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第六話 『悪魔に呪われた村Ⅵ』

 結界が張られるまでの経緯など、魔族の男の話を聞いた四人。

 つまりは村ごと全滅するまで、奇病も魔族も封じ込めようという算段だった訳だ。


「その後、魔族たちも奇病にかかってしまい今の状況ということか……」

「なるほど……そうだったんだね。許せない! 結界を張ったって奴ら、倒しに行こうよ!」

「ちょ、シキまで熱くならないで」

「けれど、これでやはり感染症の疑いが強くなったわね」

「はい、魔王の呪いではなかったようです」


 僕は複雑な気持ちで病人たちを見回す。


「まぞくのたいちょーさんまで倒れちゃうってことは、なにもしなくても病気になっちゃうってことなの?」


 サーヤが心配そうにつぶやいた。


「となると、空気感染か……危険だな。しかし、こんな肝硬変(かんこうへん)のような症状、いったい……」


 そこへ魔族の男が口を挟んでくる。


「あ、隊長の面目のため言っとくけど、あの人結局自分から進んで稲刈りとかやり出したんだよ。リーダーとして手本になるためか、俺が箸より重いものを持ったことがないとか言ったのが気に障ったのか……まあどっちにしろ、うちの隊長は真面目で面倒見の良いリーダーなんだよ、美人だし」

「確かに青白いけど美人だね、奇麗だね、好きなタイプです僕」

「琢くん、斬るよ……」


 シキは剣を(さや)からチラ見せする。


「どうぞ」


 ルリルも呆れたように呟いた。


「ごごご、ごめんってば! それよか診察! 原因を突き止めなきゃですよね! あー忙しい!」

 急いで病人のもとへ走っていく僕。


「ほんと女と見たら見境(みさかい)ないんだね」

去勢(きょせい)させるわ」

「ゾクッ……!」


 その後、僕は一通りの病人を見て回った。


「やはり腹水(ふくすい)か……それにこの手足の細り方……ううむ」

「(腹水とは何なの?)」


 ルリルがテレパシーで僕に質問してきた。

 離れた場所からでもトークできるから便利だ。


「(腹水貯留(ちょりゅう)……お腹に水が溜まった状態です。腹水にはバイ菌をやっつけてくれる白血球(はっけっきゅう)が含まれてますからね、いわゆる防御反応のひとつってことです。もともと人間には少量の腹水が存在するんですけど、これだけ溜まってたらかなり問題ですね。胃や肺も圧迫されて苦しいだろうに)」

「(何が原因で腹水が溜まるの?)」


「(やっぱり代表的なのは穿孔(せんこう)(※胃や腸、盲腸(もうちょう)などに穴が開くこと)による腹膜炎(ふくまくえん)ですけどね。腸などの中身が腹膜に流れ出ちゃうわけだから、そこからの細菌と戦うために腹水が増加する。炎症が起きてるってことはお腹の中で()()が起きてるようなものだから、その火を消すために水が集まってるって考えると分かりやすいかな)」

「(なるほど……)」

「(あとは肝硬変とかですね。肝臓っていう臓器が悪くなって代謝異常になっちゃってるケース。がんによるものもあるけど、今回のように集団で発生している以上それは考えにくいですけどね)」

「(そうなのね。では今回の腹水の原因は何なのかしら?)」

「(それがわかんないんですよね……外傷はなさそうだから感染による細菌性腹膜炎だと思うんですけど、こんな集団で次々に起こることなんて聞いたことがないです。あとここの患者さんたち、黄疸(おうだん)(※ビリルビンが過剰に増加し、皮膚や眼球、尿などが黄色く染まる状態)が出てるっぽいから肝臓病変の可能性もあるんですけど、昔からならともかくいきなり集団で発症するものではないし……わけわからんのですよ)」

「またあとでもっと詳しく教えて)」

「(ええ、わかりました)」


 僕は看病に当たっている村人に質問してみる。


「どれぐらいの期間でここまでお腹が膨れましたか?」

「この人で1ヵ月ぐらいです……身動きが取れないほど腹が膨れ、衰弱死した者も多数おります」

「1ヵ月って……。発熱もあるようですけど、お腹の膨らみ以外でどんな症状が出てます?」

「うーん……やっぱりみんな最初は、熱が出たり下痢したりから始まったと思います」

「ふむ……感冒(かんぼう)症状(※一般的な風邪の症状のこと)からですか。患者さんが共通に口にした食べ物とかあります? 宴会してたとか」

「いえ、特に共通するものはないと思います……」

「そうですか……感染性胃腸炎からの可能性も低いのかな……うーん」


 頭を抱える僕。


「どんなことでもいいので変わったことありませんでしたか? 怪我でもなんでも、思いつく限り教えてもらえませんか?」

「怪我したって話も聞かなかったけどなあ。……あ、でもそういえば最近、稲刈りから帰ってくると、皮膚が()()()ているという者が多かったような……」

「皮膚のただれ……ですか」


 ハイディングがかかっているので直接は触診できないが、患者らを確認すると確かに炎症を起こしていた。


「いったい何の菌に感染してるんだ……ウィルスなのか……? それとも……本当に呪いだとでも言うのか」


 と、そこへルリルが僕たち三人にテレパシーを送ってくる。


「(申し訳ないのだけれど。さすがにハイディングの四人同時掛けを、維持するのが困難になってきたわ)」

「(おねえちゃん! 大丈夫!?)」

「(ええ、帰るまでのMPを計算するとそろそろかというだけなので)」

「(そうか、そうですよね……ごめんなさいルリル様。無理させてしまって)」

「(いえ、さすがに空腹状態での魔力使用はかなり効率が悪いの。通常なら何日でも持たせることができるのだけれど。申し訳ないわ)」

「(そんな、ルリルっちに頼りっぱなしのボクらが悪いんだし! 謝らないでよ! 戻ったら美味しいごはんいっぱい奢ってあげるからね!)」

「(サーヤも作るの!)」


「僕も診断に行き詰まってるし……タイムリミットだな……いったん引こうか、みんな」


 疾患を特定できない自分の無力さ、そしてルリルを気遣(きづか)えなかった不甲斐(ふがい)なさに落胆しながら出口へと向かう僕。


 こうして僕たち四人はいったんスミレクの村を後にし、待機させていた馬車で港町まで戻ったのだった。

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