから、村民たちも撲滅への意識は高い。


「僕らも出来る限りの支援はしたいとおもってます。でもそれだけでは限界があるので、皆さんは嫌かもしれませんが、国に援助してもらうのが一番じゃないでしょうか」


 結界を張られ抹消しようとした、ゴモク国のやり方に恨みを持っている村民たち。


「あんな奴ら、頼りたくねーよ」

「そうだそうだ! また裏切られてポイ捨てされるのがオチだろ!」


 そこへ着物を着た魔族女隊長が前へ出てくる。


「じゃが、この村を救ってくれた琢磨殿が提案してくれてるんじゃぞ。一考の余地があるんじゃなかろうか」

「おお! 隊長さん、着物似合ってますね!」

「そ、そうか? この村の者がくれたんじゃ! 嬉しいのう」


 くるりと回ってみせる女隊長。

 こうしてみると、絶世の和服美女。

 小さな角が生えている以外は、人間そっくりだ。

 魔族には見えない。


「けど、きみたちには悪い気がするよ……だって、国が動けばおそらく魔族は追い出されることになる」

「かまわんのじゃ。妾達も先ほど話合うてな、結界も解いてくれたんじゃろ? 今晩には出ていこうと決めておる」

「そっか……行く当てはあるのかい?」

「それはまあのう……魔王様のところへ帰るとキツイお仕置きが待っておるじゃろうが、帰らんわけにもいかんからのう……」

「そっか……魔族もいろいろ大変なんだね」

「お主こそ……人のために働きすぎて倒れるんじゃないぞ」

「うん、ありがと」


「(ほら、隊長! 今度こそ感謝を伝えるんじゃなかったんですか!?)」

「そ、そうじゃ……のう、琢磨……」

「なんだい?」

「妾の名はドラメリーと申す。だから……その……琢磨……ああああ……」

「?」


「……あいしておるぞ!!!」


「はあ!?!?」


 そこへルリルのジト目が発動。


「ジトーっ……」

「えっ、えっ、えーっ!?」


「じゃ、じゃあの! 次会うときは敵同士かもしれんがの! またどこかで会おう! さらばじゃ!!」


 そう言って、去っていくドラメリー。

 僕は目が点になっていたことだろう。



「てめえ、うちの隊長に手出したら殺すぞコラ!!」

「いや僕は別に……」

「ああ!? 隊長じゃ不満だってのか!? おおん!?」

「いや不満とかそうゆんじゃなくて……だって人間を殺したりする魔族でしょ? そんな人とは付き合えないってゆーか……」

「なめんなよ! 隊長は親の七光りで隊長に就任しただけで、まだ人っ子一人殺したこともないんだよ!!」

「そ、そうなんだ……親御さんが魔王軍の幹部かなにか?」

「ん? 魔王様だぜ?」

「は?」

「だから隊長は魔王様の娘だっつってんだよ。聞こえなかったのか!?」

「ええー!?!?」


 こうして悪魔に呪われた村の事件は一段落した。

 だが、今後も再感染予防のため、手伝えることは手伝おう、そう僕は心に誓うのだった。



「ジトー……」

「(や、別に何とも思ってないですよ! ドラメリーのことなんて!)」

「(へー、もう呼び捨てなのね。ゲスの極みの愚の骨頂)」

「(や、怖いですよルリル様! いつにも増して目がお座りしてます!!)」

「ジトー……」


 そのまま僕を置いて、スタスタと帰路につくルリル。


「(私のことタイプって言ったくせに――)」


 ルリルが何かつぶやいたように思えたが、途中でテレパシーを切られ、最後まで聞き取れなかった僕であった――

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