表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/40

第六話 『悪魔に呪われた村Ⅸ』

 僕とルリルは屋敷に入り、患者が寝かされている大広間へと向かった。


「あっ、あなたたちは昨日の……なにかわかりましたか? 呪いの解き方」

「ええ。呪いの正体がわかりましたよ。解き方もね」

「なんと! 本当でしょうか? この地獄から抜け出せると……? おお、ありがたや……」


 僕たちを拝む村人。


「出来る限りやってみます。よし、ルリル様。これからが勝負です。救える限りの命を救いましょう!」

「わかったわ。どんどん指示してくれていいわよ」


 こうして僕たちは、村人魔族問わず治療して回った。

 日本住血吸虫の殺虫とその卵の駆除、そして自己回復可能な部位や体力はヒールで再生を促す。

 無論、重症度によっては助けられない命もあった。

 まだ患者の死を目にする経験が少ない僕にとって、辛い選択だった。

 が、助かる命を優先して処置に当たる。

 消えゆく命にも最後まであきらめず、処置を施したり励ましたりを繰り返した。


「(ごめんなさいルリル様……僕の無力さを痛感しますよ……)」

「(そんなことはないわ。あなたはよく頑張っている。もうひと踏ん張りするわよ)」


 心が折れそうになる僕を、何度も支えてくれるルリル。

 いつしか二人はテレパシーなしでも、意気を合わせて処置に当たれるようになっていた。



「この人で最後か……」


 僕とルリルは最後の一人を処置し、ほっと肩をなでおろす。


「お疲れさま……琢」

「ええ、ルリル様もお疲れです」


 そこへ最後に処置した患者がむくりと起きる。


「おおっ。なんじゃ? 身体が軽い。熱も下がっておる……」


 患者は魔族の女隊長だった。

 魔族の男が駆け寄る。


「隊長! 無事でなによりっす! 治してもらえてよかったすね!」

「なんじゃと? 妾は誰に治してもろうたのじゃ?」


 魔族の男、僕たちを指さす。


「あの人間どもですよ。隊長が言ってたように、魔族も人間も関係なく救え、ってな考えだそうっすわ」

「……そうか。礼を言わねばならんの。ところで礼ってどうやるのじゃ」

「これだからボンボンは……」

「なんか言ったか?」

「いえ、なんでも! 普通にありがとうと言ったらいいじゃないですか! もう仲間みたいなもんっしょ? ほら同僚だと思って」

「そ、そんな感じでよいのか。よし……」


 女隊長、長く伸ばした綺麗な髪を揺らしながら、僕のもとへ歩み寄ってくる。


「の、のう……おぬし」

「あ、元気になってよかったよ! とりあえずはしばらく安静にしててね。これから僕らは再感染予防のために、村全体の環境を改善しにいくから」

「そ、そうか……わかった……で、あの、その……ありありありあり……」

「アリ? 違うよ、日本住血吸虫っていう寄生虫だったんだよ」

「いやそうではなくて、妾はその、ほれ、なんだ……部隊の長としてじゃな……」

「ああ、あなたが隊長さん! 治療に専念してたらから気付かなかったけど、あらためて見るとやっぱ綺麗な人ですねー! 瞳がまるで朱色の宝石のようです」

「ふえっ!? なななな、なにをいっておるっ!?!?」

「人間を仲間のように助けてくれて、本当にありがとう。感謝します」


 僕は深々と頭を下げた。


「や、そんな、妾は……と、とうぜんじゃろ! ハハ……ハハハ!」


 女隊長、照れながら目線をそらす。


「ではまた後ほど! まずは早くこの村を呪縛から解放しなきゃなんで!」

「そ、そうか! 行ってまいれ! また戻ってくるのじゃよ! 絶対じゃ!」

「任せて!」


 僕はサムズアップしながらルリルと大広間から出ていく。

 残された女隊長は、魔族の男に話しかける。


「のう、妾はまだ病が治ってないかもしれん」

「どうしてですか?」

「なんか顔が熱いのじゃ……熱があるんじゃろう。それにさっきの男と話していた時などは、胸がドキドキと高鳴っておった。今は大丈夫じゃが。妾は死ぬのか?」


 女隊長、胸に手を当てて不安そうにつぶやく。


「隊長……またやっかいな病にかかりましたな……」

「やはりか。ううっ、あの男に治してもらわんと。早く会いたいのじゃ」

「まあまあ。外に出ちゃダメって言ってたでしょ。さあ、もう少し寝ててください。また戻ってくるでしょう」

「そ、そうか。なら髪を洗いたい。それぐらいいいじゃろ?」

「もう……好きにしてくださいな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ